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高画質を支える、5G時代の必須デバイス。〜積層コモンモードノイズフィルタ〜

社会課題を解決し、世の中に新しい価値を生み出していくために。パナソニックは技術革新だけでなく、これまでにないソリューションやサービスの開発に挑み続けています。今回は、電磁ノイズを取り除き、高精細な画像伝送を支える「積層コモンモードノイズフィルタ(EXCシリーズ)」の開発チームにインタビューしました。
*記事の内容は取材当時のものです。

スマートフォンの画面に映し出される高精細な画像、その裏側では高周波のデジタル信号が駆け巡り、ちらつきなどの障害を引きおこす電磁ノイズが発生しています。「積層コモンモードノイズフィルタ EXCシリーズ」(以下EXCシリーズ)は、この電磁ノイズを吸収し、乱れのない画像伝送をサポートする極小のデバイスです。10Gbpsの伝送速度に対応する高性能、0.6mm×0.5mmの小サイズ、独自技術による低コストと3つのアドバンテージで、スマートフォンやパソコン、デジタルテレビへの採用実績で圧倒的なシェアを獲得しています。


10μmのコイル導体が整列。精密技術で価格競争を勝ち抜く。

真上からX線を照射すると浮かび上がってくる、陸上トラックのような6本の線。EXCシリーズが業界トップを独走する理由は、0.6mm×0.5mmのなかにコイル導体を正確に刻み込む、オンリーワンの技術にあります。コイル導体はガラスセラミックのシート上に配置され、それを4層重ねて、上下をフェライト(磁性材)で挟み込む構造です。同様に側面からのX線写真を見ると、導体が一定のピッチで美しく並んでいます。粒のように見えるコイルの幅は10μmで、これが隣のコイルに触れるとショートが起こり性能を発揮できません。通常ターンと呼ばれるこの線は4本ないし5本。つまり、6本のターンを配置するEXCシリーズは、1枚のシートが吸収する電磁ノイズのスペックで優位に立ち、少ないシートで高性能を発揮できます。

セットの源流から勝負は始まる。森田工場とFAEの高速連携。

デジタル通信インターフェースの高速・大容量化が進む5G時代。その背景には進化を続けるICの開発、通信機器メーカーの開発があります。ノイズフィルタが採用の可否を判断されるのは、単品としてよりもセットに組み込んで効果を発揮できるかどうか。新機種の構想段階から共同開発を行い、サンプルを提示しながら実用化を進めるリファレンス活動が採用のカギを握っています。競合他社と同時にスタートする先行開発は、品質とスピードの勝負です。FAEと開発・製造拠点のインダストリアルソリューションズ社(以下IS社)森田工場が密に連携して、いち早く量産体制までを構築。要素技術から製造プロセスまで、一気通貫の体制が商品価値につながっています。

モバイル業界へ参入した1999年、欧州で産声を上げたノイズフィルタ。

EXCシリーズのコア技術(独自のコイル形成技術)の開発は1996年に始まりました。このコア技術を用いた商品開発の起点は99年の「2モード ノイズフィルタ」でした。欧州市場で採用されたこのモデルがモバイル業界参入のきっかけになり、小型化を遂げた2011年の「EXC-X4シリーズ」は世界的ヒットとなったスマートフォンに搭載。この間、06年から着手した材料技術、高周波対応の低電率ガラス開発は6年をかけて確立され、14年に技術の粋を集めたEXCシリーズが世に送り出されたのです。次にめざすは、車載。巨大市場に向けて、全員がさらなる高みをめざしています。

コイル形成技術へのこだわり

歴代のノイズフィルタとともに確立された独自のコイル形成技術は、他にない生産性を実現しています。コイル導体はステンレスのパレットに感光性の樹脂を塗布して露光で樹脂を抜き、その導体をめっきで成長させてセラミックのシート上にプレスします。コイルの微細加工技術と積層技術を融合させた工法です。

