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100年後にエキスポを開催するとしたら?「ソウゾウの実験室」イベントで子どもたちと未来を考えてみた

2023年4月23日(日)、パナソニックセンター東京で「ソウゾウの実験室」というイベントを開催。総勢26名の子どもたちが参加しました。
テーマは、「子どもエキスポ2100」。100年後に“こども万博”を開催するとしたら、どんなエキスポになるか。自由に想像して、創造するイベントです。参加した子どもたちは、「100年後のエキスポでは人だけでなく動物、もしかすると宇宙人も参加するかもしれない」と発想を拡げたストーリーを軸に、そこに登場するパビリオンや製品、モビリティなどを自由に形にします。

特別ゲストは、建築家の永山祐子さん。大阪・関西万博でパナソニックのパビリオン「ノモの国」の建築設計を担当されています。永山さんとのトークセッションや、パナソニックのPanasonic GREEN IMPACT PARKを見学後のワークショップはおおいに賑わいました。

子どもたちがワークショップで制作した作品。個性豊かなアイデアがたくさん集まりました。

今回の記事ではゲストの永山さんと、イベント全体の企画をしたロフトワークの渡邊健太さん、ボランティアで子どもたちといっしょにワークショップを体験したパナソニックの藤田真衣さんの3名にお話を伺いました。

(写真左)ロフトワーク 渡邊健太さん 
(写真中央)建築家 永山祐子さん
(写真右)パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 藤田真衣さん

スピーディに、あふれでるアイデア。子どもたちの素直な表現力

―子どもたちとのイベントは、いかがでしたか。感想をお聞かせください。

永山: 実は正直なところ1日でどこまでやれるか心配でした。というのも、私も大学で課題を出しますが、自分でテーマやターゲット、形を決めるまでには何週間もかかるからです。でも子どもたちはスピーディというか、自分の感覚に素直で、すぐ形にしてしまうので驚きました。物怖じせずにドンと出す勇気がある。年齢を経ると「かっこ悪いんじゃないか」「はずかしい」という感情が出てしまうけれど、子どもたちは自分の考えをダイレクトに外へ表す気持ちが前に出ていて素晴らしいですね。

渡邊: イベントを設計する際、ワークショップは難しいものになるとわかっていたので、子どもたちがアイデアを出しやすくなるよう意識しました。例えば、永山さんとのトークセッションでは、模型を見たり触れたりするなど、学校ではできない体験を通して子どもたちの創造性を膨らませてワークショップに入る流れとしました。それが上手くいって、スムーズに進みひと安心。それに子どもたちはみんな、私たちの想像を10倍くらい越えたアイデアを出して楽しんでくれて、嬉しかったです。

永山: 今回お見せしたパビリオンの模型は、半分くらいが企画段階で不採用にしたものです。普通は、取捨選択して不採用にしたものは見る機会がないので、プロセスも見せたくて。正解は1つではなくて、いろいろあり得たけれど、最終的にこの形になったんだとか、世の中にあるものが、すんなり作られているわけではないなど。伝わるといいねと、打合せで話していたんです。

藤田: 子どもたちから次々とアイデアが出てきたのが印象的でした。私たちも仕事でアイデアディスカッションをしますが、ちょっと現実的になったり似通ってしまったり。でも子どもたちのアイデア創出は、さまざまな角度から着地点にしばられず、思いついたことをどんどん出していく。完成品もみんなまったく方向が違って、面白かったですね。

永山: どの作品もユニークでしたね。アイスクリームを作った班の「地球の元気がなくなると、ここのアンテナが毒になる」という説明は、なんだか胸に刺さりました。アイスクリームを作っているだけなのに、そんな気持ちを込められるんだ、すごく深く考えているなと。戦争という言葉もあって、子どもたちが日々感じているいろいろな気持ちが形やテーマに表れているんだなと思いました。

最近よく思うのですが、私が子どもの頃は単純に「未来はハッピー」でしたが、今はパンデミックや戦争などいろんな脅威が隣り合わせにあり、地球の環境問題もどんどん深刻化しています。どの班も、ハッピーの裏にちょっと重いテーマが必ず入っているのが、なんだかズシンときましたね。

当たり前のように環境や他者について考える、今に生きる子どもたち

永山: 子どもたちには「未来を考えるのは自分たちなんだ」と思ってほしいと、いつも思っています。だから未来をハッピーに捉えるのが、なかなか厳しい時代に、それを乗り越えて未来を考えるワークショップの設定はとてもよかったですね。こういう前向きな想いで子どもたちにはいてほしいですから。

