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やさしさのカタチ アイデアソン-自然のやさしさを探る-イベントレポート

11月7日に行われた「やさしさのカタチアイデアソン」。アイデアの発想法を学びながら、約1ヶ月の時間をかけてコンテスト応募までサポートするワークショップを実施しました。前半のトークイベントでは、パナソニック株式会社デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORYの井野智晃さん、東京大学大学院情報学環准教授の筧康明さん、morning after cutting my hair, Inc代表取締役の田中美咲さんが登壇。アイデア発想のプロセスや、ソウゾウリョクを豊かにするヒントについてのお話を伺いました。

自然とやさしさというワードをどう捉えるか

インタラクティブメディア研究者としても活躍する筧さんは「山・海が自然で、我々の生活と切り離して考えるというのはもう古い」と語ります。「近代化した後の環境を自然と考えて、その環境でどうふるまっていくべきか、関係を取り持っていくかが視点として重要だと思っています。都市と自然は別という二項対立的な考え方ではなくて、新しい自然をいかに取り出すかというのは課題を考えるときには必要です。」
また、やさしさについては「何かしてあげるのだけがやさしさではなく、『自分ごととして捉える』『余白をもって接する』などという関係性も、ある種のやさしさの一部なのではないでしょうか。なので、提案の中に指標的に“やさしさについて私はこう捉えます”と入ってくるのがすごく重要。やさしさの捉え直しが必要かなと思います。」と、やさしさの汎用性の高さを指摘しました。

筧さん

自分と環境の関わりの中でのありのままの自分
井野さんは自然な状態の自分についてこう話します。「環境に身を置いたときに、自分がどういう状態になっているかが大切だと思っています。山や緑に囲まれていると無心でありのままの自分でいられる。そういった、自分の素の状態になれる環境が自然で、人にとってもやさしいと思いました。人を中心に構築したデザインは、周りの環境をつくること自体もやさしさに繋がると思います。」
リモートワークが増え、壁に向かう時にぎすぎすした気持ちになるという井野さん。日常が変化したことにより、街を散歩し、路地裏の景色を見たときにグッとくるなど、時間の経過が作った風景の姿に心が動かされたと新たな気づきを教えてくれました。

やさしさは相手の心が決めるもの
田中さんはやさしさとは“自己完結ができないもの”と表現。「基本的にはだれか相手がいたり、物があった上で、やさしさの関係性が生まれるんじゃないかと思っていて。世の中で、やさしさの押し付けがよく見受けられるなと感じています。本当にやさしいかどうかは相手が決めることで、こちらが“これはやさしいものです”と提示するのは難しい。やさしさは相手が心の中で形成し、判断するものであるというのが私の解です。」
さらに根本課題を見つけるときの方法について、「自分の主観は置いて、出来る限りニュートラルな状態で、相手にどうしたいのか、何が好きなのかととことん聞きまくることからスタートします。例えるならばコーチング的な手法ですね。なので、私が今まで手掛けてきたものはすべて相手と一緒に作っていたもので、自分発信ではないんです。」まず、相手の問題の中へ自分を投じてみるという田中さんらしいこだわりが見えました。

田中さん

どうやってアイデアを見出すのか

パナソニックのFUTURE LIFE FACTORYで商品開発に携わる井野さんは日常生活の中の疑問から発想が生まれることが多いそう。「生活からの気づき、自分が疑問に思っている違和感など、パーソナルな課題をデザインすることが多いです。最終的なアウトプットは多くの人に届きますが、どう進めて行くかは作りながら考えていくのが大事。ただ、色々な人の意見を聞き過ぎると、課題自体が平易なものになってしまったり、目的が変わってきたりするので、まずは最初に抱いた自分のピュアな課題をまず具体的に形にしてみるのが大切です。」

井野さん

気づくためにまず現場へ足を運ぶ
課題の見つけ方について相手に聞いてみることを重要としている田中さん。アイディアの見つけ方についても、自分のことを「超現場重視」と話してくれました。「社会課題解決の糸口は、現場に答えがあると信じて、机上の空論にならないように必ず現場に行くようにしています。また、自然という話ですと、コロナ禍で畑を始めたのですが、例えば虫に食われた葉っぱを見つけたら、虫が付いた原因だけではなくて、穴が開いた葉っぱってレース状で美しいなという違った見方で観察しています。なので私の場合は、捉える、気づくという瞬間は現場にいることが多いです」。
また、現場の課題に気付くために、年齢や性別などカテゴリーが様々な人と訪れると言います。「先日、ゴミ処理場へ大人10人で見学に行ってきたのですが、それぞれ気になる点が異なるので自分の中で芽生えない目線を持っている人と共に何かを作ると発想が生まれやすいと考えています。」