さらにEXCシリーズは、0.6mm×0.5mmに6ターンが密集するため、転写の精度もかつてない高難度。銀の厚みを吸収するシート側の材料技術など、ミクロの世界に数々のノウハウが詰まっています。また、上下を挟むフェライトは熱プレスをすると縮む材質ですが、銀は熱で膨張する真逆の素材です。積層をよく知る人ほど「できるはずがない」と難色を示した組み合わせ。その壁を技術者が突き破った1999年が、革新的な製品への第一歩でした。


<原田 亮平/設計・開発>着実に一歩ずつ進化させる、それが、お客さまのための開発。

いかに狭いターンを転写するか――。私は大幅に小型化を遂げた2011年のモデルから開発を担当しています。従来の設計基準や部材、工法では0.6mm×0.5mmのサイズで特性が出せないため、新しく生産設備や検査機の検討が必要でした。当然、多額の投資を伴う失敗の許されない決断です。入社3年目だった私は、当初先輩に付いていくのが精いっぱいでしたが、関係部署との調整なども含めて、この商品にずいぶん鍛えてもらいました。膨大な販売量を世に送り出すEXCシリーズは、例えれば"ホームラン級"の商品。しかし、ヒットや四球でいいから、着実に積み重ねていくのが開発の本質だと思います。自分の開発した製品が世に出ることがいちばんの誇り、お客さまに使っていただくことが私のモチベーションです。


<石田 成白/設計・開発>車載分野での顧客貢献へ、どこまでも泥臭く解を探し続ける。

学生時代の専攻は電気系でしたが、2009年の入社からこの製品に携わってガラスセラミックの世界へ。尖った特性の実現に向けて、材料開発の試行錯誤を続けています。ノイズは取り除きながら、高速通信そのものの邪魔をしてはいけないデバイス......。目立たない存在ですし、研究自体も数をこなして調べる泥臭い作業です。いちばん嬉しいのは課題解決の糸口が見えた時で、「よし!」と心でつぶやきます。その研究成果が大量の製品に結び付くことが、私のやりがいです。現在は、オートモーティブ社への社内留学から帰ってきたばかり。この2年間、肌で感じてきたのは、ロジカルに考えることや計画性、車載の考え方。持ち帰ってきた意識、感性を忘れずに、車載分野への貢献をめざして材料開発に取り組んでいきます。


<田口 豊/技術検証・セット評価>お客さまのセットで効果を示す、現場に立つFace to Faceの開発。

本社で高周波の研究をしてきた私は、2006年から森田工場に移ってノイズ特性の測定技術やセット評価の担当を務めています。USB2.0の規格では480Mbpsだった周波数が、HDMIで2Gbpsに、さらに現在は10Gbpsと伸びており、ICの変化も止まりません。高周波ノイズの除去には、どんな信号が流れているのかをウオッチし続けることが大事で、適応という意味ではお客さまのセットに組み込んで初めて、デバイスの価値が分かります。ですから、机上の数値ではなく、お客さまの現場で効果をご覧いただくのがいちばん。一通りのセット開発を経験してきたので、私なりに基板の勘所は分かりますし、欧州や北米にも愛用のはんだや顕微鏡を持って伺います。お客さまの表情ひとつ、声を掛け合う「瞬間」のコミュニケーションを最も大切にしています。


<川嶋 託司/技術リーダー>次世代に受け継いでいく、私たちの信念とチャレンジ精神。

私が入社したのはノイズフィルタの生産が始まっていた2003年で、高周波化が先行開発されていた時期です。私たちはさまざまなセットを解析し、商品力と要素技術を追究していました。同じ面積でコイルを細かに巻けば、必ずコストが下がる――。信念を持ってチャレンジを続け、2007年に事業が好軌道に乗りました。スマートフォンの拡大とともにシェアを獲得することができたのは、進化を先取りして高品質な製品にこだわってきたから。プレッシャーばかりでなく、気づきの楽しさも味わいました。新しい発見は「これは、自分しか知らない」とワクワクするのが技術者です。若い技術者には開発や品質改善の研究で、新しい発見にたくさん出会ってほしいですね。


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