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私たちみんなマイノリティ。授乳室から「みんなの休憩室」ができた話

こんにちは、パナソニック公式note編集部「ソウゾウノート」です。

このたび、国際展示場駅から歩いてすぐのところにあるコーポレートショウルーム「パナソニックセンター東京」に、新しい授乳室が誕生しました。

その名も、「Power Charge BOX」。

これまで「授乳室」というと、“お母さんのための場所”というイメージがあり、男性にとっては「どう使ったらいいかわからない」「立ち入ることすらはばかられる」という意見もありました。

そんななか新設されたPower Charge BOXは、ジェンダーの差異や固定観念にとらわれない設計で、男性でも安心してお使いいただける設備になっています。

今回は、そんなPower Charge BOX の発案者であるパナソニック ブランド戦略本部の那須 瑞紀さんと、設計に携わった乃村工藝社の山崎 圭さん。また実際に育児休暇の取得経験もあるコネクテッドソリューションズ(以下、CNS社)の鈴木 恭平さんにお集まりいただき、「ジェンダーを考える座談会」を開催しました。

聞き手は、noteコンテスト「自分にとってたいせつなこと」で、妹さんとのエピソードをもとに、ジェンダーギャップの問題を描いた作品で企業賞を受賞した、ライターの池田 あゆ里さんです。今回のテーマにご賛同いただき、取材・執筆をご担当いただくことになりました。

6月20日の父の日にちなみ、「ただいま絶賛子育て中!」という山崎さん、鈴木さんのおふたりをお迎えして行った本座談会。他者への想像力の話や「リスペクトと対話がたいせつ」という気付きなど、お話は子育てのことにとどまらず、参加者それぞれが価値観を見つめ直すような、エッセンシャルな議論になりました。

那須 瑞紀(なす・みずき)
パナソニック株式会社のブランド戦略本部にて、パナソニックセンター東京のプロモーションを手がける。Power Charge BOXの発案者。10歳の女の子のママ。「ジェンダーについて、娘と普段からフランクに話しています!」

山崎 圭(やまざき・けい)

株式会社乃村工藝社の第一事業本部所属のアカウント(営業)職。Power Charge BOX の制作に尽力。4歳の双子の娘をもつ。モットーは、「娘になるべく『ノー』と言わない」

鈴木 恭平(すずき・きょうへい)
パナソニック株式会社のCNS社にて、PR、コミュニケーション・プランニングに携わる。8歳、6歳の男の子ともうすぐ2歳の女の子のパパ。長女の子育て中に1ヶ月間の育児休暇を取得。休日は子どもたちとゲームを楽しむ。


「授乳室」から「みんなの休息所」へ

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──Power Charge BOXを見学させていただいたのですが、普段イメージする授乳室とはまったく異なる空間で、「みんなの休憩所」といった印象を受けました。そもそも、どのようなきっかけから、この場所は生まれたのでしょうか。


那須:
 以前から、「パナソニックセンター東京」内にある授乳室のリニューアルを検討していました。でも準備を進めていくなかで、『より良い未来をつくるための場所なのに、従来通りの授乳室でいいのだろうか?』という思いがどんどん大きくなっていって。これまでも空間づくりに協力いただいていて、この場所についての理解も深い乃村工藝社の山崎さんに相談したのがはじまりです。

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山崎: 那須さんから相談をいただいて、社会に必要なものを先んじて取り入れる施設だからこその場所をつくるのがいいだろう、と感じましたね。僕はデザイナーを紹介するなど、より良い物を作るためのパイプ役としてサポートさせていただきました。僕も実際、双子の父親なので、設備を使う側としての意見も参考になればと思いながら取り組みました。

──鈴木さんは、パナソニックセンター東京を利用されたことはありますか?


鈴木:
 休日に子どもたちの遊び場として使っています。いやもう、パズルコーナーに没頭していて、一向に帰りたがらないんですよ。


那須:
 ふふ、うれしいなぁ。初めてPower Charge BOX をご覧になっていかがでした?


