5G時代の最先端テクノロジーを支える、高エネルギーかつ高耐熱コンデンサ。
スマートフォンで映画を観る、国境を越えてリモート会議をする、産業ロボットを遠隔操作する。こうした今や当たり前となっている利便性を実現しているのが、膨大かつ高速なデータ通信です。
通信量が増えるほどにサーバーの高性能化が不可欠であり、そのサーバーを内側から支えているのが、コンデンサというわずか数ミリの精密部品。5Gの時代において、高エネルギー、小型、高信頼性を兼ね備えたコンデンサが世界中で求められるなか、産業用SSD業界においてシェアNo.1の商品が日本の佐賀で誕生しました。それが、導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ「POSCAP」。今回はその開発メンバーに、開発への想いや技術の工夫ポイントについてインタビューしました。
プロフィール
小寺 慎二 パナソニック インダストリー株式会社
古川 剛士 パナソニック インダストリー株式会社
山口 伸幸 パナソニック インダストリー株式会社
村田 一善 パナソニック インダストリー株式会社
コンデンサがなければ、あらゆる最先端機器は成り立たない。
Q.まず、コンデンサの重要性がより高まっている背景や社会的なニーズを教えてください。
小寺:AIやIoTの普及とともに、社会におけるデータ通信量は増大かつ高速化の一途をたどり、サーバーの高性能化が求められています。サーバーでは大容量のデータバックアップと高速な読み書きが必要なため、ストレージデバイスであるSSDの高エネルギー化が進み、それにともなってバックアップ用のコンデンサも高エネルギー化が求められるようになりました。
またSSDは高密度な状況で実装されるので、機器の内部環境が高温かつ狭小になり、コンデンサの高耐熱と小型化への要望も高まっています。私たちはこうしたニーズに応えられるコンデンサの開発に日々取り組んでいまして、その結果、高エネルギーの導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ「POSCAP」を他社に先駆けて開発しました。
村田:導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ「POSCAP」は、SSDメーカーであるお客さまの要望に応えるかたちで開発が進められました。そのお客さまとパナソニックは、記録媒体がまだハードディスクしかなかった頃から付き合いがあり、2014年頃にSSDが誕生した当初から商品を使用いただいています。時代が進むにつれて高エネルギーかつ高信頼性への要望が高まっていくなかで、工場、販社、営業が密に連携し、お客さまの要望を素早く捉え、タイムリーに反映させられたことが他社に先行して開発できた理由のひとつだと言えます。
Q.お客さまからの期待はどのようなものなのでしょうか?
小寺:4Gから5Gの時代になり、データ通信量は加速度的に増えています。しかしサーバーのスペースは限られているので、制約状況を守りながら高エネルギー化できるコンデンサがないと、お客さまは本当に困ってしまいます。
データセンターは大きいものだと東京ドームの何倍もの広さになると言われていますが、極論すると、もしコンデンサのサイズが倍になったら、データセンターの広さも倍にしなければならない。サーバーの高性能化はお客さまにとって不可欠なことなので、私たちへの要望も高いですし、熱い想いを感じます。私たちがニーズに応えられないと、スマートフォンなどさまざまな最先端機器が成り立たなくなってしまいます。そう考えると、わずか数ミリと小さなコンデンサは世の中の暮らしに大きく役立っていて、その技術に関われることは誇らしく、やりがいも大きいです。
高エネルギーと高耐熱。相反する課題をいかにクリアするか。
Q.導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ「POSCAP」の特徴を教えてください。
小寺:最も重要な特性は、小型でありながら高エネルギーを実現している点です。使用スペースが限られているお客さまの要望に応え、高さが1.5mmと小さいコンデンサなのですが、そのサイズにおいて世界最高のエネルギーを発揮します。
もうひとつの特性が、高耐熱です。例えばノートPCなどを使っていて熱くなることがあると思いますが、それでだいたい約65~85℃になっています。今回開発した「POSCAP」はPCなど個人が使うものでなはく、産業用5Gのデータセンターなどで使用されるもの。世界的なIT企業のデータセンターで使われることもあり、信頼性の基準が非常に厳しくなります。機器が密集し熱がこもる環境でも安定した使用を可能にするため、105℃の状況で2000時間まで変わらないエネルギー量を保証したコンデンサになります。
Q.開発において苦労した点はどういったことでしょうか?
古川:高エネルギー化と高耐熱化は改善策に相反する点があり、どちらも高い基準をクリアすることが非常に困難でした。
高エネルギー化しようとすると、それにともなってコンデンサ素子の体積や表面積を高める必要があり、耐熱性を高めるためには、コンデンサ内部に含まれる電解質の量を増やす必要がありますが、体積や電解質量を増やすほど、リフロー時にコンデンサの内圧が高くなりやすく、その内圧によってはクラックと呼ばれるコンデンサの外装樹脂表面に亀裂が入ってしまいます。この課題の解決に、開発チームとして最も悩まされました。
Q.いかにして解決したのでしょうか?
