小谷実由さん「追われている、走っている」|僕らの時代 Vol.3
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小谷実由さん「追われている、走っている」|僕らの時代 Vol.3

自分らしい価値観をたいせつに、志をもって活躍している人とコラボレーションしていく「僕らの時代」。第3回目のゲストは、モデルの小谷実由さんです。

若き人びとよ。
つくりあげられた今までの世紀のなかで、あなたがたは育ってきたけれど、
こんどはあなたとあなたがたのこどものための世紀を、
みずからの手でつくりあげなければならない時がきているのである。
(出典:『続・道をひらく』PHP研究所)」

松下幸之助が未来を担う若者へのこしたメッセージに、今を生きる私たちはなんとこたえることができるでしょう。

服が好きという純粋な想いで飛び込んだ世界。16年の時を経て、彼女が今”追われている”ものとは――。

小谷実由(おたに・みゆ)
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業を軸に、エッセイや連載などの執筆業でも活躍。様々な作家やクリエイターたちとの企画にも取り組んでいる。SNS上での質問コーナーや読書記録(#おみゆ本棚)のファンも多い。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。

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追われている、走っている

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私はいつも何かに追われている。別にそれは悪いことではない。「追われている」なんて書くと、反射的に「逃げている」みたいでマイナスな印象が思い起こされがちだが、そうじゃない。今も昔も何かに「追われ」「鼓舞され」、私は「走っている」。

14歳から今の自分が存在している世界に身を置いている。服が好きで、たくさん服が着てみたくてモデルを目指した。まずその時に私を追ってきたのは、同じような立場でレッスンを受けていた人たち。そのまますぐにでも雑誌に出れるぐらい完成されている子、レッスンを受ける前からいろんな場数を踏んでいる経験豊富な子、言葉では説明できないけど目を惹きつけるオーラを持っている特別な子。そんな中で私はただ服が好きで、背が高いだけだった。背が高いとは思っていたものの、みんなに混ざると大したこともなかった。家族や学校の先生以外の大人とまともに接したことがなかった中学生の私。当たり前だが、そんなことはお構いなしに大人たちは厳しい言葉で欠点を指摘してくる。あの時の経験は今考えてもなかなか痺れる体験だったが、その時は信じるのも励ますのも自分しかいなくて、レッスン室の鏡に映る自分は頭の中に広がる理想の自分に必死に手を伸ばしていた。

徐々に仕事のチャンスをもらえるようになっても、追ってきたのは変わらず同じ志のライバルたちの活躍。自分にはないものを鮮やかに使いこなしながら、階段を駆け上がっていく彼女たち。何 もしてないのに自分が知らぬ間にどこかで比べられ(同時に自分も他人の活躍と自分の活躍のできなさを比べるようになってしまう)、格を落とされていくように思えた。悔しくて腐りそうに なったけど、その間にあと何人が私の横をすり抜けて階段を駆け上がっていくんだろうと思うと腐ってる時間すらないと思った。悔しさを感じても、逃げ出したいとは思わなかった。むしろ悔しさが自分の走る燃料になっていた。せっかく乗ることができた船である、簡単なことで降りるわけにはいかなかった。まだ私は何もできていないし。

モデルになって、いろんなものを見たり聞いたり、泣いたり怒ったり笑ったりして9年ほどが経った。努力してもその努力の仕方が合ってない時もあれば、どんなに頑張っても、上には上がいたりした。もちろんまだ何もできていなかった。比べる対象は今まで積み重ねた自分自身になっていたが、その時の私を追ってきていたものはモデルを続けるということ。子供の頃から今まで、こんなに長く続けたものはなかった。そんな事実だけが誇らしくて、特別で、内容よりも続けることだけに意地になっていた。やったことがないことでも何かチャンスが潜んでる気がしてがむしゃらにひとまずやってみた。経験が豊富なことはもちろん大切で、今でも誇りに思えること。しかし私は一体何がしたくて、何になりたくてこの仕事を続けているんだっけ?とふと思ったときすぐに答えが浮かばなかった。そんな自分を振りかざして走り続けても何も生み出せないことに気付いた。

思い切って、8年間お世話になった事務所を辞めた。22歳だった。「やりたいことをやる」という新たな志のもと再び自分と向き合いながら突き進むことにした。一部の人々からは今からまた新人として始めるのは年齢的にギリギリかもしれない。なんて脅かされたりもしたけど、そんなことよりも私はこの仕事を諦めることの方が怖かった。これがなくなったら私にはもう何もない。私を追ってきた「続ける」という意地はこんなところで好転してくれた。

そんな風に舵を切ってから8年が経とうとしている。服がたくさん着たくて飛び込んでからは16年が経つ。あのまま変化を恐れ意地を張り続けていたら、知らぬ間に腐りきって沈んでいたところだったと思う。私は今「やりたいこと」に追われている。

松下幸之助さんの本を、この夏初めて読んだ。恐れ多くも共感する部分が多くあり、そんなページを折っていくと、読み終わるころには不自然にページが膨らんだ本になった。その中でも、心の底から共感できる一節は『世の中』という章に書かれているこちらだった。

“世の中はなかなか自分が思うようにならないというけれど、見方によっては、自分の思うようにならない方がいいのかも知れない。“

壁にぶつかった時は、そこで絶望して戦意喪失するのではなく、一度立ち止まり落ち着く時間を設けてもらったと思うようにしている。別章(『成るものは』)で松下氏が言うように「成らぬものは成らないが、成るものは成る。策をろうせずとも成るものは成る。」のだから、思うようにならないということは、このままでは成らぬものに立ち向かっているということ。それを成らしめるには、立ち止まり思案する時間が必要なのだと思う。時に私は調子がいいとそのまま勢いで走りきろうともする。そんな時にはどこからともなく必ず何かしらの壁が立ちはだかる。調子に乗ると何かが起こるのは立ち止まれというサインなのだろう。一体そのサインを出してるのは誰なんだろうと思ってたけど、松下氏、あなただったのでしょうか。

きっとこれからも思うようにならないことがたくさん起こると思う。それでも怯まず思案を続けて、必要ならば22歳のあのときのように大きく舵をきっていく。船に乗って17年目を迎える今年の夏、このエッセイをこの先の未来の自分と、何かに迷っているどこかのあなたの背中を押す追い風になりますようにという想いを込めて。


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noteマガジン『僕らの時代』は、様々なフィールドでソウゾウリョクを発揮し、挑戦を続けている方々とコラボレーションしていく連載企画です。
一人ひとりが持つユニークな価値観と生き方を、過去からのメッセージに反響させて“いま”に打ちつけたとき、世界はどのように響くのでしょうか――。

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