もうひとつのノモの国、展示エリア「大地」を知る~生きているあかり「バイオライト」編〜
パナソニックグループが大阪・関西万博に出展するパビリオン「ノモの国」において、子どもたちの内なる力を解き放つ “Unlockエリア”と対をなすのが、5つのユニークな技術展示を行う“大地エリア”です。ひとの営み、自然の営みが響き合い、それぞれが持つ360°の循環がめぐり合って生まれる「720°の循環」を表現することが、大地エリアのコンセプト。このシリーズでは大地エリアに登場する技術と、展示の実現に向けて奮闘する人々の想いを紹介します。
今回訪ねたのは、微生物の力を活用した「バイオライト」の展示を手がけるチーム。空気と反応して発光する特殊なバクテリアを培養し、やさしく、有機的に光るあかりを実現しようとしています。展示が生まれた背景や万博に掛ける想いについて、アドバイザーである東京工科大学 佐々木聰教授と、企画立案を担当するパナソニック(株)デザイン本部の溝口さん、技術面を担当する初谷さん、管野さんの4名で語り合っていただきました。
ひとも、組織も、専門分野も。掛け合わせて、可能性を広げる
溝口:「あかり×バイオ」というアイディアが生まれたのは、所属するトランスフォーメーションデザインセンターで推奨されている自主研究に取り組んだことがきっかけ。もともとバイオ畑出身ながら当社では物理や化学を使った事業と向き合うことが多く、自分が手がける研究ではバイオというキーワードを用いたいと考えていました。
初谷:私も入社前はバイオの世界にいて、発光タンパク質など、生物が発する光をツールとして活用する研究を行っていました。そういった経緯もあって、事業化に向けた新たなテーマを探す際、発光バクテリアというテーマに心惹かれたんです。
溝口:あかりとバイオを掛け合わせたい!という企画を上司に相談したところ、紹介していただいたのが初谷さん。近しいテーマに取り組んでいるということが分かって意気投合し、一緒にプロジェクトを進めることになりました。
初谷:ただ、そのころ私の手元にあったバクテリアは、あまり光らない株だったんです。これだとあかりと呼ぶことは難しいなと思って調査を行った末に、佐々木教授の研究に辿り着きました。
佐々木:「発光バクテリアに興味があるんです!」と連絡をいただいたときは、すごく嬉しかったですね。長年バクテリアを研究していますが、照明として使えるほどの光量はないため、社会実装が難しいテーマだと常々思っていたので。パナソニックさんと組めるなら心強いと、すぐに私が持っていた光が強い株をお分けしました。
溝口:初めてお会いした時、佐々木先生は胸ポケットに発光バクテリアの入った小瓶を忍ばせていらっしゃって(笑)。研究に対する強い愛を感じ、こちらとしても「この先生となら、きっと生きているあかりを実現できる」と思ったんです。
初谷:先生からは株だけでなく、バクテリアの餌や酸素濃度など培養に必要な条件調整に対するアドバイスもたくさんいただきました。そのおかげもあって、大水槽でバクテリアを光らせることが可能に。装置を担当してくれる管野さんにもジョインしてもらって、今は「いかに長く光を維持できるか」に挑戦中です。半年間続く万博において、いつ、誰が来ても光っている様子をお見せできる状態に持っていきたいと思っています。
管野:私がチームに加わったのは、2024年4月。もともと電気系が専門なので、生物を対象にした装置づくりは初めてです。驚くこと、悩むことの連続ですが、私がバイオの領域外から出す意見がプロジェクトの可能性を広げる瞬間もあるので、大きなやりがいをもって挑戦を続けられています。
溝口:私や初谷さんの専門であるバイオと、パナソニックが得意とする工学の力を掛け合わせたり、組織外の佐々木先生に加わっていただいたり、異なる専門性を持っている管野さんの意見を取り入れたり……。同じでないもの、異なるものを掛け合わせるから、おもしろいアイディアが生まれるし、大きな壁も乗り越えられるんだと思っています。
生きものだから、むずかしい。でも、生きものだから、おもしろい
佐々木:相談を受けてから2年。実際の装置は今日初めて見ましたが、あれだけ大容量の液体の中でしっかりとバクテリアが光っていることに驚きました。
初谷:相手が生きものなので、条件の調整には本当に苦労しました。餌や酸素が多すぎても、少なすぎてもダメ。それらをうまく調整しても、周囲の環境が変わるとなぜか光らなくなったりもします。全然光らなかったのに、溝口さんが実験室に現れたら急に光り出したりしたこともありましたよね(笑)。
溝口:そうそう(笑)。本当に、バクテリアたちと対話しながら研究を進めているという感じですよね。機械のようにコントロールできない点に悩まされるけれど、だからこそ愛着をもって開発に取り組めているんだと思います。
管野:培養がうまくいくことだけに集中して装置を設計すると、見栄えが悪くなってしまうというデメリットも。多くの人に楽しんでいただける展示にするために、見た目の良さにもこだわって装置開発を進めていきたいです。
佐々木:発光バクテリアを大きな容器で長期間光らせることって、本当に難しいことなんです。これまでにも発光バクテリアを舞台装置にできないか、飼育できないか……と、色んな業界の方からお声がけはいただいてきたのですが、どのアイディアも実現には至りませんでした。その点パナソニックさんを見ていると、アイディアを実現するための技術力はもちろん、プロジェクトを力強く動かしていく推進力がものすごい。パナソニックが本気になったら、ここまでのことができるんだと、皆さんの姿から感銘を受けています。
やさしい原体験として、子どもたちの心を照らしたい
管野:こうやって、みんなで力を合わせて取り組むプロジェクトを、万博という社会に大きく開かれた場所で発表できることにワクワクしますよね。私自身、そもそも「技術で社会に貢献したい」というモチベーションを持ってパナソニックの技術者になっているので、今回はその夢を直接的に叶えるチャンスだと思っています。
初谷:古くは「明るいナショナル」として知られていた通り、パナソニックは長年にわたって日本の社会や暮らしを照らし続けてきた会社です。日本を代表する照明メーカーだからこそ、これからのことを考えて自然環境と共存できるあかりを実現することは、私たちの使命でもあると思うんですよね。事業化や商品化を視野に入れるなら、まだまだ技術を進化させる必要はありますが、万博を通じて「新しいあかりの概念を社会に示す」という第一歩を踏み出せたら、と考えています。
溝口:初谷さんがおっしゃったように、自然と共に助け合う新しいあかりの概念として、単に空間を照らすためのツールではなく、子どもたちの心をあたたかく照らす体験の開発を行いたいと思っています。大人になってから、ふとした瞬間に思い出す原体験を、子どもたちに提供したいですね。
佐々木:ゆらゆらとやさしく揺れて、心にすっと入ってくる。それが、発光バクテリアの光の特徴です。東日本大震災後、大学も計画停電の対象となったので、発光バクテリアの株を守るために自宅に持ち帰ったことがありました。寝室にバクテリアの容器を持ち込んだ時に見えたのは、当時まだ小さかった娘の寝顔。やわらかい光に照らされたその光景に、心がほっと安らぐのを感じました。生きている光だからこその揺らぎや、やさしさは、言葉では説明できない感動を人に与えてくれると信じています。
溝口:大地エリアのテーマはひとと自然の「720°の循環」。ひとのため、自然のための技術を個別に追い求めるのではなく、自然がひとに、ひとが自然に豊かさを与え合い、つながってめぐるからこそ720°の循環は生まれるんだと、私は思っています。パビリオンを訪れる子どもたちには、そんなひとと自然のつながりの大切さを、言葉ではなく体験から感じ取ってほしいです。