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「できる」の違いを、尊重し合いたい。車椅子ユーザー・堤志歩さん / 夫・堤大洋さんインタビュー

人にやさしいモノづくり。それはパナソニックの、創業以来のDNAです。
そして今、その考えをさらに進化させ、インクルーシブデザインに取り組んでいます。様々な視点を持つ人たちと対話を重ね、今まで見落とされていた声を拾い上げ、一緒に解決策を考える。
このアプローチで、あたらしい「やさしさ」のかたちを追求し、みんなが幸せになれる未来を目指していきます。

Panasonic Inclusive Designサイトより

障害の有無と聞くと、個人が抱える課題と思う方もいるかもしれません。しかし「障害」とは本人にある要因と環境にある要因が相互に影響して生まれるものであるため、環境や製品が対応していれば、それは顕在化しないと言われています。どんな人も安心して心地よく暮らせる環境をつくるためには、テクノロジーの活用はもちろん、それぞれの違いに目を向け、発見し、新たなアイディアに変えていくための視点が必要です。
パナソニックでは、4組の方々のそれぞれに違う「ふつう」の日常から、私たちが目指すべき「やさしさ」のかたちを改めて見つめ、動画を公開しています。そこで今回は、動画に出演してくださった京都在住のご夫婦、車椅子ユーザーの堤志歩(つつみしほ)さんと夫の堤大洋(つつみともひろ)さんに、今、社会に必要だと感じる視点と、おふたりらしい暮らしのあり方についてお話を伺いました。


お互いの“できる”を尊重し合う、
ということ

―― 本当にとっても素敵なお家ですね。おふたりは普段どんな生活を送っていらっしゃるのでしょう?

志歩さん
「私は今、主婦をしながらたまにイラストのお仕事をしています。」
 
大洋さん
「僕は今、企業に勤めています。リモートワークで家で仕事したり、出社したりです。」
 
志歩さん
「ゲームが大好きなので、よく一緒にゲームをしたりもします。とにかく喋るというか、お互いに一番話す相手ですね。」

―― 以前、パナソニックのウェブマガジン「UP LIFE」というメディアでのインタビューで家事の分担についてお話しされていましたが、とても仲良く、自然にサポートし合う関係性が印象的でした。

大洋さん
「妻が物理的にできないことは絶対にできないとわかっているので、実は一回も分担の話をしたことがないんです。相手ができないことを僕は全部やる、できることは全部やってね、っていうだけなんです。」
 
志歩さん
「もちろんできることはやりつつ、怠けてると怒られていますね。怠けてる自覚があるので謝りますが(笑)。その点で言うと、この体になったことで逆にスムーズという感覚もあるんです。前だったら、自分ができることって相手もできるって思ってしまったり、私はこう思ってるからあなたもこう思ってるだろうって考えてしまうこともあったのですが。できることをそれぞれがやる、で成り立っているなと。」


左から、大洋さん(男性)と志歩さん(女性)がテーブルを挟んで向かい合って談笑している
大洋さんと志歩さん

大洋さん
「家事に関しては、今は妻がメインでやっているので、家電とかすごく詳しいですよ。」
 
志歩さん
「私は社会人になってから病気でこの身体になったのですが、例えばお風呂掃除では、奥の方や浴槽は洗えないので、初めて棒付きブラシを探しました。探せば必要なものってあると思うのですが、困りごとに合わせたサイトがあるわけではないので、情報にたどり着くのも大変さがあります。どうやって検索しよう?とか。でも、時間はかかっても何かが“できる”っていうことがやっぱり嬉しいので、やるための工夫やツールを探して、それでもできないことは補ってもらいます。」

―― それぞれができること / できないことを知る、共有することが大事なのかなと感じました。お家の中ではその共有ができていたとしても、社会に出た時に難しさを感じることはありますか?

志歩さん
「例えば、エレベーターや多目的トイレ、車いすマークのある駐車場などは本当にここしか使うことができない人間がいるっていうことを知ってほしいなという気持ちはあります。電車内の車椅子やベビーカーのためのスペースって、立ちやすいからいつも人がいたりして。もちろん目に見える障害だけがある人ばかりではないので、皆が気持ちよく使えたらいいなと思うのですが、どうしても私たちには選択肢が限られているから。」
 
大洋さん
「僕もよく考えたら、高校生の時などはあの場所に立っていたなと。自分に関係ないと、なぜそのスペースが必要かという認識すらないですもんね。どうやったら、もう少しその必要性に対する認知を広められるんやろなって思います。」
 
志歩さん
「あとはバリアフリーって謳っていたとしても、旅行先のホテルが実は実用的になっていない、などはよくあるんです。手すりはついているけれど、高さが合っていないとか、車椅子OKと言われていても実際に行ってみたらすごい坂道でどう考えても脱輪しちゃうとか。決められた基準をクリアしていても、本当にできるかどうかが別の話になっていて。絶対に行きます!って約束するので、できればつくる段階で監修とかに入らせていただきたいくらい。」
 
大洋さん
「最近はユニバーサルデザインなグッズを、自分達で作りたいねという話もしていますね。」

「暮らしやすさ」に必要な
デザインへの視点

―― 車椅子用の方の割烹着を作った記事を拝見しました。当事者の視点からもっとこういった製品が増えたらいいのに、ということはありますか?

