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「どう思う?どうしたい?」を問い続けた、One Young World 2024

自分たちで、これからの世界を変えていく――。各国からリーダーシップあふれる若年層が集い、さまざまな社会課題を議論する「One Young World 2024(以下、OYW」が、9月にカナダ・モントリオールで開催されました。2010年に始まったOYWは「ヤング・ダボス会議」とも呼ばれ、教育機関の支援で参加する若者、企業で選ばれた社員、グローバルに活動を続ける社会起業家らが、毎年2000人~3000人集まります。パナソニックグループからの派遣は2022年のマンチェスター、前年のベルファストに続き3回目。2024年はデザイン本部の井上和、太田美帆が参加しました。

「この4日間ずっと『あなたはどう思う?どうしたい?』と問いを投げかけられ、考え続け、語り続けていました」と太田。その場の熱量と呼応して、「グローバルな視点でもっと大胆に考える自分らしさ、学生時代の感覚がよみがえってきた」と語ります。パナソニックが社会課題に対して何ができるかをテーマとした井上は「今の自分はずっと日本だけに目を向けて働き、いつの間にか小さくまとまってしまっていると気付きました。OYWで背筋がピンと伸びた」と自身の変化を語ります。帰国から1カ月余り、OYWで受けた刺激、出会った人々を2人が振り返りました。

井上 和(いのうえ・のどか)
デザイン本部 コミュニケーションデザインセンター クリエイティブ部
2019年4月、パナソニックに入社。キッチン商品 広告クリエイティブ担当
太田 美帆(おおた・みほ)
デザイン本部 戦略統括室 HRデベロップメント課
2019年4月、パナソニックに入社。デザイン・クリエイティブ部門担当人事

元気でユニークな企業広告、熱い思いがそこに宿る

井上:今年のOYWは「先住民の声」「気候と生態系」「AI」「健康の平等」「平和構築」の主要トピックが設定されていました。広い展示場に大小さまざまなステージが設置され、朝から晩までプレゼンやパネルディスカッションが続く。音楽フェスのように、ライブがあちこちで同時開催されるイメージです。展示場内の会議室では人数やテーマを絞った小規模のワークショップやアクション・セッション※が並行して開かれ、よりインタラクティブな議論が繰り広げられます。ランチやディナーの時間にもネットワーキングの場が設けられ、さまざまな国からの参加者と語り合いました。

テーマ別に分かれて行われるセッション
※アクション・セッションとは、トピックについてグループに分かれ座談会形式で討議し、
自分たちのネクストアクションを考え、最後にそれを全体でシェアするセッション

太田:参加者は各自セッションのスケジュールを選択できるので、何を目的にするかで得るものが大きく変わります。事前申し込みで参加を決められるワークショップは一つだけで、その先は現地でネットワークをつくりながら「一緒にこのセッションに行ってみない?」と情報交換をしながら決めていきます。アクション・セッションは先着順。部屋の前に希望者が並び、定員が埋まって参加を逃したものもありました。

井上:オープニングセレモニーこそ2人そろってパナソニックの法被で参加しましたが、その後太田さんとはチャットで元気で過ごしているか確認する程度。

私はマーケティングやブランディングに関わる仕事をしていて、広告コミュニケーションを通じた社会貢献や企業責任の考え方に興味関心があり、酒造会社のペルノ・リカール社が主催したワークショップ、「Cheers To Change: Making Gen Z Thirsty for Responsible Drinking(変化を乾杯しよう:Z世代に責任ある飲酒を促す)」に参加しました。

Z世代に責任ある飲酒を促すために、お酒を売る立場からあえて「DRINK MORE WATER(もっと水を飲もう)」というメッセージを発信する、世界的な広告キャンペーンの事例が議論されました。そのコンセプト動画は、Z世代が親しみを持てるような「イケてる」仕上がり。飲み物を手にパーティーではしゃいでショットグラスで一気飲みをしたり、ベロベロに酔っているかに見えますが、よく見ると飲んでいるのは全て水で、散らかっているのは水のペットボトル。クスっと笑える面白さのあるクリエイティブです。

