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新たな体験をつくる、UIUXデザインの魅力

製品とくらしをデジタルデザインでつなぎ、お客様一人ひとりのくらし、気持ちに寄り添う――。パナソニックのデザイナー、内山 恵と田中 学は家電を中心に複数のプロジェクトでUIUXデザインを担当。お客様の毎日のくらしに一番近い存在とも言える、アプリの改善を積み重ねています。普段はそれぞれの製品を担当している2人が、デジタルデザインを通して届けたい思いについて語り合いました。

パナソニック(株)くらしアプライアンス社
くらしプロダクトイノベーション本部デザインセンター デザイン戦略部 UIUX課
内山 恵(左)田中 学(右)

アプリで効果を実感、モノ/コトがつながる瞬間

田中:僕が直近、UIを担当したもので最も反響が大きかったのが、「スムースエピ」と連携するSMOOTHEPIアプリです。

美容機器は継続的な正しい使用で効果実感を得られます。一方でタイミングを自分で判断する必要があり、効果を実感する前に使用をやめてしまうケースが課題でした。

このアプリは部位ごとにお手入れの状況を管理したり、お手入れタイミングの通知やスケジュール管理をしたり、お客様の継続的な使用をサポートするもの。スムースエピは男女問わず全身に使える機器ですが、中でもスマホカメラで自分の顔を撮影し、ヒゲの本数を検知する「ヒゲscan」は世界初※の機能で、定期的に記録をすることで、どれくらい効果ができているかを実感できます。 ※家庭用光美容器専用アプリにおいて。2024年4月22日時点。(当社調べ)

近年は男性の美容意識が変わり、ヒゲを脱毛する人も急増しています。ヒゲなどのムダ毛ケアが家庭でできる手軽さからか、ヒゲscanが追加されてからSMOOTHEPIアプリの男性のユーザー比率も大幅に上がりました。

内山:私はリフトケア※美顔器「バイタリフトRF」「バイタリフト RF EX」(以下、バイタリフト RF)と連携する“with Panasonic Beauty”アプリを担当しています。※引き上げるように機器を動かすこと

その特徴は、効果の実感を継続利用につなげる「励まし、ほめる(アプリ)」というコンセプトです。こうしたお手入れは基本1人でいるときに行うものなので、効果の実感がなかなか得にくいものです。ですので、これまでの美顔器ケアアプリのように記録だけの機能ではなく、今回はよりお客様に働きかける「モチベート(製品使用への動機づけ)」に焦点を当てています。 

特徴の一つに、美顔器の動かし方やスピードを音と動画でナビゲートする機能があります。「美顔器はこんなにゆっくり動かせばいいのね」という感想が寄せられるなど、これまで個人の感覚に委ねていたところ、気が付きにくいところをアプリを通して伝えられたことに手応えを感じています。

内山:スムースエピとバイタリフト RFの共通項は、プロダクトとアプリが毎日のくらしと密接に連携していることです。いつも気を付けているのは、おせっかいに感じたり、煩わしく感じたりしない励まし方、ほめ方です。

田中:美容機器は、モノの魅力はもちろんですが、コトの魅力をUIUXデザインでも伝えていく必要があります。プロダクトデザイナーと進捗を共有しあって、どれだけアプリでサポートできるかを考えます。プロダクトとアプリが同じ方を向かなければその世界観はつくれないし、UIUXデザインで「コトがあるから、モノを使いたくなる」まで引っ張っていけたら理想だと思います。

スムースエピのアプリで、コトにあたるのが効果実感です。このUIでこだわったのは、ヒゲscanのビフォー/アフターの比較。グラフで何カ月間にどれぐらいヒゲが減っているか一目で分かります。そっても、そってもヒゲは生えてくるので、効果の変遷を伝えることがアプリの役割。また、たまにアプリ側からもヒゲscanをプッシュしてくれる、おせっかいにならない程度に思い出させてくれるUIを心掛けました。

