デジタルとフィジカルの価値融合を模索する『未完成の未来 FUTURE PROTOTYPE展』
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デジタルとフィジカルの価値融合を模索する『未完成の未来 FUTURE PROTOTYPE展』

パナソニック_ソウゾウノート

2021年11月8日~14日の7日間、二子玉川蔦屋書店にて「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」による展示『未完成の未来 FUTURE PROTOTYPE展』が開催されました。

テーマは「デジタルとフィジカルの価値融合によるプロダクトの可能性」。「BALANCE」「SONIC」「SYNC」「TANGIBLE」「SAFE」「TEXTURE」と名付けた新たな6つのアイデアを、プロトタイプとして公開しました。

今回はFUTURE LIFE FACTORYのメンバーそれぞれが制作したプロトタイプについて、アイデアに至った背景やこだわりについてインタビュー。その様子をお届けします。

デジタルとフィジカルが融合する人間らしい豊かなくらしに向けたアイデア

【BALANCE】スマートフォンの記録から、2つのデータを比較する天秤

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「睡眠時間」と「スマホを使う時間」、「運動量」と「摂取カロリー」など、スマートフォンに記録された2つの行動データを左右に乗せて比較する天秤「BALANCE」。

日々暮らしの中で左右に揺れる天秤を見て、自分の行動の偏りに気づくようにという、井野氏の思いによって作られたプロトタイプです。

「デジタル情報をハードウェアでどう可視化するかを考え、昔から馴染みのあるアナログなもの=天秤をモチーフにしました。月ごとの行動量の総計よりも、日々の変化を比較できると面白いと思うんですよね。リビングに置いておくと、なんとなく自分の生活バランスが崩れていることにも気づける」

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制作担当者:井野 智晃

比較できるのは「収入」と「支出」といったオーソドックスなものに始まり、「インプット」と「アウトプット」などのユニークなものも。天秤の棒は、LEDでそれぞれのアプリのアイコンの色に光る仕組みになっています。

現状は自分自身の定量的な2つのデータの比較が可能ですが、ゆくゆくは「家族のコミュニケーション量」を可視化したり、「世界と自分のCO2排出量」を比較して自身のポジションを認識できたりすると、さらに面白くなりそうだと井野氏は語ります。

インテリアとしても馴染むものになれば、より活用方法が広がっていきそうです

【SONIC】世界中の人々が集めた“地域の音”が聞こえる地球儀

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「SONIC」はスピーカーを搭載した地球儀型のプラスチックモデル。側面にあいた穴に専用のピンを刺して回転させることで、森の中の自然音や電車の音など、それぞれの“地域の音”を聞くことができます。

これらの音は、世界中の人々がスマートフォンなどで、GPSの位置情報とともにアップロードしたデータベース上の音源が使用されています。日本では電車のモーター音が多いなど、国や地域によっても差があるそうです。

制作担当のマイケル氏は昨年、緊急事態宣言によって急に街が静かになったことから着想を得て、さまざまな時代や環境の変化を「音」を通じてアプトプットできるのではないかと、今回のプロトタイプを考案。

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制作担当者:シャドヴィッツ マイケル

マイケル氏は、もともと社内でオーディオ製品の担当をしていたこともあり、音に関するマイクロデータに興味があったのだそう。

「今後は個人が録った音にプラスして、企業が集めている音のデータなどを集めて解析していきたいです。今回みたいに地域の音を楽しんで旅行している感覚を味わうエンターテインメントな使い方をするのも一つだし、同じデータを使って環境問題の解決に繋がるようなアウトプットができたら面白いと思います」

普段わたしたち人間が周りの音に無関心なことへの意識づけとして、音をビジュアライズしてゲーム性を持たせたプロダクトも面白いかもしれない、とマイケル氏。さらなる展開が楽しみです。

【TANGIBLE】財布のように膨らみ、“残高”の実感を持たせるデバイス

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コロナ禍によって、社会のデジタル化はさらに加速。硬貨を使わないキャッシュレス決済が主流になったこともその一つですが、同時に支払う感覚が失われているのも実情。お金が減っている実感を持てず、気づいたら使いすぎてしまったという人も多いはず。

そんな課題意識から考案されたのが、この「TANGIBLE」。電子マネーのSuicaでタッチすると残高のぶんだけ膨らむような仕掛けになっていて、残高が0になると内蔵されたLEDライトが赤く光ります。