このキャンペーンが向き合うのは、飲みすぎによる健康被害や犯罪被害という社会課題。若者の間では「飲めないのはダサい」との認識も根強い中、合間に水を飲むのは「イケてる」という文化を作るという難しいテーマに、押しつけでなく楽しく伝えることで向き合っています。社会課題が絡む難しいテーマをかしこまった雰囲気や説教臭いメッセージングでなく、コンテンツの面白さや共感性を追求し、エンターテインメントに昇華させています。

太田:会場でもキャッチコピーが書かれたボトルが配布されていて、私もこのキャンペーンは目にしました。

井上:制作に携わった広告代理店の方の話が印象的で「エンターテインメントの形であれば、学歴に関係なく、人々の心を動かすことができる」と語っていました。ハッとしたのは、広告が教育になりうるという視点。日本では義務教育の修了を前提とした易しさでコンテンツ制作をしてしまいがちですが、より広く働きかけたい社会課題に対するメッセージにこそ、多くの人がきちんとアクセスできる、インクルーシブなコミュニケーションが必要です。これは、国を問わず忘れてはならない姿勢だと感じました。

会場で配布されていたボトル

太田:教育格差や犯罪率の高さは、日本でも同様に抱えている社会課題ですが、表立って、課題として向き合いにくいところがあると感じています。ですが、タブー視せずにさまざまな消費者へ平等に届くコンテンツに仕立て、「お酒を売る=安全に飲んでもらうのが企業責任」というメッセージをリンクさせる、日本ではあまり見かけないスケール感です。自分たちの製品やサービスがお客様の手に渡ったその先で、何かしらの問題を引き起こしてしまうかもしれない……。「社会の公器」を宣言している私たちパナソニックも、この広告に学ぶところが大きいですね。

井上:一方で気になったのは、こうした価値のあるキャンペーンも慈善活動ではないですし、アルコール飲料をたくさん売らなくてはいけない立場から、社会的責任と事業の成功のバランスをどう考えているのか。登壇したマーケティング責任者にどうしても聞きたくて、終了後に直接質問しに行きました。答えは「お酒を売る以上、適切な飲酒の文化をつくるのは企業の責任であり、義務。やみくもに売ってアルコール依存者を増やすような取り組みに加担するようであれば、持続可能なビジネスも実現しません。この活動をしないのであれば、私はこの会社にいないでしょう」と、きっぱり語られていました。

心に残ったのは、たびたび力強く訴えていた言葉「私たちの責任」。事業活動が及ぼす影響と使命をわきまえ、世の中のためにどんなアクションを起こせるのかを考え、適切な方法で伝える。自分たちの使命として行動し、当事者意識を持って熱く取り組めるのはインハウスの特権であり責務です。パナソニックの企業責任について、私もこれまで以上に思いを巡らすようになりました。

アンコンシャス・バイアスの現在、今できること、この先に描くこと

太田:私が申し込んだワークショップは「Breaking the Bias(偏見を打ち破る)」です。人事の業務に就いているので、参加前から社員の皆さんが自分らしく働ける職場環境づくり、DEI視点でアンコンシャス・バイアスに興味がありました。近年、パナソニックも含め、さまざまな企業がDEIにまつわる取り組みをしています。ですが、本当にそれが定着して当事者の救いになっているのか、どこか言葉が独り歩きしているような感覚を抱いていました。

印象に残ったのは、米国から参加した方の「学んできた専門性やこれまでの実績が同等、もしくは優れている場合でも、男性というだけで昇格やポジション就任をしていると感じることが多い」という職場の経験。もう一つはインド系イギリス人の参加者の「初対面の人に『英語がうまいね』とやゆされたり、出身国を何度も聞かれたりする」という、自身に起こるアンコンシャス・バイアスの共有でした。

そうした話を聞くまで私は、「欧米はDEIの取り組みが先進的かつ職場の理解も進んでいるはず、そこからベストプラクティスを得たい」と考えていました。実際はハードの部分は進んでいても、定着し機能しているかというソフトの面は、一概に先進とは言えないと感じました。むしろ分かったのは、欧米諸国の方が人種や宗教の違いなど日本よりも他の社会課題が顕在している為、それが複雑で根深いことです。アンコンシャス・バイアスの問題は、表面的なトレーニングだけでは、根本的な解決は難しい。例えばそれは、右利きの私が無意識に左利きになるくらいに長い年月がかかること。ふとしたとき、無意識にどちらかの手が出るのと同じように、トレーニングを積んでも心に余裕がないときに無意識が働く。何かを決めつけたような発言が出てしまうのは、そういう瞬間なのだと思います。

