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爽快なシャワー、心地いい真っ白なシャツ。インドネシアの日常を透明な井戸水が変える。〜セントラル水浄化機器〜

社会課題を解決し、世の中に新しい価値を生み出していくために。パナソニックは技術革新だけでなく、これまでにないソリューションやサービスの開発に挑み続けています。今回は、インドネシアで水浄化の常識を変えた「セントラル水浄化機器」の開発チームにインタビューしました。

・製品名:セントラル水浄化機器(POE)
・担当:パナソニック株式会社
*記事の内容は取材当時のものです。

インドネシアでは成長にインフラ整備が追いつかず、特に首都・ジャカルタでは半数以上が生活用水を井戸水に依存しています。それまでの水浄化機器は「期待した効果が得られない」と信頼されておらず、赤茶けた井戸水で洗濯やシャワーを済ませるなど一般市民は我慢を強いられていました。水はどうしたってきれいになりっこない――。ところが、パナソニックのセントラル水浄化機器(以下POE)は除去困難と思われていた井戸水の不純物を取り除き、いつまでも透明でべたつかない生活用水を提供。しかも、サービスマンによる定期メンテナンスも不要にして、今、井戸水革命を起こしつつあります。

井戸水のイオン状の鉄分まで除去

ー浄化後はいつまでも透明のまま、黄ばみとは無縁の生活用水を。

実演を目にした誰もが「おおっ」とうなるのは、前後の違いがあまりにはっきり見て取れるからです。茶色く濁った水がユニットを通過すると、透き通った水に生まれ変わる――、見た目以上にすごいのが水質です。POEで浄化した水はどれだけたってもクリアに保たれて、洗濯に使っても白シャツが黄ばむことはありません。先行する水浄化機器の「常識」を覆しています。それまでのものは濾過した瞬間は透明であっても、時間とともに赤茶色の水に戻ると不評でした。インドネシアの井戸水に多く含まれる粗い鉄分は除去できても、イオン状の成分までは取り切れず、それらが空気にふれて酸化し、赤茶色の水に逆戻りするのです。

そこでPOE開発チームは、全く異なるアプローチで挑みました。着目したのは、「いかに細かいフィルターで取るか」ではなく「いかにイオン状の成分を取りやすくするか」。酸化剤を使ったイオン析出化と高速凝集処理による粗大化がそのキモで、シンプルな構造ながら約95%の不純物除去に成功※します。インドネシアではイスラム教徒が多数派を占めますが、彼らにとって清浄であることはイマーン(信仰)の一部。祈りをささげる前にきれいな水で体や顔を清めること、信仰心を表す白い服や帽子を身につけてモスクに行けることは、水道が満足に行き渡らない人々にとって大きな喜びになっています。
※鉄分6㎎/L、濁度100NTUの井戸水を処理した場合

負担を減らすセルフメンテを実現

ーデータと信頼を積み重ねて、暮らしを知り、やっと見えたカタチ。

水浄化機器においては、サービスマンによる定期的なフィルターの保守や交換作業が必要で、「トータルコストが高い」という評が広がっていました。POEはこうした声を吸い上げて、利用者自身が保守することで、安価な導入を可能にしました。ユーザーが行うのは、日に一度のフィルター洗浄を行う「逆洗浄」と、補充時期にタブレットを投入する作業のみ。この簡易メンテナンスさえ欠かさず行えば、フィルターの寿命はなんと5年、ランニングコストはそれまでの約3分の1まで抑えられており、手頃に利用することができます。また、POEは指定の条件下であれば置くだけの簡単設置を実現。導入コストおよそ3分の2程度で、市場に強いインパクトを与えています。

「水関連事業へのお役立ちをしたい」とインドネシアに進出して、1988年にウオーターポンプの製造を開始しました。ポンプを普及させるなかで感じた「ただ水を出すだけでいいのか?」がPOE開発の出発点です。いかにきれいな水を家庭にお届けするか。開発を進めた春日井工場の一画に設けられた実験室には、インドネシアの標準的な4人家族が1日に使用する水1000リットルが入る実験用タンクがずらり。インドネシアの井戸水を再現した模擬水をさまざまな条件下で浄化していき、最適解を導き出しました。とはいえ、実際の現場で想定通りに動かないのは日常茶飯事です。開発メンバーはたびたび実験機を携えて海を越え、ユーザーテストを繰り返しました。信頼関係を築いた協力家庭から暮らしのリアルを学び、それが日に一度、"「逆洗浄」メンテをするだけ"の簡潔なユーザビリティへつながりました。

<中島 隆弘/プロジェクトリーダー>水浄化機器のイメージを一新した長年の蓄積とユーザーとの対話

除去性能とコストの共存が難しいことは先行していた製品からもうかがえ、開発当初から対象を中級所得層にフォーカス。高所得層が住むマンションなどはインフラが整う一方、いまだに井戸水を頼みとするミドルクラスにとって水質改善は悲願だったからです。サンプル提供をした家庭の約98%から「実際に設置したい」と申し出をいただき、自信を深めていきました。高い酸化浄化技術は一朝一夕で生まれたものではなく、前身機におけるデータ蓄積あってこそです。

製造は、配線器具をつくるパナソニック(株)の社内カンパニーであるライフソリューションズ社系列の現地工場と折衝を繰り返しました。つくる製品はまるで異なり、立ち上げは一筋縄ではいきませんでした。それでも、工場に取り付けた実機を皆が心から喜び、それを誇りに進めてもらったおかげで軌道に乗りました。今は日に一度の逆洗浄を利用者にお願いしていますが、これは一刻も早く商品化するためのいわば途中経過であり、まだまだ改善の余地があると思っています。さらにお客さまに喜んでいただける商品をお届けできるよう、止まることなく開発を進めていきます。

<Sifa Nala Utami/現地営業・マーケティング>モチベーションは高い商品力。国の事情を踏まえた認知度アップを

井戸しかない環境に育った私は、きれいな水の概念がありませんでした。POEを設置したオフィスは不快な臭いが一切なく、素晴らしさを実感。それが大きなモチベーションで、メインターゲットである、地場デベロッパーが構成する協会にアタック。総会やイベントへのブース出展で認知度を高めました。今では多くの新築住宅に設置され、「マイホームの当たり前」へと前進しています。インドネシアの人々にとって信仰は身近で、お祈りの前に口を清めます。モスクに設置したサンプルも、大反響を呼んでいます。水は透明であるほどいい。POEの公式インスタグラムは7万人以上にフォローされ、水への関心の高さがうかがえます。今後は人気の若手俳優を起用して、特に若年層へのアプローチを進めていきます。

<齋藤 和大/技術開発>開発の鍵は現地で気づいた「きっかけ成分」。生の声から、形はおのずと見えてくる

テスト中のお宅にうかがうと、ご主人がニコニコと出迎えてくれました。白と黄ばんだシャツの2着を両手に持って「どっちがPOEの水で洗濯したものか分かる?」と。あの満面の笑みは忘れられません。開発中は、空気にふれていずれ鉄分へと変化する「イオン状の鉄分」に手を焼きました。他にはない設計の出発点は、ユーザーテストで発見した「きっかけ成分」です。イオン状の鉄分を取りやすくする物質と除去方法に気づいたときは興奮しました。POEの売りはお手軽メンテナンスですが、当初苦しんだのは、水に溶け出す酸化剤の濃度調整です。濃度が一定になるように、ハードを一から設計変更しました。他にも開発は苦労の連続でしたが、皆さんの笑顔や声が、「まだできるはず」と後押ししてくれました。


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