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デザイン思考で描く「未来の校章」~KAIKEN PROJECT ① 最終報告会リポート~

高校生がパナソニックのデザイナーとつくり上げる、自分たちの理想の学校像と新しい校章――。

2023(令和5)年4月、現在の京都市立塔南高等学校(以下、塔南高校)は、京都市立開建高等学校(以下、開建高校)へと生まれ変わります。新しい学校への希望を込めた校章のデザインを形にするために、現役の高校生とパナソニックのデザイナーが一緒に取り組んだ「KAIKEN PROJECT」。デザインマガジン「Story of Future Craft」では、3カ月半に及んで行われたこのプロジェクトを3回に分けて紹介します。1回目の今回は、2022年7月15日にパナソニックデザイン京都で行われた最終報告会のリポートです。

開建高校×パナソニックで、新しい校章をデザイン

現在の塔南高校を移転・再編して開校する開建高校は、新しい普通教育のモデル校として、生徒一人一人が主役となる学校づくりを掲げ、高校生の主体的な学習を応援するユニークな校風。学内で学びを完結させず、高校生が社会の多様な人々と対話・協働しながら、自分を成長させる教育活動を目指しています。

京都市立開建高等学校 イメージ図
京都市教育委員会WEBサイトより http://www.kyotocity-hs.jp/school/kaiken/main.html

当初のパナソニックデザインへの依頼は、新しい校章の制作。しかし、この先長く使われる大切な学校のシンボル、その制作過程を開建高校が目指す「生徒の成長につながる社会との協働」の第一歩と位置付け、生徒との協創が決まりました。生徒自身が制作に関わり、自分たちの未来を描くこと、そして形にする経験がきっと今後の糧になる。先生とパナソニックで会話を重ねた結果、 2022年3月、「KAIKEN PROJECT」がキックオフされました。

キックオフした時は、まだ寒さの残る頃でした(写真:パナソニック)

「発散」と「収束」を繰り返し、生まれた四つのアイデア

目指すゴールは生徒自身が学校の理想像を描き、学校のシンボル「校章」のデザインに昇華すること。パナソニックのデザイナーは、培ってきた四つのデザインプロセス「気づく」「考える」「つくる」「伝える」にのっとって生徒たちに伴走する。そんなプランの下、塔南高校とパナソニックデザインそれぞれの有志メンバーからなる合同プロジェクトが立ち上がりました。

デザインに取り掛かる上で、全体が強く意識したのは「挑戦力、対話力、思いやる心、学び続ける力、協働力、貢献志」からなる開建高校の教育理念。塔南高校の歴史と伝統を引き継ぐだけでなく、開建高校の自由な雰囲気を表現する校章にとの思い。では、具体的に校章デザインは何をしたらよいのか……。このプロジェクトでは次のステップをたどりました。

KAIKENプロジェクト プロセス
  1. 気づく
    校章デザインとは何か。世の中の校章をはじめとしたさまざまなシンボルマークについて、デザインやその背景などを知る。

  2. 考える
    校章デザインに込めたい思いとは。それを導くために生徒一人一人が「未来日記」を書いてみる。未来の自分はどんな活躍をしているのか、それは学校でどんな経験ができたからか。そうして未来の自分のありたい姿から学校への希望を逆算し、デザイン要素として抽出する。

  3. つくる
    チームで要素を整理して校章デザインに落とし込む。2案にまで絞り込んだ段階で、学校内でヒアリングを実施。同じ目線の生徒から得た意見をもとに、さらに検討を深めて修正を行い、最終案1案を決定。

  4. 伝える
    チームで磨いたデザインを発表。最終報告されたのはそんな積み重ねで完成した努力の結晶。各チームが創意工夫を重ねて生み出したデザインとは――。

集まったメンバーはA~Dの4チームに分かれて各プロセスでアイデアを膨らませる「発散」と、いったんの着地点を模索する「収束」を繰り返しました。初めてのデザインプロセスに試行錯誤しながらも、この日のために磨き上げた4者4様のアイデア。最終報告会である当日は祇園祭の宵々山でしたが、にぎやかな街中から切り離された会場には、静かな緊張感が満ちていました。

いよいよ最終発表会が始まる…!
  • Aチーム

Aチームは「周囲を巻き込みながら成長していく」をコンセプトにデザインを完成。塔南高校の校章で使用されていた逆三角形をベースに、六つの教育理念を表す6本の線が風車を形づくり、外側に広がります。風車の中心は「なりたい自分」を表し、周囲を引き込み、影響を与えながら目標に向かっていく姿を投影。カラーデザインは「学び、成長、羽ばたき」を表現する青緑色を採用しました。

Aチーム

開建高校の「総合的な探究の時間」の授業では、企業やOB・OGとの交流を通じて将来の可能性を広げます。Aチームはこれを大きな魅力と捉え、三つのアイデア①「世界に広がるつながり」を表す中心から広がる風車、②塔南高校らしさの継承、③型にはまらない人間像を象徴するオリジナリティー、を基点にデザインへと落とし込みました。

