オリンピック・パラリンピックがくれたもの-「若さ」の肯定が世界を豊かにする
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オリンピック・パラリンピックがくれたもの-「若さ」の肯定が世界を豊かにする

若い人々は、どこか、この社会を諦めているような気がする……。パナソニック株式会社のオリンピック・パラリンピックマーケティングチーム・福田泰寛さんは、以前から、どこかそう感じていました。

現在、日本における年齢の中央値は48.4歳であり、今後もこの数値は上昇していきます。圧倒的なマジョリティである中高年の下で、今、10代〜20代の若者は「マイノリティ」となっている。そうして、自分たちの意見が通らず、その存在を顧みられない若者たちは、この社会に対する諦念を膨れ上がらせています。

パナソニックが行う「SPORTS CHANGE MAKERS」は、テクノロジーの力でスポーツを発展させるアイデアを募集するプロジェクト。第1回目となる今回は「GOING BEYOND BARRIERS」をテーマに、世界各国の学生が感じる「バリア」を超えるための方法を募集しました。

東京2020オリンピック・パラリンピックをきっかけとして生み出されたこのプロジェクトは、実は「年齢」のバリアを超えるために考案された企画。では、発案者である福田さんは、年齢に対していったいどのようなバリアを感じてきたのでしょうか?また、そんなバリアを撤廃することによって、どんな未来を見ているのか?

取材・文:萩原雄太

若者に焦点を当てるIOCの活動

例えば、会議の場における発言。

若い社員と、年齢を重ねた社員が同じような発言しても、その扱いが大きく異なる。かつて、そんな状況に違和感を覚えた人も多いでしょう。そこで受け取られているのは、発言内容の質ではなく「どんな年齢の人間」による発言か。若い人間の意見は、「若い」というだけで軽いものとされてしまうことが少なくありません。

「SPORTS CHANGE MAKERS」を手掛けるパナソニックのオリンピック・パラリンピックマーケティングチーム・福田泰寛さんは現在34歳。彼自身も、そんな年齢による扱いの差に違和感を覚えていました。

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福田: 各企業のオリンピック担当者は、40〜50代と僕よりも年齢が上のことが多いんです。担当者が集まる会議の場などでは、30代の自分と彼らとの間に、微妙な扱いの違いがあるように感じますね。

国際オリンピック委員会(以下、IOC)でも、年齢による差別を是正し、若年層の意見を取り込むために数多くの取り組みを行っています。その一つが、2010年から行っている15歳〜18歳のアスリートを対象としたユースオリンピックの開催。

これまで、シンガポール、南京、そしてブエノスアイレスで開催されてきたユースオリンピックでは、10代のアスリートたちによる激戦とともに、文化・教育プログラムを積極的に展開。アスリートに向けて、そのキャリアや社会的責任、社会問題などについてのプログラムを行うことで、若年層の成長を促してきたのです。

また、2016年から開催している「IOC Young Leaders」というプログラムでも、スポーツを通じた次世代リーダーの育成を支援しています。参加した若者たちは、IOCの委員会にも出席し、ジェンダーやレイシズム、環境保護といった課題について、IOCの代表者たちと議論を交わしているのです。

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福田: ユースオリンピックやIOC Young Leadersなどを通じて、IOCは積極的に若い人々の意見に耳を澄まし、その意見を取り入れようとしています。

オリンピック憲章にも「多様性」という言葉が書かれていますが、多様性のカテゴリは、人種・障害・ジェンダーなどに限らない。日本に限らず先進国が高齢化していくなかで、「年齢」という軸の多様性が必要とされてきているんです。

もちろん、それは企業活動でも同じ。次の世代と仕事をしていくためには、その世代の意見に対してうまく耳を傾けていく必要がある。そうしなければ、その世代のニーズを満たすことができなくなってしまいます。

オリンピックという世界的なスポーツの祭典が掲げる理想は、福田さんに対して、新たに「若い世代に対する眼差し」を与えてくれました。

20代の目に映る「バリア」

2019年から福田さんが手掛けている「SPORTS CHANGE MAKERS」は、テック×スポーツを軸とした学生向けのコンペティション。「GOING BEYOND BARRIERS」をテーマに、東京の他にも、パリ、北京、ロサンゼルスなど、今後のオリンピック開催地に決定している地域の学生の参加者から、200あまりのアイデアが寄せられました。