井上:私もOYWの会期中に無意識に「しまった!」と感じる発言をしてしまい、訂正する場面がありました。日本からの代表団と一緒にいる時に、他の国からの参加者に「あなたたちは何の集まりなの?」と聞かれたのですが、「日本人です」ととっさに答えてしまったのです。日本の代表団には、日本で暮らす他国籍の方も含まれているので、不適切でしたが、私はその時期に太田さんとアンコンシャス・バイアスについて語る機会が多かったので、たまたま自発的に気づけて訂正することができました。無意識はすぐには変えられないからこそ、気づけている人から意識的にリマインドし続けることが大事ですし、アンコンシャス・バイアスをフラットに語り合える雰囲気が広がっていくといいなと思います。

太田:価値観や感覚をすぐに切り替えるのは、とても難しいですよね。意識してできることは、結局は自分の常識の範囲内にとどまりますから、本質的には時間をかけたアプローチが必要です。トレーニングによって、私たちは職場で一定のスキルを身につけられると思いますし、現在のDEIに関する取り組みを否定している訳ではなく、もちろん肯定的に捉えています。ですが、ハード面だけで満足せず、未来の若者世代に無意識レベルで定着するよう、OYWに集まる世代はもっと何かができるはず、と強く思いました。属性やバックグラウンド、価値観に、良い・悪いや正解・不正解はないし、次の世代の子供たちが無意識のうちにバイアスを入れずに言動が取れるようになって欲しい。国、地域による違いではなく、その本質は教育やメディア発信にまで及びますし、時間のかかる課題だと改めて感じました。

2人共通のテーマ、「Gender Equality」に向き合う

井上:太田さんと共通して関心を寄せていたのが「ジェンダー平等」のテーマです。日本で暮らしながら「ジェンダー平等」の話となると、女性管理職の数や所得格差などの政治経済の話や、家父長制的な意識による生きづらさの話になることが多いです。が、OYWで取り上げられる課題は、健康や命に関わるフィジカルなテーマであることが印象的でした。

私は「Gender Equality in Road Safety(交通安全における男女平等)」のセッションに参加しました。車の安全基準やシートのデザインは男性モデルでテストされていることが多く、脂肪や筋肉の分布が異なる女性は事故で致命傷を負いやすい……。一見ニッチなテーマですが、私はこの社会課題に向き合う自動車メーカーの広告が、数年前に世界的な広告賞のカンヌライオンズでグランプリを受賞したことを覚えていました。世の中で認知が低い課題や取り組みを、クリエイティブを通して広く告げる。広告が社会的な役割を果たしていることを実感し、自分の仕事の可能性と影響力に重みを感じた瞬間でした。

太田:見習いたいのは、一つの商品やサービスを通じて企業からのメッセージが広告で打ち出されているところ。この事例はたまたまジェンダーに関する話題ですが、先ほど井上さんが話してくれた酒造会社にも通じます。きっと社内では、いろいろな反発や意見が出る内容だと想像しますが、それでも投資をするのだと決めていて、企業の強い意志を感じます。

井上:広告を通じて社会に働きかけるには、自社の役割や立ち位置をわきまえることも大事だと思います。OYWで出会った人は、ほとんど全員がパナソニックの名前を知っていました。「エアコンを使っているよ」「テレビを持っていたよ」等、自分たちの存在価値がモノとして届けられていることも自覚しました。私はオウンドメディア「Make New Magazine」の編集者として、パナソニックと社会課題を結び付けた発信にも携わる機会があります。パナソニックや製造業だからこそ語れること、語るべきことを見つめて、世の中に届けていきたいです。

