プロから学ぶ課外授業、高校生が描くデザイナー像とは?
親や教師など身近にいる大人“以外”の「働く大人」から直接リアルな声を聴き、自分の未来をデザインする第一歩とする。2023年4月に開校した京都市立開建高校(以下開建高校)には、そんなユニークな授業、「未来デザインプログラム」があります。Panasonic Design Kyotoと同校とは、その前身となる塔南高校の生徒たちと新しい校章のデザインに取り組んだこともあり、この授業にもパナソニックとして協力することになりました。
2023年9月某日、5名の生徒たちをPanasonic Design Kyotoに招き、最前線で活躍するプロフェッショナルを講師に特別授業を実施しました。
「デザインとは」「働くやりがいとは」――自分たちの未来を描く分岐点に立つ高校生たちは、生きた教材から何を学び、感じたのでしょうか。授業では家電製品のデザインプロセスをたどりながら、パナソニックでデザイナーという仕事に取り組む魅力とやりがいについてお話しました。
デザイナーは「机に向かってデザインだけをする人?」
京都市内のさまざまな企業で働く方との交流を通じ、自身の将来や進路について考える未来デザインプログラム。その一環で、Panasonic Design Kyotoにやってきたのは、開建高校ルミノベーション科の1年生5名。私たちは事前にこんな問いを投げかけていました。「デザイナーってどんな人だと思いますか?」。講義は生徒たちの自己紹介と、各自が思うデザイナーに対するイメージの発表から始まりました。
最も多かったのは、「机に向かい、パソコンや紙でデザインしている人」。また、クリエイティブという言葉の響きの影響か、「真っ白な壁のおしゃれな部屋に住んでいる」「毎朝スムージーを飲んでいそう」という意見も。「そういえばそんな人いるかも(笑)」と、一気に和やかな雰囲気に。
デザイナーの中でも電機メーカーで働くインハウスデザイナーは特に、高校生にとってあまりなじみのない職業。普段知り合う機会の少ない大人との対話を通じて、新たな発見や気付きを得て、デザインという仕事の内容を理解してもらい、楽しさややりがいを感じてもらうことを目指しました。
そこで講義では、デザイナーが発案から大きく関わった「セパレート型コードレススティック掃除機」を題材に、「気づく、考える、つくる、伝える」という私たちが大切にしている4つのデザインプロセスに沿って、デザイナーが実際にやったことや考えたことをお話ししました。約1時間の講義、果たして高校生たちが抱くデザイナー像はどう変わったのでしょうか。
4つのデザインプロセスでたどる、”これまでになかった”掃除機の開発秘話
はじめに、「セパレート型コードレススティック掃除機」についてご紹介します。まるでほうきのようなシンプルな本体でごみを吸い取り、掃除が終わればドックに立てかけるだけ。ごみはドック側にセットした紙パックに自動収集され、同時に本体の充電が始まります。従来の掃除機とは一線を画すもので、開発には多くのチャレンジがあった製品です。
最初に「気づく」のプロセスでは、リサーチャーの正田が登場。どんな製品なら喜ばれるのか、お客様目線で多様な人と話し、暮らしを観察する大切さを説明。お客様のお宅を訪問し、掃除の一部始終を見せてもらった経験を例に挙げ、「何気ない暮らしの中に開発につながる多くのヒントが隠れている」と語りました。調査を繰り返す中で分かったのが、「掃除機を取り出す」「吸い取ったごみを捨てる」といった行為を煩わしく感じる人が多いという点でした。
次は「考える」「つくる」のプロセスです。プロダクトデザイナーの藤田から、「ほうきのような手軽さ」をコンセプトに設定し、掃除機本体からごみ収集部を充電台に移し、さらに集めたごみを自動移送するという独自技術にたどりついた経緯を説明。装飾を徹底して省いた美しいデザインを目指し試行錯誤を繰り返した開発秘話を紹介しました。
「伝える」のパートを担当したのは、アートディレクターの中村。商品のメリットを絞り、明快な言葉で伝えることに力点を置き、スティック掃除機の新たな価値を最大限に伝えるためにシンプルさを重視したことを語り、実際に完成したCMを披露。そのポイントを生徒たちと確認し合いました。
この「セパレート型コードレススティック掃除機」は、これまでにない掃除機を新たに生み出すチャレンジングな商品開発だっただけに、デザイナーの語りは次第に熱を帯び、生徒たちもどんどん話に引き込まれ、メモを取るノートも細かな字でびっしりと埋まっていきました。
仕事の本質とは「情熱」、好きなことを見つけよう
講義後、イメージを再度尋ねると、生徒たちからは好奇心にあふれた表情で言葉が返ってきました。「お客様から聞き取った情報やデータを基にアイデアを生み出し、どう形に落とし込み、魅力をどう伝えるか。携わっている全員がデザイナー!」「一つの商品に魂が詰まっている。長い時間をかけ、チームの頑張りがあってこそ商品ができあがっていく」「デザインの仕事がこんなに多岐にわたっていたなんて。絵を描くだけじゃなかったんだ」。特に新鮮に映ったのはリサーチャーの存在だとのこと。デスクワークだけでなく、コミュニケーションを活用してお客様と接しながら観察や調査を行う、デザインの大切な要素を学びとってくれたようです。
質問コーナーでは、仕事の楽しさ、やりがいが話題に。「なぜ、パナソニックのデザイナーになろうと思ったのですか?」との問いに、藤田はこれまでのキャリアを振り返りながら「家電をはじめ、商品アイテムが幅広いパナソニックグループ、いろいろなモノづくりに携わることできるのが大きな魅力」と。また、フリーデザイナーと比較して「部分的なデザインではなくトータルで最後まで関わるのがインハウスデザイナーの特徴です。私自身も掃除機のデザインを10年担当したけれど、いまだに夢中」と答えると、生徒たちから感嘆の声が上がりました。
デザイナーたちも、質問を投げかける高校生に対し、将来の進路を考えていた、かつての自分の姿と重ね合わせ、デザインという仕事の楽しさややりがいを本音で語り、自身の原点に立ち返る機会となりました。将来どんな仕事をするにしても、夢中になって情熱を傾けられるものを見つけることや、仕事として夢を実現することについて考えるきっかけになってくれればうれしく思います。
取材・文:津守勝彦
編集:畠中博文、Story of Future Craft 編集部(Panasonic Design)
写真(座談会):濱野裕生