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U32 の次世代リーダーが語り合った4日間 「One Young World 2023」

2023年10月2日~5日、世界各国の若者がさまざまな社会課題を議論する「One Young World 2023(以下、OYW)」が北アイルランド、ベルファストで開催されました。OYWは2010年に始まった18歳以上32歳以下の若年層による国際会議で、今年は190カ国以上から約2000人が参加。2023年の主要トピックは「食糧危機」「教育」「気候危機」「メンタルヘルス」「平和と調和」。グローバルに活動を続ける社会起業家や企業の若手社員が会するこのイベントに、パナソニックからデザイン本部の田中さくらと島村祐輔が参加しました。

会場では多くの参加者と話したい想いで動き続けたという田中は「自分のアクションを語りつくすんだという、参加者のエネルギーにあふれていた」と、会場の空気感を語ります。島村にとって印象的だったのは「それぞれの赤裸々な原体験、本人語りのナラティブの力、たった1人の物語(N=1)が及ぼす影響力」。紛争地域の難民キャンプ、気候変動の激しい地域で起こっている出来事などがこれまでにないリアリティーで自分に迫ってきたと言います。それぞれの注目テーマを追いかけた2人。帰国から約2週、ベルファストでの4日間を振り返りました。

田中 さくら
パナソニック株式会社 デザイン本部 コミュニケーションデザインセンター
クリエイティブ部 クリエイターチーム。
美術大学で芸術文化学を専攻し、2021年4月にパナソニック入社。
現在は、ビューティ・ヘルスケア商品のコミュニケーションデザイン&ディレクション、パナソニックのオウンドメディア『Make New Magazine』の編集などを担当。
「職場内公募の説明を受けた瞬間、『OYWに行きたい!』とすぐに自分のやってきた取り組みをまとめ、その日のうちに上司に送っていました」
島村 祐輔
デザイン本部 トランスフォーメーションデザインセンター
ビジネスデザイン部 シニアデザイナー。
大学院では文化人類学を専攻。IT企業、デザインファームを経て2022年11月入社。
ビジネスデザイン、ビジョン構想プロジェクトなどを担当。
「社会課題に対する考え方やアプローチについて、日本で語られるものとは全然違う考え方があるかもしれない……もっと足を運んで外からの話をインプットしようと、OYWに参加しました」

ワークショップや立ち話、誰もが「前へ前へ」の意識

田中:今回、私が特に興味を持って臨んだテーマはDEIでした。この話題は日本ではタブーとまではいかないにしても、「ああ、社会課題系ね」と受け止められがちなので、他の国の人がどういうモチベーションで、どんなトピックを本音で話すのかに注目していました。その意味では、想像をはるかに超える熱量で「聞いてほしい。私は幼い頃に……」と、自身の経験をナラティブに伝える人が多いことに驚きました。社会課題は大きなテーマですが、その意識の顕在化と解決の一歩に大切なのは個人の声で、小さな経験から出発してもいいのだと改めて感じました。

5人1グループで20~30人がじっくりディスカッションする、テーマごとのワークショップも設定されていて、その中から一つは事前申し込みができます。それ以外にも「アクションセッション」という、飛び込み参加OKのトークセッションもあります。スケジュールはスマホのアプリで確認ができるのですが、「このテーマで、〇時から」と告知があったかと思うと、開始10分前にその場に行くとテーブルは人がいっぱいのギュウギュウ詰め。「私もしゃべりたい!」という空気感でいっぱいです。

島村:メイン会場の方もずっと盛り上がっていましたね。開会式や待ち時間にはクラブミュージックが流れていて、スピーチが始まればイケイケで歓声も飛び交うし、壇上の人も社会問題への怒りなど、感情を隠さない。そこに一方的なお説教ムードはなく、「みんな同じ課題を共有しているはずだよね」と語り掛けます。メイン会場でプレゼンが進行しながら、その周りにはワークショップなどのよりインタラクティブな対話の場があり、プレゼンを終えた方がその場所でQ&Aをする場面も。聴衆同士でもあちこちで立ち話が始まり、プレゼン内容を新しい視点で語り合う。「日本からですか?」と僕もよく声をかけられて、話し込んでいるうちに参加を狙っていたアクションセッションが満席に……。本当に息つく暇もない感覚でした。

田中:そう、とにかくスケジュール管理が大変。私はあるセッションに聴き入って、閉会式に遅れてしまいました(笑)。メイン会場は1000人以上が入っていて、そこでプレゼンを聞くので、どうしても少し受動的になります。人数が少なめのワークショップやセッションの方で、印象に深く残った話が多かったです。

ラベリングなく「原体験で語り合うこと」の価値

田中:私が参加したワークショップは「職場環境におけるDEIの促進」がテーマでした。「アンコンシャスバイアス」「マイクロアグレッション」の例を出しあう中で、手に障がいのある参加者が「私自身の能力の前に、障がいがある人とまず認識されることが辛い」と発言したのが印象的で。「私に何ができるかに関係なく、障がいのある人と先にくくられてしまうことがすごく気になる」と。障がいなどでラベリングして人を見ることが、ダイバーシティの課題につながっていると気づきました。多様性を自分ごととして考えている人たちを突き動かしているのは、「このとき、自分を自分として認めてもらった」という原体験であることも多かったです。

