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暑い寒いは窓の向こう、桁違いの薄さと高断熱。〜真空断熱ガラス Glavenir〜

社会課題を解決し、世の中に新しい価値を生み出していくために。パナソニックは技術革新だけでなく、これまでにないソリューションやサービスの開発に挑み続けています。今回は、PDPの真空パネル技術を応用した真空断熱ガラス「Glavenir」の開発チームにインタビューしました。

・製品名: 真空断熱ガラス Glavenir(グラベニール)
・担当  :パナソニック インダストリー株式会社
*記事の内容は取材当時のものです。

薄くて美しいフォルム、鉛フリーの環境性能を両立させた「Glavenir」。その厚みはわずか6mm。従来の高断熱ガラスは30mm以上で、桁違いの薄さです。断熱性能を表す「U値(熱貫流率)」は0.7W/㎡・Kと、一般的なガラスの約8倍の性能。さらに8mmで強化ガラス仕様とした第二世代では、U値を0.58W/㎡・Kに低減しています。まさに比類なき高断熱ガラス。その源流はパナソニック(株)の社内カンパニーである旧AVCネットワークス社(現 コネクティッドソリューションズ社)のPDP開発の応用に始まります。社内および社外の異なる強みを掛け合わせることで窓ガラス業界最大手のAGC社ともパートナー協定を結び、欧州での販売へと発展しています。

*「Glavenir」は2020年度(令和2年度)省エネ大賞において、最高賞である経済産業大臣賞を受賞

PDP技術を応用した真似のできない真空断熱ガラス。

Glavenirの薄さは、2枚のガラスの間にわずか0.1mmの真空層を挟み込む、真空ガラス(VIG:Vacuum Insulated Glass)の構造によって生まれています。どこにでもある単板ガラスのように薄い6mmのGlavenirは、既存の窓枠のままで高断熱ガラスに交換ができる新しい選択肢を提供します。ガラス商材を扱うメーカー各社は長年にわたって性能を追求してきましたがその厚みは増す一方で、ガラスとガラスの間にガス層を設ける構造上、薄型化は困難とされてきました。「2枚のガラス板で真空層を挟む......。PDPの真空パネル技術を応用できるかもしれない」と、旧AVCネットワークス社で瓜生英一が、VIGの試作に挑み始めたのは2011年のこと。それから約6年。PDP事業の撤退で廃棄されるはずだった真空封着排気炉をはじめとする機器類は、その原型をとどめたまま、VIGの製造ラインへと生まれ変わりました。尼崎工場から場所を移し、独自のカスタマイズを繰り返した「どこにもなかった製造ライン」です。

業界最大手AGC社とのタッグで最大市場、欧州に打って出る。

膨大な窓市場がある欧州の街並み

VIGの付加価値を評価していただき、2017年にパートナー協定を結んだのは、ガラス業界の最大手AGC社です。特に寒さ厳しく、規制も厳しい欧州は高断熱ガラスの世界最大市場で、同地に拠点を置くAGC社はかねてVIGの欧州での市場性を高く評価していました。55億の窓があるとも言われる、欧州の既築市場。厳冬の地にもかかわらず、建物の外観の変更制約のために今でも単板ガラスが多く、風致地区では100年以上も使われている窓ガラスがあります。

外気の影響を抑え、空調の環境性能にも寄与する高断熱ガラスが、厚さ6mmで実現する――。AGC社はパナソニックとの協業を決断、2019年、ベルギー拠点に専用の製造ラインが誕生。同社が張り巡らす販路から、VIGは欧州各地に届けられています。もう一つ、社内のCVで実用化に至ったのがハスマンの手掛ける冷蔵室用のドアです。VIGの薄さを生かしつつ、もう1枚のガラスを合わせた高断熱構造。PDPで培われた鉛フリーの技術とともに、厳しいアメリカのエネルギー規制にも合致する、環境にやさしいドアを実現しています。

材料から工法・生産設備まで、連鎖するGlavenirの価値。

これまでの他社製VIGと異なる外観が、ガラスの縁に引かれた1本の線です。これは、紫外線等による経年変化で真空層内に生じるガスを、数十年間も吸着し続ける特殊な部材。開発陣が「真空断熱パネル(VIP)の材料を試してみたい」とパナソニック(株)の社内カンパニーの1つであるアプライアンス社(以下AP社)独自の材料、気体吸着材に着目し、塗布工法を開発してVIGへの転用に成功しました。また、真空に引くための排気孔がガラスの隅に突起として残ってしまう従来品と、独自の工法によりその形跡がないGlavenir。

一目でデザインの優劣が分かります。さらに、ガラスの間を支える基幹材料、ピラーの配置にはこちらもパナソニック(株)の社内カンパニーの1つであるライフソリューションズ社(以下LS社)で開発されたマウント装置が生かされ、生産設備にも社内技術が息づいています。欧州から始まったライセンス事業は今後他地域へ展開、さらにはモビリティ分野へのチャレンジなど、Glavenirは新たなブルーオーシャンに向け羽ばたこうとしています。

