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違いを辿ることが、個性になる。北書店店主・佐藤雄一さんインタビュー

人にやさしいモノづくり。それはパナソニックの、創業以来のDNAです。そして今、その考えをさらに進化させ、インクルーシブデザインに取り組んでいます。様々な視点を持つ人たちと対話を重ね、今まで見落とされていた声を拾い上げ、一緒に解決策を考える。このアプローチで、あたらしい「やさしさ」のかたちを追求し、みんなが幸せになれる未来を目指していきます。

Panasonic Inclusive Designサイトより

障害の有無と聞くと、個人が抱える課題と思う方もいるかもしれません。しかし「障害」とは本人にある要因と環境にある要因が相互に影響して生まれるものであるため、環境や製品が対応していれば、それは顕在化しないと言われています。どんな人も安心して心地よく暮らせる環境をつくるためには、テクノロジーの活用はもちろん、それぞれの違いに目を向け、発見し、新たなアイディアに変えていくための視点が必要です。

パナソニックでは、4組の方々のそれぞれに違う「ふつう」の日常から、私たちが考える「やさしさ」のかたちを改めて見つめ、動画を公開しています。そこで今回は、新潟県で「北書店」を営む佐藤さんに、佐藤さんらしい暮らしのあり方から、社会に必要な視点についてお話を伺いました。
 

誰もが暮らしやすい
街をつくるのは


ー ここ「北書店」は、ご病気をきっかけに場所を変えて再オープンされた本屋さんなんですよね。普段、佐藤さんはどんな1日を過ごされているのでしょう?
 
7時に起きて、朝ご飯を食べたらすぐに足の装具をつけて身だしなみを整えますね。8時には家を出てお店についたら11時の開店まで、ゆっくり時間をかけて準備します。開店したら本を並べたり店内を整えながら接客して20時に閉店します。閉店後はだいたい2時間程度店にいて、その後はバスか歩きで帰宅し帰宅しています。
 
 
ー 徒歩通勤の日もあるんですね!
 
家まで30分くらいですね。散歩とリハビリを兼ねて。以前は原付バイクで通勤していたんだけどもう乗れないから。免許証は条件付きで、乗ろうと思えば乗れるんだけど、やっぱり体が動きづらいから。

ほほ笑む佐藤さん

ー 体が変化したことによって、何か考えたり気づくようになったことはありますか?
 
入院しながらのリハビリ生活は快適だったなと(笑)。病院の中って、患者がなるべくストレスなく過ごせるように設計されているじゃないですか。それが退院した途端にいろんな障害があるんだなって。例えばバスのステップひとつとっても、段差が40センチ以上ある車種だと、僕も大変なんだけど、これ足腰が不自由なおじいちゃんおばあちゃんとか降りれるの?なんて自然と考えるようになった。だからね、手すりって大事なんですよ。今まで意識してなかったけど、そういうことが気になるようにはなったよね。
 

ー もっとこうなったらいいのに、と思うことはあるのでしょうか?
 
正直、あまり思わないんだよね。ただ、自分の都合だけで考えると、バス路線はいろいろと納得いかなかったりする(笑)。連携とかね。
 

ー 交通って、本来誰もがどこにでも行けるようになるべきだと思いますが、地方は特に、車に乗れないと生活しづらいという課題もありますよね。
 
みんな無頓着だなって思うんだけど、車を持っていないと駄目な生活をしてる人がほとんどじゃないですか。でも、いずれはみんな免許を返納してマイカーを手放す時がくる。そうした時に、暮らしにくい街になってますよって。それは車社会がつくったんだよね。地元のおばあちゃんがやってるスーパーや商店をほったらかして、郊外にあるでっかい商業施設に車で行くわけじゃないですか。いざ車を手放した時に気が付いたら、身の周りになんにも店がなかったりしてさ。それは、そこに住む地元の人たちも一緒にそうしちゃってると思うんだけど。
 

ー 今って、一部の人にとっての「便利」が強い社会に感じます。
 
そういった意味でもバス路線はもうちょっと考えた方がいいっすよって、言いたいとこではあるけどね。でも、バスって結構楽しいよ。どこへ行っても、酒も飲めるし。全然気にしなくていいから。
 
 
本屋は“わからないまま”でも
生きていける世界
 
 
 
ー 今は1日のほとんどをお店で過ごされていると思うのですが、何年ほどこのお仕事を?
 
