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「ありがとう」のバトンで人と人をつなぎ、たいせつな誰かと社会に恩返しを|PASSION vol.7

何かを成し遂げるのに必要なのは、知識や経験以上に「それを実現したい」という情熱である。

創業者・松下幸之助がのこした考え方は今日も私たちの指針となっています。連載企画「PASSION」では、「プロジェクト×人」という切り口でパナソニック社員やそこに携わるパートナーの方々にもお話を伺い、それぞれが秘めた情熱の源泉を探っていきます。

今回も、vol.6(前回)に続き、2021年11月にパナソニックと富士通で共同開催した「わたしたちのウェルビーイングのためのハッカソン2021」についてお届けします。前回の「パナソニックD+IO賞」を受賞したチーム「Egg Messenger」 に引き続き、同賞を受賞した「KODAMA」チームのみなさんにお話を伺います。「恩返し、恩送り(おんおくり)」というキーワードで集まったというみなさんに、アイデアが生まれた背景やハッカソンでの様子をお聞きしました。

わたしたちのウェルビーイングのためのハッカソン2021

福島・会津若松の空を背景にしたハッカソンのロゴ。
会津若松市の地元の皆さんが開催当初から参画してくださっていて、
皆さんのウェルビーイングに対する思いの強さから学ぶことが多かったそうです。

昨今、一段と注目が集まっている「ウェルビーイング」をテーマに、2018年から多くの企業を巻き込んで開催しているハッカソン。

“心身ともに健康”で、“よりよい幸せ”が考えられ、“社会的にも充足されている”すべてが満たされた状態――人それぞれ違うニュアンスを内包するからこそ、別の誰かのくらしをアップデートさせることにもつながっていく「ウェルビーイング」という言葉。そんな想いを込め、生き生きとしたくらしの糸口を探るハッカソンには、毎年多くの企業にも賛同いただき、4回目となる今回は、パナソニックと富士通の共同開催のもと、4か国からおよそ50名の方が参加しました。

今回の課題は「あなたとあなたに関係する誰かとの関係性を良好にするプロダクトやサービス」。参加したみなさんはチームにわかれ、それぞれの領域の第一人者からのメンタリングを受けながらアイデアを練り上げます。その中から、特に優秀なアイデアを出したチームに、「パナソニックD+IO賞」「富士通つながる豊かさ賞」が贈られました。

【プロフィール】

左から、中村健吾さん、中村早希さん、山口真人さん、木須直樹さん、長谷川ちひろさん

チーム「KODAMA」は、島根県で全国の離島中山間地域の方々とともに高校魅力化を推進する地域・教育魅力化プラットフォームの中村健吾さんと、福島県で仏壇仏具の製造販売をしているメーカー「アルテマイスター」のみなさんで構成。中村さんがハッカソンの参加を検討していたところ、テーマにしていた「恩返し」の考え方が、仏具を扱う「アルテマイスター」さんと親和性が高いとの紹介を受け、結成に至りました。
このチームは、たくさんの人にお世話になっていても、物理的・心理的な制約があり現実的には数人にしか面と向かって感謝を伝えることができない、という課題感を持って、このハッカソンに参加しました。

テーマは「恩返し」。感謝の気持ちをつなげてくれるスピーカー

開発中の人形型スピーカー KODAMA

―今回「パナソニックD+IO賞」を受賞した「KODAMA」とは、どのようなプロダクトなのでしょうか。

中村健吾: KODAMAは、不特定多数の方に音声で感謝を伝えるプロダクトです。アプリに向かってメッセージを吹き込むと、人形型のスピーカーから音声が流れる仕組み。スピーカーは、病院の待合室や公民館といった人の集まるところに設置する想定です。

感謝のメッセージは、誰が聞いても良い気持ちになるもの。特定の相手だけでなく不特定多数の人が聞けることで、ほっこりした気持ちの連鎖・循環を生み出したいと考えました。

―どのような背景から、このアイデアが生まれたのでしょうか?

中村健吾: これは、私自身のモヤモヤから生まれたアイデアです。私は現在、地域の教育に関する事業に携わっており、全国の離島や山間地を訪問しています。そこでは学校や公民館、住民の方のお宅などに出向いてお話をお聞きすることがあり、短い間ではありますが地域の方々にたいへんお世話になります。

帰る際、フェリー乗り場などで手を振ったり、お礼をしたりするのですが、直接お礼を言えるのはほんの数人。「きちんとお礼ができなかったな……」とモヤモヤしながら帰ることが多くあり、解消したい気持ちから「恩返し、恩送り」をテーマにしました。

「感謝は情報ではない」核心を突くメンターのアドバイス

―発表までは順調に進みましたか?