島村:参加したセッションで、僕もハッとしたことがありました。視覚障がいのある方が「スポーツジムに行きづらいんだよね」と話していました。誰もが体を動かして気持ちよくスポーツを楽しみたいのは当然のことなのに、ジムという視点は考えたこともなかった。「ジムに居場所がないように感じる」という彼女の一言は、メモをしていなくても、今もパッと頭に浮かびます。僕には見えていなかった課題を突き付けられました。

田中:私にとって今回一番刺さったのは、ある日本からの参加者の言葉でした。彼は日本のテレビ局で働きながら、不登校の問題に関心を持って活動もしている人です。自身が不登校になったとき、地域の居場所のスタッフの人がかけてくれた一言で立ち直ったそうです。それは「昨日の野球、阪神-巨人戦、見た?」という全く普通の会話。「それまでは、なんで学校に行かないの?どうすれば学校に行ける?など“不登校”という視点で話しかけられることが大半でした。でもそのスタッフさんは、不登校でもなんでもない“ひとりの人間”として私と接してくれて、本当にうれしかったんです」と彼は力を込めて言っていました。さまざまな参加者と話す中で、ラベリングしないことの重要性を感じました。

若者は未来のリーダーではなく、現在のリーダー

島村:登壇者のプレゼンテーションで、ギニアビサウからオランダに留学している環境学者の方の言葉が印象に残っています。その方は「We are not the leaders of the future, but today(私たちは未来のリーダーではなく、今日のリーダー)」と訴えていました。「若者=未来への期待」かのように捉えられがちですが、「そうではなく、もう今日の自分たちこそがリーダーなのだから、アクションせよ。意思決定に参加せよ」と。もしくは、その場にいるシニア層に向けて「もっと若者を意思決定に参加させよ」と迫っていました。

 その方は英語のネーティブスピーカーではなく、ゆっくり端的に話したこともあって、言葉がさらに自分に刻み込まれました。すでにリーダーなのだから、若手の声もなるべく拾いあげてもらうという発想にとどまらず、意思決定に深く関わり、自分が実現の主体になるべきだと。例えば、私たちパナソニックにも未来の社会や事業の姿を構想するプロジェクトがいくつもありますが、経営に関わるような話にももっと若手が深く参加していくべきでしょう。

田中:確かにそう。過去にOYWに参加した方から「場の熱量がすごい」とは聞いていましたが、そうはいっても「若い世代が思いをぶつけて、とにかくしゃべっていればいい」みたいな雰囲気を私は想像していました。それだけに、「自分たちがやる、本当に動かないといけない。だから、自分たちを意思決定に加えよ」と語られて目が覚めた。とても大事なことですよね。

島村:プレゼンテーションステージは、企業によるプレゼンも多いし、一定はそれに共感するのが前提の場という雰囲気もあります。その場ですぐに異論をぶつける人はいなかったものの、立ち話で感想を語り合って「あのセッションは議論が西側諸国寄りで、どうも納得がいかない」という声が出てきたり、「もっとアジアらしいサステナビリティのあり方、循環社会のあり方というのがあるんじゃないか。ブータンでは仏教を元にした取り組みがあるらしい……」といったうわさ話を耳にしたりと、ステージの外で漏れ伝わってくる話も興味深かったですね。

アクションを始めている起業家、企業の若者たち

島村:僕が注目していたテーマはサーキュラーエコノミーで、大企業の製造業の、最新の取り組みがどうなっているか、また、欧州や日本とは全然違う考え方があれば知りたいという、その2軸で参加しました。欧州のある大企業からは、サーキュラーエコノミーのコンセプトを具体化したプロトタイプの発表がありましたが、これは2022年のOYWの参加者が「自分たちでできること」を1年で練り、形作ってきたもの。きちんと昨年のOYWからつなげてきた取り組みは、素直にすごいと思いましたね。若者にチャンスを与えた同欧州企業の動きの速さ、意識の高さを感じました。

田中:私の場合は、もちろんパナソニックの一員として参加したイベントではありつつ、個人のストーリーにも重きを置いて臨んだところがあります。関心もバックグラウンドも違う島村さんがどういうモチベーションで臨んだのか、今、初めて知りました。その他では、どのプレゼンが印象に残りましたか。

島村:思わず引き寄せられたのは、アフリカで海藻を育てている起業家の取り組みです。漁業者に教育をして独自のツールも提供し、育った海藻は相場よりも高く買い取る。加工食品にすることで付加価値をつけるとともに、地域の栄養不足も解消している。今までは輸出で中間業者に渡っていた利益も地元に残っていく。いわば、あらゆる面でサステナブルに設計された「サステナブル・ネーティブ」とも言える事業が次々と立ち上がっている。大企業に勤める自分としては、地域をまたがって拡張できるスケーラブルなサーキュラーエコノミーの仕組みが必要だろうという視点しか持っていなかったのですが、地域に根差した循環だからこそ複雑な要素をつなげて解いていける面もある。そのような取り組みをたくさん積み上げるのも、サステナビリティの在り方かもしれない、と考えさせられました。

