129校6000人の子どもたちに届けた「パナソニックの授業」
パナソニックは「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」の両立を目指して、自社のCO2排出を減らし、社会のCO2排出削減に貢献する「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げています。
その一環で立ち上がったのが、今回の「子どもたちに授業を届ける」というプロジェクト。パナソニックは「株式会社ARROWS」と協力し、小学校6年生に向けた授業コンテンツを制作しました。2024年3月現在、北は北海道、南は沖縄まで129校、6000人の小学校6年生の子どもたちに授業を行っています。
本記事では、プロジェクトに携わったパナソニックの寺岡宏恵さんと藤本諒さんが、授業コンテンツ制作にかけた想いについて語ります。
環境問題を論理的に捉えてみる
―「パナソニックの授業」をつくろうと思ったきっかけについて教えてください。
寺岡: 2023年3月にリニューアルオープンした「パナソニックセンター東京1F」(東京都江東区)では、子どもたちに向けて、環境問題を自分ごと化できるような体験型展示を展開しています。一方で、リアルの体験の場では、東京近郊など、限られた地域の人たちしか来館できないのが課題でした。遠方に住んでいる子どもたちにも届けられるようなコンテンツができないか……そこで考えられたのが、今回の「パナソニックの授業をつくる」というプロジェクトです。
藤本: 私は、2023年の9月ごろ、寺岡さんが所属するチームにこのプロジェクトにお誘いいただきました。「環境問題の自分ごと化」をお手伝いできるなら「ぜひ」という気持ちでしたね。
寺岡: 藤本さんは、環境省に3年間出向されていた経験をお持ちですから、最新の情報はもちろん、日本の状況についてもよくご存じでした。そのため、今回のプロジェクトを通じて、私自身もとても勉強になりました。
―授業はどのような内容なのですか。
寺岡:「ストップ温暖化!カーボンニュートラルで地球を守ろう」というタイトルで、日常生活が地球温暖化と密接に関わっていることを知り、誰もが日常生活の中で地球温暖化に対して行動できることを学べる授業になります。また、学校の先生方が負担なく授業を行えるように、スクリーンに投影できるパワーポイントの資料を用意しています。それに付随する形で、動画を2本、授業後にアウトプット学習ができるワークシートが2枚という構成です。授業を受けた子どもたちが、自宅で振り返りができるように、簡単なクイズも作成しています。今回の授業コンテンツをきっかけに、子どもたちが環境問題に対して、積極的に行動したり、考えたり、家族と会話するようになってくれたらとうれしいなと思っています。
藤本:あと補足でお伝えすると、小学生に取り組んでもらう中で「とにかく節約を頑張る」みたいな感情論にはなって欲しくないと思っていて、そうではなく、「日常生活の中でCO2がたくさん出てしまうのはどの時なのか?」とか、「無理せず続けられる効果的な CO2削減アクションは何なのか?」といったように、地球温暖化の対策について論理的に考えてもらうことを意識して作成しています。
―たしかに「環境に良いこと=我慢すること」という印象が強い気がします。
藤本: そうなんです。たとえば、環境への負荷を減らそうと思ったとき、「テレビを見る時間を1日1時間減らそう」といったアクションがありますよね。もちろん、それは間違ってはいないのですが、子どもたちが本当に見たい番組を我慢してまで取り組んで、「環境に良いこと=辛く、苦しいこと」とネガティブなイメージを持たれてしまっては本末転倒です。また、製品をつくる際にかかる環境負荷は、当然ゼロではないのですが、電力消費という観点から見ると、10年前のテレビから新しいテレビに買い替えるだけでも省エネになります。なので、今回の授業を通じて、子どもたちには「テレビを見ないように」と言うのではなく、「より良いくらし」をしながら、どうすれば環境負荷を低減できるのか、論理的に考えられるようになってほしいと思っています。
寺岡: そういう意味では、今回、作成した授業コンテンツのワークシート「CO2削減アクション一覧」は、きっと役に立つと感じています。「冷やしすぎ・暖めすぎに注意して、エアコンの温度を設定する」「リビングの照明をLEDにする」など、このワークシートをもとに実際のアクションをしてもらうと、1クラスあたり、20トン近くのCO2を削減できる計算になっています。何をすればCO2削減や省エネにつながるのか、自分たちで考えられるので、環境問題について、少しは身近に感じてもらえるのではないでしょうか。
「災害の力をエネルギーに変えたい」
―授業をつくるうえで、大変だったり、苦労したりしたことはありますか。
