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「知る」ことでつながり広がる世界を見ていたい|PASSION Vol.3

何かを成し遂げるのに必要なのは、知識や経験以上に「それを実現したい」という情熱である。

創業者・松下幸之助がのこした考え方は今日も私たちの指針となっています。

連載企画「PASSION」では、「プロジェクト×人」という切り口でパナソニック社員やそこに携わる社外の方々にもお話しを伺い、それぞれが秘めた情熱の源泉を探っていきます。

今回も引き続き「AkeruE」プロジェクトに取り組んだメンバーの“パッション”に迫っていきます。

2021年4月3日にオープンしたパナソニック クリエイティブ ミュージアム 「AkeruE(アケルエ)」。「一方的な教育ではなく、ともに楽しみながら気づき、学び合う場を創りたい」というパナソニックの想いをカタチにする過程には、どのようなソウゾウとひらめきがあったのでしょうか。

第3回目は、クリエイターによるアート作品の仕組みを分解して説明する「原理展示」の企画をはじめ、展示プログラムの設計を担当した株式会社ロフトワークの佐川夏紀さんです。

AkeruEとは

「AkeruE」は科学館であり美術館。SDGsやSTEAM教育をテーマとする、“ひらめき”をカタチにするミュージアムです。子どもたちの理数教科離れを危惧しパナソニックセンター東京につくられた、理科と数学のミュージアム「RiSuPia」をアップデートするかたちで、2021年4月に誕生しました

AkeruEでは、このRiSuPiaのコンセプト「理数の魅力を体感できるミュージアム」に、テクノロジーやエンジニアリング、アートを融合。観る・つくる・伝える体験を通じ、この複雑な世界に問いを見出し未来の扉をあける、クリエイティブな力を育んでもらえる場を目指しています。
【プロフィール】
佐川夏紀(さがわ・なつき)
株式会社ロフトワーク Layout Unitディレクター。宮城県仙台市出身。国を創る事業に憧れ、前職では中央アジアやアフリカのインフラ開発事業に携わる。異文化のなかでコミュニケーションの重要性を体感し、人と人の想いをつなげる場づくりに携わりたいと考えロフトワークへ転職。

モチベーションの源は自分の仕事が生み出した笑顔

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——佐川さんはAkeruE構築プロジェクトに、どんなふうに関わっていらっしゃったのですか?

佐川: 私がプロジェクトにジョインしたのは、スタートから半年くらい経ってからなんです。当時はロフトワークに転職してまだ1年くらいでしたし、空間づくりに携わった経験もなかったので自信はなかったものの、「とにかく楽しそうだからやってみたい!」という想いが強かったですね。

プロジェクトでは、科学や技術と芸術を掛け合わせたアート作品と、作品の仕組みを分解して説明する「原理展示」がある「ASTRO(アストロ)」のチームリーダーと、自らのアイデアを映像にして発信することができる撮影スタジオ「PHOTON(フォトン)」のプログラム設計を担当していました。

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——ロフトワークに入る前は、どのようなお仕事をされていたのですか?

佐川: 前職では途上国のインフラ開発をしていました。道路や橋の建設をするセクターで、その中でも現場を調査し、基本設計までのマネジメントを行うことが私の担当でした。その後、施工を進めていくのは別の部署だったので、自分の仕事を最後まで見届けられないモヤモヤがずっと残っていました。

社会的に意義があると頭ではわかっていても、現場との距離が遠い中で、「私の仕事を必要とする誰か」を想像することが当時の私には難しかったんだと思います。

都市と空間ではスケールは違いますが、つくり上げるプロセスは重なる部分もあるのではと感じています。ロフトワークの仕事では、クライアントの方とも近くで対話ができますし、今回のAkeruEもそうですが、利用者の顔を直に見ることもできます。これが自分の大きなモチベーションになっているんだなと気づきました。

——これまでの経験で今回のプロジェクトに活かされたことは、何かありますか?

佐川: 学生時代に学生団体の代表をしていた経験が活かせたのではないかと思います。当時から、目標を立てて、メンバーを支えながらプロジェクトを前に進めていくところに、自分の強みややりがいを感じていたので。

今回のプロジェクトも、自分ひとりの力だけでは絶対にできないことでしたが、何十人ものクリエイターや有識者の方々と関わる中で、やるべきことを一つひとつ細分化して、少しずつ前に進めていくことができました。

いいアイデアをカタチにするために。「知る」努力から始まること

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——プロジェクトを進める中で、とくに苦労したのはどのようなところでしたか?