本屋歴で考えると、1996年からなのでもう28年になりますね。
 

ー 佐藤さんにとって、本屋の魅力って何ですか?
 
こんな体でも、意外とどうにかなるところ。半身麻痺の身体だってマイペースでやれて、それが必ずしも欠点にはならない。一般的にネガティブなことと捉えられてしまうようなことがあったとして、それをいいとか悪いとか結論付けずに、保留のままでいることが許される場所って、あんまり無いような気がするけどね。
 

ー 今の社会は特に、白黒はっきりすることを求められる場面も多い気がします。
 
「全然わかんない」でいいんですよ。本を読めば読むほどわかんなくなる(笑)
でもそんなこと当たり前だよって、平気でいられるようになったのは、本から受けた影響なんだろうね。


ー 北書店が目指す本屋さんのあり方ってどんな姿なのでしょうか。

 
僕が北書店を始める前に勤めていた「北光社」は、創業から190年の歴史のある本屋でした。駅から伸びる大通りと、商店街のアーケードが交差する「古町十字路」と呼ばれる超一等地で、街の人にとってはもう、そこにあることが当たり前の存在でね。北書店もそうなれたらいいんだろうけど、個人資本ではじめた小さなお店にとって、それはとても難しいですよ。基本的にどこでも同じ価格で買える本を扱っている以上、普通に考えれば、大きなお店には到底かなわないです。だから他所ではあまり置いていない本を扱ったり、展示会やトークイベントを企画したりすうちに「個性的な本屋」と言われたりもするんだけど、別にそれを目指したわけじゃなくて、必要に迫られてやって来たという方が正しい。


ー 最初からビジョンがあったわけではなく、違いを活かしていったら「個性」が生まれた、ということなんですね。
 
そういう道があるというのは本屋のいいところですよ。仕入れ予算が多い方が一方的に勝つということではない。弱ければ弱いなりに生き残る術があるというか、多様さがあるんですよ。大きな商業施設の中にある全国規模のチェーン店も、マンションの一階でひっそり営業する店も、お客さん目線では同じ「本屋」として括られる。選択肢がたくさんあることが普通というかね。


本を買うお客さんに対応する佐藤さん

ー 今は、どんな方が来られるのでしょう?
 
どうなんでしょう。「本好き」というよりも「本屋好き」な人たちが多いのかな。どんなお店になりたいのかと聞かれれば、そういうお客さんにとって「ないよりマシ」な存在でいられたらいいのかなって。
 
 
 
身体が変わっても、変わらないこと
 
 
ー 移転して面積が半分になったそうですが、何かしら気持ちの面で変わったことはありますか?
 
多分変わってるんですけどね。何が変わったかと言われると、わからないんですよね。
 

ー 逆に、変わらないこともありますか?
 
お客さんに「佐藤さんて障害があるとか、そういうイメージがないし、
可哀想な感じが全くしないのは何なんだろうね」と言われました(笑)
だから、別に遠慮する感じが全くないんです。全然、障害者だと思われていないっていうか。
 
 
ー “障害”って社会側の問題だと思うのですが、ご自身が障害と向き合うことになった時、何か思うことはありましたか?
 
