キッチン工場の「切れ端」が大変身!パナソニックグループ×社外クリエイターによるサステナブルな取り組み
※ この記事は、以下の記事を元に加筆・再編集したものです。
工場端材「そのまま」を新たなプロダクトへ~端材活用エコシステム開発プロジェクト
リサイクルできない素材を「主役」に!グループ内の「もったいない」に着目
最初に訪ねたのは、パナソニック ホールディングス株式会社 マニュファクチャリングイノベーション本部の和田 享さん。このプロジェクトの中心人物です。
和田さん「今回着目したのは、キッチンカウンターの素材となる人造大理石です。人造大理石は、機能性、意匠性、堅牢性など、素材として非常に優れた特性を持っていますが、製造工程でくり抜かれた後の端材がどうしても発生します。でもこの端材の素材自体は、製品になる部分と何ら変わりはなく高品質なんです」
和田さん「こうした端材の再活用を事業化することはできないものか…具体的には、それぞれの端材の形をデータベースに落とし込んで広く世に公開し、多くのクリエイターさんに再生利用してもらえる仕組みをつくれないかと考えました」
和田さん「工場端材にもいろいろな素材がありますが、金属でできたものは、すでにリサイクルの道筋が確立しています。一方、人造大理石については、安定した次の行き先が見えておらず、ここに事業機会創出の可能性があると思いました」
そこで声をかけたのが、キッチンカウンターの開発を担当するパナソニック ハウジングソリューションズ株式会社の笠原 朋樹(かさはら ともき)さん。人造大理石という素材のプロフェッショナルとして、プロジェクトへの参加を打診しました。
笠原さん「長年、水廻り関連やキッチンカウンターの設計開発を担当しています。人造大理石の品質には自信を持っていますので、それを二次活用するノウハウの確立にもぜひ携わりたいと考えました」
材料のデータベースを公開し、社外クリエイターとコラボ!
キッチンカウンターの素材である人造大理石の再利用にあたっては、その優れた堅牢性ゆえの悩みどころがあったそうです。
笠原さん「キッチンカウンターは家庭内の他の什器や家具より過酷な使われ方をされるのが常。熱いフライパンや冷たいドライアイスなどを置かれるケースも考慮し、熱や汚れなどに強く、高い硬度で安定してお使いいただける素材として人造大理石を採用しています。そのため、いざ再利用となると、細かく砕いたり溶かしたりといった二次加工がしづらいという側面もあるんです」
こうした側面も踏まえ、どのようなアップサイクルが可能か――グループ内の垣根を越えた協力体制を固める一方で、和田さんと笠原さんは3つのことにチャレンジしました。
① データ活用
② 二次利用エコシステム
③ クリエイターとの協業
笠原さん「①の『データ活用』については、製品用の設計図である程度のバリエーションが見えていましたので、一つひとつを3DCADのデータとして落とし込みを進めました。②の『二次利用エコシステム』は、デザイナーや設計担当の方に使っていただくためのプラットフォーム開発です。この2つはパナソニックグループ内で推進しました」
そして、欠かせないのが、③「クリエイターとの協業」。プロジェクトに共感いただけるパートナーやクリエイターとの協業を目指し、最初に声をかけたのが、パナソニックグループの長年の共創相手である株式会社ロフトワーク(以下、ロフトワーク)でした。
和田さん「日頃からサステナビリティを強く推進されているロフトワークさんに協力いただき、社外のクリエイターの方々を招いて、人造大理石を知ってもらうための展示会を開催しました」
笠原さん「展示会で人造大理石に初めて触れた方々は、『これは良いものを教えてくれた』と喜んでくださいました。また、すでに知っていた方からも、『端材が使えるとコスト面だけでなくサステナビリティにも貢献でき一石二鳥』と評価いただきました」
斬新なアイデアを形に!プロトタイプづくり第1弾
展示会をきっかけに新たな繋がりが生まれ、実際にプロトタイプをつくる計画が持ちあがります。
笠原さん「クリエイターさんからいくつか斬新なアイデアを出していただき、モノづくりを進めていきました。私の役割は、みなさんの設計図を『構造が安心安全となり得るか』の視点で確認すること。例えば、それなりに重量のある端材をテーブルの天板として使う場合、支える脚が本当にその形状や細さで十分か、といった点です」
それぞれの知見と強みを活かしあったプロトタイプづくりは順調に進行し、4点が完成。2022年7月、東京・渋谷のロフトワークが運営するFabCafe Tokyoで、材料サンプルと共にお披露目されました。
笠原さん「実際にプロトタイプをご覧になったお客様から、『この色いいね』『素材がカッコいい』などと声をかけていただいたのは新鮮な体験でした」
和田さん「私たちがこれまで『端材』として見ていたものがさまざまな形に生まれ変わり、新たな場所で再びお役に立てる…この流れを創出できたことで、社内にも良い風が吹いたように思います」
実ビジネス化に向けて、着実に前進!
