お客さまの声と向き合って、今までにない価値を生み出したい。
迷うよりも、とにかく前に進んでみる。壁にぶつかった時、冷川律香はいつもそうやって乗り越えてきた。高校3年生の時、脚の病気が再発し長期の入院生活をすることになった時もそうだった。
「子どもの頃からソフトボール部で、いつも走り回っていたものですから、脚を手術するって言われた時は、さすがにあれこれ考えました。でも病院には同い年くらいの同じ病気の子たちがいて、毎日いろんな話をしているうちに思ったんです。人生はいろいろあるけど、たのしく過ごさないとダメだって。だから落ち込んだりしなかったですし、病院での時間を、もっとたのしもうと思って過ごしていましたね」。
退院後は、自宅で療養していたが、だんだんじっとしていられなくなってきた。生まれ育った大分を出て働きたい。もっと都会の、たとえば福岡とかで働いてみたい。そこで専門学校に行き、情報処理や簿記、秘書検定などを学んだ。卒業する頃になり、先生に福岡で働きたいという想いを伝えたところ、障がいのある人を積極的に採用している会社を探してきてくれた。それが当時、ファクスやカーナビケーションなど取り扱っていた今の会社だった。
入社すると、冷川はカスタマーサービス(以下、CS)部門に配属となった。「当時はCSではなく、営業技術という名前でしたが、正直どんな仕事なのかまったく分かっていませんでした。でも、やるからには一生懸命やろうと思って張り切っていましたね」。最初に任されたのは、「お客様ご相談窓口」の相談員だった。当時は製品ごとに窓口があり、冷川はパーソナルファクスの担当になった。
「お客さまのさまざまなお困りごとに答えるためには、まず製品のことを知ることが重要です。しかし、私の家にはファクスがなく、操作したこともありませんでした。そこで会社からファクスを借りて、自宅で実際に触りながら覚えていったんです。担当する製品は、お客さまがはじめて触る時のようにまず触ってみる。これはその後も、ずっとやっていましたね」。
「ありがとう」。お客さまのお困りごとをうまく解決できた時に言ってもらえる言葉が、何よりも嬉しく、励みになった。その一方で、時に厳しいご意見やお叱りを受けることもあった。「製品の仕様上どうしても起きてしまう現象があったのですが、その点についてあるお客さまからお叱りを受けたことがありました。最初はかなり厳しい言葉をいただいたのですが、何度もお電話でお話をして、最終的に強く信頼いただけるようになったんです。あの時、私たちの仕事の意味と、大切さを改めて知ることができました」。
その後、製品の修理を担当するサービス会社の技術相談窓口に異動。3年ほど携わったあと、お客さまから直接寄せられた声や、市場から上がってくる品質に関する情報を分析し、関係部門にフィードバックするという業務を担当することになった。
「お客さまの声から得た情報は、よりよい製品をつくるためのヒントの宝庫です。たったひとりのお客さまの、たったひとつのご意見であったとしても開発部門に伝え、必要であれば途中段階からでも製品の仕様を変更する場合もあります。関係部門の方々とコミュニケーションを取りながら、新しい製品づくりに貢献できた時はやりがいを感じますね」。
現在、冷川はCS 全般の管理業務の携わり、部門内の重点取り組みの設定やその進捗管理、CSに関わるコストの管理などを担当している。「CS一筋30年やってきましたが、まだまだ奥の深さというか、難しさと可能性を感じています。私たちの製品をご購入いただいたお客さまと、その後もずっとつながり続けていくために、CSにできることはまだまだあります。お客さまに今までにない価値をお届けするために、CSとしてなにができるのか。さまざまなチャレンジを始めているところです」。
入社からこれまでを振り返り、冷川が感じていること。それはCSという仕事に対する誇りと、自分を育ててくれた周りの人たちへの感謝だ。
「ここは、本当に人を大事にしてくれる会社だなって思います。障がいがあるとか、ないとか関係なく、一人ひとりの考えを尊重してくれました。CSについて何も分からなかった私に、すごく丁寧に教えてくれましたし、慣れてきたら裁量の大きい仕事を任せてくれました。困っている時は、さりげなくアドバイスをくれたりして。私はみんなに育ててもらったなと心から思います。今度は自分が人を育てるという立場ですから、これまで先輩たちから受け継いできた経験やノウハウを、しっかり次の世代に伝えていこうと思っています。そして、これまでにないCSサービスをいっしょにつくっていきたいですね」。
<プロフィール>
*所属・内容等は取材当時(2023年8月)のものです。