アドレスホッパーのZ世代と考える、「未来の定番」のつくり方 〜ADDress×Panasonic FUTURE LIFE FACTORY 共同プロジェクト〜(前編)
2022年4月、パナソニックグループは持株会社制に移行し、パナソニック株式会社は「Make New」というキーワードとともに新しいスタートを切りました。「Make New」という言葉には、10年後、20年後の未来から逆算して、「未来の定番をつくる」という思いが込められています。
その上でグループ全体で大切にしたいのは、未来を担うミレニアル世代、Z世代と呼ばれる若年層とのつながりです。パナソニックグループは、若手社員がブランドアンバサダーとして同世代とつながるプログラム「Panasonic Young Leaders」などを開始しています。
そんな中で「未来の定番づくり」に取り組むパナソニックのデザインスタジオ、FUTURE LIFE FACTORY(以下:FLF)は、定額制の多拠点生活プラットフォーム「ADDress」を運営する株式会社アドレス(以下、ADDress)との合同プロジェクトをスタート。ADDressを利用するアドレスホッパーのZ世代と一緒に「未来の定番」となる家電づくりに取り組んでいます。
カフェオーナーや未踏ジュニアスーパークリエータ、起業家など、バックグラウンドの異なる若者たちは「未来の定番づくり」をどう捉えているのか。プロジェクトへの参画を通じて感じた本音を探りました。
■ プロフィール
ADDressチーム
高木 俊輔
2002年、大阪府生まれ。角川ドワンゴ学園N高等学校の在学中に「起業部」の仕組みを使い、2020年10月に株式会社Civichatを創業。Code for Japanの主催するハッカソン:CCCu22で優勝。自分に合った公共制度がわかるCivichatで熊本市との実証実験を行い、卒業後に資金調達をし現在に至る。
井上 陽介
2002年生まれ。高1の冬、興味本位で参加したITコミュニティで刺激を受け、プログラミングを開始。LINEBot開発に力を入れ、家族/友達/社会などでの課題を解決させるコンテンツを制作。学生コミュニティの主催も行い、 身の回りの課題を解決することや、周りの人を巻き込んでプロジェクトを動かすことが得意。LINE社認定LINE API Expert。未踏Jr. 2020スーパークリエータ。
前田 滉太
2002年生まれ。兵庫県育ち。高校までは野球一筋、大学入学後は学業の傍らグラフィックデザイナーとしても活動。パン屋のセレクトショップや利他をコンセプトにしたカフェの立ち上げに関わり、コンセプト設計に取り組む。9月からはアメリカへ留学予定。
宮原 優哉
2020年、ADDressに入社。自身もADDressを利用して多拠点生活をしながら、運営・ユーザーそれぞれの視点からのコミュニティデザインを担当。複業でITベンチャーの役員も務める。今回のプロジェクトに向け、ADDressを利用するZ世代へ参加を呼びかけた。
FLFチーム
鈴木 慶太
2019年、パナソニックに入社。家電のハード・ソフトのインタラクション領域を中心にプロトタイピングを用いた先行提案などを担当。FLFでは家電のカテゴリーにとらわれない、自由なアイデア発想と体験可能なプロトタイプ制作で、よりリアルな未来のくらしへの提案に取り組む。
小川 慧
2018年、パナソニックに入社。国内外の住宅設備のプロダクトデザインやデザインリサーチを担当。FLFでは、デザイナーとして未来のくらしやプロダクトづくりに取り組む。
井野 智晃
2001年、松下電工(現パナソニック)に入社。電動工具やメンズグーミングのプロダクトデザインを数多く手がける。2017年からはパナソニックの社内デザインスタジオであるFLFの立ち上げに関わり、デザイン発の商品化や未来のくらしビジョンづくりに取り組む。
プロダクトをつくるのではなく、豊かなくらしをつくりたい
ー2ヶ月間プロジェクトに取り組んでみて、率直にどうでしたか?
