専鋭化により技術はさらに飛躍する「気づけば無心でハードルに挑んでいた、そう思える環境を整えたい」〜パナソニックグループ CTO(最高技術責任者) 小川 立夫 インタビュー〜
2022年4月パナソニック株式会社は事業会社制へ移行し、絞り込んだ成長領域において高い専門性を有する戦闘集団へと脱皮を図ります。「モノ」から「コト」へと世の中の動向が変わりつつあり、技術ありきの商品開発では必ずしも支持を得られなくなってきました。しかし、「コト」を実現するにも、技術なしではできません。今回は、パナソニックグループCTO(最高技術責任者)に就任した小川 立夫に、「新生パナソニックグループで技術者が輝くために」をテーマに話を聞きました。
INTERVIEW
~とんでもない成果は「やりたくて仕方ない」の先にある~
CTOというパナソニックグループの技術を統括する立場として、これからどのようなことをめざしますか。
まずは、パナソニックグループの技術がもっと輝くために、チャレンジを後押しする環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。人がいちばん力を発揮するのは、言われて仕方なくやるよりも、脇目も振らず無我夢中で向き合った時。「そんなに高く飛べと言われていなかったのに、気づいたら飛んでいた」という人をどれだけ増やせるか、それが最大のミッションです。
誰かと示し合わせた最低限の目標をめざすよりも、自分が興味を持つ高いハードルに挑戦した方が本人も会社も多くの蓄積を得られます。本人がブレーキを踏んでいる意識はなくても、全力を出し切れていないケースも少なくありません。そのためには、マネージャー層も巻き込んで、開発に打ち込める時間を増やすような働きかけが最優先です。
私が恵まれていたのは、さまざまなチャレンジができたこと。入社7年目の時、樹脂多層基板ALIVHの量産フェーズを担当しましたが、それまでの先行開発と違って、まるで未知の世界でした。急速に伸びゆく需要に応えるために次々に新設される製造ラインの立ち上げに1から参画し、技術ライセンス供与に際して担当材料の試験の規格を決めたり......。技術者には、ぜひ挑戦の機会を多く持ってほしいと考えています。
以前のインタビューで「サービスにビジネスの基軸がシフトしても、そのサービスを使うためのインターフェースには必ずモノが介在する」と話されていたのが印象的です。
その考えは全く変わりません。大量生産・大量消費の次は、個別の要望にお応えして「よくぞ私のためにつくってくれた」と思ってもらうのが大事な時代です。パナソニックグループほどお客さまとの接点が多い会社は他になく、専鋭化(絞り込んだ領域において、競争力を徹底して磨き上げることを意味するパナソニックグループの造語)によりタテを強くすれば、より深いコミットができます。
一方で、専鋭化に伴い、社内外の強みを掛け合わせるクロスバリューが減少すると懸念する声も。確かに、人によって環境は一変するでしょう。担当分野がはっきりする人、技術の組み合わせが必要となる人、社外を含めたパートナーとのネットワークで何かをつくり上げていく人。そうした変化を受け止めながら、社会にお役立ちしていくためには、今後単独では立ち行かないプロジェクトも増えてくる。つまり、プロジェクトの形は、従来とは変わっていかなくてはなりません。
どういうネットワークを形成すれば目的を果たせるかを考えて、今までの枠組みを超えて、柔軟にキーパーソンがつながることが重要です。そこでは、パナソニックグループがハブになったり、時に社外パートナーとして協力したりと、いろいろな形があるはず。社内のプレーヤーがどうつながるかに加えて、「一緒にやりたい」と興味を持ってくれている社外のパートナーをどう巻き込んでいくかも鍵になるでしょう。
とはいえ、人的ネットワークを生み出すために、私たちがガチガチのしくみをつくるつもりはありません。素早くスタートを決めて、素早く失敗して、その先にある成功に素早く到達する。大事なのは、個人が思いを持ってプロジェクトに打ち込める環境と、必要なときに必要な人がつながれる仕掛けです。
技術者に求められるものも変わっていきそうですね。
どんな世の中になっても、技術者には3つの要素が必要です。自分野における最先端の追究、「分からなければすぐ検索」の潮流に流されない探究心、そして、誰の役に立つ技術かに向き合う気持ち。難しく複雑なことを分からないまま抱え続けて、いつかは解決してやろうと、答えがない問いにどこまでも食らいついていく「知的肺活量」は、開発において忘れてはいけません。
また、どんな仕事もその先には受け手がいる。誰にどんなパスを出すか、それを意識するだけで日々の仕事が変わってくるでしょう。ただし、「なんとしてもこの技術で世界一をめざす」という技術者もいますし、それはそれでアリ(笑)。その多様性もまた、パナソニックグループの力になるはずです。
一方で、環境の変化は素直に受け入れていかねばなりません。DX(デジタルトランスフォーメーション)はあくまで手段に過ぎませんが、すでに勝負の答えが出ていたり、戦いの土俵が変わっていたりする場合は、その認識が大切です。データドリブンな研究開発について、吸収すべきことはしっかりキャッチアップしていく必要があります。
最終的な判断を左右するのは、いつも人の想いです。「この仕事に意味がある」と思わないと何かに打ち込むことは難しく、開発のための開発、技術のための技術では深まっていかないと、私は常々考えています。コロナ禍は「生きる上で何が大事か」という価値観の変容をもたらしました。
エネルギーを取り巻く環境や水を含めた食料問題、または、コミュニティやコミュニケーション、地域と社会のデザインなどは、今後さらに光が当たります。その分野で多くの接点を持つ、パナソニックグループのポテンシャルは十分。新しいプロジェクトを仕掛けて、新しい技術や事業をつくっていくんだというマインドをみんなが持てば、ダイナミズムにあふれた会社になれるでしょう。
ITツールが普及し、場所や時間の制約なくコミュニケーションができる環境に移行できたのは大きな収穫でした。ただ、アイディアを生み出す際には、腹を割って思いをぶつける場面も必要になってくる。この2つをうまく使い分けて、新しいパナソニックグループをつくってもらいたいと思います。
パナソニックグループには、社内の優れた技術開発を表彰する制度があります。
パナソニックグループの技術表彰(社内表彰制度)は、大きなハードルを越えて事業貢献を実現した優れた技術開発の栄誉をたたえるものとして長年続いています。外部の表彰では研究開発の山崎貞一賞、工業化の市村産業賞や大河内賞などが著名ですが、社内の「パナソニック技術賞」は、それに比肩する存在です。
学術的かつ産業社会文化へ貢献している「科学賞」や圧倒的な知的財産権を確立した「発明賞」、ひとつの技術を突き詰めた「中尾記念賞」など、世の中を変える貢献をした技術に贈られます。また社内で開催される「総合技術シンポジウム」における優れた技術、それが商品につながった商品表彰などは、どれも有機的につながっています。社内の技術表彰を通して、全体の活性化や本人のモチベーションアップにつながれば言うことはありません。
また、目覚ましい技術開発の背景には素晴らしい仕事のやり方が伴います。技術表彰によりそうした手法やマインドに光が当たることで、技術開発のさらなる発展を後押しします。
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*記事の内容は取材当時のものです。
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