いやあ、なにせ僕はのんきだから。障害者手帳をもらったときも
「そっかー、おれ障害者なんだ…おっ、バスが半額で乗れるのか!」ってね。
 
 
ー ご自身は変わらずだけれど、社会から見た時に変わるといった感じでしょうか。
 
もちろん、程度って人によるじゃない。僕の場合は左半身に麻痺が残って、だけど毎日歩いて店まで来たり、本棚だって自分で作って、そこに仕入れた本を並べてね。ふとした瞬間に「この先一生、身体はこのままなのかな、よくよく考えるとえらいこっちゃ」なんて暗い気分になったりもするんだけど、こうしてまたお店を始めることが出来ているわけだから。それはほんとに幸せなことですよね。


本を手に取る佐藤さん

ー ちょっと気持ちが暗い時って、どうされているんですか?
 
別にどうもしないよ。暗かろうが明るかろうがお店を開けて。
 
 
ー お店を半分にされたのも、佐藤さんにとっては自然な流れの中でのことだったんですかね。
 
そうですね。以前の店舗は40坪あったんですよ。この身体でその空間を維持することは難しいし、家賃や光熱費とか、資金的にも大変だから、いろんなことが半分くらいの規模になればいいなと思っていた時に、ここを教えてもらった。
 
 
ー ここは新潟駅からも近くて、立地も素敵ですよね。
 
建物よりもまず、目の前に信濃川があるという、このロケーションが気に入ったんですよね。公衆トイレや、ベンチなんかもたくさんあるし、ここでのんびりと過ごす環境が整っている。たとえば県外から、本屋好きなお客さんが北書店を目がけて来てくださったとして、ベンチに座って川を眺めながら、買ったばかりの本を読むというのは、ひとつの旅の思い出になるんじゃないかなと思って。街のど真ん中に、これだけ大きな川がどーんって流れているのは、なかなかの風景でしょ。新潟駅から来て、川の手前までは若者中心の新しい街で、橋を渡って、右に曲がると北書店があるし、まっすぐ行けばさっき話した古町十字路があって、さびれてきてはいるんだけど、よりローカルになってくる感じ。個人でお店を構えるならば、やっぱりこっち側だよね。

本棚をチェックする佐藤さん

ー 勝手なイメージですが、多くの方に愛されている本屋の印象があります。
 
それは切り取られた情報だけ見ているんじゃないかな(笑)。そんなにいい日ばかりじゃないですよ。だけど僕の方が見えていないことだってたくさんあるんですよ。昨年の8月に前の店舗を閉めたんだけど、あるとき隣の大学病院に半年に一度通われている方が来て、「閉店なんて信じられない」って涙目で言うの。通院のたびに、気晴らしに立ち寄ってくれていたみたいで。そんな人もいたんだなって、こっちも驚いてしまった。
 
 
ー きっと、いろんな理由でここに足を運んでくる方がいらっしゃるんですよね。今後、挑戦してみたいことなどはありますか?
 
まずは引き続きリハビリをしつつ、北書店をより魅力的な場所にしていくことですよ。
規模が半分になったって、「本を買うことは楽しい」と思ってもらえるような空間をね。
それしか考えてないですよ。

開店準備をする佐藤さん

ー 変わらず、これからもずっと本屋さんで。
 
潰れなければ、ですね。売れてくれれば。できたらやっていきたいです。
 
 
Profile
 
佐藤雄一
1973年上越市生まれ。190年の歴史があり、最後は古町で惜しまれながら閉店した書店「北光社」で14年間働き店長を務める。その後市役所前で「北書店」をはじめ、2022年3月に脳出血で倒れ、4カ月入院。2022年8月に閉店し、同年の12月に下大川前通へ店舗を移し再オープン。


北書店店主 佐藤雄一さんの「ありふれた毎日。」折りたたみ可能な面手すりスタンディ編 / パナソニックインクルーシブデザインコンセプトムービー



“何気ないふつうの、ありふれた毎日。当たり前でもあり、特別でもあるその時間が今日、明日とあることが“幸せ”のひとつであるならば。パナソニックは、それぞれのふつうに向き合いながらそれぞれにちがう人の、ちがう暮らしのあり方に寄り添っていきます。”

※障害の漢字表記に関して:スムーズな読み上げを実現するために、障害という単語を漢字で表記しています。