未来をつくる子どものソウゾウ力が、大人の私たちに教えてくれたこと
2023年4月23日、パナソニックグループが主催の「こども博覧会2100」をテーマとしたイベント「ソウゾウの実験室」が開催されました。
2025年の大阪・関西万博のパビリオン「ノモの国」を担当する建築家・永山祐子さんを特別ゲストに迎え、ワクワクするようなトークセッションを入り口としてワークショップへ。建築家26名の子どもたちが5チームに分かれ、「2100年のこども博覧会」を想像しながらストーリーをつくり、そこに登場するパビリオンや催し、モビリティなどを自由に形にしました。
未来をテーマに共創した子どもたちの姿は大人の目にどのように映ったのか。
7月24日、イベントに参加した子どもの保護者でもある永山さんをはじめ、同じくイベントに参加した子どもたちの保護者でありながら「ノモの国」の構築にも携わる山口茜さん、繪本啓太さん、そしてイベントの企画を担当したロフトワークの野島稔喜さんとで振り返りました。
子どもたちがつくりだした「こども博覧会」をテーマとした2100年の未来世界
野島:今回のイベントでは、こども博覧会の時代設定を2100年にしたことで、現実的なアイデアではなく、子どもたちの自由な発想で現実から飛躍したアイデアが生まれたと思います。パナソニックの端材もアウトプットである工作の材料として活用し、なかでもAチームの作品はトイレの蓋とは思えない斬新な使い方をしていましたね。Bチームでは、博覧会は期間限定の催し物だという話から、博覧会が終了するまでにお客さんが壁や床を食べてゴミが出ないようにしようという家型のパビリオンを創造しました。
野島:Cチームでは、ネガティブな気持ちをなくし楽しい気持ちを倍にする「心アイス」、温暖化が進むと食べられなくなり、人間たちが環境に配慮すれば食べることができる「地球アイス」などを、メンバーそれぞれのイメージでつくりました。子どもたちに「なんでアイスなの?」と聞いたところ、「子どもが普段よく食べるアイスから、人や地球のことを考えてもらうんだ」という答えが返ってきて。ただ自分たちがアイスが好きだからという理由だけではなく、アイスが未来を考える一つのきっかけとなるように子どもたちなりに意図があったことに驚きました。そして、地球や人に寄り添うのが当たり前になっているのかなと感心しました。永山さんの娘さんも参加していましたね。
野島:Dチームは社長が犬で、犬はドッグランで遊び、人間が働くという立場が逆転した会社。Eチームは博覧会会場中を飛び回り、魔法で雨を飴に変えるなど、困っている人を助ける見守り役の大きな空飛ぶ箒をつくりました。
野島:どれも大人の想像を遥かに超える作品でしたね。後日、全チームのアイデアをひとつにまとめた世界観をイラストレーターの方に描いていただきました。子どもたちのアイデアがイラストレーターさんによってより豊かな世界へと発展していきました。
野島:皆さん、当日子どもたちのアイデアに触れ、さらに今回こうやって一つの世界になったイラストを見てどう感じましたか?
永山:短い時間でここにある素材を使ってつくるという課題は、大人だったら考えすぎて手が出ないかもしれませんが、子どもたちは即座に手を動かして、つくりながら考えていきましたね。作品に盛り込まれたストーリーも多彩でした。
野島:自分ひとりではなくチームで対話しながらユニークな世界が構築されていきました。
山口:お話を聞いている間は少し緊張気味のようでしたが、いざ材料を取りに行ってからは前のめりで、躊躇なくつくっていましたね。今の子どもたちは、大人よりも環境に対する意識が当たり前にあるのかなと感じました。それからイラストを見て改めて気づきましたが、アイスクリームがアイスクリームを売るとか、モノも犬もひまわりも人も同列で、人間だけが主役じゃない感じがすべての案で出ています。
野島:大人の凝り固まった思考を突破してくれていましたね。子どもたちのアイデアをイラスト化することによって、いろいろな世界が同時平行的にあることが視覚化され、環境や人間の問題なども答えはひとつではなく、様々な方向性から考えられるように思いました。ワークショップの中でも各グループたくさん出たアイデアを一つにまとめなければいけなかったのですが、それぞれのやりたいことを一つのアイデアを軸にして全員がそこから発想を広げて自分ごとにしていたのも驚きでした。
繪本:発想力がすごかった。あれやこれやと話しながらつくるのが楽しそうでした。家に帰ってからは「面白かった。けど構成を盛りすぎちゃうか?」なんて振り返ったりして(笑)。また、私自身が仕事でどんなふうに大阪万博に携わっているかが少しわかって興味を持ってくれたみたいです。
野島:イベントをきっかけに親子の会話が生まれたのは嬉しいです。
大人の失敗している姿もありのままを見せる。
野島:なにかイベント終了後に親子で会話されたことなどありましたか?
