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何のために、誰とやる? AkeruEに込めた自分の原点|PASSION Vol.2

何かを成し遂げるのに必要なのは、知識や経験以上に「それを実現したい」という情熱である。

創業者・松下幸之助がのこした考え方は今日も私たちの指針となっています。

連載企画「PASSION」では、「プロジェクト×人」という切り口でパナソニック社員やそこに携わる社外の方々にもお話しを伺い、それぞれが秘めた情熱の源泉を探っていきます。

今回も、Vol.1の黒尾玲奈さん(パナソニック)に続き、「AkeruE」プロジェクトに取り組んだメンバーの“パッション”に迫っていきます。2021年4月3日にオープンしたクリエイティブミュージアム 「AkeruE(アケルエ)」。「ともに楽しみながら気づき、学び合う場を創りたい」という想いをカタチにする過程には、どのようなソウゾウとひらめきがあったのでしょうか。

第2回目は、プロジェクトマネージャーとして、AKeruEのコンセプト設計からプロジェクトをつくりあげてきた、株式会社ロフトワークの越本春香さんです。

AkeruEとは

「AkeruE」は科学館であり美術館。SDGsやSTEAM教育をテーマとする、“ひらめき”をカタチにするミュージアムです。子どもたちの理数教科離れを危惧しパナソニックセンター東京につくられた、理科と数学のミュージアム「RiSuPia」をアップデートするかたちで、2021年4月に誕生しました。

AkeruEでは、このRiSuPiaのコンセプト「理数の魅力を体感できるミュージアム」に、テクノロジーやエンジニアリング、アートを融合。観る・つくる・伝える体験を通じ、この複雑な世界に問いを見出し未来の扉をあける、クリエイティブな力を育んでもらえる場を目指しています。
【プロフィール】
越本春香(こしもと・はるか)
広告代理店のプランナーを経て、2012年ロフトワークに入社。株式会社ロフトワークでクリエイティブディレクターとしてWEBサイトの設計やワークショップ、イベント運営も手がける。


コロナで足踏み。でもプロジェクトをカタチにできたワケ

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——越本さんはAkeruE構築プロジェクトにどのように関わっていらっしゃったのですか?

越本: 私はプロジェクトマネージャーとして、オープンに向けて全体の調整をしていました。プロジェクトが始まったのは2019年6月。もともとは2020年11月のオープンを目指していたのですが、プロジェクトのスタートから約半年でコロナ禍が始まってしまい、オープンの延期が決まりました。

そのころにもう企画も固まって、いよいよ実装に入ろうというタイミングだったので、正直焦りましたね。半年間の延期となる予定でしたが、本当に半年後に再開されるのかも定かではないし、もしかするとプロジェクト自体なくなってしまうかもしれない……。誰のせいにもできなくて、なんとも言えない不安な気持ちが、みんなの中に広がっていました。

それでもモチベーションを高く維持できたのは、クリエイターさんたちのおかげです。今回AkeruEに参画してくれたクリエイターさんは、いっしょに仕事ができるだけで奇跡と思えるような、新進気鋭の方ばかり。みなさんAkeruEのコンセプトに強く共感して「ぜひいっしょにやりたい」と言ってくださっていたので、コロナ禍で半年間プロジェクトが中断することを伝えても、誰一人として離脱することはありませんでした。これは本当にありがたかったですね。

▼クリエイターたちの作品はこちら

——オープンが延期になってしまった間はどのように過ごされていましたか?

越本: プロジェクトが中断している間は、以前の「RiSuPia(リスーピア)」の施設名のままで、「STEAMワークショップシリーズ」というオンラインイベントを開催していました。毎月いろいろなクリエイターの方を招いて、子どもたちに参加してもらうものです。

越本: それと同時に、パナソニックのAkeruEとは別の部署の方たちとオンライン展「ソウゾウするやさしい展」を開いていました。こうした活動をしている中でも、「何かしらAkeruEにつなげたいね」という話をしながら、再開する日を心待ちにしていました。


「何のために、誰とやるか」大プロジェクトをゴールに導く2つの工夫

——AkeruEプロジェクトには、100名近い人たちが関わっていたそうですが、プロジェクトを進める上で、何か工夫されていたことはありますか?

