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人はいくらでも変わる。その可能性の先にあるもの|#思い込みが変わったこと

ソウゾウノートでは、2022年3月25日から4月24日まで「#思い込みが変わったこと」をテーマに投稿コンテストを実施しました。みなさんの「自分の思い込みが変わった」「周りの思い込みを変えた」エピソードをつうじて、さまざまな生き方や価値観をご紹介してきた連載も、いよいよラストです。

今回、お話を伺ったのは、山口有希子さん。新卒でリクルートコスモスに入社後、シスコシステムズ、ヤフージャパン、日本IBMなどの企業を経て、現在はパナソニック コネクト株式会社(以下、コネクト)の常務としてDEI推進に携わっています。山口さんのプライベートとビジネスの公私にわたる「#思い込みが変わったこと」をご紹介します。

山口 有希子(やまぐち・ゆきこ)
熊本出身。パナソニック コネクト(株)執行役員・常務・CMO
デザインセンター担当役員、カルチャー&マインド推進室室長を兼任。DEI担当役員として「DEIは私たちコネクトにとってカルチャー改革の1丁目1番地」とDEIに精力的に取り組む。趣味はZUMBA、旅行、いろいろな人と会うこと。


気づく力、受けとめる力、そこから生まれる「共感力」

―コネクトのDEI活動について教えてください。

山口: コネクトとしては、DEIをおよそ5年前から重要な活動と位置づけており、現在は私とCFOの西川さんの2人が担当役員として推進しています。

当社でユニークなのは、DEI推進室だけが活動するのではなく、事業部ごとに「チャンプ」というDEI推進リーダー・チームが存在し、現場の状況に合わせたDEIプログラムを自走している点です。それぞれの活動内容を共有し、興味深いものや良いなと思ったものはお互いに取り入れながら進めています。

とくに重視しているのは現場の声です。最近もすべての事業部を回って、直接社員の声を聴き、事業部長と次のアクションを議論する「DEI キャラバン」を実施したところです。女性メンター制度も現場の声から生まれました。「自分の事業部にロールモデルがいない」という声には、同じ事業部に限らなくてもいいじゃないかと、事業部を越えてのメンター制が実現し、実は私も3人のメンターをしています。現場の声を聴けば聴くほど、次々と対応したいことが出てきて、毎年プログラムの数が増えている状況です。

― DEIにはさまざまな側面がありますが、特にどのような課題を重要だと感じていらっしゃいますか。

山口: DEIは「会社がどのようなカルチャーをつくりたいか」に直結しています。私たちコネクトのコアバリューには「共感力」「共創力」がありますが、DEIで重要なのは「他者へのリスペクト」と「思いやり」だと思っています。
 
マイノリティの方々が何に違和感を持ち、どんなことに困っていらっしゃるのか。これは勉強しないとわかりません。アンコンシャスバイアスなど自分から気づくように努力することが重要です。もちろん、課題を感じていらっしゃる当事者の方々が声をあげるのもたいせつです。そして、その声を受けとめる環境やカルチャーはもっと重要です。だからこそ「共感力」が不可欠なのです。

― 企業としてDEIに取り組む意義について教えてください。

山口: シンプルに意義は2つ、「人権の尊重」と「企業競争力の向上」です。人権は何をおいても取り組まなくてはならないこと。そして、世の中に必要とされる企業として存続するために企業競争力は欠かせません。私たちのパーパスは「現場から社会を動かし未来へつなぐ」です。DEIに取り組み、私たちの働く現場が変われば、チームが変わり、会社も変わります。
 
みんなが生き生きと働きやすい会社になり、競争力も上がり、社会的なインパクトを与えられるようになれば、それ自体が次は社会の未来につながっていきます。そして、次の世代がもっと働きやすい社会を実現できると思います。

実際に成果として、コネクトでは2020年度には男性社員の育児休暇取得率96.6%を達成しました。また社内調査では「自分が尊重されていると感じる」というスコアは年々、着実に向上しています。これらの変化は、それぞれの職場の全員の努力の結果です。こういった成果事例は、いままさにDEIに取り組んでいる途中という他企業の参考にもなるのではないかと思います。多くの企業が一緒に変化していくことで、「社会を動かす」ことができると思っています。

相手にとって何がたいせつか。本質に向き合う中で生まれるもの

―山口さんがこれまでの人生で印象的だった「#思い込みが変わったこと」を教えてください。

山口: いま個人的に、不登校の子どもたちと親御さんをサポートする活動に関わっています。きっかけは自分の子どもが、中学生のころ不登校になったこと。当時、夫も私もがんばって学校へ行かせようとしたのですが、本人はとても辛そうで……。いじめなどの事実はなく、理由がわからないことで、親としてどう対応すればよいのか悩みまくりました。