山口:数か月経ってから娘に「将来、何をやりたいの?」と何の気なしに聞いたら「建築家」と言ったんです。そんな甘くないぞと言いそうになりながらも、可能性を感じているんだから止めてはいけないと思って。永山さんのスケッチがきっかけだそう。「描けそうと思った?」と聞いたら少しはにかんだ笑顔で「描けそう」って(笑)。これをほんとにつくれるようになるのがすごいんだよと言いつつも、これまで言ったことのない夢だったので驚きました。
野島:イベントの中で永山さんには言葉と模型を使って建築プロセスの試行錯誤も伝えてくださいましたね。
永山:「できそう」の延長に本当の「できる」があるんだよ、ということを伝えたくて、最初のスケッチがこういう建築の形になるんだよというところを見せたかったので、見せてよかった(笑)。通常は完成形や成功例しか前に出てこないので失敗を恐れてやらない子どもが増えているから、失敗も成功もあるし、答えはひとつじゃないことを伝えたかったんです。
野島:僕も、イベントのときは、大人たちがテンパっているような姿も見せるようにしています。自分もチャレンジしていいんだと思える状況をつくることが大切だから。
山口:永山さんでも悩むんだと知って、大人も救われましたよ。永山さんが子ども側に寄せすぎずに話してくれたのもよかった。難しいまま進むけど、子どもは一生懸命理解しようとして聞いていました。
永山:実は娘がワークショップに参加するところを初めて見て。こんなに発言するんだと新鮮に思いました。会場に行くまではうーんみたいな感じだったんだけど。絵を描くのも物語を考えるのが好きなので、いつも通り入れたみたい。初めて会った友達とつくることも、「あの子の面白かった」とか「最初はこういう案だった」とか、周りの子の発言も覚えていたので印象深かったようです。
子どもたちの生き抜くチカラを育む。
野島:普段のお子さんたちとの時間のなかで、大切にしていることはありますか?
永山:娘は絵を描いて物語を想像してつくるのが好きなので、その物語を聞いたりしていますね。たまに忙しくて返事を適当にしていたときは、後からもうちょっとちゃんと聞いてあげればよかったなと思うこともあります。
山口:この瞬間だけは家事などもやめて乗っかろうと思っているのは、家で材料を探して工作するとき。今、子どもに創作スイッチ入っているなというときは、自分も楽しいので一緒に作るようにしています。
繪本:子どもが例えばDIYをやりたいとなったら、自分で何を作りたいか、設計して。大人があれこれ言わずに、付き合うけれど自分で考えてやってもらうようにしています。
永山:勉強をする理由が見つけられないと言うのでなかなか大変ですが、小さい時は人間力を上げていこうと夫と話しています。様々なタイプの人と会って交流し、いろいろなものを見せる。夫と息子は今日から、キャンプしながら親戚のいる山口まで行くという長い旅に出ました。用意されていない旅なので自分で考えてアクシデントも乗りこえてほしい。
山口:生き抜く力、コミュニケーション力がつけばいいなと思っています。どうしたらこの曲面を乗り切れるかとか、工夫できる力。与えられたままの環境を受け取るのでなく、なんでなんだろうと考えるようになってほしいなと思います。
繪本:私も自分で考える力や道を切り開く力を育てたいので、勉強しなさいと言わないようにしています。
永山:先日、子どもたち同士が同じ年頃のアメリカ人のファミリーが、うちにホームステイに来ていたのですが、お互い喋れないのにとても気が合うんだと話していました。英語を勉強しなさいより、友達をつくりなさいの方がいいですよね。
山口:勉強しなければいけないような義務ではなく、話したい気持ちが先にあるとか、目的があった方がいいですね。
未来をつくる子どもたちに私たちができることとは?
野島:子どもたちのうちにある好きや情熱を尊重して全力でサポートしてあげたいですね。子どもたちの未来に対して私たち大人はどんなことができるでしょうか。
永山:子どもには自分だからこそできるやり方で接していければいいかなと思っています。建築は実際に見せることができるので、ママが頑張っていたのはこれだったんだとわかるようになりました。できる過程の様々な葛藤など話しておくと、出来上がった建築を見たときにそのことを思い出してもらえるかなと。最初からいいところを見せるのではなく、ダメなところを見せるのも大切ですね。
山口:大人がワクワクして一生懸命やっている姿は、子どもにとってもいいんだろうな。私たちも60、70代の方がまだまだワクワクして頑張っている姿を見ると元気をいただきますよね。ある朝、出かける準備をしながら仕事の話をしている時に「ママ、その話をしているとき楽しそうだね」と言われてハッとしたことがあって。失敗も含めて、大人のワクワクしている姿を見ると、子どもも未来をポジティブに見るのかなと。
繪本:子どもの可能性って無限にあるから、あれもダメ、これもダメと否定しないようにしたいですね。
永山:大阪・関西万博の現場でも建築家体験のような何かができたらいいですね。子どもたちの考えたことと結果がものとして見えるような。「ノモの国」のプロセスを子どもたちに見せられたらいいなと思います。
子どもたちはイベント時はもちろん、家に帰った後も密かに反芻していることがうかがえました。皆さんの話には、想像することや共創することが考える力や生きる力につながってほしいという願いがありました。
大人たちも大阪・関西万博を通じてワクワクしていこう! と新たな気持ちが湧いてくるようでした
写真撮影:村上大輔
執筆・編集:白坂由里
企画:ロフトワーク 野島稔喜
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