鈴木:
 男性の私でもここにいていいんだな、と思えました。従来の授乳室って、男子禁制というイメージがありましたから。


那須:
 そういうイメージ、ありますよね。なので、「授乳するための場所」ということだけではなく、どなたでも使える軽い休息スペースになるといいなと考えました。たとえば、トランスジェンダーの方がお手洗いを利用するときって、お化粧直しはしづらいんじゃないか? とか。


鈴木:
 個室に「小上がり和室」があるのには驚きました。靴を脱いでくつろげるのがいいですねえ。

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山崎: 畳を使おうというのはパナソニックセンター東京のみなさんからのアイデアでしたよね。すごく居心地の良い個室になったと思います。あとは、あえて柱だけにしてオープンなスペースにしているのも特徴です。ここなら双子用のベビーカーも余裕で入れますね。こんな場所欲しかったんだよなあ。


鈴木:
 使う人も、用途も限定せずに、開かれている場所だなと感じました。余白があってすごくいいですね。

ひとりひとりが何かの当事者

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──法改正で男性育休が促進されるなど、男性の育休にスポットライトが当たるようになってきましたね。


鈴木:
 いい流れですよね。私が働くCNS社では、男性の10日以上の育休取得率が2017年は12.2%だったんですが、2020年には55.4%になりました。


那須:
 ずいぶん上がったんですね。


鈴木:
 そうなんですよ。ガイドブックやアンコンシャス・バイアスの研修などがあり、パナソニックの中でも育休制度が普及していると思います。けれど、私が1ヶ月間の育休を取得したときは、まだ土台が整っておらず手探り状態でしたね。

──実際に育児休暇を取られて、仕事で困ったことはありましたか?


鈴木:
 休暇中も復帰後も仕事で困るということは一切ありませんでしたね。そもそも育休が取れない状況なのだとしたら、それは個人の責任というより会社の責任だと思います。誰かひとりでも欠けたら回らないような状況をなくすべきです。


山崎:
 僕は育休を取っていないんですが、正直なところ、生まれて間もないころは記憶が飛ぶくらい育児に追われていました。双子だからか、ひとりが夜泣きするともうひとりもつられて泣くんですね。夜中の3時に公園に行って、前後に抱っこしながら歩き回ったこともありました(笑)

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那須: それは想像するだけでもたいへんそう……。いまは鈴木さんは在宅勤務ですよね。家で仕事をされていてたいへんなことってありました?


鈴木:
 育児の忙しい時間帯に、オンライン会議が否応なしに入ってきたことかな。


山崎:
 あ~、わかります。夜6時から9時ごろまでって、仕事ができない時間帯なんですよね。


鈴木:
 そうなんです! でも周りの人たちは、育児のタイムテーブルなんてわからないわけです。それでどうしたかというと、社内で共有するスケジュールに「家事ゴールデンタイム」と書いて、埋めるようにしました。 

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鈴木: でも、そう書いているだけではわからない社員も多いので、「家事ゴールデンタイムってね……」ときちんと自分から伝えるようにしたんです。そうすると、徐々に周りの方にも理解してもらえるようになりました。やっぱり、こちらからも発信しないと伝わらないですよね


那須:
 同感です。これは、育児に限ったことではなくて、マイノリティの方が自分の状況を訴えていかないと気づいてもらえないことって、すごく多いなあと感じます。


鈴木:
 私自身はマイノリティ、マジョリティと分ける必要はないと思っていて。みんなそれぞれ違う課題を持ち、一人ひとりが何かの事象の当事者なんです。子育ての問題だけが重要なのではなく、それぞれの異なる事情に対してお互いがどう向き合うか。それがダイバーシティー&インクルージョンだと思います。それには「相手をリスペクトすること」がたいせつです。


那須:
 たしかに。リスペクトと対話、ですね。

子どもが直面する同調圧力 大人が内在化する“当たり前”

──みなさんがこれまで育児をされている中でジェンダーギャップを感じたことはありますか?