自分の命よりたいせつな存在である子どものために、教育者・フリースクール経営者などさまざまな方々の話を聞き、不登校について徹底的に勉強しました。そして学んだのは、私の学生時代と今では不登校になる理由がまったく違う、ということでした。協調性が過剰に尊重されるなか、個性的な子どもにとって学校は辛い場所だったのです。

多様性を尊重するプログラミングスクールに通ってみると、子どもはどっぷりはまって、リーダーシップを発揮しはじめました。高校生や大学生に混じって、いっしょにゲームやアプリをプログラミングする作業や、年上の人とも自由に意見を言い合える環境がすごく楽しかったそうです。

学校へ行かせようとプレッシャーを与えてしまっていたときは意気消沈していた子どもも、「それでいい」と親が容認することでどんどん元気が出てきて、同じ趣味の友達と日本各地に出かけるなど、とても活動的になりました。高卒認定試験を受け、現在は大学生です。いま思うと当たり前のことのようですが、人は環境によっていくらでも変わりますし、学校へ行かせることだけが正解ではない。相手と真剣に向き合い理解して、相手にとって何がいちばんたいせつか本質を考えることが、重要なのではないかと思います。大きな学びでした。

― ビジネスの現場での「#思い込みが変わったこと」はありますか。

山口: 過去に経験した外資系企業での体験です。当時の部門のメンバーに、私より年上の50代半ばの男性がいました。彼は周囲に怖がられていて、チーム内の派遣社員が3人ほど続いて辞めたときに、彼の態度が理由だという報告があったので、1on1ミーティングで会話をしました。

話を聞くと、彼は多くの業務を抱えており、直接の上司に訴えても改善されず、余裕がなくなりイライラして人に当たってしまっている、とのこと。私は状況を改善することをコミットし、彼の態度も変えるように促しました。「チームメンバーからいっしょに働きたくないと言われている。本当にそう思われたままでいいのか。年末年始の休暇にじっくり考えてほしい」と伝えたものの、「この年齢で変わるのは難しいかもしれない。」と感じていました。

ところが、正月休み明けに出社した彼は、周囲が驚くほどの変わりようだったのです。もちろん業務負荷も軽くしましたが、何より彼の意識の変化が見違えるようでした。彼は「自分の親がこんなふうに言われる人間だったらどうだろう」と自身の子どもの立場で考え、意識して変わるようにしたそうです。私自身も自分の思い込みが外れ、「人はいつからでも変われるのだ」ということに気がついた出来事でした。気づきを与えてくれた彼に心から感謝しています。

自身を解き放ち、自分から周りも変えていく

― 若い世代へのメッセージをお願いします。

山口: 私がよく伝えるのは「Unleash your potential」。つまりみなさん一人ひとりの存在に意味があり、それぞれにすばらしい可能性がある。その可能性を、いかに解き放てるか。

人間に完璧な存在はなく、誰しも凸凹をいっぱい持っています。私自身もそうです。みんなと違う凸凹な素材である自分をたいせつにし、愛して、どうすればもっと輝けるのか。けっして「私なんか……」と諦めないで。ぜひ自分自身でいい部分を見つけ、プロデュースしてほしいです。自分をプロデュースして発信できるのは、自分しかいないのですから。DEIもそうですがハッピーな人生を生きるには、自分の可能性を解き放ちプロデュースしていくことが、何より重要だと私は思うのです。

― 山口さんもご自身をプロデュースしながら、キャリアを積んでこられたのでしょうか。


山口: 順調にキャリアを築いてきたように見えるかもしれませんが、全くそうではありません。20代のときには、バブル崩壊後ということで就職先を決めるのに苦労しました。第二新卒でようやく就職できた会社では、女性が総合職第1号でしたが、初日の歓迎会で上司となる部長から、「結婚するか出産したら、辞めてくれ。若くてかわいい女性が会社にいた方が嬉しいから」と言われ、すごく悔しかったのを覚えています。

でも、悔しがるだけでは何にもならないので、「部長にとって必要不可欠な人材になる!」と一念発起したのです。2年後には周りの意識が変わりました。それから会社は総合職の女性を採用するようになり、5年後に外資系企業に転職を決めた際には、部長から「いつでも帰ってきていいから」と言葉をもらったんです。

― それも部長の「#思い込みが変わったこと」ですね。

山口: そうですね。とても嬉しい変化でした。やはり思う通りにいかないことがあっても腐ってしまっては、何も結果を生みません。まさに自分の態度で、周りが変わってくれると実感した経験でしたね。
 
自分や人を信じることを諦めなければ、環境や自らの意識によって人はいくらでも変わることができる。そうして可能性を解き放った先に、自分も笑うことが出来る、より良い未来があると思うんです。

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