私たちのクリエイティビティを刺激するレトロ家電。デザインチームがソウゾウしたのは絵で音を鳴らすインタラクティブなステレオ
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私たちのクリエイティビティを刺激するレトロ家電。デザインチームがソウゾウしたのは絵で音を鳴らすインタラクティブなステレオ

パナソニック_ソウゾウノート

レトロ家電ハックプロジェクト「リミックス」
本来のレコードプレーヤーとしての面影を残しつつ、絵で音楽を奏でるインタラクティブなステレオとしてリデザインしました。
その絵はどんな音を奏でるでしょうか。
あなたの絵を描き、そして聴いてみてください。
過去、現在、絵を描くあなた、 時代を超えた想像力のミックスがはじまります。

一見するとアンティーク家具のような、1960年代に発売されたステレオスピーカー、その名もスーパーフォニックステレオ HE-3000。松下電器時代からの商品が数多く保管されている収蔵庫で、パナソニックのデザインチーム FUTURE LIFE FACTORY(以下FLF)のメンバーはその重厚さに心を奪われました。レコードプレーヤー部分がない状態だったため誰の目にも触れられずに保管されていたこのステレオを、どのようにアップデートさせることができたのでしょうか。

以前から「古いプロダクトを改造できたら面白い」とアイデアを温めていたFLFメンバー。パナソニックミュージアムの収蔵庫での、ステレオスピーカーとの出会いから振り返ってもらいました。

存在だけで心をつかむ奥深い力

――収蔵庫では、HE-3000にこだわらずに原石を見つけるつもりが、やはりこのプロダクトは皆の心をつかむことに。最初に見たときの印象は。

川島:「ほぼ家具じゃん……! これが家電?」と衝撃を受けました。聞けば家具職人が木工技術を駆使して筐体(きょうたい)を設計していたんだそうです。家具、家電とカテゴリーが完全に分かれている現代では考えにくいことです。当時はおそらくステレオ=家具の延長線上だったのかもしれません。このステレオがそのまま自分の家にあっても十分かっこいいですよね。これをどう「リミックス」しようかとワクワクしました。

FUTURE LIFE FACTORY 川島大地

小川:まず、率直に迫力を感じました。さらに当時のくらしや音楽を奏でられていた優雅な空間をイメージさせるデザインだなと思いました。驚いたことに、アンプやスピーカーが壊れておらず、実際に音楽を流してみると不思議と現代の曲を聴くよりも、60年代の曲を聴く方がフィットしているな思いました。その時代の機器は、曲作りに何かしら影響を与えているのかなと想像すると、機器がくらしだけでなく、文化までにも影響を与えていたと思うと奥深さを感じました。

井野:まず、でかいなと(笑)。音楽プレーヤーとしては今では考えられない大きさです。今は音楽がデータ化されて、機器もごく小さく軽い物になっていますよね。何でも聴ける、どこでも聴ける、何曲でも聴ける。スマホやプレーヤーなどの機器を起点に、音楽が紐づけられている感覚です。当時は音楽を聴くためにこんなに大きなものが必要だった、それだけの価値があったんですね。大切なレコードを乗せ、ゆっくりと針を落とす所作があってこその造り。重みがあるというか……、音楽を聴く意味が違った時代にデザインできるのも面白かっただろうなあ、なんて。

SUPER PHONIC HE-3000 [1960年]

井上:収蔵庫に入った時は懐かしいなと思うものもいくつかありましたが、このステレオはさすがに見たことがありませんでした。実際に触ってみると、むしろとても新鮮に感じられました。昔はダイヤルを回して調理メニューを変える電子レンジなどがありましたが、回すごとに針が動くようなユーザーインターフェースが、今はほとんどなくなりましたからね。

マイケル:昔の商品は今のメンバーにとってはかなりなじみのないもの。「これは何だ」とあちこち開けて触って、夢中になっていました。機械を触って遊んでいるよう子どものよう。その姿を見ながらデザイナーとしてうれしくなりました。昔のプロダクトはデザインする部分が多かったけれど、最近はどんどんシンプルになっていますからね。改めてその価値や可能性を見いだせるんじゃないかな。

FUTURE LIFE FACTORY シャドヴィッツ マイケル

アナログを体感できるインタラクションとは

――収蔵庫から運び出し、60年前のプロダクトに思う存分触れたFLFメンバーたち。その構造を紐解いて感じたことは。

鈴木:当時の技術者ができる限りの技術を盛り込もうとしていた気概が伝わってきます。聞いたことのない言葉もプリントされていて、メンバーと解き明かしていくのがすごく楽しかったですね。アナログ的に試行錯誤された結果として出てきたと思われるアイデアやギミックに触れていく中で、「まだ自分たちが知らない魅力的な世界があるのでは」という冒険心が湧いてきました。この60年間で使われなくなったテクニックをもっと掘り起こして、今の時代に適用させてみたいですね。

