捨てちゃうなんてもったいない! 新入社員でつくった、おいしい弱み発見PJ
創業者・松下幸之助は未来を担う若者たちへの応援メッセージを数多く残しています。その思いは、いまもわたしたちの大きなテーマのひとつ。
連載企画「youth for life(ユースフォーライフ)」では、若者が、自分や誰かの人生とくらしのために、その「青年の力(興味、関心、熱意、素直な心)」を大いにのびのびと、正しく使おうと模索する姿を発信していきます。
今回は2021年12月に開催されたワークショップイベント「おいしい弱み~あなたの弱みをレベルアップする裏ワザ、授けます~」を企画・運営した、パナソニックの若手社員3名が登場。
ゲストに世界ゆるスポーツ協会代表・澤田智洋さんをお招きしたこのイベントは、どのような思いで生まれ、成し遂げられたのでしょうか? もともとプロジェクトが始まる前から互いに仕事の相談をしたり、プライベートで遊びに行ったり、入社時からとくに仲の良かった同期3人のボードメンバーに、今回のプロジェクトの舞台裏とこれからの抱負を語ってもらいました。
障がいのある人も、そうでない人も、みんな「弱み」を抱えて生きている
東京2020パラリンピックが開催された、2021年の夏。パナソニックセンター東京でも、その時期にあわせ、パラリンピック閉会式のコンセプト設計・企画を担当した澤田智洋さんが登壇するイベントの企画が進められていました。しかし、企画を任されていた池田さんは、「障がい者のスポーツについて話をしてもらうだけで、本当にいいの?」と納得がいかなかったそう。そこから、この新たなプロジェクトが始まりました。
池田: 企画を考え直そうと思ったきっかけは、上司が「パラリンピックの時期にこだわらなくていいよ。納得できるまでやってみたら?」と背中を押してくれたことでした。そこであらためて、澤田さんに登壇してもらいたいと思った理由を考えなおしてみたんです。
たまたま本屋さんで澤田さんの著書『マイノリティデザイン―弱さを生かせる社会をつくろう』に出会い何度も読み返すうち、澤田さんがゆるスポーツを始めたきっかけが「弱み」だったことにとても共感を抱きました。
澤田さんは、さまざまな障がいのある人たちと交流しながら、その人の「弱み」をユニークなスポーツに変えていく、という活動をされています。聴覚障がいという弱みを持つ私にとって、聞こえる人に合わせることは日常的なことでしたが、澤田さんが考案するスポーツは、「弱み」をかけがえのない個性として捉え、新たなルールを設けることで、誰もがスポーツを楽しめる場を創出しています。
その取り組みに共感しつつ、一方で「弱みは障がいの有無に関わらず、誰もが持っているものなのではないか」と考えました。その抱えている弱みを認められないから、「社会における生きづらさ」は生まれるのかもしれない。それならば、参加者が弱みを開示し合い、最終的に自信を持てるようになるワークショップイベントを企画してみてはどうか。
そう考えを発展させていったのですが、「弱み」というネガティブに捉えられがちなテーマを扱うことは、なかなか難しいことで……。そこで、畑山さんと種村さんとの3人のグループチャットに、「ワークショップでどういう段階を踏めば、自分の弱みをさらけ出すことに抵抗感を覚えないと思う?」という相談を投げかけたんです。そしたら、2人ともアイデアをたくさんくれて。
「自分1人ではできなくても、この3人なら、企画を実現できる」と確信して、2人にプロジェクトに加わってほしいとお願いしました。
種村: もともと仲のいい同期として、「いつかいっしょに仕事ができたらいいね」と夢を語り合っていたので、声をかけてもらえてすごく嬉しかったです!私は広告クリエイティブの部署に所属しており、普段からお客さまの心を惹きつける企画や表現を考えています。そのため、参加者の方に楽しんでもらえるワークショップの設計や告知ポスターの制作など、クリエイティブの面で何か力になれるのでは!と思いました。
業務の一環として全力投球できる体制を整えるため、自分がプロジェクトに参加するメリットをまとめた資料をつくり、「ぜひパナソニックセンター東京のイベント企画に携わらせてください!」と上司にお願いしました。