内山:バイタリフト RFにも「素肌scan」の機能があり、結果をどう見せるかの表現にはとても迷いました。例えば、スキャンの後、自分のすっぴんの写真が履歴として残るのは、果たしてどうなのか。自分のすっぴんの写真が並んだ状態を毎日見たい人がどのくらいいるだろうか。この考察から、素肌scanはスコア化が終わると撮影した写真は残さない仕組みにしました。また、スコア表示もアバターで見せたりせず、客観的に見られるグラフ表現とし数値だけを残します。SMOOTHEPIアプリと同様に、「今日の私の肌は何点」というスコアとグラフで変化が見える、その分かりやすさを選びました。

UIUXチームは、柔軟な“スライム”組織

内山:私たちUIUX課は事業主体にとらわれず、適した人が主導していく動きをしていて、このワークスタイルを「スライム」と呼んでいます。臨機応変に形を変えていくスライムのように、個別テーマには2人1組でタッグを組み、美容機器から健康器具、調理家電や洗濯機や掃除機といった家事家電など、複数の商品カテゴリにまたがる10数件のテーマを同時に担当しながらフル稼働しています。ですから、Aという製品で得た知見が、別の領域に生かせるということもよくあります。

田中:また、僕たちからプロダクトチームや事業部にアイデアをぶつける先行提案型のワークもあり、これにはチームの総合力で臨んでいます。先行型の提案は、ウェルカムな事業部が多く、「実はこうして可視化してくれるのを待っていた」といった声も聞きます。

内山:UIUXのメンバーはさまざまな場面で「これはデジタルデザインの力で解決できるかもしれない」という発見があります。そこから社内の技術をつなげ、事業部側との連携をどうデザインしていくかを考えながら、新規テーマとして提案していきます。ですから、社内にアンテナを張って事業部にもどんどん顔を売る必要があります。

田中:また、チーム内部の連携という意味では、それぞれが気付きを共有しあうスタイルです。パナソニックにはアプリやウェブの世界観を統一させる枠組み、デザインシステムがありますが、ワークを進めていく上で、そこで言及されていない事業領域ごとの細かなルールも目につきます。「AとBで言っていることが違う。どう整合を取りますか」と正面から言えるのは、僕の社歴が浅いからこそ遠慮なく踏み込める部分です。いつもフラットな目でUIをアップデートしたいし、僕の役割の一つだと意識しています。

ちょっとしたことも、資料にまとめて先輩に投げかけると「うすうす気が付いていたけど、そこ突いちゃう?」という人、「それは、気付かなかった!」という両パターンの反応があります。分かりやすい例を挙げると、アプリにある「?」のヘルプアイコンの位置。ユーザーが困ったときにヘルプ情報が出る、このアイコンの位置に規定がなく、作法が統一されていないことに気が付き、そこを問いました。

内山:私は「ああ、それね~」と言ってしまった部類ですね(笑)。1個のアイコンの揺れを見過ごさない意識は大事で、パナソニック全体のブランディングを考えれば、もちろん操作は同じがいい。また、それはビューティ、キッチンなどを幅広く手掛ける私たちの役割。どんどん改善してブランディングを高めていきたいですね。

田中:領域横断でアプリごとの違い、事業会社ごとの違いも分かるし、そこがインハウスのデザイナーとして多様なジャンルに関わる一つのメリットです。また、パナソニックのアプリに限らず「これは使いやすい」「心地いい動き」といったユーザー体験に響く部分は、自分の日常で意識してアンテナを張るようになりました。

内山:アプリの強みは、ストアレビューなど、お客様からダイレクトにお客様からコメントが返ってくることです。もちろん、高評価のコメントばかりではありませんが、指摘の声がなければ気が付かないことも正直多い。何気ないコミュニケーションからユーザーをモチベートする仕掛けで、すぐに改善に移せるのがデジタルデザインのいいところです。

製品・サービスに愛情を注ぐ「インハウス」の道へ

内山:私がUIUXデザイナーを目指したきっかけは、人と人の接点となるところで働きたいと考えたことでした。学生時代の専攻は情報処理で、グラフィックデザインとは縁遠いバックエンドのエンジニア系でした。そこから、もっとユーザーに近いところ、つまりインターフェイスのデザインに興味がわき、作品集をまとめてはデザイン事務所やIT系の制作会社などのアルバイトに応募し続けました。いろいろな会社を見て回り、よりデジタルデザインに魅力を感じるようになりました。

