見出し画像

VIO処理へのイメージを変えて、新しいカルチャーをつくる。〜VIOフェリエ開発者インタビュー〜

SNSや口コミでも話題沸騰。VIOフェリエは、なぜヒットしたのか。

「VIO」は、ジェンダーや世代を問わず近年の美容業界のキーワードのひとつになりました。ジェンダーレスや美容トレンドの変化に起因する一方で、VIO処理商品の進化の目覚ましさも大きな理由です。

2021年にパナソニックが発売したVIO処理家電「VIOフェリエ」は発売とともにSNSや口コミで話題となりました。既に確立されていた市場で、どうしてこれほどのヒット商品となったのか。プロダクト、デザイン、コミュニケーションデザインについて開発者3名に話を聞きました。

プロフィール

堀 三佳 パナソニック株式会社

黒塚 彩 パナソニック株式会社

根岸 美月 パナソニック株式会社

VIOフェリエの特長

1)ユーザーインサイトから生まれた最適なコンパクトフォルム。
2)VIOゾーン特有の太くて長い毛をスピーディーにカットする肌にやさしい刃先。
3)ジェンダーレスなデザイン&コミュニケーション戦略。

国内で若年層(10代・20代)女性のVIO処理率が急上昇(約70%)していることにいち早く着目し、開発をスタート。調査時の処理ツールの使用率は、安全カミソリが約80%。そのうちの約75%以上もの人が「肌が傷つく」「痛い」「怪我をするのが恐くて処理に時間がかかる」との不満を抱えていることが分かりました。

メンズの電動シェーバーで培われたパナソニックの刃の技術を基に、VIO処理にふさわしい安全性を付加し、圧倒的な使いやすさを実現。プロダクトデザイン、コミュニケーションデザインにおいても、時代を捉えた展開が好意的に受け入れられ、VIO市場の新たなスタンダードを切り拓きました。

VIOフェリエは、どんなところが新しいのでしょう?

黒塚:私はVIOフェリエの設計を担当しました。形状まわりで特にこだわったのが、①ヘッド、②コンパクト形状、③電源スイッチの3つです。

①ヘッドは、モニターの調査やヒアリングから、Vゾーンではスピーディに、Iラインでは小回りの利く最適なサイズとして31mmを導き出し、開発を進めました。途中、コーム(櫛の部分)を支える突起をつくることで4mm程ヘッドサイズが大きくなってしまうという課題に直面しましたが、理想とするサイズを守ることにこだわり、デザインの力も借りて31mmを実現させていきました。

②コンパクト形状については、パワフルさを維持するためのモーターとの共存がポイントに。モーターが入らなければ意味がないので、コンマ数ミリレベルで調整を重ねていき、極限まで無駄を省くことでパワーを保ちながら叶えられるギリギリのスリム形状に仕上げています。

③電源スイッチは、一般的な類似製品では、スライド式スイッチが本体の真ん中にあるのが主流。ただ、スライド式にすると、首回りが太くなってしまう懸念がありました。スライド式にするか、本体の上下を左右に回してオンオフする回転式にするか。さまざまな形状を検討した結果、スリムなフォルムと使い勝手を両立することができる横スライドスイッチを採用しました。

根岸:私はデザインを担当しました。開発を始めた当初、VIO関連の製品は既にさまざまなメーカーから数多く出回っていました。ただ、ユーザーの不満が多いジャンルでもあり、ベンチマークとなるベストなライバル商品もなかなかない状況。社内でもどういうものが理想なのか、誰も答えが分からないなかで開発がスタートしました。

電動シェーバーは、小物であり、モーターと刃というシンプルな構造の製品ですので、順当に開発すれば、こうなるだろうという完成形をイメージしやすい商品です。ただ、普通に進めてしまうと世に多く出回っているものと一緒になってしまうのが難しいところ。VIO処理のマーケットを広げていくために、パナソニックとして発信すべき商品は何なのか。楽しくもあり難しい作業でしたが、一つひとつ最善と言える答えを出しながら開発を進めました。

例えば、先ほどの31mmというヘッドサイズもそのひとつ。使用する際に肌が見えにくくならないことと、機能性の最善のバランスを考えて導いたサイズです。

ユーザーのニーズを、どうやって形にしていったのでしょう?