太田:私も人事業務に関わる「DEI in Workplace(職場におけるDEI)」のアクション・セッションに参加しました。LGBTQ2+の当事者をはじめ、自身の原体験をシェアし、私たちがアクションすべきことは何かを議論し合う場です。私自身もこれまでの経験を共有したのですが、ある参加者からのコメントにハッとさせられました。「伝統的な日本企業の職場環境はそもそも遅れている。当事者が自分はこうで、こういう思いや悩みがあるとカミングアウトできない、個人がこの制度を使いますとオープンにできない時点で、DEIは機能しないのでは」と。マイノリティーかマジョリティーかにかかわらず、オープンに語れない環境が当事者を苦しめる……。会社組織や大きな枠組みの制度など、外側に目を向けがちだった自分を省みて、もっと足元の職場から対話を重ね見直していかなければと思い直しました。

「自分」をまっすぐに語る、リアルな一次情報

井上:OYWでは、私たちの生活圏では想像もつかない事柄が、当事者の生の声で語られます。「自分の家族が、適切な医療にたどり着けずに亡くなった」といった実体験。それをドキュメンタリー映像ではなく目の前の個人の訴えとして受け止め、考えることができたのは、何物にも代えがたい経験でした。日本で生活し、ビジネスに携わる立場で参加した自分の常識とのギャップにやるせなさも覚えました。「生活の豊かさ」「心地よさ」の前に、「生命の維持」「身の安全」の基本的な人権の話をしたいという人がたくさんいます。

もちろん日本には日本の社会課題があります。登壇者のようにつらい経験をされている方もいるし、個々の生きづらさは比較をするものでもありません。ただ、シビアな社会課題の当事者にならざるをえなかった一つ一つの体験、命に関わるような出来事の切迫感がそこにあり、強烈な一次情報に心を揺さぶられました。

会場内のコミュニティスクエアには参加者の夢を共有し合えるボードが設置され
それぞれの夢が語られていた

太田:OYWで出会い、印象的だった参加者に共通するのは、「自分はどんな価値観を持ち、何に関心があるのか」を迷いなく語ること。また、その価値観形成に至る原体験も一緒に語るので、言葉の重みが違います。グローバルに活躍できるリーダー像、そこに必要とされるスキルを考えるきっかけにもなりました。異文化理解力や言語力を持っていることがグローバルリーダーの代名詞かのように考えられがちですが、それ以前に、まずは「自分は何者なのか」を語り、相手をリスペクトしながらも意志を持って自分の意見を伝えることができる力が、大切な素質だと感じました。

正直、OYWで話されている内容だけを見れば、すごく革新的で世界の最先端をいっているわけではなく、「これが私の考える正義。だから実行しているし、仲間になってほしい」という、ごくごく当然のメッセージであることも多い。けれども、本当に自分の想いから発した言葉、行動に移した人の言葉だからこそ、意味があるのだと思います。私は初日に聞いた教育関係者のスピーチに気が付いたら涙していました。内容はどこかで聞いたことのあるような貧困地域における教育支援の必要性の訴え。でも、それが真っ直ぐに届いてきたんです。

井上:自分ゴトとしてできることにひたむきに挑んでいて、でも1人ではできないことも分かっている。だから「仲間をみつけたい」、という切実な言葉が私たちに響いたのだと思います。また、仕組みや文化を変えるような大きなムーブメントの力になりたいと考えれば、私たち企業ができることの幅や規模は大きいはず。1人の参加者としてプレゼンに共感し、声を上げるだけでは終わらせず、パナソニック社員として自分たちの使命と向き合いながら、広い視野で世の中を見つめ、「会社ゴト」として課題と向き合うことが大事だと痛感しました。

太田:私もOYWでは不思議な感覚というか、個人の意見/パナソニックの社員としての思いが共存していました。パナソニックの人に聞いてみたいと意見を求められる場面は少なかったし、前提として、OYWでは個人として議論に加わっています。なのに、自己内省しながら語っているうちに、いつしか社のミッションを語っている自分――。初めての感覚でした。目の前の仕事や役割とは離れたOYWだからこそ、落としどころを探したりせずに、素の自分と向き合い考えることができましたし、自分の素直な考えを多くの人に伝えることができました。

語るという点で気が付いたことがあります。私は母語が日本語なので、OYWという目まぐるしく情報が行き来する場で、英語では即座に日本語ほど細かいニュアンスを感じ取ったり表現をすることができません。ですので、3歳の子供のように伝えたいことをストレートに話してしまっていたと思うのですが、これが意外とOYWの議論には適していたのかもしれません。出会った人からは朝食の時間も会場を移動する時も「これについて、どう思う?」とずっとオープンクエスチョンを浴び続けました。自分はどう思うかを考え続けると、これまで視野を狭くしていた自分にも気が付きます。帰国後は、伝える必要があるべきと判断する時は、役職に関係なく臆せず発言するよう心掛けています。