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制作担当者:川島 大地

このプロトタイプの時点でかなり努力したものの、本当はさらに小さくしたかったと語るのは制作担当者の川島氏。

「より小さくしてスマホケースのようにスマートフォンと一体化させられたらなと。残高に応じて膨らむ財布のようなイメージです。形のないデジタルなお金の増減をフィジカルに感じられることで、実際に使いすぎが抑えられたらいいですよね。実用的だと感じる人は少ないかもしれないけれど、そういう未来もあったら面白いよなと思ってもらえたら」

他にも、財布のメタファーとして残高が多いと財布の紐がゆるみ、少なくなると締まるというアイデアも出ていたのだとか。

何でもかんでもデジタル化していくことがはたして良いのか。今後も問いを続けながら、デジタルとフィジカルの融合を目指したプロダクトを考えていくと言います。

【SYNC】“ありがとう”で光と風を放つ、雰囲気づくりの立役者

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“ありがとう”などのポジティブな言葉に反応し、内部から光と風が出る「SYNC」。フラクタル構造を用いた自然を想起させるデザインになっています。

誕生の背景には、コロナ禍のステイホームが叫ばれる状況下で、深刻な家庭内不和が起きているというニュースを聞いたことでした。

「自分自身、家庭の雰囲気を良くするために『ありがとう』ときちんと伝えるようにしています。そこに着想を得て、お礼の言葉や笑い声といったポジティブな言動をきっかけに、家庭に良い雰囲気が醸成されるようなプロダクトが提案できないだろうか、と考えました」

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制作担当者:井上 隆司

家に観葉植物を置く人が増えたことも踏まえ、「SYNC」を植物の横に置いて“ありがとう”の言葉を聞き取ると同時に植物に光と風を与え、家族も植物も良い空気や雰囲気に包まれて欲しいと話します。植物に光が当たると、木漏れ日のような美しさを視覚的にも楽しめます。

現状は感謝の言葉に反応するシンプルな設計だが、発展して声の主の感情や体調を感知して違う光り方をするなど、表現の幅を増やしていけたら面白いかもしれない、と井上氏。

家庭だけでなくオフィスなど、コミュニケーションが生まれるさまざまな場での活用が見込めそうです。

【SAFE】“波の音”で安全な道を教えてくれる、見守りデバイス

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「SAFE」は耳に当てて使用するストラップ型のデバイス。内蔵されたGPSが場所を検知し、オープンデータから今いる場所が安全か危険かを音で知らせます。

世の中には個人から取得した情報を、プライバシーに配慮し、誰でも使える形で公表したさまざまなオープンデータが存在します。しかしそれらを活用しているのは、官公庁や自治体、企業などがメイン。

そこで一般消費者がより小さいサイクルでデータ活用できたらいいのではと考えて作られたのが、この「SAFE」です。

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制作担当者:鈴木 慶太

今回のプロトタイプ版では交通事故に関するオープンデータを使用し、耳に当てて外を出歩いた際に、事故の多い場所を向くとアラームが、安全な場所であれば“波の音”が聴こえる仕掛けに。

「波の音は、子どもたちが海で貝殻を耳に当てる動作から着想を得ました。歩きスマホは社会的にも問題になっているので、視界を遮らずに情報を伝えられるよう、音を聴く形にしています。ただ、音も空間を把握するのに重要な要素なので、光や振動など別の伝え方も検討したいですね」と鈴木氏。

他にも「おむつが交換できるトイレの場所」など、まだ上手く活用されていないけれど社会的に有意義なオープンデータが多数あるのだそう。それらを一般消費者が活用できるような橋渡しをしていきたいと鈴木氏は語ります。

【TEXTURE】リアルな食べ物の噛み応えを体験できる“食感VR”

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自分が噛む動作に合わせて音と振動をリアルに体感できる食のVR「TEXTURE」。

制作担当者の小川氏は「今後仮想現実が普及していく世界で、リアルでしか体験出来ない食をVR化できないかと思って取り組みました」と語ります。誕生の背景には、ご自身の祖母との思い出がありました。

「祖母が亡くなる直前、お寿司を口の中で味わって泣いて感動したことがありました。すでに食べ物を飲み込めない状態でしたが、食を味わうためには食感も非常に大事な要素だと感じたのです」

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制作担当者:小川 慧

プロトタイプ版では、顎の筋肉への振動と咀嚼に合わせた効果音により、唐揚げを食べているかのような体験を提供。

嚥下障害などで硬いものが食べられない人にも食感を味わってもらえるほか、デバイスを通じて噛むのを促すことで、健康面での良い効果も期待しているのだそう。

食感の拡張と変換によって、食体験を豊かにできる可能性を大いに感じている小川氏。ASMRのような新しい食のエンターテイメントとしての可能性も模索しつつ、まずは体験しやすさを追及していくと言います。