越本: そうなんです。ロフトワークのメンバーだけでも18名いましたからね。とにかく関係者がたくさんいるので、全員を完全にコントロールするのは不可能だと割り切って、それでもどこかで滞りが出ることのないよう、2つの工夫をしていました。

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越本: 1つ目が、いつでも立ち返ることのできる場所として、AkeruEのコンセプト資料をつくったことです。目の前にやらなきゃいけないことが山盛りで、それを消化するだけに集中し続けると、絶対につらくなってしまうじゃないですか。だから、決まった情報をコンセプト資料にどんどん追加してアップデートしていくことで、自分たちの足跡を見えるようにしていたんです。これがあることで、着実に前に進んでいることが目に見えますし、何か判断に迷うことが出てきたときには、「私たちはここを目指していたんだ」と確認することができたので、よかったと思います。

2つ目は、それぞれのチームリーダーは決めつつも、あえてアメーバ的なチーム編成にしたことです。たとえば運営のメンバーは、ただ運営の準備をするだけでなく、展示の造作にも入るといったように、その時々で自分の役割を変えながら動いてもらうようにしました。こうすることで、ほかのチームのことが他人事ではなくなるんですよね。自分のことだけに集中するのではなく、ほかのチームにも気を配れる状態にできたことで、全体がうまく回ったのではないかと思います。

——プロジェクトメンバーの中には20代の若い方もたくさん入っておられたそうですが、そうした若いメンバーの想いをうまく引き出すのはたいへんではありませんでしたか?

越本: 私は「100BANCH」でも多くの若者と関わる機会があったので、彼らは本当に自分が共感してやりたいと思ったことに対しては、すごいスピードで動いてくれることを知っていました。逆に「やらされ仕事」になった瞬間に、やる気をなくしてどこかへ行ってしまいがちですけどね(笑)。

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だから私がやったことと言えば、目指すゴールに向かって旗を振るのと、みんなができるだけ楽しい状態でいられるようにモチベーション管理をすることくらい。マネジメントというと、レールを敷いて、そこから外れないように強制するイメージがあるかもしれませんが、それとは全然違います。

たいせつなのは、「何をやるか(What)」「どうやってやるか(How)」ではなく、「なんのためにやるか(Why)」「誰とにやるか(Who)」だと思っていたので、効率だけを追い求めるようなことはしませんでした。理想としては、全員が自走してくれればいいんですが、そううまくはいきませんでしたけど(笑)。でも結果、みんなすごい熱意を持って、どんどん力を発揮してくれたと思います。


自分の原点を思い出し、“好き”と“ワクワク”を詰め込んだ場所

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——今回のプロジェクトでは、越本さんのどんな過去の経験が活かされていますか?

越本: 私は田舎で生まれたので、AkeruEが参考にしていた『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン著)の世界に触れながら育ってきました。だから「AkeruEのある有明の子どもたちにも、私が子どものころに出逢ったワクワクや自然の力を感じてもらいたいな」と思いながらつくっていましたね。

あとは、「AkeruEの参考になるかな?」と思って、私が昔から好きな本をたくさん集めて、プロジェクトルームに持って行ったんです。すると、「COSMOS(AkeruEにある砂場をコンセプトにした展示エリア)」の企画に携わってくれたプラプラックス の近森さんから「僕も同じ本いっぱい持ってるよ!」と言われたんですね。それが、すごくうれしくて。

「そういえば私、近森さんみたいなワクワクをつくる人になりたかったんだ」と、あらためて気づいた瞬間でした。学生時代にこんな仕事があると知っていたら、目指していたかもしれないな、と。

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越本: 「いい経験してるな」とそのときは思っていなかったとしても、いろいろな経験やインプットで“点”を打っておいたことで、あとから振り返ったら、いつの間にか“線”になっていたと感じることが、きっとあると思うんです。

そんなふうに今回のプロジェクトでは、自分の原点を思い出しながら、私の“好き”や“ワクワク”を詰め込んでいきました。

——そんな越本さんの想いが詰まったAkeruEには、今後どんな人に来てもらいたいですか?

越本: COSMOSで子どもたちの作品を見ていると、考えさせられることがたくさんあるんですね。4〜6月のテーマが「地球を豊かにする 生きものをつくってみよう」だったのですが、その答えとして「相談ごとをただ、うんうんって聞いてくれる犬のおじいちゃん」とかをつくっていたりして。それぞれのキャプションを読んでいると、泣きそうになってくるんですよ。子どもたちは変に知識や固定概念がない分、自分の頭で素直に考えてくれているからなのかな。

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AkeruEは子どもたちから刺激やアイデアをたくさんもらえる場所なので、ぜひ若い方や大人だけでも来てもらいたいですね。「知らない人といっしょに、この場で何かをつくってみる」という非日常な体験をしてみてほしいと思います。いざやってみると、子どもより熱中してしまう大人もたくさんいるんですよ(笑)

——では最後に、これからのAkeruEをどんな場所にしていきたいですか?

7月からは、3ヶ月にわたってものづくりに取り組んでもらう「アルケミストJr.プログラム」という子ども向けの会員制プログラムが始まるほか、夏以降には若年層のクリエイターに向けたアワードプログラムも始まる予定です。

このプログラムの参加者同士はもちろん、協力してくれるクリエイターやゲストの方々とも交流を広げてもらいながら、AkeruEという場所を、いろいろな世代の人たちが“共に育つ=共育”の場所にしていきたいですね。


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