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美しい星空も守るLED照明へ。美星町の思いに応える防犯灯~光害対策型防犯灯 開発者インタビュー~

「星空に優しい照明 光害対策型防犯灯」の開発。

世界各地でSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた取り組みが加速している今。街のあかりには、夜の安全だけでなく美しい星空も守るという新たなニーズが生まれています。天体観測の好適地としても有名な岡山県井原市美星町から「星空に優しい照明を開発してほしい」という依頼があった時、開発者たちは町の方々の強い思いに心を動かされたといいます。星空を守るためのあかり開発、国内メーカー初※のIDA(国際ダークスカイ協会)の認証取得やその後の反響などについて、開発者3人に話を聞きました。

プロフィール

桝田 幸治 パナソニック株式会社

野口 朋也 パナソニック株式会社

重松 栄治 パナソニック株式会社

美星町の方々の熱い思いに応えたいと思った。

Q. 開発のきっかけを教えてください。

桝田:美しい星空を大切にしている美星町から「星空に優しい照明を開発してほしい」という大変熱い思いが届いていると、現地の岡山営業所から話があったのが始まりです。

「夜の安全はもちろん、町の誇りである星空も守りたい」「防犯灯や道路灯からの光漏れで夜空が明るくなり、星が見えなくなることに危機感を抱いている」そんな町の方々の声を聞いて、光害対策型のLED防犯灯を私たちが具現化しなければならないと考えました。

野口:私も美星町の方々の思いの強さを感じました。井原市の市長さん自らが本社にお願いにいらしたそうで、そういった例はあまり聞いたことがありませんでした。美星町がIDA(国際ダークスカイ協会)の「星空保護区®コミュニティ部門」の認定をめざすことに賛同して、IDAの基準を満たす防犯灯の開発に着手することになりました。

Q. 星空を守る光害対策は初めての試みでしたか?

桝田:以前からパナソニックでは、環境省の光害ガイドラインの基準づくりに関わらせていただくなど、光害対策のノウハウは持っていました。しかしながら、星空を守るという夢のある開発は初めての経験でした。

「まぶしさを軽減するため、一方向に光が出ないようにしてほしい」というご要望は珍しくありませんので、そういった場合は標準品の遮光板を入れて対応しています。しかし今回のように、IDAの厳しい基準をクリアするなど、ご要望にきめ細かくお応えするというのは今までほとんどなかったことです。

美星町の現地で行ったテスト。光害対策型LED防犯灯(左)と一般的なLED防犯灯(右)を比較すると効果がよく分かる。


標準品を活かして、導入コストを抑える。

Q. どのような工夫で、星空への光害をなくしましたか?

重松:防犯灯は町に数多く設置するものですから、特注品といえども価格は抑えなければなりません。そこで、すでに商品化されている標準品に手を加えるという発想のもと開発を始めました。

標準品は30度傾けて設置しますが、照明器具を斜めにすると光が上方に漏れて、夜空が明るくなる原因となります。そこで取り付け角度をゼロにして、照明器具を水平に設置することで上方への光漏れを防ぐことにしました。

(左)標準品の防犯灯:斜めに傾けて設置するため、上方へ光が漏れる (右)光害対策型防犯灯:水平方向に設置することで、上方配光をなくす


メンテンナンス回数を減らすなど、使いやすさへの配慮も。

Q. どんなところに苦労しましたか?

重松:標準品を水平に設置するためには、照明器具の形状を変更する必要がありました。取り付け部分はダイカストと呼ばれるアルミの鋳物でできています。大量生産に欠かせないダイカストは、金型をつくるのに手間やコストがかかり簡単に変更できないため、試行錯誤しました。

また、標準品の背面にはくぼみがあり、水平に設置すると雨水やほこりが溜まってしまいます。そこで、外観を損なわないような背面カバーを設け、さらに水抜き穴を追加するなどの細かい配慮も加えました。LED光源は寿命が長く、器具の交換頻度が少ないので、メンテナンス回数も減らせるような設計を実現しました。