見た人の想像性を膨らませるアイデアを展示したかった

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「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」の井野智晃氏に、今回の展示全体を通しての思いや、今後の展望について聞きました。

ーー今回「未完成の未来 FUTURE PROTO TYPING」をタイトルに据えた理由を教えてください。


井野:そもそも、未来って誰にもわからないし、答えがないじゃないですか。だからこそ僕らは、具体のない未来に対して仮の答えを作ってきたのですが、今までの展示会はある意味、自分たちの答えを押し付けてしまっている部分があったなと。それだと「いる・いらない」で終わってしまうことが多かったんですよね。

だから、あえて未完成の状態でプロダクトを見せることで得られる反応や広がっていくアイデアを知りたかったというのが一番の大きな理由です。

ーーなるほど。今回そこに踏み切ったきっかけはあったのでしょうか?

井野:今までも「余白を残すことで、その余白をみんなで考える」という考え方だったけれど、実際にはできていなかったんですよね。説明しすぎていたせいで、来てくれた人も「あったらいいよね~」で終わってしまう。やっぱり見た人の想像性を膨らませるアイデアを展示したいと思っていた。

今回の展示では、アイデアの本質的な部分だけをプロダクト化し、お客さんに何らかの着想を持って帰っていただくことこだわりました。

ーー今年のテーマを「デジタルとフィジカルの価値融合によるプロダクトの可能性」としたのは、どういった背景からだったのでしょうか。

井野:世の中の動きとしてもクリエイターの肌感覚としても、メタバースの盛り上がりを感じていました。正直「バーチャルな世界で暮らすって何だ?」って思っていたんだけど、いざ実際に体験してみると「やっぱりこの世界が来るかもしれないな」という感覚とそれに伴う課題意識を持ち始めたんです。

現実の暮らしでの課題をバーチャル世界でまた作ってしまったら面白くないなと。そういうことも踏まえて、今回はデジタルとフィジカルが融合する人間らしい豊かな暮らしに向けたアイデアをプロトタイプにしました。

ーー今回の展示では、チームの一人ひとりがアイデアを持ち寄るという形式ですが、そういうした理由は?

井野:やはり、個人の思いがすごく大事だと考えているからですかね。みんなでブレストして投票していいアイデアを集めたら面白くなくなっちゃうってこと、よくあるじゃないですか(笑)。アイデアって、思いついたときの状態がやっぱり一番純度が高いし、課題に対する意識も高いし、尖り具合も強い。

最終的に一人が責任を持ってアイデアを仕上げていくことが、新しくて面白いことに繋がると思うんです。そういう意味で、今回は初めて一人一つ担当を持って展示する形式にしました。

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ーーそうなんですね。チームに長く在籍する井野さんも、他の作品には特に口出しせず?

井野:「これを作ろう」と決めてからは、各々好き勝手に作ったという感じですね。FLFはプロダクトデザイナー3名、デザインエンジニア3名という少し特殊な構成なので、エンジニアの作品はデザイナーにもフォローしてもらっていました。

お互いが作るものを見て、ライバル心じゃないけれどいい刺激にもなっていましたね。アプトプット全体のクオリティが上がっていく効果もあったかなと。

ーー来場したお客さんの反応はいかがでしたか?

井野:今回、外の制作会社を使わずに3Dプリンタを使って自分たちだけで作ったので、「こんなものを作れる世の中になっちゃったんですね」と驚く方が多かったですね。中には通信関係の仕事をしていて、未来の暮らし方のヒントをもらいに来たという方もいて、「すごく参考になった」と。

「こういう未来が来てもいいんじゃないか」という思いで僕らも展示しているので、それが伝わったのかなとうれしかったですね。

ーーお客さん自身が答えや可能性を見つけて持ち帰る感じがいいですね。最後に、今後こんな展示やプロジェクトをやっていきたいという構想があれば教えてください。

井野:今回はプロトタイプとして形にするということを大事にしていたので、必ずしも理想の姿ではない部分もありました。だから、次の段階ではプロトタイプでできる範囲を超えて、もう少しコンセプチュアルなものを提案して作っていけたらなと思います。

あとは社会や家、個人の内面のように、もう少し広い範囲でデジタルとフィジカルの融合をデザインとして作ることも考えたいですね。今回の展示のフィードバックを踏まえながら次の展示に向けて動いていきたいと思います。

執筆:むらやま あき
編集:イノウ マサヒロ
写真:鶴本正秀


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