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今、映像コンテンツがすごい。 ワークショプで考えるVRの未来

近年、VRをはじめとする映像コンテンツは、スクリーンという枠組みを飛び出し、映画やアニメーションの表現・鑑賞体験に大きな変化をもたらしています。

2021年9月25日(土)、第24回文化庁メディア芸術祭受賞作品展のワークショップが開催されました。
そこでは、世界の映画祭に出品されたVR作品の紹介や「文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門」で優秀賞・新人賞を受賞した2作品の鑑賞、プレゼンテーション、トークが実施されました。
パナソニックからはVR機器の開発に携わっている菊池耕祐さん、鈴木淳也さんが講師として参加。受賞作品を体験するとともに、作品の制作者やプロデューサー、技術者それぞれの視点から、VRの魅力や今後の可能性について探りました。

「VR」とは
「Virtual Reality」の略で「仮想現実」と訳されます。「ヘッドマウントディスプレイ」と呼ばれるVR映像観賞用のデバイスを装着すると、360度全方位を見渡すことができます。
作品やデバイスによっては空間内の触覚や香りを体験できるものも。

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会場のようす。当日はワークショップやVR体験などが行われました

世界の映画祭から見るVR

ワークショップ冒頭ではSupership株式会社の待場勝利さんより、コロナ禍におけるベネチア国際映画祭の開催状況や、VR作品の事例について紹介がありました。

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待場勝利さん
(Supership株式会社XR戦略企画室所属/XRコンテンツプロデューサー)

待場: 世界三大映画祭のなかでもっとも古いベネチア国際映画祭。そこでVRが取り上げられて今年で6年目です。VRは今、360度全天球に映像を見渡せる「3DoF」をはじめ、体験者自身が空間を自由に動き回ることができる「6DoF」が開発され、表現の幅が広がってきています。さらには「6DoF」と先端技術を組み合わせて、体験者の心臓の音や、体験者の目線によってストーリー展開が変わるものなど、従来のフレーム映像では成し得なかった体験作品が今では数多く生み出されています。

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コロナ渦の影響もあり、2020年度のベネチア国際映画祭はオンライン開催、
2021年度はオンラインとリアルのハイブリット開催に

エンターテインメント部門受賞作紹介

続いて、受賞作品の紹介やそれぞれの制作過程について発表されました。

優秀賞を受賞した『諸行無常』(Jonathan HAGARD監督)は1980年代から現在にかけてのジャカルタのとある村を描いた作品です。360度どこを見ていても小さなストーリーが散りばめられていて、「ジャカルタの街角に立っているような気分になれる」と会場でも好評でした。

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『諸行無常』を制作したJonathan HAGARD監督

HAGARD: 作品のなかで、1980年代から今に至るまでの村の移り変わりや、家族の小さな物語を表現しました。過去と現在を比べると、排水溝に蓄積されているゴミの種類に変化があるなど、非常に細かいところまで描写しています。このプロジェクトに約2年間費やしました。

次に、新人賞受賞の『Canaria』(油原和記監督)が紹介されました。
『Canaria』は老いていく1羽のカナリアを、儚くもやさしい世界観で表現した作品です。
こちらは『諸行無常』とは異なる手法で制作されていて、「360度ある動画の中で、どこに目を向けておくべきかがわかりやすい」「視点誘導が巧みだ」と評価を受けました。

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『Canaria』を制作した油原和記監督

油原: 『Canaria』は音楽家のトクマルシューゴさんにお声がけいただいて、いっしょにつくったミュージックビデオです。トクマルさんが飼っていた犬が死んでしまったことからこの楽曲が生まれたそうで、実は360度動画のなかに犬も登場しています。また私自身360度動画の絵コンテづくりは試行錯誤中なので、かなり悩みましたね。

2るの受賞作の紹介を受けて、会場では実際に来場者の方々がVR作品を体験。多くの賞賛の声が上がりました。

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会場でVR作品を体験するようす

講師として参加したパナソニックのVR開発担当の2名もVR作品を鑑賞し、それぞれコメントを寄せました。

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菊池耕祐さん(パナソニック株式会社 くらし事業本部 事業開発センター ゲームチェンジャー・カタパルト推進部 部長)

菊池: 『諸行無常』は空間、さらに時間に対しても奥行きのある作品だと感じました。もともとほかのものがあった場所がコンビニに変わっていたり、一方でLGBTに対する周囲の意見など変わっていないものもあったり。舞台はジャカルタですが、私たちが心のなかに持っている“原体験”と通ずるような世界観がうまくつくられている印象を受けました。

『Canaria』は以前にも、自宅のテレビに映して見たことがあります。3歳の娘がいるのですが、思わずテレビの裏側を確認していましたね。VR観賞用でない媒体を使っても“360度の3D空間”を感じさせるような作品でした。

これはVRの魅力のひとつだと思っています。例えば「ナスカの地上絵」は、実際にその場に立って、自分の目線の高さで絵を見ても、何も見えない。絵を見るためには、ものすごく高いところまで行かないといけないじゃないですか。この両地点を簡単に行き来できるのがVRです。体験者自身も作品の一部になれることもVRの特徴ですね。まだまだヘッドマウントディスプレイを用いての視聴は一般的ではありませんが、VRに人々がもっと慣れ親しめるような、そんな未来になったらいいなと思います。

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鈴木淳也さん(パナソニック株式会社 くらし事業本部 くらしアプライアンス社 DX・顧客接点革新本部 デジタルプロセス開発センター XR開発部)

鈴木: 2作品とも、非常にVRの可能性を感じられるものでした。VRであることを忘れてしまうくらい、その世界に没入してしまいました。すばらしかったです。

制作過程や表現方法についても、みなさん試行錯誤しておられ、黎明期にあると感じました。私自身も映像制作用のカメラの開発に10年以上携わっているので、その点でも非常に興味深いです。色や音の表現、操作性など、スクリーンという枠組みが取り払われたからこそ、制作の手法やデバイスも変えていく必要があると感じています。

私がVRに出会ったのは大学の研究ですが、そのころは遠くに平らなディスプレイが見える程度でしたので、どんどん進化していますね。複数人が同じVR空間に入るようになるなど、ひょっとしたら今後、ゲームとの境界もあいまいになってくるかもしれない。苦労がある分、非常に考えがいのある分野だと感じました。

パナソニックで開発中のVRグラス

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パナソニックで現在開発中のVRグラスは、色や音、空間、解像度など、すべての領域においてハイエンドな仕様に。作品の意図が十分に伝わり、これまでにない映像体験が楽しめるよう設計されています。また小型かつ軽量なグラスのため、長時間のVR鑑賞が可能。現在VRグラスは、アーリアダプターなどニッチな層のためのアイテムになっていますが今後はより一般的かつカジュアルに使ってもらえるものにすべく、商品化へ向けて開発を進めています。

まだまだ進化を続けるVRの世界。まもなく訪れる本当のバーチャルリアリティ体験に、期待が高まります!


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