黒塚:開発当初は、ユーザーの話を聞いたり、モニターさんのヒアリングをしていくなかにもVIO商品ならではの苦労がありました。直接対面しても、最初は恥ずかしさから言葉を濁されることも多く、なかなか核心に迫るような意見を簡単には聞き出せませんでした。

「こういう処理の仕方ありますよね」とか「こういう時、痛いですよね」とか、こちらから積極的に語りかけてさらけ出すことで、少しずつ距離を縮めていきました。根気よく話すことで、ご自身の経験やもっとこういう製品があったら嬉しいという意見を聞かせてくれるようになり、結果的に非常に深いところまでインサイトを探ることができたと思っています。

根岸:チームの担当メンバーは女性が多かったこともあり、まずは市場に出回っている製品を自分たちで使うところから始めました。私たち自身もユーザーとして実感していることがあるので、それをきっかけにモニターさんから感想や要望を引き出していき、「本当の声」を全部洗い出そうと思ってヒアリングを進めました。聞く→作る→使う→聞くを繰り返して理想の形状を探っていったこの期間が、いちばん時間をかけたところです。

黒塚:ユーザーが気にしているのは、やはり使用感。痛みや肌荒れをどれくらい払拭してくれるのかへの興味が特に強いのが分かりました。また、一般的に使われるT字カミソリのサイズが大きすぎるというのも多かった答え。

そこで得たコンパクト化の必要性も冒頭のサイズ設計に活かされています。製品を開発する際のヒアリングは、こちらが聞くばかりではなく、お互いに共感しながら進めていくことが大事なんだと気づかされました。

根岸:もともとパナソニックにはメンズ用の電動シェーバーで培った刃の技術があり、VIOフェリエにも、そこから改良したVIOゾーンにふさわしい刃を搭載しています。他社のものと比べても、パナソニックの刃はカット性能で群を抜いていると自負しています。

どのような骨格にすれば「お客さまのニーズ」と「パナソニックの技術」が結びつくのか。それを考えることがプロダクトをデザインすることでもありました。

デリケートなIゾーン、Oゾーン用のアタッチメント

VIOフェリエがこれほど支持された理由はなんだと思いますか?

根岸:電源スイッチの形状は、開発の大きなターニングポイントでした。スライド式スイッチにするか。回転式スイッチにするか。VIO市場を見渡すと、一般的にはスライド式が多いのですが、そうすると本体サイズが大きくなってしまいます。そういった観点から、回転式スイッチで開発を進行していたのですが、検証を進めていくと回転式にも使いにくい点があることが見えてきました。

黒塚:お風呂でも使用いただけるよう防水式で開発を進めていました。そうすると、濡れた手や石鹸がついた手でも操作することになります。回転式スイッチは両手で操作しないといけないということもあり、使い勝手としてベストではないという結論に至りました。そこで、片手でもオンオフができるように、部分的な回転でスイッチ操作できないかという発想が生まれ、それが最終形の横スライドスイッチにつながります。

サイズが大きくなっても片手操作のスライド式にするか、スリム形状だけども両手操作の回転式でいくか、当初その2択しかなかったのですが、使い勝手とデザイン性のどちらも妥協したくなかったので、この省スペースのなかでどのような構造が可能かを検討し、横スライドスイッチという新しい案にたどり着きました。スイッチの存在感を最小限にしながらも使いやすさを向上させ、デザイン性も操作性も理にかなったフォルムに仕上げることができました。

濡れた手でも操作しやすいスライド式

根岸:デザインについては、そもそも怪我をした経験があるなど、VIOゾーンを刃物で剃るということにネガティブな印象を持つ人も多いので、恐怖心を払拭するやわらかいデザインを心がけました。ただ、造形的に丸みのあるフォルムに寄せていくと今度は滑りやすいといった問題が出てきます。

他社製品にはラバーやリブがたくさん付いたグリップも多いのですが、持ちやすさを優先させたことが際立つようなデザインにはしたくありませんでした。そうした時にユーザーのグリッピングを見て、本体の上部と底面が細いほうが持ちやすいということに気づきました。ただ、両端がすぼまって真ん中が膨らんでいる形状は、割と目にする造形でやや普通。デザインのトレンドは今、使い勝手にもまして空間調和するものが好まれていると感じています。空間の水平垂直に馴染む、くびれのない形状のほうがトレンドに合うというイメージを持っていました。それでもVIO商品には、グリッピングを考えるとどうしてもくびれは作らないといけません。

そこで、断面形状を工夫して、製品の正面から見るとストレートなフォルムで、横から見ると上部と底面がくびれるように本体をゆるやかに偏心させていくというアイディアを思いつきました。リブや突起をつけないシンプルなフォルムなのに、非常に掴みやすい形をしています。

プロダクトだけでなくコミュニケーションデザインにも力を入れた狙いは?

