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デザイナーの本質を問う、コンセプトアワード~Red Dot Award 2022 受賞作品紹介&受賞者座談会~

世界トップクラスのデザイン賞であるRed Dot Awardは、プロダクトデザイン、ブランド&コミュニケーションデザイン、デザインコンセプトの三つの部門で、年に一度世界的なデザインの専門家により審査されます。デザインコンセプト部門は、未発売で開発段階にあるコンセプト、アイデア、ビジョンを中心としたデザインイノベーションやデザインコンセプトを対象としたもので、パナソニックのデザイナーにとっても挑戦の場になっています。2022年は2作品が受賞し、シンガポールで行われた授賞式に2組、4人が出席しました。受賞デザイナーがそれぞれの作品を紹介し、また、デザイナーとしてのこれからを語り合います。


「KOTOTABI」、偶然出会う、生の声に楽しみを

――KOTOTABIについて教えてください。

KOTOTABI

鈴木:知らない土地に遊びに出掛けたとき、見どころや観光スポットの口コミ情報は簡単にネットで探せます。しかし、自分の興味のあることだけを調べてしまうので、地元の人や実際にそこを訪れた人たちの生の声に出会いにくくなっているのではないでしょうか。街歩きを、思いもよらない発見に出会える、すごく楽しい体験に変えるというコンセプトを設定し、リアルなコメントや感想が可視化しようと、AR技術に目を付けました。

鈴木 慶太 パナソニック(株)FUTURE LIFE FACTORY所属。デザインエンジニア。2019年入社。

具体的には、カメラを通して空間上に雲のようにコメントが表示されるスマートフォンのARアプリを制作しました。誰でも自由に好きな場所にコメントをひもづけることができ、その情報を共有し合える点が特徴です。例えば「実はこのコーヒーショップは、紅茶がおいしい」など、あまりネットに上がってこないようなコメントとの偶然の出会いに主眼を置きました。ほかにもたとえば「ここってアニメの聖地なんです」と残されたコメントから、その作品を見てみることにつながるなど、自分の興味を広げるきっかけになることも想定しています。外に出掛ければ自分の引き出しが増えて、周りの人ともつながれる提案に仕上げました。

川島 大地 パナソニック(株)FUTURE LIFE FACTORY所属。デザインエンジニア。2019年キャリア入社。

川島:今回のプロジェクトはアドレスホッパー※向けの定額住み放題サービス「ADDress(アドレス)」とコラボレーションし、このサービスを利用している学生たちと一緒に企画立案を行いました。その場所でしか得られない体験や出会いを求めて、彼らはいろんなところに足を運びます。行った先でたまたま出くわす偶然性、偶発性が高い出会いをもっと多くの人に体験してほしい、という思いを共有するところからスタートしました。

※アドレスホッパーとは、定住する特定の家を持たずにさまざまな場所を転々としながら生活する、新しいくらし方を実現している人のこと。

https://address.love/featured/hopping より)

鈴木:インターンシップなどで普段私たちが関わるのはデザイン系の学生が多いのですが、今回は全く異分野の人や起業している学生と取り組んだことで、デザイナー的な思考に偏らずに開発が進められたと思います。彼らはアドレスホッパーなのでFace to Faceで集まるのが難しく、オンラインでの打ち合わせばかりで大変な部分もありましたが(笑)。

テクノロジーと伝統の融合「moxa machina」

――moxa machinaについて教えてください。

moxa machina

内山:東洋医学では病気を「治す」ではなく、「未然に防ぐ」が重視されます。ヒトがもともと持つ免疫力などを活用して体を良い状態に保つ考え方が、全世界的に高齢化が進む現代社会でさらに重要になっていくだろうと考えたのがアイデアのスタートです。病気を未然に防ぐ観点から、東洋医学で親しまれているお灸(きゅう)に着目。ツボの位置が一人一人微妙に異なる、繊細な温度制御が求められるなどの不確実な要素に、テクノロジーの力で迫って確実性を上げれば、さらに身近なものとなり、ウェルネスの向上につながるとコンセプトを固めていきました。例えば、背中側は自分では正確なツボの位置が分からないなどの苦労を技術で解決しようと考えたんです。

内山 咲子 パナソニック(株)くらしアプライアンス社 イノベーション本部 デザインセンター所属 プロダクトデザイナー 2019年入社

山村:コンセプトを具体化したサンプルとして、アプリと連動した電子お灸を開発しました。自分の心の状態や体の状態を「気持ちが不安定」「肩が凝る」などの項目から選択すると、アプリがどのツボに機械を置くとよいかを画面に表示します。ツボの位置は電気抵抗値が低い場所にあると科学的に判明しているので、本体で電気抵抗値を測りながら「ピッ、ピッ」と音と光で正しい位置に誘導して、ツボに本体を正確に置けるようにUXをデザインしています。従来品で単にツボを温める製品もありますが、お灸は実際のもぐさを使用することも重要なファクターだと考えて、スティック状に成型したもぐさを加熱するというアナログな要素を残しています。