佐川: ASTROの展示構成は、クリエイターさんによる7つのアート作品に対し、それぞれに関連した原理展示を2〜3種ずつつくっています。原理展示は、ロフトワークが企画し、乃村工藝社さんと一緒に実験を重ねながらデザインや設計を進めて、その後で有識者の方にファクトチェックしてもらう、という流れでつくっていきました。それが全部で17作品もあり、すべてを俯瞰しながら完成までこぎつけるのが、とてもたいへんでした。

▼ホームページでは、アート作品とともに原理展示を紹介している。


佐川: とくに液体を扱う展示は、すごく難しかったですね。片栗粉に水を配合して使おうとしたら、すぐに乾燥したりカビが生えたりして失敗に終わる、なんてということもありました。ベストな素材や配合が初めからわかっているわけではないので、いろいろな材料を買っては実際に試してみる、というのを何度も繰り返しました。

時間も予算も限られた中で、「うまくいかなかったらどうしよう……」という不安は常にありましたが、「これって本当に子どもたちは楽しいかな?」と議論しながらメンバーと一緒に試行錯誤していく時間は、いま思えば貴重なものでしたね。そのときは楽しむ余裕なんて全然ありませんでしたけど(笑)

——今回、パナソニックと一緒に仕事をしてみて、どんな印象を持ちましたか?

佐川: AkeruEがオープンする前の「ソウゾウするやさしい展」でもご一緒させていただいていたのですが、そのときから「自分の発言を否定されない」という印象が強くありました。パナソニックのみなさん一人ひとりが、このパナソニックセンター東京を良くしていきたい気持ちをお持ちだったので、私も気負いせずに率直な意見をお伝えできたかなと思います。

——クリエイターや有識者の方々と協働するときに、心掛けていたことなどはありましたか?

佐川: わからないからこそ、しっかりと「知る」努力をするようにしていました。クリエイターの方にご挨拶に行くときには、今回の展示作品だけでなく、過去の活動も事前に調べてから行く、有識者の方に質問するときにも、まずは自分で調べて、ある程度理解した上で質問する、ということを心がけていました。やはり相手への敬意が伝わらないと、何事もうまくいかないと思っていたので。

わからないなりに「知る」努力をして、初めてスタートラインに立てるというか、同じ言語で会話をするための土台ができると思うんですね。ロフトワークに入って、「私よりもクリエイティブな発想ができる人はごまんといる」のは、もう痛いほどわかったので(笑)。

そんな私にできるのは、周りの人たちとしっかり会話をして、いいアイデアをカタチにするための計画を立てていくところじゃないかなと思い始めているところです。

つながりをたいせつに、コミュニティが育つ場所

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——実際にAkeruEがオープンして、どうでしたか?

佐川: もう本当に完全燃焼した感じでした。「できてよかった〜!」って。AkeruEの展示は、子どもたちに考える余白を残すというか、「自分でもつくれそうな感じ」や「試行錯誤していい感じ」を出すことをたいせつにしていたので、あえてふつうの科学館にあるような重厚な什器にはしていないんですね。だから壊れてしまうこともあります。でも、それを逆手に、修理するところも公開してしまうのもAkeruEらしさになっているのかなと感じています。

実際に子どもたちが触っているところを見て、「こういう使い方をするのか!」と教えられることもありましたし、「もっとこうしたほうがよかったかな」と反省することもありました。だけど、子どもたちがみんなすごく楽しそうで、来館者の方々も満足してくださっているのがわかったので、これまでの自分のスタンスや考え方は正しかったんだなと自信になりました。

あとすごく印象的だったのが、オープン前に行ったクリエイターさんの内覧会です。20人以上のクリエイターさんが集まって、ご自分の作品について紹介してくださったのですが、そこでクリエイターさん同士が「あなたの作品、最高です!」といった会話が繰り広げられていて。これからもこのつながりをたいせつにして、AkeruEでいいコミュニティが育っていくといいなと思いました。

——これからAkeruEに来てくれる若年層の方に向けて、メッセージをお願いします。

佐川: AkeruEに展示してあるクリエイターさんの情報はWebでも公開しているので、あらかじめどんな方なのか知ってから実物の作品を見てもらえるとうれしいですね。

また、将来的には展示の入れ替えに向けて、アワードを開催して若手のクリエイターの方の作品を集めていきたいと考えているので、若年層の方にももっとAkeruEに興味を持ってもらえるといいなと思っています。いつかAkeruEが若手クリエイターの登竜門になっていくとすてきですね。



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