渡邊: 今の子どもたちが当たり前のように環境について考える姿に、時代はすごく変わったなと実感しました。それに地球環境だけでなく、相手や周りもちゃんと見えているのはどの班にも共通していて、自分のためというより、みんなのためという考えが中心にあるのは、本当にすごいと思いました。普段の仕事やワークショップで「周りのことを考えよう」といいますが、子どもは最初から考えている。むしろ彼らには当たり前なんですね、きっと。

藤田: 私が参加した班では、みんなが楽しく暮らしていくには、鉛筆や消しゴムも食べられたらいいねという発想からはじまって、家も食べられるといいよねとなりました。「消しゴムも食べられるといい」というアイデアから、「何でも食べられて、ゴミのない世界がいい」という発想につながっていったのは、一緒にやっていて面白かったですね。

永山: 大それた発想というより、身近な小さなものをちょっとだけ変えるだけで、世界がガラッと変わるという発想はすごいと私も感じました。最近は建築の世界でも、都市計画など大きな視点より、ヒューマンスケールの視点が重視されています。つまり「自分サイズのアイデアで世界がどれだけ変わるか」ということをやっているのですが、子どもも同じように考えるんだなと。発見がありましたね。

―子どもたちが健やかに成長していくために、どんな風にかかわっていきたいですか。

永山: 今回のように正解のない出題をすることが大切ですね。私自身、何か1つの「正解がある」と決めつけてしまう教え方には違和感がありますし、大人のやっていることも正解は1つではないと思うんです。子どもたちには「正解かどうかはわからないけれど、いい未来に繋がるかもしれない」と自分が信じるものに一生懸命にトライしてほしいです。今は難しい社会課題が取り巻いているからこそ、問題を出し続けて、たくさんの回答のバリエーションを考えていきたいし、考えられる場を整えられるといいですね。

渡邊: 私たちの役割は、いろいろ見え方があるよと選択肢を増やすことだと考えています。大人は教える立場が多いかもしれないけれど、今回のようにむしろ子どもたちの発想力やアイデアから教えられることもたくさんあります。お互いに教え合う関係性を築けるようなイベントをこれからも続けていきたいですね。

藤田: 子どもが成長していく過程で今回のワークショップのようなイベントなど、地域コミュニティの中で子どもたちと接する機会が増えるといいなと思います。私たちも学ぶことはいっぱいあるし、一緒に成長していけると嬉しいですね。

世の中の成功はたくさんの失敗のうえにある。失敗を怖れないで

―今回は2100年がテーマでしたが、みなさんが望む100年後の姿とはどんなものでしょうか。

永山: 一人ひとりの「こういう未来が実現したらいいな」というアイデアを、ちょっとずつお互いに積み上げていけるような世の中になったらいいですね。

未来を考えることは正解が何かわからず、すごく難しく、誰か一人の手でどうにかなる問題ではないし、「これが正解」とは本当にいえない時代です。でも、だからといって、子どもたちに「どうせできない」と諦めてほしくはないという想いは、いちばん大きいです。自分たちが信じて、いいと思うことを試せる世の中になってほしいですね。

渡邊: 100年後は、裏側の人々について考えられる、やさしさがあふれる世界になってほしいです。一人ひとりが自分を大切にしながら、相手も大切にできるから、周りの人と協力できる世界。実は今回、物事を裏側で支えるいろんな人の存在を想像できるようになってほしいという裏テーマがありました。でも、すでに子どもたちには見えはじめているなと今日は感じました。そう思うと、やさしさがあふれる世界は近い未来、実現しそうですね。私もぜひ、そこに立ち会いたいです。

藤田: 生活や暮らしがもっと自由になればいいですね。たとえば、地震や津波が心配なら、空の上で暮らしてみようとか、地下や水の中で生活しようとか。今は夢物語かもしれませんが、いろんなステークホルダーがそれぞれの技術やアイデアで、もっと悩みなく自由に暮らせるところまで、一人ひとりで解決していける未来になるといいなと。

―最後に、2025年の大阪・関西万博に向けての想いをお聞かせください。

永山: 万博自体が大きな実証実験の場です。常に実験を繰り返しながら、その先を見通すことが重要です。2025年はゴールで終わりではなく、はじまりでもありますから。

そして未来は子どもがつくるので、私たち大人も大切なパートナーとして考えないといけないし、子どもたちが主体性を持った形でなんらかに関わることはすごく大切だと考えています。

ひとっ飛びに成功させたいと思う子が多い気がしますが、世の中、当たり前に成功しているように見えても実は多くの失敗の上にあります。だから失敗を怖れる必要はないし、失敗してもいいという前提をもってほしい。そのためにも私たちの使命は、ずっとトライし続ける姿を見せることですね。

写真:Chihiro Taniguchi


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