志歩さんの割烹着

志歩さん
「たくさんあります!割烹着で言うと、座りながら料理すると、すごくゴミが出るんですよ。基本的に物との距離が近いから、粉や油なども汚れがつきやすいんですね。だから形に工夫をして友人が作ってくれて。」

割烹着姿で料理をする志歩さん

「あとは例えば、車椅子を漕ぐ時に冬場やと手袋をつけるのですが、すごく滑るんですよ。だから軍手とかになってしまって。でもやっぱりデザインは気になるので、滑り止め部分がかわいくなっているだけで嬉しいな、とか。シャワーチェアなども、我が家には合わせづらいなと感じる色使いが多いんです。もちろん視認性も考えて作られてるので悪くは言えないけれど、見た目に工夫があったらもっと楽しくなるのにと思うことはあります。」

―― デザインと機能、どちらの面でも気になる部分が多いでしょうか。

志歩さん
「海外製のモノだとデザインはシンプルで良くても、やっぱりちょっとわかりにくさもあったりするじゃないですか。ただその一方で、国内製の白物家電に関しては、車椅子で暮らしてる自分にはちょっと足りない部分があったりもするんですね。車椅子だと土なども家に持って入ってきてしまうので、ロボット掃除機の吸引力は必須なんです。海外って土足文化だったりするから、多分文化の違いの前提が関係してる。」
 
大洋さん
「掃除機に関しては、もう4台目だよね。色々試しているので、サブスクリプションのサービスなどが当たり前になると嬉しいんですけどね。」

―― それぞれの都合に合わせると、どちらかが使いづらくなってしまうと感じる点もありますか?

大洋さん
「僕たちの場合は、掃除機の長さもそうですし、キッチンなど高さが問題になることが多いです。全部妻仕様にしているので、僕がやると腰が痛くなるんですよ。可動式のものや身体に合わせて調整可能なものがあればいいな、と思いますね。」
 
志歩さん
「そういった意味では、洗濯機と冷蔵庫は完璧なんです!高さがちょうどいいものがなかなかなかったので。冷蔵庫の上の段だけどうしても届かないので、彼のお酒が入っています(笑)。あとは、パナソニックさんに上げたり下げたりできる洗面台があるんです。我が家の洗面台は私仕様に低くしたんですけど、案外高くても良かったなっていうのもあって。自分でさえ、正直使ってみて気付くことも多いので、後でこっちがよかった、というのはよくあります。」

洗面室の奥にあるななめドラム洗濯機で、車椅子に乗ったまま洗濯をする志歩さん。手前の洗面台では、大洋さんが立って歯を磨いている。
ななめドラム洗濯機で洗濯をする志歩さん

―― 今後、テクノロジーで生活が変わっていくことへの期待などはありますか?

志歩さん
「そうですね、まだ我が家はIoT家電などをちゃんと採用できていないのですが、移動が大変なので声で反応してくれたり、対応できるのはすごく助かります。インターホンも、本当はスマホに転送したいな。ピンポーンって鳴っても出るまでに時間がかかっちゃうので、表札に“車椅子です”って貼ろうか、とか。」
 
大洋さん
「できれば、家の中もそうですが外の環境がもっとテクノロジーの力で変わっていくといいなとは思いますね。元々、外に出ることが好きだった妻が、やっぱり誰かのサポートが必要となると出る時に気持ちの億劫さがあるようで。人に頼むっていうこと自体が、今の社会だとやっぱりハードルにはなるじゃないですか。」
 
志歩さん
「ふたりの間に入ってくれて、助けてくれる存在があると気が楽ですよね。」

―― 本来、おふたりの工夫や頑張りだけで解決すべきことでもないですもんね。

志歩さん
「例えば、駅を使うときは毎回駅員さんの助けが必要なんです。大阪の市営地下鉄では、ホームと電車の距離がほぼなくてフラットになっているそうで、自力で降りれるんですね。全部そうなると嬉しいなって。どうしても、“助けてください”ってお願いする立場になるので、基本的には彼がいないと常に腰低くいなきゃいけない自分に少し疲れたり。もちろん、助けてもらうことに感謝の気持ちはあるのですが、それなら出ない方が楽だなって。」
 