当時の内部機構 いまだ衰えないその魅力あふれる存在感は、FLFメンバーの心を強くとらえた

――迫力のある低音が鳴るスピーカーは健在だった。今回のリミックスのアイデアはどのように固まっていきましたか。

川島:写真を見た時にまず浮かんだのは、60年前のステレオをスマートスピーカーとして作り変えるといったような「便利なもの」として活かすというアイデアでした。だけど現物を見て、フィジカルでタンジブルであることを活かす方向でアップデートできたらいいなと思い直しました。昔はつまみで操作するインターフェースが主流であったように、自分で物を操作して、その楽しみ方を体験してもらえるインタラクションができたらいいのではないかと考えました。

小川:そして音を楽しむって何だろうと考えていく中で、聴くだけでなく作る楽しさも提供できたらいいなと考えました。川島さんは「楽器を作りたい」と言っていましたよね。その発想で、音楽を作る機械としてアップデートしようとディスカッションしました。

FUTURE LIFE FACTORY 小川慧

マイケル:このチームにはデザインエンジニアが3人いるので、プログラミング的なインプットにアートとデザインを混ぜるアイデアが出た時、みんなのベクトルが完璧に一致しました。エンジニアリング、デザイン、アートの三つを融合して、このステレオで表現しようと決まりました。

井野:初めはレコード盤のような円盤に白黒のドットを付けて、音を出すタイミングを制御することから始めたんじゃないかな。それに川島くんが「色をつけたら」と提案したのが、今の形につながっていきました

川島:単純な白黒では0と1の入力しかできないけれど、カラーセンサーにしたらぐっと広がる。それこそアナログ的な音の表現ができるのではと考え、であれば「絵」を「音」に変換できるという発想に一気につながりました。メンバー全員がこのステレオに対するリスペクトがあったので、自然とレコードプレーヤーとレコード盤のような形にまとまっていったのだと思います。

どの色をどんな音に変換するかを考えるのも楽しい

往時の本質に触れられるアップデートを

――開発段階でこだわったポイントを聞かせてください。

川島:私はセンシングの部分を担当しました。プレーヤーのアームにカラーセンサーが10個付いていて、10トラック分の色を順番に読み取ります。今回はレコード盤の素材に紙を使うことで、色の読み方を工夫することができました。カラーセンサーは通常LEDで色を反射させたものを読み取りますが、紙の場合は光を透過するので下から光を当てればいい。するとターンテーブル自体が発光しているような形になりました。その発想が見た目にもすごくきれいで、センシングの精度も良く、二つの意味で成功しました。

素材とセンシングの必然性が、結果、印象的なデザインにつながった

井上:私は、カラーセンサーによって読み取られた信号を受け取って音を鳴らす部分を担当しました。読み取る色によって、ピアノ、ドラム、ベースが鳴ります。また、カラーセンサーが読み取った色をターンテーブル横で表示するインジケーターの作成も担当しました。インジケーターは何度か試作を行い、メンバーと検討を重ねながら表示内容を決めていきました。

鈴木:私はハード部分のエンジニアリングを担当しました。オリジナルの魅力である、自分の物理的な操作がスピーカーに直結している感覚を元に、つまみのインターフェースで操作することにしました。つまみを右へ回せば右回転、左へ回せば左回転と、ターンテーブルの回転方向がつまみの回す方向で変わります。さらに、回す角度が大きくなるほど回転スピードが速まり、小さくなるほどゆっくり回ります。全てタッチパネル化して未来感のあるものにもできますが、物理的なインターフェースの魅力にこだわって作りました。日ごろから、タッチ操作だけでは直感的な操作ができないのではというフラストレーションのようなものを抱えていたんです。今回のプロジェクトでは、そこにチャレンジできたことにも価値がありました。

FUTURE LIFE FACTORY 鈴木慶太

井上:このステレオには、音のリバーブの強さを光の広がりで表示する機能がありました。カバーを外して機構を確認すると、アナログ的に豆電球を上下に動かして距離を変化させることで光の広がりを表現していました。当時の人が音を表現するのに光を使っていたんです。デジタルがなかった時代のステキなアイデアで、私たちが感動したことの一つです。