山村 有史 パナソニック(株)くらしアプライアンス社 イノベーション本部 デザインセンター所属 プロダクトデザイナー 2019年入社

食らいついてでも、挑戦すべきチャンス

――授賞式に参加して、印象に残ったのはどんなことですか。

鈴木:正直な話をすると、応募はしたものの自信はなかったんです。その理由は、「KOTOTABI」で使用しているARアプリ・サービスは技術的に目新しいモノではなく、ある意味でリデザインだから。しかし、考えてみると今は自分の意志とは別にAIがレコメンドしてきたものだけを楽しむのも一般的です。そうした今だからこそ、「興味や関心を広げるアイデア」が評価されたと思っています。またAR技術に関してもオープンソースで街なかのデータが公開されるなど、開発しやすくなったタイミングでもあるので、ARをどう使うかに改めて注目が集まっているんだと思います。

デザイナーとして、誰かが手を付けたアイデアや領域には手を出したくないと思ってきました。しかし、今回の受賞を機に、すでに誰かがやっていたとしても、その中で新しいものをつくったり、デザインも含めてブラッシュアップをすれば、全く新しいものをつくり出すのと同義だと自分の考え方を広げられたと思います。

内山:「moxa machina」も革新的な技術や全く新しい価値観の提案でなく、古くから効果も知られていて親しまれているお灸を、視点を変えて新しい価値として提案するコンセプトが評価されたと思っています。「未来を考える」作業は数字などの指標ではなかなか表せない、正解が見えない部分なので、自分の考えや発想を頼りにするしかありません。それが受賞という形で、世界に共感してもらえたのがうれしかったです。普段の仕事でも数字じゃない、考え方や感性を大切する必要があるので、自信につながる貴重な成功体験になったと思います。

山村:他の受賞作品を見ていて感じたのは、他のコンペなどよりも長期的な視座で、社会や人々の生活をどうよくしていくのか、鋭く切り取った作品が目立ちました。社会的な動きや未来のヴィジョンを創り上げることの重要性を改めて考えています。同時に、デザイナー自身が普段の生活で肌で感じている疑問や課題をインサイトとして落とし込む作業も大事だと感じました。実際今回の作品は、自分が体調を崩したときに母親からお灸を勧められたのですが、自分だけでは背中のつぼに置くことができなかったり、正しい位置が分からなかったり、みたいな経験がスタートなので。

川島:社会情勢と自分の感覚をフィットさせていくことが重要ですよね。「KOTOTABI」もFUTURE LIFE FACTORY内部で議論を重ねてきた社会課題に立脚したコンセプト。客観的なアワードでの評価は、全員でこれまで取り組んできたことが正しかったんだと自信になりました。私はエンジニアなのでハッカソンなどのイベントに参加経験もありますが、それと比較するとRed Dotはデザインが主体で、社会性を強く意識したものが多いと感じました。受賞式では3枚程度の写真で受賞作品が紹介されるだけですが、それだけでどの場面でどのように使うかが伝わってきたんですよね。それってデザイナーがユースケースまで想定して丁寧にパッケージングしているからだと思います。エンジニアの提案は、そもそもの技術から事細かに説明しないと伝わらない場合が多いんですよ。エンジニアとの発想の違いを授賞式の運営からも感じました。

鈴木:デザイナーは「技術は、あとから付いてくる(はず)」って考えがちですけどね(笑)。一般的なデザイン賞はプロダクトやサービスのデザインが評価されますが、Red Dotのコンセプトデザイン部門は、実現するかどうかは置いといて、まずコンセプトだけを評価します。デザイナーの理想形をそのまま出せるので、特殊ですよね。とは言っても「それは実現できないだろ」というレベルのものは出せないし、今できる技術でどこまでの理想を描くか、とても面白い経験になりました。

山村:技術とかマーケットの話は省いてコンセプトを深められるって貴重だよね。本当に人の生活に近いところでビジョンを描ける。普段の仕事とは全く違って、ゼロから考えられて、人々の生活を良くする価値を作るという、ある意味でデザイナーとしての初心に返って検討ができた気がします。

――後輩デザイナーにメッセージをお願いします。

内山:自分の考える「より良い未来」を世界に向けて発信できる、Red Dot Awardはすごく貴重な機会。私は2作品で応募して、一つは落選、一つは受賞でした。そういう結果も含めて、よい経験になるのでみんなに挑戦してもらいたいと思います。

山村:応募すること自体に意味があると思います。入社して4年間で培ったデザインへの考え方や方法論が世界に通用するのかを試せるチャンス。僕も学生時代はコンペや評価されるのは苦手でしたが、今の自分の状態を知る絶好の機会なので、積極的に参加してほしいです。

川島:デザイナーであっても技術的な観点は持っておいた方がいい。ARだったら今はこういうことができるようになっているよね、など、そうした話をデザイナーとエンジニアが一緒になって交わしてこそ、新しい価値を創造する原動力になっていくと思います。

鈴木:今回は外部の学生と一緒になってつくり上げたプロジェクト。そこで感じたのはやはりデザイナー以外の人とのつながりを持っておく重要性です。あえてちょっと違う畑の人と話をすると、自分でも思ってもみなかったアイデアや引き出しがどんどん増えていきます。フラットにいろんな人と意見を交わしあってほしいなと思います。

執筆:末松翔平 編集:畠中博文 写真(座談会):海野貴典

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