長谷川: はじめの段階では、土地を去るときに、その地域の良いところを残せる新聞のようなアイデアを考えていました。しかし、1日目の夕方にメンターの方へお伝えしたところ「感謝は情報ではない、これではただのチラシになってしまう」とアドバイスをいただきました。振り出しに戻ってしまい焦りましたが、「確かにその通りだな」と思い直し、みなで考え直すことになりました。

木須: 夜まで話し合い、帰宅後もそれぞれが考えました。たいせつにしていたのは「恩着せがましくなく伝えること」と「伝える対象を狭めない」という2点。次の朝、アイデアを持ち寄ったところ、「スピーカー」というキーワードが出てきて。そこからは、プロダクトアウトに向けての作業が加速しました。

長谷川: 木須さんがKODAMAのデザインを描き、私と中村早希さんで造形を、中村健吾さんはプレゼンの資料を進めてくれました。またハッカソンでは、各班に1人ずつエンジニアが入ってくれますので、アプリは山口さんとともに、エンジニアの五十嵐さんが制作しました。

山口: KODAMAは、メッセージを録音するアプリと、発声するアプリの2つをつくる必要がありました。エンジニアの五十嵐さんにはたった3時間で実装までこぎつけていただき、本当に感謝しています。

「ありがとう」の言葉が、人と地域・世の中をより良くしていく

―KODAMAがかなえるのはどんな社会でしょうか

山口: 人から人への感謝の言葉は、誰が聞いてもほっこりしますよね。そんな声を街中で聞けることで、地域が少しずつ良くなっていく。そういう形で恩返しできるのではないかと考えています。

長谷川: 感謝の言葉を聞いた人が、次は自分も感謝を伝えたいと感じ、ありがとうのバトンが広がっていくと良いですよね。

中村健吾: 今は新型コロナウイルスの影響で、離れて暮らす家族に会う機会も限られています。でもきっと、このように伝えたかった気持ちを気楽に発信できる仕組みが生まれることで、世の中がちょっとずつでも変わっていくのでは、と思っています。

―ハッカソンに参加しての感想を教えてください

木須: 本業で行っている仏壇や仏具など、願いや祈りが関わるものは重たいイメージになりがちです。今回、中村健吾さんとごいっしょし、すごくライトで、あらゆる人になじむアイデアになったことはとても新鮮でした。

山口: アイデア出しのとき「自分はこう思うけど、一般の方はこう感じるよね」という掛け合いが多くありました。開発側の想いの強さに、お客さんの共感が比例するとは限りません。客観的な視点を持ちながら、本質を見極めるプロセスは、今後の業務にもつながると思っています。

中村早希: 私は普段、小売り店舗に勤務していますので、ゼロからものをつくるプロセスを体験でき良かったです。日々お店で扱っている商品も、このような工程を経てつくられていて、自分の役割はそれを伝えることなんだとあらためて感じることができました。

長谷川: 私たちのチームは「感謝をどう伝えるか」という、人の優しい気持ちがテーマでした。普段の業務にも通じる内容ですし、原点に立ち返ることのたいせつさを感じました。そして、短い期間の中でメンバーと深くつながれたことも良かったです。

中村健吾: ハッカソンのテーマは「ウェルビーイング」でしたが、私にとっていちばん良かったことは、チームが“ウェル”だったことです。しっかり議論しながらも、お互い思いやりを持って進められ、結果的に良いものができました。アルテマイスターのみなさんに感謝しています。

中村健吾: このようなイベントは、目の前の忙しさやできないことに目が行ってしまうと、挑戦する機会が閉ざされてしまいます。しかし今回飛び込んでみて、偶発的な出会いが新しい気づきにつながりました。これからも、まだ出会っていないことに対してポジティブにいたいと思っています。

「感謝をどう伝えるか」やさしさ起点のアイデアをかたちに

D+IOプロジェクトとは、「たいせつな誰かへ届けたいみんなのモノづくり」を応援する活動。このプロジェクトを担当し、今回審査員も務めたFUTURE LIFE FACTORY(以下、FLF)の川島さんからも、受賞の理由をお聞きしました。

FUTURE LIFE FACTORY 川島大地さん

川島: 「D+IOプロジェクトでたいせつにしていることのひとつに、“たいせつな誰かへ届けたい”という想いがあります。KODAMAは“感謝を届けたい”という気持ちが起点となっており、まさにD+IOの目指す方向と合致。私自身もその点にひかれました。

現在レシピ化を進めていますが、生の音声を伝える部分には技術的なハードルがあります。どなたでも簡単につくっていただくため、メンバーのみなさんと検討を重ね、LINEのグループやツイッターのハッシュタグを使って感謝を投稿すると、テキストがスピーカーから発話できる仕組みを考えて進めています。楽しみにしていてください!

▼チームのアイデアは、FLFとのコラボレーションで、作り方をレシピ化。FLFが推進する「D+IOプロジェクト」のサイトにて公開する予定です。


これからもパナソニックでは、ウェルビーイングについてソウゾウを広げ、それを実現するアイデアの共創や技術の進化を通じて、一人ひとりのくらしをアップデートしていきます。みなさまからのまだ見ぬすばらしいアイデアを、いっしょにかたちにできれば幸いです!