山口:着目したのは、電解質に使用される導電性高分子材料です。当初検討していた導電性高分子材料は、エッジの部分が薄くなるため安定した膜厚を形成できない問題や電解質量が過多であるなどの不具合があり、高耐電圧化やリフロー耐性に課題がありました。そこで電解質の厚膜化と均一化に着目して、新規に開発した添加剤を加えることで、エッジの膜厚を厚く、均一にすることに成功。これによって電解質の増加による外装樹脂の亀裂という課題を解決でき、高エネルギーと高耐熱の両立を実現できました。
さらに、この技術応用で外装樹脂を薄くできるようになり、内部構造を最適化することで、商品サイズを従来の高さ2.0mmから1.5mmまで低背化でき、限られたスペースでの使用を可能にしました。
要素技術のダム化が、これまでにない商品を生む。
Q.導高分子材料に手を加える発想は、どのように生まれたのですか?
山口:今回の「POSCAP」の開発期間は半年ほどでしたが、新しい高分子材料の開発は3年ほど前から進めていました。私たちにとって、新製品開発のプロジェクトと並行して要素技術開発をしていくことは非常に重要で、要素技術開発を行わなければ、新しい商品を生み出すことはできません。
今回の「POSCAP」においても、求められるエネルギー量が高まることを見越して、以前から着手していた技術を活かすことができました。そういう意味では、パナソニック佐賀工場には新しいことにチャレンジする文化があって、それが技術の進化を促しているのだと思います。最先端の企業とお付き合いさせていただき、一流の材料に触れながら、自分なりに試行錯誤できる環境は技術者としてありがたいですし、それが最終的に商品に結びつくというよい結果に繋がっています。
Q.お客さまとのコミュニケーションのなかでも期待値の高さを感じましたか?
村田:そうですね、状況を常に聞かれますし、もっと高エネルギー化できないかなど、開発の途中でも求める基準が高まったり、要求が変わったりすることもあります。毎回、緊張感のあるやり取りになりますが、だからこそ期待にお応えできた時の喜びも大きいです。
古川:目標値などを聞いたうえで、お客さまがその先に何を求めているのかを考えながら要素検討を進め、他社に先駆けて提案していくことも重要。今の技術でどこまでできるのか、その技術を進化させてどこまでいけるのかを考えながら開発を進めています。
小寺:お客さまから信頼を得るためには、納品後の品質、つまり不具合品を出さないことも非常に重要です。量産化はコンデンサづくりにおいて難しいポイントのひとつで、例えば実験室でコンデンサを一個つくるのと、それを大量生産するのでは大きな違いがあり、製造現場でばらつきなく品質を保つのは容易ではありません。私たちは製造現場、生産技術、設備といったさまざまなメンバーで議論を重ねることで高品質を保ち、お客さまからも高い評価をいただいています。
佐賀から世界へ。私たちの技術はもっと社会の役に立てる。
Q.今回の商品で実現できたこと、また今後の展望をお聞かせください。
小寺:高さ1.5mmとコンパクトでありながら35Vの電圧で従来比2.8倍のエネルギー量を実現し、105度、2000時間に耐え得る信頼性も備えた、お客さまのニーズに応える性能を実現できました。産業用SDD業界でNo.1シェアを獲得し、コロナ禍もあって需要が急増しているICTインフラ機器の性能向上に大きく貢献することができました。
「POSCAP」という商品自体は1997年に立ち上げ、2000年から高エネルギータイプをスタートして、お客さまの要望に応えることで進化し続けてきました。そのなかで最もキーとなるのは、今回新しく採用した導電性高分子材料です。ほかにもさまざまな材料がありますが、それらを今以上に進化させて、さらなる高エネルギーを実現する商品づくりにチーム一丸となって取り組んでいきたいと考えています。
村田:今回はストレージですが、ほかにも「POSCAP」が持つ優れた性能を活用することで、お客さまの価値向上に貢献できると思っています。実際にノートPCや産業機械など、さまざまなお客さまから問い合わせをいただいているので、これまで培ってきた経験を市場全体のなかで広げていきながら、お客さまが困っていることを解決していきたいです。また技術者としても、これから世の中に出ていくようなサービスや技術にいち早く関わり、形にしていけることは非常にやりがいがあります。
Q.今後における具体的な計画はありますか?
小寺:現在の「POSCAP」は第三世代なのですが、技術的にはひとつ山を越え、新しいプラットフォームとして確立できたと考えています。将来的な話になると、さらなる進化をしていく必要があります。
データ通信量は私たち使用者がどんどんデータを使うほど伸びていきますし、高エネルギー化はますます求められるでしょう。その未来に備えて、現在の商品からさらに進化させて高エネルギー化した次世代の商品計画を進めています。まだ仮説段階ですが、ニーズをいち早くキャッチしてお応えできるように、具体的に計画して準備しておくことを進めています。
今回の「POSCAP」に続く、新しい商品が生まれる日も近そうですね。
小寺:はい。九州の佐賀から世界に向けて、多くの人の暮らしに役立つ商品をどんどん生み出し、発信していきたいです。
*記事の内容は取材当時(2021年10月)のものです。
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