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「世間は正しい」を胸に、思い込みと向き合い学び続ける|#思い込みが変わったこと

ソウゾウノートでは、2022年3月25 日から「#思い込みが変わったこと」をテーマに投稿コンテストを開催しています。みなさんの「自分の思い込みが変わった」「周りの思い込みを変えた」エピソードをつうじて、さまざまな生き方や価値観をご紹介していきます。

今回お話を伺うのは、メーガン・ミュンワン・リーさん。韓国出身で、現在はパナソニック北米社CEOの立場でDEIの推進に取り組んでいます。そんなメーガンさんの「#思い込みが変わったこと」に迫ります。

Megan Myungwon Lee(メーガン・ミュンワン・リー)
韓国生まれ。14歳から17歳まで日本の大阪で育つ。大学卒業後は家族とともにアメリカへ。現在はパナソニック ノースアメリカ(株) にて、新規事業の指揮、経営戦略の立案、人事のデジタル運営化を実施。パナソニックのDEI(Diversity, Equity & Inclusion)を北米地域で推進している。


「私の思い込みは?」その問いかけに終わりはない


―メーガンさんの経歴を教えてください。

メーガン: 私は韓国で生まれ育ち、銀行勤めの父の転勤に伴い14歳から17歳までは日本の大阪で暮らしました。その後、父のソウル転勤で韓国に戻り、ソウルの女子大で芸術を学びました。大学卒業後、父が今度はロサンゼルスに転勤になり、私も家族といっしょに米国に移りました。そして、パナソニック北米社の法務部に就職。2年目からは事業計画部に5年。その後は30年間ずっと人事を担当してきました。人事を担当してから2001年から3年間は日本で働き、2004年に再びパナソニック北米支社の最高人事責任者として米国に戻って。昨年、最高執行責任者(CEO)に任命されました。

―大学で芸術を専攻しようと思った理由は何だったのでしょうか。

メーガン: それが良い主婦になる訓練になると信じていたからです。当時の私の夢は、結婚して良い母親になり、家で絵を描きながら暮らすこと。実際今は、当時の夢とは正反対の方向に進んでいますね。

―メーガンさんの理想の将来像が変わるきっかけがあったのでしょうか。

メーガン: ある日大学の授業で、教授が私たち学生全員に向かってこう言ったんです。「あなたたちは誰かの娘に生まれ、誰かの妻になり、誰かの母親として死ぬのでしょうか? 誰かの娘、妻、母という肩書だけではなく、あなたたちが自分自身の名前で人生を歩んでいく姿を私は望んでいます」。この言葉が強く私の心に刻まれ、以降、自分自身の実績と言えることをしたい、と思うようになったのです。

―日本とアメリカの2か国で仕事をしていく中で、2か国間のカルチャーの違いを実感した経験はありますか?

メーガン: 職場でのコミュニケーションの違いが、印象に残っています。日本では上司が私に仕事を依頼する際、説明がほとんどなく「私が言いたいことは分かるだろう」「私が意図することは察せるはずだ」という態度でした。それに対して私が「おっしゃっている意味がわかりません」と言うと、「もっと注意を向けるべきだ。私が考えていることは分かるべきだ」と言い返されました。良きサポーターであり好ましい上司でしたが、意思疎通に関しては不満を感じることがありました。

そこである日、「あなたは言葉にされなくても奥さんが望んでいることが分かりますか? 奥さんはあなたに何も説明しなくて済むのですか?」と上司に質問をしました。すると上司は、「妻が何を考えているかは、私にはわからないよ」と答えました。そこで私はこう言ったんです。「身近な奥さんの考えていることだって理解できないのに、スタッフに対してあなたの考えを理解するように求めているのですか?」と。

この問いかけは上司もおもしろがってくれ、良い業績をあげるには、まず「何を期待されているのか」を明確に理解する必要がある、ということを話し合うことができました。またこの経験を通じて、日本は阿吽の呼吸を重要視する文化なのだと実感しました。つまり「言わずもがな」で答えが返ってくることを期待する文化です。一方、アメリカは直接的なコミュニケーションの文化で、相手に求めることは明確に説明しなければなりません。日本企業と仕事をするアメリカ人にとって、この意思疎通に関する思い込みの違いはもっとも困難な課題かもしれません。

―メーガンさん自身は思い込みをお持ちだと考えていますか?