お互いに評価し合うため、聞く方も真剣
  • Bチーム

家紋などに代表される和のテイストを基調として校章制作をスタートしたBチームは、水の波紋をイメージしてデザインを完成させました。1人の活動が波紋のように学校全体に波及するという願いを込めたアイデア。花と波紋のイメージを生かして、青と白の配色に。開建高校の六つの教育理念を英訳すると全て頭文字が「C」になることにも着目し、シンボルの中央部にCの文字を忍ばせて、開建高校の姿をアピールします。

Bチーム

六つの教育理念のうち、特に「対話力、協働力、思いやる心」を重視。生徒の才能が開花するイメージから連想した「花」、良い雰囲気や気持ちが別の人に広がりゆくイメージを昇華させた「波紋」、この二つのモチーフをベースにデザインを掘り下げました。外部とも積極的に交流する開建高校の校風を「途切れることのない円」として表しています。

生徒たちは定期考査と両立させながら、この日のためにプレゼンテーションの練習を重ねた
  • Cチーム

Cチームがつくり上げたのは、教育理念を象徴する6本の線で描く「K」の文字。一目で開建高校だと分かるデザインは、形を構成する1本ずつの線を同じ長さにしないことで、生徒の個性を大切にする理念を象徴。外側へ広がる線は、外に向かって積極的に意見を発信する生徒の姿を表し、メガホンに見えるように工夫しています。カラーは暖色の朱色を選び、元気さを表現しています。

Cチーム

「これまでにない高校」を目指す開建高校を象徴させるため、「誰もが同じ進路を歩むわけではない。個に応じた未来に進んでほしい」をコンセプトに、非対称の形という着想に至ります。「枠を超えて学び合って発展」と「伝統ある塔南高校の継承」という二つのイメージをデザインに反映しました。

先生たちも生徒たちのプレゼンテーションに聞き入りながら、デザイン評価を行う
  • Dチーム

教育理念を表す六つのパーツで構成された鳥のデザインを完成させたDチーム。自由な校風を象徴するために、曲線を用い、たなびく布のような柔らかいイメージを表現。また、羽を下ろし、今まさに飛び立とうとしている姿で、活力あふれ未来に向かって飛び出していく開建高校の生徒たちを表現。カラーは、未来に向かって芽吹く新芽をイメージしたライトグリーンを採用しています。

Dチーム

開建高校では、夢に向かって取り組む生徒を応援する授業が行われる予定。友達、先生、地域の人々と協働して「自分たちのやってみたい」に挑戦し、なりたい自分になるための道を開くのが開建高校らしさだと考え、鳥や自由になびく布地などのモチーフをデザインに昇華しました。

一緒に取り組んできたパナソニックのメンバーも、ドキドキしながらプレゼンを見守りました

今日の最終発表会でのプレゼンテーションはここで一旦終了。4案はこれから校内投票などを経て、最終1案が選ばれることになります。

全ての発表が終わると、生徒たちはチームの垣根を越えて「お疲れさま」と声を掛け合いました。

この経験を財産に

閉会式では、塔南高校の尾﨑嘉彦校長が総評に立ち、「この4案は甲乙つけがたいほど素晴らしい。今回の経験を今後の学校生活、卒業後の進路、あるいは人生に有意義な財産としてほしい」と、生徒に向けてエールを送りました。

塔南高校 尾﨑校長先生

生徒を一番近くで見守ってきた折笠阿香音先生は「素晴らしい発表で、皆さんの成長に驚かされました。最初のミーティングの時は、みんなおびえていたのに(笑)。たった3カ月半で堂々たるプレゼンができるまでに成長してくれました。真剣な思いを持ってプロジェクトに参加し、やり切った自分自身を誇りに思ってほしいです」と生徒たちをたたえました。

塔南高校 折笠先生

思い出させてくれた、素直なデザインへの向き合い方

パナソニックのプロジェクトメンバーからも「分からないことは聞く、納得できるまで何度でもリテイクするなど、なかなか大人になってからはできない素直なデザインへの向き合い方を皆さんが思い出させてくれました。私たちもこの経験を今後の仕事に生かしていきたいです」「皆さんの人生に大きく影響するかもしれない怖さ、同時に責任感を持って関わりました。自分がやりたいことを楽しくやる、これを今後も続けてください」と、それぞれ感じた思いを伝えました。

一緒に走って来たパナソニックの感慨もひとしお

これら四つのデザイン案は、これまでの3カ月半のプロジェクトがたどり着いた「一つの結晶」。プロジェクトに参加した高校生たち、パナソニックのメンバー、全員の熱い思いが一体となり、会場を包みました。四案は全校生徒からの意見も参考にしながら、さまざまな観点を踏まえて最終一案が選ばれます。気になる結果は9月発表されるとのこと。このnoteでもお知らせしたいと思います。

最後は四つの新校章案の前で記念撮影

執筆:畠中博文/末松翔平 写真:吉間完次