高木:シンプルにFLFの方が持つ、発想を具体的なアイデアに変える力がすごいなと実感しました。一方、もし僕たちにも同じような力があったとして、FLFやパナソニックが「未来の定番づくり」に対して発揮できる価値って何だと思いますか。いきなり、逆質問になっちゃいますけど。
鈴木:鋭い質問ですね。最近チームのメンバーでも自分達の強みは何かという話になるんです。その1つとして、どんなものをつくる時も「これがくらしの中に入ったらどうなるんだろう」という視点を持っていること。それが、パナソニックならではの価値ではないかと思っています。パナソニックは、ずっとくらしのことを考えている会社で、そのDNAが僕らの中にも入っているんです。
高木:たしかに、ユーザーが一般的な生活者と離れてたり、絶対一部の人しか使わないものってつくらないですよね。
前田:同じ世代の友達も当たり前にパナソニックの製品を使っています。
小川:ただプロダクトをつくりたいというより、「そのプロダクトはどんなくらしをつくるのか」、「どうくらしの豊かさをつくるのか」という問いが僕らの軸にあるんだと思います。
ーそもそも、このプロジェクトはどういった経緯ではじまったのでしょうか。
宮原:コロナ禍の中、ADDressを利用している学生の方が、その時間を活用してさまざまな場所に滞在し、いろんな大人と出会っていたんです。それってすごく良い経験で、他の学生にも同じ経験をしてもらいたいなと思っていた。そこで、元々つながりのあったパナソニックさんと何かできないか、と思ったことがきっかけです。
井野:最初は僕らがつくってきたプロダクトに対してフィードバックをもらったり、改善案をもらうプロジェクトの予定でした。でも、せっかくZ世代かつアドレスホッパーという先進的な若い人たちがいるなら、一緒にゼロから新しいプロダクトをつくった方が面白い。その結果、未来の家電をつくる、というテーマになりました。
ー元々、Z世代の方と何か一緒にやっていきたいという思いはFLFとしてあったのでしょうか。
井野:FLFというより、パナソニック全体として、若い世代ともっとつながっていかなければならない、という危機感がありました。若い世代とつながりたいけど、今のお客さんの層も大切にしたいというジレンマの中、パナソニックの中でも特に先行的な活動をしているFLFからも何かしたいという思いがあり、今回のコラボに至りました。
ー振り返ってみて印象的なことはありますか。
宮原:アドバイザー的な役割ではなく、自分たちも良いアイデアを出すんだという意気込みで、学生とフラットに議論していたのが印象的でした。Z世代のみんなにも良い刺激になったと思います。
井野:大人気ないですけど、僕らも負けてられないぞ、という気持ちがありましたね。
鈴木:ツールに囚われない姿勢は勉強になりました。つい、普段使っているツールを使いがちなところを、アイデア出しだったらこのツールの方が便利でいいですよ、と教えてもらったり。手段にこだわらない姿勢は僕たちも吸収したいなと思いました。
未来の定番のヒントは、個人の体験にある
ープロジェクトを通じて、どんな未来の家電を考えたのか教えてください。
鈴木:アウトプットは二つあって、一つ目は旅に関するプロダクトです。スマートフォンをかざすと、その場所に紐づいたいろんな人の思い出や感じたこと、発見したものが言葉の情報と共に雲のオブジェクトとして浮かび上がるというものです。
こだわりはARのように雲を配置することで、ちょっと先の情報が見えること。元々訪れる予定ではなかった場所に面白そうな情報が見えたら、偶然の出会いを誘発できるのでは、と考えました。
ーアイデアの着想はどこから生まれたのでしょうか。
鈴木:自分たちの課題感や、こんなサービスがあったら面白いかも、というところから自由に出していったものを収束させていきました。このアイデアの起点は前田さんですよね。
前田:今の生活って、目的地に行く時にGoogle Mapを使って最短経路を選ぶことが多いと思うんです。一方、ADDressを使って生活していると、見知らぬ土地に行くことが多くて、散歩しているだけでも面白い発見がたくさんあるんですね。この偶然の出会いを普段の日常にも取り入れたら、日々の生活が少し豊かになるんじゃないか、といったことを考えていました。
鈴木:逆に初めて訪れる土地だと、ADDressで登録されている家の玄関がどこかわからないという課題があって、周囲の人に聞けたり、すぐに情報を引き出せたらいいよね、という話もありました。あと、高木さんが、場所に紐づいた情報というところから、昔そこで刻まれた言葉が残っていると面白いよね、と言っていたのが印象に残っています。
高木:時間と空間が紐づいて残っている情報って少ないと思ったんです。例えば、Twitterでつぶやいたことは時間とは紐づくけど、詳細にどこでつぶやかれたのかはわからない。逆に、過去の偉人が残した名言とかは、場所は何となくわかるけど、時間が紐づいていない。時間と空間、その両方が包括されている情報のあり方って面白いなと思ったんです。
小川:もう一つは睡眠をテーマにしたアイデアで、振動で睡眠の質を担保してくれるプロダクトです。いびきをかきそうになったら、振動によって寝返りを促してくれたり、レム睡眠の時に起こしてくれたりします。
僕らもアドレスホッパーの課題とは何かからアイデアを発散しました。中でも睡眠は大きな課題の一つでした。そこから、新しい土地における睡眠の課題や、その課題が起こる背景を深掘っていきました。
結果として、眠る瞬間、寝ている間、起きる瞬間の3つのフェーズの満足度を共通する手段で高められないか、と考えた時に、振動という解決策にたどり着きました。例えば、寝るまでの間に手でとんとんされたら心地よく眠れるよね、といった具体的な体験を抽象化していった感じです。
井上:話が少しずれるんですが、プロジェクトを進める上で、毎週一つ以上アイデアを持ってくる、という宿題があったんです。自分はアドレスホッパーとしていろんな経験をしているので、こんな課題があるかも、ということは言えても、それを解決するアイデアを持ってくことはあまりできなかったんですね。その点、小川さんは具体的なアイデアを毎回用意していたのがすごいなと感じていました。
小川:ありがとうございます。「マリオシリーズ」を生み出した任天堂ゲームプロデューサーである宮本さんという方は、良いアイデアは複数の課題を一気に解決できる、とおっしゃているんです。例えば、”カーボンフットプリントを可視化する”っていうのはアイデアではない。そのために、具体的にどんな工夫をすると使う人のくらしの中に落とし込むことができるのかまで考えられてこそ良いアイデアになる。なので、そこはすごく意識するようにしていました。
(後編へ続く)