大洋さん
「一方で、皆さんめちゃくちゃ優しいんですね。助けよう!ってしてくださる方が多いんですけど、本人にとってはその必要性がない場面もあったりするんです。急に車いすを押されて、危なかったり。だから本当に、社会としてもう少し何かお互いが交わる機会や、理解し合える機会が増えればいいなと思ったりします。」

障害が「特別」ではなくなる
社会とは

―― 助ける側の人と助けられる側の人、という無意識の感覚があるような気がします。どうしたら同じ目線で、一緒に社会の課題として共有できるようになるでしょうか。

大洋さん
「例えば職場で、障害の有無に関係なく“できることをやる”という役割分担になればいいなと思います。障害のある人が働くとなった時、障害のない人と同じように全部できないと最初から別枠にされてしまう。それぞれに、ここまではできるけど、ここまでできんねや、じゃあ後は僕らがやろうとか、って一人に完璧な同じ役割を求めずに、一緒に働ける環境をつくれないかなとは思いますよね。」

大洋さんがテーブルに両手を置いて話をしている

志歩さん
「ほんまに自分がこうなって思うのは、紙一重だなということ。例えば家を建てるときも、自分が障害者になるかもしれないと思って建てないですよね。思っていたら、平家で建てますもん。私も実感がなかったから苦労してるんですけど、障害だけじゃなく加齢なども踏まえて最初の前提から、どんな体でもずっと使えるものを、という観点になれば、もっと違う何かを生み出せるんじゃないかって。その人目線になって作るというよりも、自分が使うと思って想像を働かせられたらいいのかな、とは思ったりします。」
 
大洋さん
「自分達のこととして、体験する機会と場が必要だと思うんです。例えば、耳が聞こえない店員さんがいるお店などがありますよね。健常者に合わせて設計するのではなく、そういった場合は紙に書いてもらうことが普通になれば、今はまだそれ自体がニュースになるけれど、少しずつ皆にとっての当たり前、になるのかなと。色々な違いを持つ人と接する機会をあちこちで持てたら、自然に想像したりできるようになるのかな。でも、障害のある人が当たり前に移動できる空間だったり、設備にならなければそもそもそれすら難しいんですよね。そこは本当に、国が積極的に動いてほしいとは思います。」

―― お家の中でも外でも、物理的な面も精神的な面も、どちらも安心して楽しく暮らせるよう、もう一歩社会全体で変わっていく必要性を感じます。

志歩さん
「そうですね。皆優しいですけど、やっぱりどうしても何を思われてるかなっていう怖さとか、過剰に恐縮しちゃうのがしんどいなと感じる時はあります。働くことも、やりたいなとは思いつつ、どうしても助けてもらう側になっているなとは感じるので、今までとは違うと思うと踏み出せなかったり。できれば、もっと当たり前に色々な選択肢があるといいなとは思いますね。」

志歩さんが手を組みながら話をしている

―― 普段感じていることを発信するには勇気が必要だと思います。今回はお話を聞かせていただいて、本当にありがとうございます。

志歩さん
「私は後発的に障害を持った側で、先天性の方からすると、また私とは違う気持ちだとは思うんですね。同じ障害でも、本当にいろんな人がいる。だから、これって個人的な問題なだけなのかな?と、言いづらさはあります。障害がある人だけがかわいそうなわけでもないし、私ごとなことをお願いしてるっていう気持ちも少なからずはあるんです。声を出しづらい人もいるだろうから、うまく優しさでどうにかなってほしいなという願いつつ、こうやって私発信で、何かが伝わるなら、それは嬉しいことだなと思います。」
 
大洋さん
「できれば、自然とね。ただ当たり前にいるよって存在を知ってもらえることがまずは大事だなって思うよね。」
 
志歩さん
「そうだね、そうなっていくといいな。」

▼車椅子ユーザー堤志歩さん・堤大洋さんの「ありふれた毎日。」
ななめドラム洗濯機編 / パナソニックインクルーシブデザインコンセプトムービー

▼車椅子ユーザー堤志歩さん・堤大洋さんの「ありふれた毎日。」
ペットカメラ編 / パナソニックインクルーシブデザインコンセプトムービー

“何気ないふつうの、ありふれた毎日。当たり前でもあり、特別でもあるその時間が今日、明日とあることが“幸せ”のひとつであるならば。パナソニックは、それぞれのふつうに向き合いながらそれぞれにちがう人の、ちがう暮らしのあり方に寄り添っていきます。”
 
※障害の漢字表記に関して:スムーズな読み上げを実現するために、障害という単語を漢字で表記しています。