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文学YouTuberベルさん「しあわせのクリームパン」|僕らの時代 Vol.1

若き人びとよ。
つくりあげられた今までの世紀のなかで、あなたがたは育ってきたけれど、
こんどはあなたとあなたがたのこどものための世紀を、
みずからの手でつくりあげなければならない時がきているのである。
(出典:『続・道をひらく』PHP研究所)」

ここに引用したのは、松下幸之助が未来を担う若者にのこした「新たな時代」の一節です。このメッセージに、今を生きる私たちはなんとこたえることができるでしょう。

「僕らの時代」第1回目のゲストは、文学YouTuberのベルさん。読書の魅力を伝える「書評動画」が人気を博し、チャンネル登録者数は15万人以上。「書けるYouTuber」として執筆活動にも挑戦する彼女が、日常の中でみつけた自分の役割とは――。

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しあわせのクリームパン

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「お客様、こちら“しあわせのクリームパン”でございます」

サラダを頬張る私に、平たいカゴを持った男性スタッフが声をかける。

中には様々な表情のアイシングがされたクリームパンたちが所狭しと並んでいた。

私は、中でもダルそうな表情の子を選んだ——


春の日差しを浴びて、街へ繰り出すお昼過ぎ。

仕事の打ち合わせを終えたため、近くのベーカリーレストランへ立ち寄ることにした。

メニューを開いてみると…

あれ、おかしい。全然食べたくない。

チキンソテー、ハンバーグ、ブイヤベース…お腹はすっからかんな上、美味しそうな料理が並んでいるはずなのに、どれにも惹かれないのだ。

入店後に気づく。

私はこってりした洋食の気分ではなかったのだ…あちゃー。

結局、グラタン+サラダ+パン食べ放題+ドリンクバーセットに決めるのだが、それでも「普段よりお高めなのに、思った感じと違ったらどうしよう」とケチ思考がまとわりつき、おまけに「今日の打ち合わせって何の意味があったんだ?」なんてことも思い返し、食事が始まっても内心では不機嫌な状態が続いていた。

空腹時の自己中思考は私あるあるだ。


“しあわせのクリームパン”

パンはビュッフェ形式と聞いていたけれど、くすぐったいようなネーミングのそれは、店側のサービスとして特別に配られた。

何の気なしにチラッとスタッフの顔を覗いてみる。

おお、マスク越しでもわかる満面の笑み。

「よろしければ、一緒にお写真などを撮って幸せの輪を広げてください。あなたに幸せが訪れますように!

はてさて、ここはいつからディズニーランドになったのだろう?

流れで思わずふっと笑ってしまって、次の瞬間には「ありがとうございます!」と元気よく返事している自分がいた。

思えば、人に幸せを祈られる経験なんて指で数えるほどしかなかったよなあ。

会計時も同じ人が対応してくれたので、名札を確認してみる。そこには“店長”の文字があった。

どうりでサービスが徹底されていたわけだ、と思うだろう。しかし私は責任者ほど現場に出た際に尊大に構える印象を持っていたので、なんだかダブルで感動してしまったのだ。


“世界をどう変えるのか。日本をどんな国にしていくのか。そのなかで、自分はどんな役割を果たしていこうとするのか。”松下幸之助『続 道をひらく』

私はこの言葉を目にしてから、自問自答を繰り返していた。

“ネットの可能性”や“個人主義の弊害”なんて、柄にもないお堅いことも考えてみた。一介のYouTuberなんかにできることはあるだろうか?と悲観もした。

開き直るわけではないが、私には、画期的な商品をつくるアイディアや大きなサービスを動かす力はない。

ごく稀に「出版業界のジャンヌ・ダルクだ!」なんて歯の浮くようなお世辞を言ってくれる人もいるが、世界を変えるなんて滅相もない。

でも私は「他人を幸せにしたい」気持ちが人々を幸せにできることを知っている。

振り返ってみれば、それは私が文学YouTuberをやっている理由の一つでもある。

大好きな本の魅力を伝えることで、誰かの人生がより幸せになったら嬉しいな。その人がまた誰かを幸せにして…その先の先の先で、ひょっとすると世界が変わるようなことが起きるかもしれない。

先人たちだってきっと「誰かを幸せにしたい」気持ちをつなげて世界を変えてきたはずだ。

いきなり幼稚で小っ恥ずかしいことを言い始めた自覚はある。しかし、人と接する機会が極端に少なくなった近頃、だんだんと人を想う気持ちが薄れてきていることも無視できないのではないだろうか。

世の中が苦しくなれば、どうしても自分だけが助かりたくもなるし、インフルエンサーに代表されるように個人の影響力がぐんと上がれば、なんだか一人で生きている気がしてしまう。

空腹時の私の視野はまさにそうだった。

でも、私は“しあわせのクリームパン”というバトンを店長さんから受け取っている。

まずは誰かの幸せを願い続けること。
その願いから生まれる考えをひとつひとつカタチにしていくこと。
訴えていくこと。

それがきっと、私の役割だ。
そして、ほんの少しだけジャンヌ・ダルクに近づく方法でもあるかもしれない☺︎



文学YouTuberベル
「気軽に読書を楽しめる仲間を増やしたい」という思いで、日々の活動を行う”ブックチューバー”。YouTube登録者15万人。人気のジャンルは、書評動画。小説やエッセイ、ビジネス書に到るまでさまざまな書籍を紹介し、作家対談や本にまつわる便利グッズの紹介なども行う。YouTubeとリアル書店のコラボ「ベル書店」では本棚のプロデュースにも挑戦。noteでの執筆活動など、その活躍の幅を広げている。

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noteマガジン『僕らの時代』は、様々なフィールドでソウゾウリョクを発揮し、挑戦を続けている方々とコラボレーションしていく連載企画です。
一人ひとりが持つユニークな価値観と生き方を、過去からのメッセージに反響させて“いま”に打ちつけたとき、世界はどのように響くのでしょうか――。

▼「新たな時代」全文はこちらから



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