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「空気」を通してより良いくらしを提供し、世界の環境負荷低減をリードしたい

いま、IAQ(Indoor Air Quality: 室内空気質)への関心が世界的に高まっている。湿度や温度など、さまざまな観点から生活環境の空気の状態を細かくコントロールして、空気によって健康で豊かなくらしを実現する家電製品は、私たちの身の回りにもこの数年で一気に普及した。
 
IAQの視点で空調製品を提案しているのが新宅弘樹の所属する空質空調社。
そのなかで、新宅はヨーロッパにおける業務用エアコンのマーケティングを担当している。2019年には自らの意志でヨーロッパ全体の販売本社機能を担うドイツへ赴任。現地で販売管理などに取り組んだ。彼を動かす原動力とはいったい何なのか、話を聞いた。

“負けず嫌い”が実った入社5年目の海外赴任

現職に就いたきっかけを尋ねると、新宅は「幼いころから負けず嫌いなところがありました」と口を開いた。

転機となったのは、大学3年の頃の体験。広島で生まれ育ち、20歳過ぎまで日本を出たことがなかった新宅は、はじめての海外旅行でアメリカ・ロサンゼルスを訪れた。街をさっそうと走るトヨタやマツダなどの日本車に感動するいっぽう、部屋の家電は地場のメーカーばかりで日本の製品がひとつもなかったことに驚いた。

「日本にも良い家電はたくさんある。品質は負けていないはずなのに、知れ渡っていないのは悔しい」。海外の家電市場にはまだまだ伸びしろがあると確信し、パナソニックへの就職を志望した。
 
晴れて入社となって家電事業へと配属された新宅は、全社研修で「海外の仕事がしたい」と積極的に言い続け、海外マーケティング本部に入ることができた。上司や先輩の指導のもと、見様見真似で商品企画や需要分析をこなしていく。いまでこそ体系的に理解して取り組めるが、当時は「自分が何をしているのかまるでわからなかった」という。
 
とくに海外とのコミュニケーションは理解度が1割にも満たないレベル。周囲には帰国子女や留学経験者が多いなか、新宅は英語に強みがあったわけではなく、そもそも口が達者なほうでもなかった。彼らと対等に渡り合い、チャンスをつかむためには人前に立って話すトレーニングが必要だと考え、朝会のスピーチを自分だけ英語で話すようにした。

英語が堪能な同僚たちは、誰ひとり笑うことなく協力してくれた。英語で書いた日記を毎日添削してくれて、返ってきた日記にはびっしりと赤字でコメントが入っていた。 そんな努力と周囲のサポートが実り、入社5年にして、ついにドイツへの赴任が決定する。
 
実際に海外赴任をしてみると、言葉の壁は持ち前の熱意で乗り切ることができた。それ以上に新宅が学びを得たのは、ヨーロッパの人々との出会いだった。
 
いつも強気な販売見通しを立てる人や、数字に関してはとにかく手堅い人……。「お国柄」といわわれるステレオタイプには、当てはまらないキャラクターばかり。一人ひとりに個性があること、そして、それはコミュニケーションを深めていくなかではじめて知ることができるということ。言葉にすればあたりまえのことではあるけれど、それを身をもって学べる良い経験になったという。

海外赴任中、何より印象深かったのは「自分が商品企画に携わったダクト型の室内機の売れていく姿を見ることができたこと」と新宅は振り返る。

ダクト(排気や給気に使用する配管)は人目につかない場所に設置されるものだが、だからこそ大きさや形状に工夫が求められる。天井高によって室内環境を妨げず、それでいて隅々まで風を送れるダクトの大きさや厚みは維持しなくてはならない。そのバランスを市場調査から見出した新宅の商品は、発売すると順調に売上を伸ばした。それまで日々対話を重ねてきた各地の販売会社の人々の顔が浮かぶ。
 
「彼らのためにも売れる商品を出さなくては」と責任感に背筋を伸ばしながら多くの関係者とともに市場に送り出した商品が売れゆく様子に、「ヨーロッパでパナソニックのブランドが成長していく様子を見ることができて本当にうれしかった」と目を細める。
 
