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新たな分岐、クリエイティブの道(後編)

パナソニックのデザイン部門では「高度専門職制度」という人事制度を2019年度より導入しています。いわゆる管理職とはまた別の道、現場の最前線でクリエイティブディレクターとして活躍することを支える制度です。この制度によって生まれたデザイナーの意識の変化、組織の変化とは。デザイン担当役員、クリエイティブディレクター、戦略人事の担当者がそれぞれの思いと、今後への期待感を語り合いました。その後編です。

多様性を生かす新しい物差しを

臼井重雄(以下、臼井):今はデザインの領域がすごく広がっています。例えば、吉山さんはプロダクトデザインが専門ですが、CMF* デザイナーとして活躍してくれているメンバーもいて、彼女は元々スポーツアパレルメーカーで活躍していて、パナソニックに足りないデザインスキルを持っています。
* CMF:COLOR(色)、MATERIAL(素材)、FINISH(加工)の三要素

ヨーロッパのデザイン事務所では、CMF担当のチーフデザイナーは一番オシャレな人だったりする。彼女もまさにそんな存在で、そこにいるだけで場が引き締まります。やはりそういう人が必要だし、さまざまなタイプのデザイナーがいても良い、それぞれの個性を尊重しています。同時期に優秀な人が集まるということはよく聞きますが、際立ったタレントが横につながることでお互いが向上する、そんな専門職のネットワークが理想です。

吉山剛(以下、吉山):UXやCMFを考えないプロダクトデザイナーはいませんが、その分野の専門の方と一緒に考えることが大切です。若い人に口酸っぱく言っていますが、議論を避けてしまうと、表層的な色・形になりかねません。

2020年にやはり高度専門職に任命されたデザイナーがいますが、彼とはかつてオーディオや光学系の商品を一緒に担当していたので、彼がマネジメントに束縛されず、仕事を謳歌している様も私にはいい刺激になりました。仕事の深掘りができるメンバーが近くにいるのは魅力的です。

私はオーディオ・ビジュアルだけでなく、空間のデザインをやりたいと希望して住宅設備部門にも在籍した経験があります。パナソニックは事業領域も広く活躍の場もさまざま、まさに大海原です。その全てを航海したいと思っていますが、正直楽しくて仕方がない。また、こういうデザイナーのやりがいは、社外にも伝わっています。私たちデザイン主体で、今、京都から発信できていることが素晴らしいですし、誇りに思っています。

臼井:発信力の面でいうと、実は最近、採用のエントリー数が一気に伸びました。しかも多様な人が集まってくれています。数年前までは主に美大や工学系大学から募集していましたが、今はデザインを学んでいる一般大学の方にもお声がけしています。その影響も大きく、応募が増えたのはそれだけ学生が私たちの活動に魅力を感じているということなのかなと。タレントあふれる人たちを中心にデザイナーが生き生きと働く姿が、「パナソニックっておもしろそう」と伝わっている現れだと分析しています。

彼・彼女らがよく言うのが「パナソニックはくらしを変える影響力がある」「社会を変えられる」など、松下幸之助が言っていたような言葉なんですよ。その志は守りながら、目標に向かって何をすべきかを伝えていきたいと思います。私たちも若い方のパッションに刺激を受けますし、また、がっかりさせてはいけないと責任を感じています。

杉山秀樹(以下、杉山):学生のみなさんがそう受け取ってくれるのは、うれしいですね。若い方の中には、先行きが不透明な社会で安定した人生を歩むために、自分なりのスキルを身に付けたいとする考え方もあります。高度専門職の方の存在が、若い人にとってプラスになると感じています。

吉山:この制度は徐々に浸透させていくものだと思います。パナソニックもどんどん変わって、もっと実力主義になってもいい。ただ、デザインの専門性はデザイン以外では測れないし、新しい物差しができてそれが進化すれば、挑戦する人も増えると期待しています。


属性的な肩書きや、従来のキャリアパスを変えていきたい。

杉山:おっしゃる通りですね。物差しを進化させるためには、肩書やキャリアパスなど、今ある既成概念を変える必要があると思います。

臼井:今までの役職はよくないかもしれませんね。

杉山:現状どうしても属性的な肩書が多い⋯⋯。多様なバックグラウンドの方がいれば、何が偉いとか社歴がというのは関係なくて、お互いの個性を生かそうという話になるはずです。

吉山:組織として横を強くするには、役割をシフトして、デザイナーがよりクリエイティブな方へと走れる形が必要ですし、そうなると課長や部長の名前がフィットしなくなりますよね。また、私が高度専門職に任命された際に悩んだのは、ディレクションの仕事ばかりになっていいのかと⋯⋯。

パナソニックには戦略を練るプロフェッショナルももちろん大勢います。ですから、デザイナーが方向性やビジョンばかりを語るのも、それはそれで違うのかなと。自分は現場力を強くする存在でありたいし、仕事がかぶらないようにケアしながらクリエイティブに特化していきたいですね。

臼井:吉山さんの話でお気づきだと思いますが、高度専門職の人が何に特化しているかといえば「スピリット」なんですよ。とにかくよく考えるし、よく動く。白鳥が水の下で一生懸命水をかいているのと同じで、皆さん全然スマートではないし、常に営業や技術の人と折衝をしたり現場に足を運んだりしています。その熱量が周囲を動かしているんです。

1951年に松下電器のデザイン部門ができて今年で70年になりますが、パナソニックのデザイナーは仕事を重ねるうちに、誇りやスピリットを自然と身に付けています。私たちは、チームとしてそのスピリットを引き継ぐことが大事だと思っています。

「お客様のことを思いデザインをしよう、未来を描いてデザインしよう」。そんな情熱とともに、高度専門職の皆さんそれぞれの専門性を広く伝えてほしいと期待しています。

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執筆:草木智子 編集:畠中博文 写真:海野貴典


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