井上:受け身のスタンスで参加している人はいないから「伝えたい」「聞きたい」の熱量もすごい。オンラインではなくその場に集って共鳴しあい、議論が起こり、団結できることに価値を感じますし、OYWの活気には特別なものを感じました。不景気やパンデミック、気候変動を目の当たりにして日本のZ世代の多くが未来に希望を持てていない、といった話もよく耳にしますが、こんなに生命力にあふれた若者が世界に散らばっていると思ったら、まだ世の中捨てたものじゃないなと勇気をもらいますね。

小さくまとまらず、もっと大胆に

井上:世界に目を向けて、ニュースや映像越しではなくリアルな社会課題に向き合えた数日間、OYWを経て、自分が捉える「社会課題のスケール」はぐっと広がりました。日本から遠い国で暮らしていてもパナソニックのことを知ってくれている参加者と出会い、自分たちがこれまで影響を及ぼしてきた広さや今後のポテンシャルも知ることができました。グローバルで製造・ビジネスを行う私たちの責任を考えたとき、マイノリティーの方々と同じように声を上げるだけでは不十分です。自分たちの価値や使命をわきまえて、もっと遠く、もっと多くの人と有意義なコミュニケーションがしたい。何かを伝える際、パナソニックの“Force for good”を無意識下で正しく扱えるようになりたい。自分の視野ががいかに狭かったかに気付き、グローバルな視座で考えられるようになったのは一番の収穫です。

初日のオープニングセレモニーで、パレスチナの旗を持った人の入場に拍手が鳴りやまなかったのも印象的でした。世界情勢に関心を持ち、拍手という形で自分のスタンスを臆せずに表す。遠い島国の日本で若者が同じ反応をするだろうかと想像し、グローバル・スタンダードとのギャップを感じました。私自身も学生時代はもっと積極的でオープンに語り合えたはずなのに、初日は身体が思うようについていかず。この4日間は、整体で本来の姿までバキバキっと治してもらった感覚(笑)。5年間日本企業に勤めて、いつの間にか小さくまとまってしまったのかもとしれないと反省しました。この気持ちは忘れずに、大切にしていきたいと思います。

OYWオープニングのフラッグセレモニー

太田:「そう、この感じ!」と、私もモントリオールでスイッチが切り替わりました。学生時代には同様の国際会議の場で、リーダーに名乗りを上げるくらいだったのに、気が付かないうちに、伝統的な日本企業の文化に染まっている自分に気が付きました。どこかそんな自分を好きになれていなかったのですが、久しぶりにポツンと日本人1人になって「もっと大胆にいこう(いかなければ!)」と感覚がよみがえって、OYWの期間中はわれながらイキイキしていたと思います(笑)。企業や教育機関が若い世代に投資をし、約3000人が24時間ずっと語り合う、その熱量がOYWの価値。ここで得た人的ネットワークは一生の財産になると確信しています。本当に貴重な経験をさせていただきました。ぜひ、これからも派遣を後押しする企業には継続してほしいですし、もっと私たちのように、あの場に立てる人が増えることを切に願います。

OYWの場で本当の自分を取り戻すと同時に、「自分も含め、この人たちと対等に議論、コミュニケーションを取れる若者は日本にどのぐらいいるのだろう」と危機感も湧き上がっていました。協調性や和を重んじることは、高い技術力と品質のモノづくりで経済成長を遂げた時代にはプラスにはたらき、日本は高い国際競争力を持って世界経済を牽引していました。ですが、モノの力だけではグローバルで生き残れない時代が、現在そしてこれからの未来です。人材育成に関わる人事担当として、OYW以後に心に留めているのは、自分も含めてグローバルで戦える能力を強化すること。「日本人の良いところを生かしながら、積極性でも負けない。この両方を備える人材育成に人事として向き合いたい」と心を新たにしました。

取材・文:畠中博文
写真(対談):藤武隼
編集:Story of Future Craft 編集部(Panasonic Design)

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