「ただ他社だったら、スキルも経験もない自分に海外の仕事は任されなかったと思う」と 新宅はあくまでこの海外赴任での成功も冷静に受け止めている。

「パナソニックにはチャレンジする人を後押ししてくれる風土があるんです」
負けず嫌いでチャレンジ精神旺盛な新宅の個性とパナソニックの社風が合致したことでいま、成果が実を結びはじめている。

“あたりまえの快適”を支える縁の下の力持ち


新宅が所属する空質空調社の取り組みは、くらしを豊かにすることだけに留まらない。パナソニックグループが掲げる長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」のもと、「カーボンニュートラルをはじめとした環境負荷の低減」をミッションに事業に取り組んでいる。

そのひとつが「A2W(Air to Water: ヒートポンプ式温水給湯暖房機)」である。ヨーロッパで主流となっているガスボイラーが1のインプットに対して0.8倍のパフォーマンスを出すのに対し、電気式のA2Wは1のインプットに5倍ものパフォーマンスを出すことができる。暖房の熱源をA2Wに置き換えるだけで、高い省エネ効果が見込めるのだ。
 
とりわけ欧州は環境のトップランナーといわれるほど環境への意識が高く、規制や補助金の整備も進んでいる。現在の普及率はまだまだ低いが、A2Wも補助金の対象となったことで一般家庭にも浸透しはじめており、今後ますます市場は広がっていくだろう。
 
空質空調社は、ヨーロッパの厳しい市場で鍛えあげられた商品やノウハウをグローバルに展開し、世界規模で温室効果ガスの排出量を減らしていくことを視野に据えている。
 
新宅もドイツ赴任を経て、ヨーロッパ各国の環境意識に触れ、あらためてサステナビリティの重要さを痛感したという。「きちんとした商品を市場に供給し、省エネに最大限の努力を講じて、いまの生活を維持改善しないと次の世代はない」と危機感を抱きつつ、「できる限り良い景色を次の世代、子孫に残していくことにつながる仕事」と自身の仕事に誇りを持って取り組んでいる。

「空調は縁の下の力持ち、みなさまが快適に過ごせるお手伝いをするのが仕事。いま、私たちが快適さをあたりまえとして捉えているのはすごいこと。このあたりまえを、より少ないエネルギーで実現できたら、もっと世の中は良くなるはず」と新宅は力強く語る。


話を聞く中でも、キビキビした身ぶりやすっとした立ち姿が印象的だった新宅。昔から身体を動かすのが好きで、中学から続けている剣道は五段の腕前だという。師より教わった「熱意・創意・誠意」という言葉は、仕事をする上でもたいせつな指針になっている。膨大なデータ分析を緻密に組み合わせて改善案を導き出し、ただそれを人に押し付けるのではなく、自身もいっしょになって汗を流す。その姿勢はドイツでも高く評価された。
 
これまでヨーロッパ市場に日本から関わり、またドイツの中枢拠点で関わってきた新宅だが、今後は「最前線となる販売会社でマーケティング活動をしてみたい」と語る。日本では上流工程に、ドイツではおもにPurchase(購買)・Sales(販売計画)・Inventory(在庫)のPSI管理に携わってきた。前線ではとにかく売上を作ることが求められる。「どうすれば買ってもらえるかを考えることは、すごくワクワクする」と目を輝かせる。その姿は実に楽しげだ。


「やっぱり、入社して間もないころは言われた仕事に取り組むだけで精一杯でしたけど」と当時を振り返ながらも、新宅は学生に向けて「社会人はたいへんそうなイメージがあるかも知れないけど、思ったより楽しいよ!」と呼びかける。

さらに1〜2年目の若手社員に向けてはこのようなエールを送ってくれた。
「今はたいへんだと思うけれど、あなたがやっていることはきっと間違ってない。一生懸命目の前のことをやっていくと5年後、10年後に見えてくるものがある。いっしょにがんばりましょう」
 
「そして……」新宅がすこし間を置き、付け加えた言葉に何より実感がこもっていた。
「自分で本当にやりたいと思えるものを見つけることができたとき、自分にとっても周りにとっても良い結果が生まれるんです」。


▼読売中高生新聞の「シゴトビト」でも紹介されました。