結果的に、プロジェクトの主旨と、パナソニックが取り組んでいるDEI(多様性、平等性、インクルーシブ)の考えがリンクしていることをご理解いただき、上司には「本当に価値のあるイベントだね。どんどんやりな!」と笑顔で送り出してもらえました。その後に「何か力になれることがあったら、いつでも言ってね」と声を掛けてもらったことも、企画する上でとても勇気につながりました。
畑山: すごい(笑)。自分も声をかけてもらったときは、やりたいことが形にできるチャンスだと思いました。種村さんの部署ほどハードルは高くなかったけれど、上司の承認を得た上で、自分の業務をこなしながら、1週間に1時間かそれ以上をこの企画に費やせる体制にしました。勤務地が3人バラバラだったので、おもにオンラインで進めていきましたが、終盤はオフラインでも集まって、結局週2〜3回は会議をしていましたね。
池田: 役割分担は畑山さんはマネジメント、種村さんはクリエイティブといった形で振り分けていて、私から「自分に自信が持てるようなワークショップにしたい」「ありのままの自分がさらけ出せるような場所をつくりたい」という想いを伝え、それを2人が具体的な形にしていってくれる、という進め方でした。「おいしい弱み」というタイトルも、種村さんが提案してくれたんですよ。
種村: パナソニックにはメンター制度があるのですが、そこでメンターの方にも「こんな想いでつくっているイベントには、どのような言葉がフィットするのだろうか」と、相談しながらイベントタイトルを考えていきました 。参加者に伝えたい想いを、簡潔かつ魅力的に言葉に落としこむのは大変でした。
畑山: イベントの核となる部分については、時間をかけてみんなで話し合いました。最初はなかなかイベントの核の部分が定まらず、迷子になっていたんです。なんとかその状況から抜け出すために、池田さんに「wordファイル1ページで自分の人生を語ってください」というワークをお願いしました。
種村: 畑山さんが池田さんにワークを提案してくれたおかげで、「参加者が最終的に、ありのままの自分に自信を持てるようになる」ことこそイベントで私たちがもっとも達成したいことだと明らかになって。その結果、「おいしい弱み」というタイトルが決まったんです。
池田: 軸が決まってからは、本当に進みが速かったよね。10月ごろのことだったので間に合うか心配でしたが、そこからはスピード感をもって進めていくことができたと思います。
アイデアは自由に、細部は納得するまで。周りを巻き込みながら発展していく
種村: 私は美術大学のデザイン科出身で、告知ビジュアルの制作など、もともと得意分野だったクリエイティブには自信を持って取り組めていましたが、イベントの企画や運営自体ははじめてのことだったので、企画を考えるときも正直、半分は自信があるけれど、もう半分は自信がないという感覚でした。みんなにアイデアを提案するときも二の足を踏む瞬間がありましたし、提案した結果「それは実現が難しいんじゃない? 」という反対意見があったりして、ギクシャクしたこともありました(笑)。
池田: ありました、ありました(笑)。それぞれ役割が違うし、はじめてのことで不安だからこそ、ぶつかることもある。でも、そこで頭ごなしに否定せず、「アイデアは自由だよ」「すぐにできないと言って切り捨てるのはやめよう」とお互い注意しあえて、素直な心で受け止められるような関係だったからこそ、達成することができたのかなと思います。
畑山: 時期的に対面での打合せ機会も限られて意思疎通もたいへんな状況だったからね。素直にお互いの想いを尊重しながらいかに納得できる形で本番に間に合わせていくのか。企画を成功させるうえでは、イベントの核となっている池田さんの想いをもちろんたいせつにしないといけないし、種村さんのクリエイティブも存分にいかして進めたいと思っていました。それぞれの個性を出し切れるような基盤を整えていくことで、3人で取り組むことの価値が最大化するはず。そう思い、試行錯誤しながら取り組んでいました。
種村: 一方でワークショップイベントは、お客さんありきのもの。せっかく貴重な時間を割いて参加してもらうのだから、なにかしらの手応えを感じてもらえるような時間を提供したくて、お客さん目線で考えていきました。
ワークショップのデザインは初めてで不安でしたが、「何かを人に届ける」という意味では、これまで美大や仕事の中で学んできた経験を活かせるはず、と自分に言い聞かせていました。また「失敗しても大丈夫!」と上司に励ましてもらえたことで、難しくても、とにかくチャレンジしてみよう!と前向きな気持ちになりました。