藤本: 「伝えたいこと」を一つに絞ることです。たとえば、持続可能な社会のために、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが大量に必要なのは、一般的に広く知られていることだと思います。ですが、これらの発電設備にも当然メリット・デメリットが存在します。そのため、環境という視点だけでなく、安全性、経済性、安定供給性といった点も合わせて考えなければなりません。特に資源が少なく島国で災害大国である日本こそ、「電源構成の最適化(エネルギーミックス)」という考え方が重要になります。ですが、とてもじゃないけれど授業に収まりきらない…ということで、今回は「地球温暖化の対策を論理的に考えてもらうこと」「自分たちが行動するきっかけにしてもうこと」にフォーカスしました。子どもたちに見せる映像や絵柄についても、ぱっと見たときに、誤解を与えかねないイラストについては、何度も修正したりして……。一緒にコンテンツをつくった株式会社ARROWSさんには、本当にたくさんご協力いただきました。この場を借りて、改めてお礼を申し上げます。
寺岡: アクションを起こしてもらえるような「手触り感」のあるものを目指したかったんです。「正しく子どもたちに伝える」ために、登場人物の呼び名や性別などにもこだわりましたね。
―2023年1月から、「パナソニックの授業」がスタートしていますね。反響はいかがでしたか。
寺岡: 私は実際に授業に登壇させてもらったこともあるのですが、子どもたちからの反響が思った以上にあり、ほっとしています。授業の後、アンケートも実施したのですが、90%以上の子どもたちが「環境のために、何か行動をしたい」と回答してくれたんです。まだ12歳くらいの子どもたちが「次世代のために何かをしたい」とも答えてくれていて。中には、授業が終わった後に直接「災害の力って、ものすごく大きいと思うから、僕は将来、その力をエネルギーに変えたいと思っています」と言いに来てくれた子もいて、感動してしまいました。先生方に対するアンケートも「この授業を誰かにすすめたいか」という項目に対して、6点満点中5.6点をいただいています。
藤本: 授業の際、子どもたちに伝わりやすいよう、CO2排出量を「CO2約1トンあたり、25メートルプール1杯分」と、たとえていました。すると「パナソニックは2050年までに3億トン分のCO2削減を目指している*ということは、25メートルプールを3億杯分削減するんだね。すごいね!」と言ってくれた子もいました。「論理的に捉えてもらう」という、当初の目標が一つ達成できたと感じた瞬間です。一方で、定量的にイメージできたからこそ「3億杯分削減しても、世界の1%**くらいなんだね」という指摘もありましたね。
―なかなか、鋭い指摘ですね。
藤本: だからこそ、身の回りの人たちや国際社会と協力することの大切さを知ってもらえたらと思っています。そのほか、「そもそも、エネルギーって何なの?」と、核心をつくような、根源的な質問をしてくれる子がいたのが印象的でした。エネルギーの定義とは何かというと、要は「仕事をする力」なんですよね。けれども、そんなふうに伝えても子どもたちの疑問は解決しないと思ったので、ガソリン車の中では、ガソリンが爆発していて、その爆発で吹っ飛ぶ力がエネルギー。それを使って車は動いている。とかいろんな例えを出して懸命に説明しました。
「当たり前の生活」を続けるために
―反響を受けて、今後の目標があれば教えてください。
寺岡: 今回は、小学校6年生を対象にした授業でしたが、もっと小さなうちから学べるような仕組みができればいいなと思っています。また、個人的には同じ志を持っている他の企業さんとコラボするのもいいのでは、と考えています。
藤本: 同感です。教育現場はいま、人手不足が深刻ですし、私たちのような民間企業をうまく利用してほしいと思っています。自分でこんなことを言うのはおこがましいのですが、環境に関する最新動向をお伝えできるのは、民間企業の強みの一つですよね。どんどん有効活用していただきたいです。
あとこれは余談ですが、いまの子どもたちにとって、エネルギーがある生活というのは、ある意味、当たり前なんだと思います。コンセントにプラグを差したらすぐに電気が流れてきますし、ガソリンスタンドへ行けば、簡単にガソリンを補充できます。どこから電気やガソリンが来ているかなんて、気にしなくても生きていける。だけど、この当たり前って物凄いことなんです。毎日、入りたいと思えばお風呂に入れて、しかも間違ってお湯を飲んでも大丈夫な国なんてほとんどないです。一見、平凡に見える生活も、見えない裏側の部分を知ったら、きっと生活が楽しくなる。今回の授業で、エネルギーの大切さについて興味を持つきっかけになることを願っています。
寺岡: 素敵です。私自身、今回の授業コンテンツのように、パナソニックは社会をよくするための活動をしていること、藤本さんのような志を持った社員がいること、私もその一員であることをとても誇りに思っています。