各地域1~2回の審査によって絞り込まれた4つのアイデアは、8月に行われる最終プレゼンテーションで発表されます。「最終プレゼンテーション前なので、アイデアの詳細を伝えられないのが残念ですが……」と前置きしつつ、福田さんは集まったアイデアを次のように説明しました。

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福田: 今回、あえて『GOING BEYOND BARRIERS』の「バリア」を定義しなかったことで、各国の学生たちがどのようなバリアを感じているのかが見えてきました。観戦体験や距離といったアクセシビリティのバリア、あるいはメディアのあり方に関するバリアなど、それぞれの観点からのバリアは非常に刺激的です。

また、国ごとの「バリア」の違いも印象に残りました。ロサンゼルスに住む若者は、ダイバーシティ先進都市らしく、多様性に対して非常に高い意識を持っていることを実感します。日本からの応募では、課題解決だけでなく、その解決が世の中の価値観をどのように変化させるかまで、丁寧に遠くを見据えたアイデアもありましたね。

そんな若年層の革新的なアイデアに触れ、いちばん変化したのは、福田さん自身かもしれません。34歳という年齢は、上の世代と下の世代とに挟まれたポジション。彼はこの活動を通じて、上下の世代をつなぐ役割を自覚するようになったと言います。

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福田: 若い人々が活躍するには、その舞台が必要になります。今回もそんな舞台を用意することによって、世界中からおもしろいアイデアが次々と飛び出してきました。34歳という自分の立場は、上の世代を説得しながら、下の世代に活躍する場所を提供できるポジションであることを自覚させられたんです。

そして、そんな自分の置かれた立場を意識することによって、自分自身が変わる必要性も感じました。特に変わったと感じるのが「自分が感じていることは、臆せずに主張する」ということ。小さなことかもしれませんが、相手の立場や年齢に関係なく自分の考えを主張することは、下の世代に対して「声を上げていいんだ」というメッセージになっていくんです。

若年層の活躍をサポートする。そんなミッションを通じて、一人の年長者は大きな成長を遂げているようです。

若者だって主役のひとり

ただし、福田さんの活動は、決して「若年層が年齢を重ねた後に訪れる未来のため」に行っているのではありません。彼は「今」のために、若年層の支援を行っていると話します。

福田: どんなに年齢が若い人間であっても、今この世界にいる主役のひとりであることには変わりません。それなのに、社会自体が高齢化し、なかなか主役としての役割を担わせてもらえず、当事者意識を育めない。

今、若い人々は、そんな諦めの中で苦しんでいます。

でも、僕らが支援することによって、自分の発言やチャレンジが評価されることを実感すれば、当事者意識を持ち、積極的に行動することができるようになる。ほんの、わずかなきっかけを贈るだけで、若者たちは絶望的な諦めを打ち破ることができるんです。

若年層の当事者意識を育むことによって、「未来」だけでなく「今」を豊かにしていくこと。オリンピックをきっかけにして福田さんが得たそんな実感は、これからの日本に不可欠な視点となっていくかもしれません。

福田泰寛
1986年生まれ。2009年にパナソニック株式会社に入社後、電子デバイス営業などを歴任。現在は、オリンピック・パラリンピックマーケティングチームの一員として、「SPORTS CHANGE MAKERS」「IOC Young Leaders」といったプロジェクトを手掛ける。

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「スポーツという言葉は、“deportare(デポルターレ)“というラテン語に由来するといわれています。「気分転換する」というその言葉通り、スポーツは私たちに非日常的な感動や一体感をもたらしてくれます。
しかし、そこで味わった経験や感情は一時的なものではなく、私たちの生き方そのものにも影響を与えているのではないでしょうか――。
「#スポーツがくれたもの」は、スポーツが人々にもたらす変化や、スポーツを通じてその人の価値観が発揮されてきたエピソードを共有する連載企画です。新たな日常の中で、改めてスポーツの価値を考えてみませんか。

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