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CHEERPHONE(チアホン)でスタジアム体験を変える!スポーツ観戦のニュースタンダードをつくるデザイナーの挑戦(前編)

離れた場所からでもアスリートへ、熱い思いを届けたい――。スマホ1台で始められる音声配信のプラットフォーム「CHEERPHONE(以下、チアホン)」は、1人のパナソニックデザイナーのアイデアから生まれました。発案から約2年、開発担当者たちが描くスポーツ観戦の未来と、チアホンの今後の可能性を聞きました。本記事はその前編です。

What is CHEERPHONE?
パナソニックが開発した音声配信のプラットフォーム。当初(2019年)はスポーツ観戦における“新たな応援スタイル”を提案する腕輪型のデバイスとして開発され、親機にはマイク、子機にはスピーカーを内蔵。スタジアムに行けない人が子機を誰かに託し、親機から応援の声をリアルタイムで現地に届けられるようにした。現在はハードを使わずに、スマートフォン向けのサービスとして、スタジアムでの観戦の際に実況解説付きで試合を楽しめるライブ音声配信サービスへと進化。スポーツイベントでの実証実験を重ねる中、2021年11月にはスポーツ庁とSPORTS TECH TOKYOが共同で運営するプログラム「INNOVATION LEAGUE アクセラレーション2021」に採択された。

プロジェクトメンバー
左から、石田 暁基、持田 登尚雄(プロジェクトリーダー)、木村 文香

アイデアのきっかけは、自分自身のウェルビーイング

木村:もともとチアホンは社内のハッカソンがきっかけで生まれました。このときのテーマは「自分自身のウェルビーイング」。自分の好きなものを起点にアイデアを出す趣旨でした。スポーツ観戦が好きな持田さんが、コンセプトを発案したのが始まりです。

持田:そう、自身の達成や成功がウェルビーイングになりがちですが、私は自分が熱烈に応援している「好きなチームの成功」が自分にとってウェルビーイングな状態だと定義しました。

木村:スポーツで好きなチームのある人はウェルビーイング度が高いと言われていますが、それはみんなが同じものを見ている一体感に加えて、試合内容や結果に一喜一憂する心や感情の起伏が関係しているようです。私はこの仕事に携わるまではスポーツを見ない側の人間でしたが、実際にスタジアムで観戦したときに「そうか、この感覚か!」と納得したのを覚えています。

持田:木村さん自身が体験したように、ライトファンがコアファンになって、スポーツをもっと身近に楽しむ人が増えれば社会全体のウェルビーイング度の向上につながると考えていました。これが現在のチアホンの出発点。例えば、ラグビーの試合を初めて見に行ったとしましょう。テレビ観戦なら競技のルールや選手の名前、特徴が音声解説で入ってきますが、会場ではレフェリーが試合を止めても、なぜ止まっているのか分からない。選手から一番近い距離にいるのに、すごくもったいないことが起こっているんです。自分が初めて観戦するスポーツで、試合中に解説してくれる人がいると、もっと試合が楽しくなりますよね。スタジアムに熱気をつくり出し、チームや選手を好きになってもらうきっかけをつくる。ここは、コンセプトとして大事にしている部分です。

石田:スポーツ観戦が趣味であっても、ルールや選手のことをよく知らない競技ってあります。そういうときに手助けになるものがあるとうれしいですよね。

木村:実際にこれまで実施した実証の際の配信でも、OBの方や解説者の方が選手の人柄が分かるエピソードを話してくれたり、ハーフタイムにスタッフの方が入ってチームの地域貢献への思いを話してくれたりするので、共感や愛着が生まれます。今まではファンとの接点というと、試合前後のメールマガジンやウェブサイトでの発信などデジタル的なプロモーションが主体で、試合中って実は何もなかったんですよね。選手とファンの距離が物理的に一番近い試合中に、チアホンがクラブチームとの距離を近づけてくれます。

あくまで主役はアスリート、シンプルなUIにした理由

石田:最初の構想ではデバイスを手渡しする人をマッチングする手法でしたが、今はソフトウェア完結型に。どうすればユーザーにとって使いやすいアプリケーションになるかを改めて考えました。そこで至った結論がシンプルで分かりやすいこと。ユーザーが迷わずに、新しいサービスを自然に使えることを重視しています。

木村:立ち上げて2ステップ、3ステップで、すぐに使えて音声が聞こえてくるようにUXを設計しています。また、配信内容やアスリートのパフォーマンスに共感したらハートマークをタップする「いいね!」機能がありますが、私たちは試合に集中してほしいと考えているので、ノールックで押せるくらい画面をシンプルなものにしています。チャット機能を付けていないのもそれが理由です。

石田:せっかく試合会場にいるのにスマホの画面ばかり見ていたらもったいないですし、あくまでアスリートファーストでありたいですよね。

持田:最初は「いいね!」ボタンもなくて、シンプルに聞くだけの機能に絞った状態でした。そこからリアクションは取りたいよね、じゃあ「いいね!」ボタンを足そうかと。最初から機能を付けすぎると何が必要なのか分からなくなってしまうので、少しずつ本当に必要なものを見極めながらUIをアップデートしています。

木村:実証を進めていくと配信者から、聞いている人が興味、関心を持つ内容を知りたいとの要望が強かったので、現在は質問機能の追加も検討中です。シンプルではありながら、スポーツ事業者・配信者・視聴者の三者が満足できるUIやサービスデザインにしたいと思います。

イノベーションかどうか、それは10年後にわかればいい

持田:毎週のように実証実験を行ってアンケートの結果も見ていますが、あまり多くの方が体験したことのない、音声を聞きながらスポーツを観戦するという行為について、思ったよりも皆さんから受け入れられていると驚いています。体験した人に聞いてみると、99%の人が音声付きのチアホンのおかげでスポーツ観戦をより楽しめたと答え、特定の選手やチームを好きになったとの結果も出ています。試合ごとに上下はありますが、毎回8~9割の方が次も使ってみたいと回答してくれています。こうした検証を重ねて、ファンエンゲージメントが高まることを証明できれば、ビジネスポテンシャルがあると手ごたえを感じています。

石田:共感って力になりますよね。スタジアムでチアホンを使ったお客さんから「めちゃくちゃ楽しかったです」と言ってもらえたり、実際に皆さんが「いいね!」を押すのを見たりするとうれしくなります。反応を間近で見られる機会って今までの仕事でなかったので、モチベーションにつながっています。

木村:この仕事を通じてラグビーやサッカーの現役選手、OBOGの方とお話しする機会も増えました。競技に対する熱い思いはもちろん、チアホンに対しても前向きで「ぜひやりたい」と言っていただけたのが、印象的でした。実証実験でも一般の方がTwitterのハッシュタグで「#チアホン」とつぶやいているのを見て、社外の方からの声がダイレクトに届くので、これまでの仕事にはない喜びを感じましたね。

持田:そうですね。こういう今まで当たり前でなかった新しい提案って否定されることも少なくないので、体験した方からの多くのポジティブな反応は意外でした。イノベーションを起こすってよく言いますが、イノベーションとはこれまでの既成概念を覆す先にあるので、最初から多くの方が賛同する場合、それはイノベーティブではなかったりします。今では当たり前になったiPhoneやUberだって最初は多くの否定から始まりました。私たちも、多くの方が誰も体験していない“これまでの非常識“を世の中に提示して、それが少しずつ支持を受けて継続的に利用していただけるインフラになり、いつの間にか”新しい常識”になる。私たちは、その第一歩をやっているつもりです。だから、チアホンも10年後に振り返ったときに評価してもらえたらいいと思います。

後編に続く