メーガン: 思い込みは誰にでもあります。もちろん私自身も持っています。誰もが特定の文化、言語、環境で育つので、自分になじみのないものごとに対して思い込みを持つのは自然だと考えています。もちろん不平等はできる限り減らすべきですが、そのために他人に対して批判的な態度をとる前に「私の思い込みは?」と自問して、まず自分自身の思い込みを認識し、変えて、そこから学ぶことが必要です。実際、私自身も自分が持つ思い込みに向き合い、学び続けています。このプロセスに「終わり」はなく、人生を通じて取り組んでいくものだと思っています。

たいせつなのは自分になじみのないものごとを恐れる代わりに、心をオープンにして好奇心を持つこと。その役に立つのは教育です。差別は意地悪で嫌な人々がいるから起きるのではなく、教育と理解の不足から生まれると私は思っています。

多様性はイノベーションの源泉

―最高責任者(CEO)を務められている、パナソニック北米社でのDEIの取り組みについて教えてください。

メーガン: 2020年10月から北米の社員全員にDEI関連のトレーニングを実施しています。一般社員向けはオンラインですが、管理職は半日のトレーニングで会社の方針と社員管理について学び、思い込みを防ぐトレーニングも受けます。DEIの進捗や改善度はデータで確認しています。

また、社員は仲間を募って「ビジネス・インパクト・グループ」を結成することもできます。たとえば「RISE」は女性社員のグループで、ワークショップやパネルディスカッション、トレーニングも実施しています。黒人社員のネットワークもあります。このようなボトムアップの取り組みも、会社として支援する仕組みを整えています。

―パナソニック北米社はいつ頃からDEIを重視するようになったのでしょうか?

メーガン: 私はパナソニック北米社で30年間人事に関わってきましたが、DEIは常に人事の努力目標のひとつでした。ですが、特に重点を置くようになったのはジョージ・フロイドの事件(ミネソタ州で黒人男性が警察官に膝で首を押さえつけられている最中に死亡した事件)から黒人の人権擁護運動が活発化した2年前です。人種差別の深刻さが明らかになり、企業の人事のトップとして新たな対策が必要だと思いましたし、日系企業で働く韓国系女性としての自覚も強まりました。

―めまぐるしい社会の変化に、企業のDEIはどう対応していけるとお考えでしょうか。

メーガン: 私は松下幸之助の「世間は正しい」という言葉をよく思い出します。社会の変化についていくには、俊敏さと立ち直る力が必要です。常識も変わり続けているので、すぐに批判に走ったり失望し過ぎたりしないよう、柔軟性を持ち、前向きな態度を保つことも重要だと考えています。前向きな姿勢を保ちつづけることは、選択肢のひとつではなく、むしろ決意だといえるでしょう。

― 一人ひとりの思い込みをなくすことや、企業がDEIを推進していくことの意義についてどのようにお考えでしょうか。

メーガン: 個人的には、思い込みをなくすことでより幸福な人間になった、と感じています。固定観念から解放され、自由になれたのです。企業のDEIも、一時の流行ではなく人材戦略、事業戦略の一部であり続けることを私は望んでいます。実際、パナソニック北米社ではすべての事業のリーダーが「多様性はビジネスの必須条件である」と理解し、DEIは人材戦略の一部になっています。クライアントと仕事をするにあたっても、DEIが戦略の一部でなければならないことを誰もが理解しています。

創造的なアイデアと先進性は、多様性から生まれます。つまりイノベーションは、さまざまなクリエイティブなアイデアを持つ異なる人々との対話から生まれるのです。それがデザイン思考の重要な一部であり、DEIなしでイノベーションは望めません。思い込みをなくすことは、すこしだけ怖いかもしれない。でも、そこに向き合いオープンな気持ちでいることができれば、個人も企業もより自由に、幸せになっていけるかもしれませんね。


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