プロジェクトは、社内外での反響を踏まえ、今も実ビジネス化への歩みを進めています。
プロトタイプ「Generative Scaffolding」「counter“a”part」を手掛けたクリエイター・岩沢兄弟のいわさわ ひとしさんは、2022年12月、人造大理石を用いた新作を発表。実際に、カウンターテーブルとしてFabCafe Tokyoで使われています。
今回、プロジェクトマネジメントの役割を担ったロフトワークの長島 絵未(ながしま えみ)さんは、いわさわさんをはじめとするクリエイターへ参画を呼び掛け、クリエイティブの支援を行ってきた1人です。
長島さん「今回は、完成品を扱うプロジェクトではなく、これから形づくるフェーズでした。なおかつ扱うマテリアルそのものが、未だ市場にない工場端材。この点で、熱意を持って取り組んでくださる方へオファーしました」
いわさわさん「今回扱う人造大理石は、キッチンカウンター専用の素材というところに興味を引かれました。一般に資材として見かける人造大理石は、もう少しやわらかい。過酷な環境での使用に特化した堅牢性、あえて凸凹をつけ本物の石に近づけた意匠性…端材なので大きさや形が一律でなく、切り口など一つひとつ微妙に違うのも新鮮でした。硬いため二次加工しづらいという課題もありましたが、どのように特性を新たな形に生かし、使いやすいものにするか、そこにやりがいを感じました」
いわさわさん「端材自身に、製造工程で生まれたというストーリーがある。この端材を加工すると、そこでまた端材が生まれる可能性もある。ではそのまま使えばよいのでは、との発想に至りました。新作のカウンターテーブルでは、端材の形を生かしつつ、クリエイターに『使いやすい素材』と感じてもらうことを意識し、切断した端材を組み合わせる構造にしました」
長島さん「今回のカウンターテーブルは、プロトタイプから一歩進んだ『プロダクト』です。実際に端材一つひとつを材料として購入し、完成品として制作・納品しました。お客様がカフェ利用で過ごすほか、イベント時はシェフがその場で調理・提供するオープンキッチンとして活躍することも。人々が憩う場となり、多くの人の目や手に触れてもらうことでプロジェクトの活動を知ってもらい、新たに環境問題を考え、アクションを起こすきっかけになればうれしいです」
プロジェクトは着実に前進し、新たなつながりが生まれ続けています。
和田さん「これからは社内・社外関係なく、社会の中で日々生まれている端材をいかに減らしていくか、皆で考えていかねばならない時代。今回の取り組みをモデルケースとして広めていければと思います。さらに言うと、製品として世に出たものも、いずれは役目を終える日が来ます。そうした使い終わった製品も見逃すことなくアップサイクルの対象として組み込んでいけるエコシステムを創り上げたいですね」
パナソニックグループは、グローバルで環境問題の解決に貢献することを目指しています。今回のプロジェクトのように、社員一人ひとりの課題意識を起点に、各々が向き合う業務や共創パートナーとの連携の中で、実際のアクションと成果につながっていく――そうした事例が、グループ内のあちこちで芽吹き始めています。
日本で排出される産業廃棄物のうち、減量・再生利用されず最終処分されるものは、約900万トンにも上ります(※1)。パナソニックグループでは、今回ご紹介した「人造大理石」端材のエコシステム構築を筆頭に、工場端材をできるだけ“そのまま”使い、魅力的なプロダクトとしてアップサイクルするノウハウ・仕組みの構築を推進しています。
パナソニックグループは、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」のもと、これらの活動を通して、自社、そしてくらしやビジネスにおけるCO2削減に取り組んでいます。
※1 参考:「リサイクルデータブック2022 」
マテリアル(化学素材)を起点に未来の暮らしをソウゾウする「_and Material」。マテリアル・イノベーション・マガジン編集部では、これからも、化学素材の魅力を伝えるさまざまな取り組みを取材し、みなさまにお届けします。どうぞお楽しみに!
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