一般的なLED防犯灯は上面に水抜き用の溝があるが、光害対策型LED防犯灯は専用カバーで覆い水が入らない構造に(左)一方で、下面に水抜き用の穴を設けた(右)


国内メーカー初※の申請業務は、周囲のサポートが味方に。

Q. IDAの認証はスムーズに取得できましたか?

野口:当時入社1年目だった私がIDAの認証取得を担当しました。前例のない課題に技術で応えていくのはやりがいがありましたが、海外の照明器具の基準は国内のものと異なる点が多く、最初は悪戦苦闘しました。

IDAや海外の規格を調べ上げていくと、英語の専門用語につまずき、分からないことがいくつも出てきました。でも、社内には照明のプロがたくさんいて、誰かに聞けば何かしらの回答が返ってくるので心強かったです。直接聞いた人が知らなかったとしても、専門知識のある人につないでもらえて答えがすぐに見つかりました。

周囲のあたたかいサポートのおかげで、予想以上にスムーズにIDAの認証を取得できたと思います。入社1年目でも、周りの助けを借りながら自分で仕事を進めていけるのはとてもいい環境だなと感じました。

※国内メーカーにおけるIDA認証器具として(2020年2月20日現在 国際ダークスカイ協会 東京支部調べ)

世の中の反響の大きさに驚いた。

Q. 今回の開発に手ごたえを感じましたか?

桝田:商品を知った中学生の方が星空への想いについて作文を書いてくださり、また、Twitterなどでも話題になりました。防犯灯の開発では犯罪や事故を防ぐために明るさを重視してきましたので、光害対策でこれほど大きな反響をいただけるとは思ってもいませんでした。

世の中には幅広いニーズがありますので、お客さまそれぞれのご要望にしっかりとお応えしていかなくてはと気持ちを新たにすることもできました。また、この防犯灯のCMを家族が見て、「お父さん、とてもいい仕事をしているね」と喜んでくれたことも忘れられない出来事です。

野口:私は、防犯灯というくらしに身近なあかりでSDGsに貢献できたことをとても光栄に思います。美星町の方々から感謝の声をいただいた時、「こういうふうに仕事って成り立っていくんだな。喜んでいただけて嬉しいな」と感じたことを非常によく覚えています。

美星町が資金の一部をクラウドファンディングで募ったところ、目標の3倍近い金額が集まったそうです。Twitterでもバズって話題にあげていただき、多くの方々に関心を持っていただけているんだなと実感しました。

重松:私は美星町の方々のご要望にしっかりとお応えでき、感謝の声を直接いただけたことが何より嬉しく思いました。

開発当初は自分のなかで、標準品を上手に活かせたという程度の認識だったので、世間から大きな反響があるとは夢にも思っていませんでした。防犯灯は明るいものという固定観念のなかで仕事をしすぎていたのかなとも感じましたし、お客さまそれぞれでご要望が異なるということも改めて実感できました。

また、中学生のみなさんの作文を拝見させていただいて、美しい星空への想いがひしひしと伝わってきました。その作文はパナソニックの工場にも届けられたと聞いています。美星町の方々はもちろん、開発者の私たちだけでもなく、商品をつくった工場の人たちまで、関わった全員がWIN-WINの関係で終われたことも大変嬉しく思います。

星空に優しい照明を世の中に広げていきたい。

Q. 今後の事業の広がりについて教えてください。

桝田:防犯灯に続いて道路灯も開発し、IDAの認証も取得しました。星空に優しい照明をさまざまな照明器具に展開する試みを少しずつ始めています。星空を守りたいという潜在的なニーズは全国の自治体にあるかと思いますので、防犯性能やコストをさらに追求して、より導入しやすい光害対策型のLED照明を開発していきたいと考えています。

重松:美しい星空を大切に想う方はたくさんいらっしゃると思います。「LED技術で星空を守る」というメッセージが一人でも多くのお客さまの心に刺さり、私たちが開発したあかりが世の中に普及していったら嬉しいなと思っています。


*記事の内容は取材当時(2021年10月)のものです。


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