一歩目を踏み出すために、悩みながらもブレない

田中:思い返してみると、高校生、大学生のときの自分はもっと積極的にグローバルな視点で外の世界に飛び出せていました。社会に出てその気持ちを忘れてしまっていたところに、今回のOYWをきっかけに戻ってこられたと感じます。また、たくさんの人に出会い、貴重な個人の原体験を聞いた分だけ、むしろOYW後の現在は悩みの最中にいます。言葉によって起こる分断、それをコミュニケーションや広告の仕事の中で、私はどう表現すればいいのだろうと。多様性を一つずつ語っていくと、それがラベリングになり分断を生むのかもしれない……。
 
島村:話を聞けば聞くほど視点は広がり、決められなくなりますよね。OYWでも「もっと意思決定の場に人を増やそう」との呼びかけがありましたが、一方で「たくさんの視点を取り入れるのはもちろん大事。だけど、じゃあ誰が決めるのか」みたいな課題も頭に浮かびます。例えば普段の仕事においても数カ月のプロジェクトで、たくさんの人に話を聞いて意思決定に人が増えたら、その分どう収束させるかがすごく難しくなる。そうなると、最後は自分の意志が大事。OYWで出会った人たちも自分の原体験やエピソードがあって、課題を解決したいからやっている。そこがブレなければ、一歩目が踏み出せると思います。

田中:自分の原体験を考え、ブレないことですね。期間中はいろいろな話を聞きすぎて、まだ整理ができていないところも……。もっと落ち着いてくれば、また、自分の中で新しい種も生まれそうです。日本からの参加者とは、OYWの日本支部のような形でこれからも交流ができます。大学生ながら医療・子育て関係のサービスをすでに起業しているという医学部の人、あるいは先ほどお話ししたディレクターの方など、またこれからももっと深く対話する機会があればと思います。
 
島村:僕は、国内で12月にサーキュラーエコノミーに関する英語のカンファレンスがあると知り、さっそく申し込みました。そこで台湾やオーストラリアの方と対話の機会が持てそうです。自分の英語はそれほどでもないので、今までだったら尻込みしたと思いますが、OYWで「早すぎて僕には聞き取れないから、もっとゆっくり話してほしい!」とお願いしながらでもちゃんと対話ができましたし、少し自信もつきました。取りあえず、突っ込む勇気が出てきました。

主観をぶつけあう「対話の価値」を信じよう

島村:デジタルではなく、まだモノに力があるという思いで、僕はパナソニックに入りました。モノで文化的な多様性を保ちつつ、暮らしの豊かさを高めていきたい。パナソニックデザインのコンセプト「Future Craft」を知り、日本らしさ、そこにある暮らしに溶け込むようなモノづくりをしたいと思ったんです。日々の中ではビジネスモデルを考える仕事が多いのですが、今回のOYWでの対話が「文化の違いが生む美しさや出合い、多様性に向き合いたい」と思い出させてくれました。
 
田中: OYWのベースは「私がどう感じているか」を対話し、分かり合うこと。私もこの4日間で、ディスカッションの大切さを改めて実感しました。誰かの提案を聞くだけではなく、一人一人のことを鑑みながら全員で正解を作っていくプロセスです。以前は会議で自分は発言できずに終わることもありましたが、日本に帰ってきてからは「まず、自分がどう思っているかを話そう、あるいは話してない方がいたら聞きたい」と、意識が変わりました。

島村:課題は数字で把握するのが重要だという風潮もあると思います。しかし、数字は忘れることがあっても、対話や意見の違いはいつもまでも深く印象に残り、それによって自分が課題に巻き込まれていく引力を感じます。「対話の価値」をもう一度見いだして、主観性が大事なのだと考えてもいいはずです。最後に、もう一人、紹介したいのが、とても印象に残ったカナダ先住民の人のプレゼンです。「生物多様性に関する議論が一部の政府主導で進んでいるが、もっと聞くべき声がある。生物多様性の80%は、世界人口の5%しかいない先住民が暮らす地域に存在する。先住民の歴史はアメリカの10倍長く、その間ずっと多様性と向き合ってきた先住民の知恵に学ぶべきだ」と訴えました。
 
大学と大学院で僕は文化人類学を専攻し、本来は関心が深い領域なはずなのに、いつしか忘れていた視点でした。自分が志していたのは、そういうローカルなナレッジ、考え方の多様性と経済的豊かさを両立させること。田中さんと同じように、OYWは僕にとっても大きな学び直しのきっかけになりました。

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取材・文:畠中博文
編集:Story of Future Craft 編集部(Panasonic Design)
写真(対談):濱野裕生


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