鈴木:
 育休中に気づいたことがけっこうあって。まず保育園のお迎えでも公園でもまわりはお母さんばかりで、お父さんってわりと孤独なんです(笑)。育児はお父さん、お母さんふたりでするものなのに、世間で言われる「父親の子育て参加」というのも、そもそもバイアスがあるなって。

当たり前と思い込んでいた価値観を見つめ直し、どんどんアップデートしていく必要があると思います。

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那須:
 お母さんの側も、「私がやるのが当たり前」と思ってしまっているのも問題ですよね。知らず知らずにそれが“当たり前”だと内在化してしまっている。


山崎:
 そうですよね、自分自身の考えにハッとさせられたこともありました。あと最近すごく怒りを感じたことがあって。娘から『保育園で女の子はピンク、男の子は青と教わった』と言われてびっくりしました。男の子はこうしなきゃいけない、女の子はこうしなきゃいけないって、環境の中でカテゴライズされてしまう。

大人数を管理するのに、ある程度しかたがないことなのかもしれないけど、同調圧力ってあるなあと思います。そこで子どもの価値観が決まってしまうのは嫌ですね。せめて家庭では「自分が好きなものは好きって言っていいんだよ」と伝えるようにしています。

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鈴木: わかります。「みんながしてるから」とまわりに影響されて、そう思ってしまっているときには、できるだけ子どもたちに「どうしてそう思うの?」と聞くようにしています。自分の力でニュートラルに考えられるように、育ててあげたいですね。


那須:
 家庭内で子どもとそういう対話をしていくことって、たいせつですよね。母の日に、小4の娘から絵本をプレゼントされたんですが、そのタイトルが『子どもとジェンダー』だったんです。そのほかにも宿題でゲイについての自分なりの意見を書いて、先生に驚かれていました。ごまかさずに伝え続けてきたから、彼女自身の意見を持つようになったんじゃないかなと思います。

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鈴木:
 子どもたちはしっかり僕ら親の姿を見ながら成長しているんですよね。

いま目の前の小さな選択を、踏みとどまって考える

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──親の姿を見ながら、保育園という社会の中で影響を受けながら成長し、これからの未来を生きていく子どもたちのために、私たちはどんなことができるでしょうか?


山崎:
 最近感じているのが、過去と未来は地続きだからこそ、今がたいせつだなということ。今の僕の行動が娘たちの未来に影響するんだと思っています。電気を消す、コンビニでプラカップを買わない、など小さなことですが、自分の判断が彼女たちの行動や将来の地球環境を変えるかもしれません。

小さな選択でも踏みとどまって考える。そういう積み重ねを大事にしたいです。


那須:
 “多様性”って、便利な言葉だけれど、みんなが自由なことをやりだしたらたいへんです。つい自分のことばかり考えがちかもしれませんが、まだまだ世の中には、いろんなテーマがあります。自分自身の課題を考える前に、誰かのことを想像してみる。

なかなか難しいことですが、どんなときでも視野を広げて考えられるようにしたいですね。パナソニックセンター東京では『ソウゾウするちから』というアートやテクノロジー、スポーツなどさまざまな観点で社会課題をとらえて相互理解を深めていくイベントをやってるんですけど、そういうことを普段から自分でもやっていきたいです。

鈴木: やっぱり、まず「いろんな人がいて、それぞれに抱えている問題がある」ってことに気づくということですよね。那須さんが『授乳室って、男の人使えないよね?』って気づいたから、このPower Charge BOX だってできたわけで。

そのために、ときには怒ることもたいせつだと思ってます。怒りは気づきを生むからです。ただ傷つけるとか、足の引っ張り合いをするとかではなく、「これっておかしくない?」と発信する。するとそのプロセスも含めて、些細なことから変化が起きていくのではないでしょうか。何かに気づき、伝えることが、「子どもたちのためにできること」だと信じています。


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