池田: 台本も、上司やイベント当日に司会をしてくれた同期の田中さくらさん、レポーターをしてくれた同期の藤田太郎さんに見せて、フィードバックをもらいながらブラッシュアップしていきました。
池田: 私の場合は、お客さんが本当に弱みを開示してくれるのか、実は最後まで自信が持てなくて。イベントがスタートしてからも、しばらくはずっとモヤモヤしていたんです(笑)
でも、トークセッションが終わって、ワークショップが始まってみると、参加してくれたみなさんが生き生きとした様子で弱みを書き出していた。そのときはじめて「これでよかったんだ!」と思えましたね。
つくろうことのない自己開示がワークショップの質を上げた
池田: いざ開催されてみると、本当にいい雰囲気のワークショップでしたよね。そうなったのは、「自分の弱み」を展開するワークショップにするのではなく、「他者の弱み」を肯定的に展開するというアイデアを種村さんが出してくれたからだと思います。その結果、参加者の方々が想像以上に真剣に取り組み、深く掘り下げて考えてくれた。
種村 : 単純に「弱みを書き出しましょう」と言っても、本当に悩んでいる弱みが出てくることはほとんどありませんからね。そこで意見を交換しあっても、「大丈夫、そんなの弱みじゃないよ」とお互いに笑って誤魔化し合うような、表面的なやりとりで終わってしまうと思ったんです。だからこそ「おいしい弱み」では、本当に抱えている弱みを自己開示して、受け入れ合える状態をつくりたかった。
畑山: 種村さんは、ワークショップの構成もかなり戦略的に練っていたからね。
種村: 就職活動でも、よく「自分の弱みを強みに変える」をテーマにしたワークショップが開催されることがあるけれど、「相手から本当に受け入れてもらえるかわからない」という不安があるままだと、無意識のうちに、外向けに加工した自分を見せてしまう。そこで「おいしい弱み」では、前段となるトークセッションに15分くらい時間をとり、澤田さんのお話から「弱みはマイナスではない」という心理的安全性を担保したうえでワークショップに移行しました。
就活を控えた学生の参加者も多かったですが、お互いに素直に自分のことを伝え合えるような流れができていたからこそ、表面的ではない本当の自分を開示して、向き合うことができたのかなって。
畑山: 自分たちにとっても、自信が持てる体験になったよね。今回のイベントとしてはいったん終わりですが、自分としては、ここで発見したことをどう育てて、これからにつなげていくかが大事だと思っていて。今は週に1回、3人で集まって、それぞれの仕事をやる上で何を考えているか共有する時間を設けるようにしています。
固定観念を取り払えば、「弱み」はもっとおいしくなる
畑山: 固定観念にとらわれて、無意識のうちにネガティブなものとして思い込んでしまうことが、人それぞれあると思います。日ごろから、自分の行動や思考の中でそういったことがないか、見直してみてほしいです。ネガティブに思えるところにこそ、価値は宿っているはずですから。いつもと違うところにも注目し、ぜひ偶然から生まれるすてきな発見をしてみてほしいですね。
種村: 自分の弱みを、隠したり、捨てたりするのではなく、ありのままの自分自身を許して、受け入れてあげてほしいです。たとえば強みが50%、弱みが50%ある人がいたとして、自分を変えようと、自分の個性の大半を捨ててしまうのは、悲しいしもったいないことです。今回のイベントのように、弱みって実はおいしいものだという視点を持てば、自分を100%活かして、生きていけるのではないでしょうか。
池田: 澤田さんもイベントの中でおっしゃっていたのですが、何かを克服するために「頑張らなくていいんだよ」ということを伝えたいです。
障がいの有無に関わらず、社会で生きていると「周りについていかないと」と焦る気持ちが強くなりがちですが、自分の弱みを補うために努力しても、結局、自分らしさを失っていくのではないかと思います。
だからまずは、自分を大事にしてほしいです。周りの助けを借りながら、自分の弱みも強みも受け止め、「これでいいんだ」と思える自分の道を見つけて歩んでいってほしいと思います。
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