井野:今回の「リミックス」では、センサーで読み込んだ色をインジケーターとしてターンテーブルの横に出しています。絵を音にするだけでなく、今鳴っている音の色が可視化される機能です。楽しみ方の拡張ですよね。後から付け足す機能という意味の付加価値ではなく、表現したい価値の本質をより良くする意味での工夫ができてすごくよかったなと思います。

FUTURE LIFE FACTORY 井野智晃

触れた人のクリエイティビティを刺激する

――リミックスを体験する人にどんなことを感じてもらいたいですか。

小川:今回このステレオのために老若男女多くの人に絵を書いていただきました。実際にその絵を聞いてみるときれいな絵であるということと良いメロディーを奏でられるのは全く関係がないんですよね。だから、子供が描く絵のほうが、お父さんよりもいいメロディーになることもありました。そういった、スキルとか固定概念を飛び越えたときに生まれる予想外の結果を楽しんでもらえたらなと思います。

絵より文字を書くほうが得意な人は文字でもいい。自分の得意を生かして音が作れるのも魅力

井野:「自分で音楽を作る=作曲家になろう」ということではなくて、自分が描いたものが違うものに変換されること自体が面白いですよね。しかも、自分の想像がつかないものになる。一方的に何かを得るだけでなく「自分が新しいもの作った」という感覚を味わってほしいです。これからのデザイナーは、人の創造性を広げる役割もあるんだと思いました。

井上:「これはどういう仕組みなんだろう」と疑問を持ったり、突き詰めてみたいと思ったりしてもらえたらいいですね。子どもたちや学生の知的探究心を刺激できたら最高です。今回は3人のデザインエンジニアが手を動かしましたが、とりわけスペシャルな技術を使っているわけではありません。「自分にもこんなものが作れるかも」と、誰かのクリエイティビティを刺激できたら嬉しいですね。

FUTURE LIFE FACTORY 井上隆司

川島:そうですね。これからDXやAI主流の世界になる。全てが見えないデジタル空間の中で行われていることなんですよね。実際のモノはどのように動いているのか、フィジカルな構造が分からないまま生きていくことになってしまいかねない。だから僕らが作るものがフィジカルな魅力を引き出すことによって、人のクリエイティブな可能性を広げたらいいなと思います。

――開発メンバーの様子を見ていてどうでしたか。

小川:機能的には新しさを感じるけれど、全体を見た時にしっかり当時の面影を残しています。例えば、正面のランプは当時の仕様と同じように電源が入ると赤く光るようにしていて、これがあるだけで当時の雰囲気にグッと近づく。このステレオが持つ元の良さをどれだけ残すかという点に注力して、そのバランス感覚を探ったんです。LEDでピカピカ光らせてDJっぽくしようかという話も出ましたよね(笑)。だけど「本質」に立ち戻り、余計な要素を加えずに形にできたんじゃないかなと思います。

マイケル:今回のプロジェクトはとてもよい経験になりました。日本のものづくりのルーツを見て、肌で感じて、その良さを改めて今の時代に出したいという気持ちでここにたどり着きました。僕たちは1カ月以上ずっと絵を描いては音を鳴らすことを繰り返しましたが、全く飽きないんですよね。毎回想像もしない新しい音が出てくる。大笑いしたり、驚きがあったり、このプロダクトを中心にした輪ができていたのが印象的でした。60年前にこの商品を発売した時の驚きが、形を変えて再現されました。皆さんがどう感じるか、多くの人に触れてみてもらいたいです。

「制作過程を通してずっと楽しかった」と話す、FLFメンバー。感動するものづくりを――。そんな先人の思いを時代を超えて受け継ぎ、つくり上げました。

「リミックス」は現在、パナソニックミュージアムで行われている「パナソニックのカタチ」展の特別企画として展示されています。期間は6月25日(土)まで。機会があればぜひお立ち寄りください。

 企画展「パナソニックのカタチ」開催中
期間:2022年6月25日(土)まで
会場:パナソニックミュージアムものづくりイズム館
大阪府門真市大字門真1006番地(京阪西三荘駅から徒歩約2分)
開館時間:10時~17時
休館日:日・祝日(企画展、イベント開催期間中など、開館時間・休館日が変更になる場合があります)
入場:無料

執筆:沖 知美 編集:末松翔平 写真:吉間完次

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一人ひとりが、いま以上の「いま」をソウゾウしてゆくために。パナソニックの公式note「ソウゾウノート」は、<あしたのソウゾウが響き合う>をコンセプトに、毎日の営みのなかでこれからの道をソウゾウしていく場所です。みなさんがソウゾウしたことも教えてくださいね。