<瓜生 英一/VIG起案・開発担当>パナソニックだからできた、これが衆知を集めるモノづくり。

部門トップに直談判し、何とか廃棄を免れたのがこのPDPのガラスパネル(103インチ)を製造する装置。同時に私は志願して異動し、この事業に打ち込んできました。PDP研究を基礎に、AP社とのCVで実現したVIGが、ガラス業界で認められ、技術者としてこれ以上の喜びはありません。協業先の技術者とは何度も訪問しあい、心を許せる仲に。なかでも、米ハスマン社の技術者とは個人的な交流も続いています。VIGでつながった縁ですね(笑)。PDP技術の転地には反対意見も多かったし、それ以上に後押ししてくれた方も多い。「おもしろい、やってみる価値がある」と言ってくださった津賀社長もそのひとりです。

<石橋 将/技術開発>プラズマの世界もVIGも、難しくて、おもしろいことばかり。

社会人になった時から関わってきたPDPの技術。放電には未知な部分もあり、制御の難しさが、おもしろさでもありました。VIGでは、開発当初から「製造プロセスの低温化」を任され、これにより強化ガラス仕様のVIGを実現しました。強化ガラス仕様の開発で、改めて感じたのは材料・デバイスのおもしろさです。ガラスの強度を保つためシール材を低温化する一方で、シール材に混ぜる樹脂が残ると、後にガス化して断熱性能が出ません。最適な樹脂と配合を、材料メーカーと何度も繰り返し検討しました。こうして技術をつなぎ、積み上げることが開発のおもしろさであり醍醐味と感じています。瓜生さんから受け継いだ思い、「この技術が地球環境、人類のためになる」を大切に、社会貢献につながる仕事を続けていきます。

<木村 猛/推進責任者>最良のパートナーとともに、欧州から始まる夢、その先へ。

初めてベルギーのAGC社を訪れた日をよく覚えています。大きな会議室にずらっと並ばれたガラスのエキスパートの方々。まるでドラマのワンシーンの始まりのようでした。そして同時にそこには膨大な市場があることも肌で感じることができました。その後、開発部門、生産技術部門、知財・契約部門とともに幾多の交渉が続きました。2年後、再訪問したそこには欧州初となる真新しいVIGのラインが。目にした瞬間に胸がいっぱいになりました。「ようやくここまで来た」と。私の夢は当社の綱領に照らして、世界中の窓にわれわれの技術でできたVIGが入り、人々に快適な暮らしを実感していただくこと。もうひとつは、断熱ガラスがほとんどない車載用に技術展開し、電気自動車の当たり前にすること。ガラスでは門外漢の私は恥もかきながら事業化に突き進んできました。これからも失敗を恐れず、スピード感を持って挑戦し続けます。

<坪山 博之/事業企画>Glavenirの実力は間違いない、グローバルに市場を開拓、規模感アップ。

米ハスマン社への採用はVIGにもう1枚ガラスを合わせるアイディアが突破口になり、実用化が一気に進展しました。私は以前、プラズマテレビの海外営業も担当していましたが、プラズマテレビで培った真空技術の価値を実感したのは、AGC社の技術者を製造ラインにご案内した時。予定時間を過ぎてもまるで終わらない質疑応答、「ガラスの専門家が、くぎ付けになっている」と瓜生さんら技術者の力を思い知りました。欧州トップのAGC社が認めたとおり、ものは間違いない。しかし現状は、従来品との価格差に課題があります。今後はグローバル市場でお客さまにどんどん採用いただき、ドカン!と注文を受けられるくらいに生産規模を大きくし、コストの敷居をさげていきたい。Glavenirの良さに規模感が一致してくる、理想的な1点が必ずあるはずです。

<清水 丈司/生産技術>新たな技術を開発し続け、世界中の断熱ガラスをVIGに。

「103インチPDP専用の生産設備で、どうVIGをつくるか?」初期開発メンバーの野中さんに誘われて4年前に異動してきた時の命題です。当時は全て手探りで、試行錯誤しながらVIG用にプロセスをアレンジし、オリジナル設備を開発して何とか試作ラインを完成させました。試作ができれば量産化、効率化、そして高付加価値VIGの工法開発と、技術の進化に終わりはありません。欧州初のVIG工場となるAGC社のベルギー工場での設備立ち上げ、現在は次世代の生産ライン開発を進め、従来の数倍もの生産性のある量産ラインを日本に構築しました。今後もグローバルで工場建設に携わっていく予定です。私の夢は、PDP時代に全てのテレビをブラウン管から薄型TVに変えたように、世界中の断熱ガラスをVIGに変えていく、夢のVIGへ進化させることです。

<長谷川 賢治/商品開発>ディスプレイやモビリティ、VIGをさらに幅広い用途に。

PDP技術をVIGに生かし、ゆくゆくは合わせガラスやディスプレイとの一体化も......。私はイメージを膨らませながら、瓜生さんと一緒に異動してきたメンバーです。CES2020の出展で多くの方にご覧いただいたサイネージ、Glavenirを貼り合わせたAP社の透明ディスプレイは、そうした非住宅用途のひとつ。まず、透明ディスプレイに多くの方が驚かれ、「熱に弱いOLEDを、VIGで守る」と話すと、2度驚かれる。ブースで多くのモビリティメーカーにもVIGの効果をご説明できました。車両にVIGを適用しようとすると、3次元曲面および異形形状への対応や、安全性の確保など車両用ガラスへの課題は多いですが、お客さまの期待感をひしひしと感じます。電動車両の消費電力軽減に役立つモビリティ向けのVIGは、ハウジング事業の拡大と並ぶ、私たちの大きな目標です。

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