田中:少しずつUIUXデザイナーの道へ、というのは僕も同じです。学生時代は総合大学で、幅広い分野のデザインを学びました。元々、絵を描くのが好きくらいの理由で進学したところがあって、最初から美大や芸大でデザイナーを目指す感じではなかったんです。周りにスタイリングやスケッチが得意な人、CADでいいレンダリングができる人もたくさんいました。僕自身はプロダクトデザインでは目立った成果も出せないなと感じていたのですが、次第にサービスやモノを通じて面白い体験をつくる、そういう妄想が好きだと自覚しはじめました。

「これだ」としっくり来たのは、プロダクトデザインが得意な先輩と組んだチームワークです。僕が体験を考え先輩が形にしていく、プロダクトデザイナーと一緒にコンセプトを考え、今までにないアイデアを可視化する、このディレクションが自分の強みだと感じました。ちょうどその頃、非常勤講師によるUIUXの授業があり、サービス提案のアウトプットを経験して気持ちが固まりました。自分の特徴はアイデアを可視化し言語化すること。もっとデザイン思考を強化し、それを内在化しようと大学院に進みました。

内山:私の場合は、学生時代に漠然とこれから何をしていきたいのかと考えたとき「自分の大切な人、家族が何十年も継続して使えるものをつくりたい」という思いがわいてきた。それが、さまざまな事業領域を持つパナソニックを選んだ理由です。入社前にパナソニックが学生を対象としたインターンシップに参加しましたが、ここでチームワークを経験し、プロダクトや広告の人と組む面白さを実感しました。シンプルに「ここで働けば、きっと楽しい」と思ったんです。

田中:僕もインターンシップで社員との対話を通じて、人の魅力に引かれたところがあります。それは直感かもしれません。ある課題に対して、僕は少し視点をずらした提案をしました。テーマの定義から疑って問いなおすような、いわゆる直球ではない解で、受け入れられるかどうかなと思いましたが、「いいんじゃない。面白い」と柔軟に捉えられたんです。パナソニックに対して少し堅いイメージがあったのですが、フレキシブルな思考を尊重してもらえたことが印象的でした。

リーディングができるデザイナー、形に縛られないデザイナーに

内山:入社してからは、さまざまな事業に携わり、国外の展示会でリサーチしたり、海外のデザイン事務所で現地の潮流を学んだりするなど、経験を通じて自分自身の価値観の広がりを感じています。

田中:そうした体験を通じて得た、表面的なUIだけではなく価値観に迫る意識は、僕たちUIUX課のメンバーが大事にしていることです。大くくりで言ってしまうと、あらゆる物事は多かれ少なかれUXにつながっています。もちろん画面のグラフィックなどのUIは大切にしつつも、いいUXをつくるヒントは、街づくりや空間デザイン、あるいはプロダクトの細部にもあって、そこからも形づくられるもの。広い視野で物事を見て体験することがすごく大事ですよね。

内山:商品の企画段階からリリース、実装まで幅広い領域をできるのがパナソニックのデジタルデザインのチームの良さです。活動領域をもっと広げて、いろいろなお客様に使ってもらえる、新しいものを生み出していきたい。個人的な目標としては、いつまでも「若手」といっていられないので、はやくチームを自らのデザインで引っ張るリードデザイナーになりたいと思っています。

田中:パナソニックに入社したきっかけの一つは、影響力のあるコンテンツがつくれるだろうと思ったことです。自分がつくったもの、関わったものが事業になり、より多くの人に喜んでほしいという思いは今も変わりません。これからの目標は「モノでもコトでも、何でも考えられます」と言えるように、もっとアウトプットの形に縛られないデザイナーになりたい。いつもベストな提案ができる、本当の意味で広義のデザイナーになりたいと思っています。

取材・文:畠中博文
写真(対談):丹生司
編集:Story of Future Craft 編集部(Panasonic Design)