根岸:プロダクトの形状だけではなく、パッケージまで含めてVIOフェリエをどう発信するかを設計していきました。他社製品のパッケージにもありますが、初期の案では女性の写真を使用したものも考えていました。ただ、女性向けだから女性の写真、女性が好きだからピンクというのは、私たちの狙いとは違うという想いがありました。

VIO商品は、決して若い女性のためだけのものではありません。幅広い年齢層の方に使っていただきたいですし、日本ではまだVIO処理に対して恥ずかしいと感じている方も多いのが実情。そういった商品を取り巻くユーザーの意識も変化させていきたいという大きな狙いがありました。

「若い女性」イメージを際立たせるのではなく、清潔感を重視してプロダクトカラーやパッケージを考えていく。女性だから処理するというよりも、快適に過ごすために処理したほうがいいという発想です。それに加えて、日常的に使う美容道具として違和感なく置いておけるものであることが大事だと考えていたので、存在感をどこまで空間に中和させられるかを意識していました。

まわりの目を気にするのではなく、自分が快適に生活するためにするというのが今の価値観ではないか。その考えが、結果的にお客さまに受け入れてもらえたように思います。

堀:除毛や脱毛は、介護など実は非常に幅広さのあるカテゴリーです。さらにいい商品をめざすことが、いろんな人の 日常のなかにある悩みの解放につながります。抵抗感や恥ずかしさを感じる時間を、スムーズに剃れることで少しでもポジティブな時間に変えていけたら嬉しいです。

開発を振り返って印象に残っていることは?

根岸:パッケージにここまで大きく「VIO」と打ち出しているメーカーがほとんどなかったので、デザインやメッセージのバランスが間違っていないかなど、どういう反応があるか心配な点もありました。ブランドの立ち上げから担当した商品のレビューを見るのは初めてだったのですが、発売後はECサイトでも好意的な反響が多く、とても嬉しくありがたいなという気持ちでいます。

黒塚:私がいちばん気にしていたのは肌当たりの部分でしたが、そこに対しても「ものすごくスムーズに剃れた」といった口コミを多くいただきました。途中のモニター調査でもいい評価を目にしていたので嬉しいです。

根岸:私と黒塚さんが同期ということもありましたし、先輩方もありがたいことにすごく目をかけてくれて、本当にたくさんの人にフォローしてもらいながら純粋な気持ちで進めることができました。トライアンドエラーを繰り返せたことが、とてもいい経験になり、その後の商品開発にも生きています。

堀:VIOチームには女性も男性もいるのですが、このチームのいいところは遠慮することなく深いところまでなんでも話せる関係性。例えば、根岸さんは疑問に思ったことは全部言ってくれるのですが、その発言をきっかけに、そこから新しい答えを導いて、より良いものにしていこうという意思をチームの全員が持っています。チャレンジングな案もウェルカム、自由に発言できる風土が強みだと思います。

黒塚:入社してすぐの時からVIOフェリエを担当しているのですが、今もこの商品をさらにより良くしていくための開発を続けています。まずは国内で発売しましたが、海外ではVIO処理をしている人は日本よりも多いので、今後は海外に向けても展開していけたら嬉しいです。世界中どこへ行ってもVIOフェリエがあるようになったらいいですね。

あとは、設計担当としては、VIOフェリエはヘッド部分が取り外せるので、さまざまなタイプのヘッドを増やしていって、いっそういろんな人に使ってもらえるものにしていきたいと思っています。肌荒れやカミソリ負けに悩んでいる人に対して、肌にやさしくてしっかり剃れるものを届け、VIO処理から恥ずかしさやネガティブな印象をなくしていきたいです。

MESSAGE

堀:パナソニックがまだやっていなかったVIOというセンシティブな商品を開発するに当たって、最初は本当に売れるのかという意見もありました。でも、自分たちがやってきたマーケティング調査を信じて、絶対売れるという想いで進め、結果を出すことができました。

これから入社される方は、人に何を言われても負けずに貫く意思を持って、最後まで絶対に諦めないという姿勢で取り組んでほしいです。

黒塚:女性の技術者は、男性に比べるとまだまだ少ないのが実情です。だからこそ、女性ならではの視点がビューティー商品には特に活きてきます。VIOフェリエも女性だからこそ見つけられた答えがあると思うので、人口のおよそ半分は女性ですから、これから入社する方には自分の意見を大切にする技術者になってほしいと思います。

私はもともと、とにかく美容家電に携わりたいという想いがありました。自分がよく使うものの方がお客さまの気持ちになって考えられるし、より共感できる製品を届けられると思ったからです。新しいものを作りたい、ここは、そう思う人にぴったりの環境だと思います。

根岸:今、日本の総合家電メーカーはすごく限られています。なかでも、美容家電から生活家電までをこの幅広さで展開しているのはパナソニックぐらいではないでしょうか。お客さまの生活にいちばん近いところで考え、誰もが手の届くものを発信できる規模の会社なので、生み出すまでには確かにさまざまなハードルはありますが、世に出した時の影響力は絶大です。

私も就職する時は「メーカーって制約ばかりなのでは」というイメージを持っていました。でも入ってみると「こういうことが絶対に望まれているはず」と強い想いがあったら、実現できることがいろいろある場所です。ここでプロダクトデザインをすることに、すごくやりがいを感じています。

*記事の内容は取材当時(2021年10月)のものです。


◆パナソニックグループ採用サイト