日常の暮らしの中でのズレをすくいあげるには
アーティストとして創造性豊かな作品を発表している筧さんは、研究成果を引用しながら、制作過程で生じた“ズレ”にこそヒントが詰まっていると教えてくれました。「アーティストって常にズレや違和感を感じることが生命線なんです。ズレを作品に取り込んでいくためにあえて制約をつくって自らの視点をズラすこともあります。一方で、偶然起こった失敗などの異変=ズレを取り込みつつ、幹をデザインしていく手法も存在します。予想外のことが起こると想定し受け入れて、やりやすい方法をあえて取らない。なので、自分で作っているという感じはなく、物や問題と一緒に流れの中で伴走して作品化していくという感覚に近いです」。絶対これでうまくいくというプロセスやパターンはないが、他者とのコラボレーションをするとズレが生じやすく新しいアイディアが生み出しやすいと話してくれました。

筧さん2

自然のやさしさを探るAWARDに抱く期待とは

今回、自然のやさしさを探るAWARDを審査する上での、みなさんが参加者へどんな期待を抱いているかお聞きしました。
田中さんが面白いと感じるのもは、共犯になりたいかが重要だそう。「やさしさの中にも中指を立てるような(笑)、作品にちょっとエッジが効いていると面白みがプラスされて、記憶に残りやすくなります。ただやさしいだけだと記憶に残らない作品になってしまうので、見ているだけでこちらもワクワクするような一緒に共犯者になりたくなるのが生まれると素敵。普段思っている悪の感情を視点として取り入れてみるのも面白いかもしれませんね。やさしさとか自然というテーマは、格差が広がり続ける世の中で唯一信じられる、信じていきたいものだと思いました。これからもみなさんと一緒に考えていきたいです。」

続いて、筧さんは「自然とかやさしいに対して再定義することは、パーソナルな意味付けでもいいですが、他の人が未来やその先を考えたくなるようなメッセージがあるとデザインのコンペとしてはすごく良い」と評価。「真向から自然を考えていったら体のいいプロダクトに落ち着きがちなので、オルタナティブを常に探していく。それこそズラしていくのがいいと思います。ワークショップでの最終的な作品だけではなく、その思考や議論のプロセスも楽しみにしています。」

井野さんは、AWARDに期待しているものは若年層が自然について考えること自体に期待していると言います。「自然で言うと世代によっても捉え方が違うと思います。若い人たちにとって自然は何なのかを考えて欲しい。Wi-Fiが飛んでいる環境ですら若い人には自然かもしれない。元々あるものが自然ではなく、自分たちが長い間使ってきたものも自然と捉えられるのではないかという、新しい視点を聞いてみたいという気持ちがあります。また、課題の設定を大切にしてもらいたい。解決する課題のレベルを一歩でも二歩でもあげて考えて欲しいと思います。」

活躍するフィールドが異なる3人ですが、課題に対してのアプローチは違えども、やさしさをもって取り組むという情熱の火種となる部分が重なり合っていることにこのトークセッションから伺えました。今後AWARDからどのような作品が生まれるのか期待が膨らみます。

3ショット

プロフィール

井野智晃(中央):パナソニック株式会社デザイン本部 FUTURE LIFE FACTORY
2001年松下電工入社。電動工具やメンズグルミングのプロダクトデザインを数多く手がける。2017年からはパナソニックの社内デザインスタジオであるFUTURE LIFE FACTORYの立ち上げに関り、デザイン発の商品化や未来のくらしビジョンづくりに取り組む

筧康明氏(左):東京大学大学院情報学環准教授
インタラクティブメディア研究者/メディアアーティスト。2007年に東京大学にて博士(学際情報学)を取得後、2008年から慶應義塾大学にて専任講師・准教授を務め、MITでの滞在研究などを経て、2018年度より東京大学大学院情報学環・学際情報学府にて研究・教育に携わる。メディアアートユニットplaplaxのメンバーとしても活動。ディスプレイやインタフェース技術を活用し実世界体験拡張を目指す研究・作品制作に加えて、近年では物理素材特性を操作するフィジカルインタフェースやインスターション作品を多数発表する。その活動は工学・アート・デザインの領域をまたがり、平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞、第23回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、2012年度グッドデザイン・ベスト100など受賞

田中美咲氏(右):morning after cutting my hair, Inc代表取締役
1988年生まれ。立命館大学卒業後、サイバーエージェントに入社。2013年8月に「防災をアップデートする」ことをモットーに「一般社団法人防災ガール」を設立。2018年フランスSparknewsが選ぶ「世界の女性社会起業家22名」に日本人唯一選出。同年国際的PRアワードにて環境部門最優秀賞受賞。人間力大賞経済産業大臣奨励賞受賞。2017年2月より社会課題に特化したPR・企画の会社morning after cutting my hair,Inc創業、2020年9月にインクルーシブファッションスタートアップ SOLIT,Inc創業。現在は大学院大学至善館にて学び直し中


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