香山哲さん「次のレンガを置く方法について」|僕らの時代 Vol.5
自分らしい価値観をたいせつに、志をもって活躍している人とコラボレーションしていく「僕らの時代」。第5回目のゲストは、漫画家の香山哲さんです。
若き人びとよ。
つくりあげられた今までの世紀のなかで、あなたがたは育ってきたけれど、
こんどはあなたとあなたがたのこどものための世紀を、
みずからの手でつくりあげなければならない時がきているのである。
(出典:『続・道をひらく』PHP研究所)」
松下幸之助が未来を担う若者へのこしたメッセージに、今を生きる私たちはなんとこたえることができるでしょう。
様々な街の歴史にふれながら生きる香山さんが、その景色の中で感じた未来への想いとは――。
香山哲(かやま・てつ)
2008年から漫画、絵、デザイン、文章、アプリやソフトウェア開発をフリーで行う。2001年から本やソフトウェアなどを発行するレーベル「ドグマ出版」を主催。2013年からは拠点を動かし続け、現在はドイツのベルリンに在住。ささいな日常の中でベルリンという街の良さや社会への想いをつづったエッセイ漫画「ベルリンうわの空」は第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に入選。
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次のレンガを置く方法について
歴史というものが、「万里の長城」みたいなものに思える。
たとえば大勢の人で何世代もかけて長い城壁を作るような作業を想像してみてほしい。毎日1ブロックずつレンガを足していくと、100年間で累計36500ブロックになっている。赤っぽいレンガ、黄色っぽいレンガ、明るい色や暗い色、斜めにズレたものやぴしっと置かれたレンガ。36500のレンガはそれぞれの色や置かれ方のズレがある。
その状況で、「次の1ブロック、あなたがレンガを足してください」と言われたら、どう置くだろうか。レンガの色や置き方に変化をつけても、城壁全体にはあまり影響がない。一朝一夕には変化しない。大海の一滴でしかない。
そのように、歴史というものの重さを感じる。山積した問題が急には解決しないし、禍根や差別はしぶとく残るし、軋轢はチャラにならない。社会や組織や個人、あらゆるものがそういった歴史を持っていて、急に生まれ変わったり、全てをリセットするようなことはできない。
そんなイメージを持っていると、たとえば社会や組織で若者が「これからの未来を担う新世代に期待」と言われたりしているのを見たときに、なかなか無理難題を押し付けられてかわいそうにも感じる。
しかし現実には、城壁を作り足していくような作業というのは…つまりあらゆる歴史は、リレー方式だ。
次々バトンを引き継いで、それぞれの世代は1区間を担当する。作業道具や作業方針も引き継ぐことができる。「36500ブロックの城壁全体を次の1ブロックで変えるのは無理だから、この先の2000ブロックぐらいかけて、集中的にこういう方向性でこういう変化を生みたいと思います」みたいな感じで計画を言語化・シェアできる。そういう計画のうちの1ブロックを担うなら、革新作業に参加できそうだ。
しかし長期的な展望というのは、激しい環境変化の中では「本当にこの方向性でいいんだろうか」と混乱が起こってしまいやすかったり、そもそも長期的な展望を立てること自体が難しかったりする。そこで作業方針や計画自体も修正していくことになる。これができているほど「柔軟な体制」と言える。優柔不断になってしまうこともあるけど。
そこで、だからこそ、「各自」が歴史と方針を理解しておくことが重要に思える。「この城壁の最初の200ブロックは、こういう世情に応えるために作られた、そのあと500ブロックはそれを維持した、そのあとの100ブロックで急激な方向転換があったが判断ミスだったために800ブロックかけて軌道修正がおこなわれた」…というように、いつ・なぜ・何を目指してその時点の行動が積み重ねられたのかを、作業に関わる人間それぞれがどの程度理解しているかが大きな意味を持つ。
松下幸之助が「新たな時代」で書いていることを僕が1つ抜き出すとしたら、
“二十一世紀はある日、突然にやってくるのではない。それに至る歳月は、今日すでにただいまから始まっているし、その時代をどうつくりあげていくかは、今日ただいまのお互いの思い一つ、努力一つにかかっている。”
という部分だ。
延々と積まれたレンガの城壁を見て、どうしようもないような課題や問題に嫌になることも多いけど、過去からの愛情を感じることもある。たとえば「未来の人にはこんな苦労はしてほしくない」とか「こういう安全性を社会に築いておこう」とか、過去の人たちが、心得たことを自分たちのためだけではなくて子孫のためにも向けたものだ。橋、テクノロジー、法制度、様々な形で。
そういうもののおかげで、僕はある苦しみに出会わずに済んだり、より新しいことや多くのことに取り組んだりできる。もちろんそれらは僕にとっては全くの偶然だし、大人になるまではただひたすらそれらを受け身で享受していくだけだったわけだけど、だんだん逆の立場、つまり未来に何かを享受させる側にもなっていく。その時間をどうやって過ごすのか、すごく幅広い色んな方法があるなと思っている。
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noteマガジン『僕らの時代』は、様々なフィールドでソウゾウリョクを発揮し、挑戦を続けている方々とコラボレーションしていく連載企画です。
一人ひとりが持つユニークな価値観と生き方を、過去からのメッセージに反響させて“いま”に打ちつけたとき、世界はどのように響くのでしょうか――。
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