非認知能力を高めるために親ができることとは ーグローバル編ー
「若鳥よ。烈風に身をかがめるな。はばたけ。まろびつころびつ限りなくはばたけ。」
創業者・松下幸之助は未来を担う若者たちへの応援メッセージを数多く残しています。その思いは、いまもわたしたちの大きなテーマのひとつ。連載企画「youth for life(ユースフォーライフ)」では、若者が、自分や誰かの人生とくらしのために、その「青年の力(興味、関心、熱意、素直な心)」を大いにのびのびと、正しく使おうと模索する姿を発信していきます。
本日、11月20日は「世界こどもの日」。
1954年、世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として、国連によって制定された国際デーです。
子どもの将来のために非認知能力を高めたいのであれば、親として、企業として、私たちにできることは何なのでしょうか。その答えを探るべく、グローバルにおける子どもの教育に対する意識調査を行った山口さんにお話を伺いました。
なぜ非認知能力が大切なのか
那須:今回、アメリカ・インド・インドネシア・バングラディッシュ・マレーシア・ベトナムといった8カ国で子どもの教育に対する意識調査を行っていただきましたが、山口さんの率直な印象をまずは教えていただけますか?
山口:共通して感じたのは、非認知能力の重要性を感じている親が圧倒的に多いなということです。加えて、海外では親自身が子どもの教育に関与する意識がとても強いことに驚きました。
そもそも教育に関する外部サービスがないところもありますし、家族を大事にする文化的な背景もあって、家族のなかで子どもに役割を与えて責任感を養ったり、子どもが喧嘩したときの対処の仕方を親がきちんと関わりながら教えたり。そうした小さな積み重ねによって、非認知能力を高めようとしていました。
那須:非認知能力にもいろいろありますが、日本とはちょっと認識が異なるようですね?
山口:はい。海外では、異なる民族と対立しながら共存するのが当たり前。特にインドでは、州ごとに言語まで変わってきます。それでも互いにつたない英語で時間をかけて話し合って、相手を理解しようとする文化がある。このような環境下ですから、非認知能力のなかでも「異なる立場にいる人と対立が起きたときに、自分の頭でどう考え、相手の状況を理解して、想像力を働かせながら、どう解決していくか」という部分に重きが置かれているようです。
那須:そう考えると、日本でも「将来を生き抜くために非認知能力が必要だ」と言われていますが、圧倒的に切実さが違いますね。
山口:そうですね。日本の“察する”文化に慣れた人が海外に行くと、相手から自分の意図とは異なる解釈をされている場合がよくあります。 海外では、自分の言いたいことを言うだけでなく、正しく伝わっているかを確認する作業がとても大切です。弊社のメンバーは、11名のうち9名は海外からの留学生なんですね。バングラディッシュ・インド・インドネシア・ミャンマー・パキスタンと、母国語が英語でない人たちがほとんどで、みんな多かれ少なかれ訛りがありますから、相手の話を聞き取るだけでも大変です。実際、自分が話した後に、相手にスライドでビジュアライズしてもらって、自分と相手の認識が合っているか確かめる時間を、定期的にとるようにしています。
多様性のある場に出かけよう
那須:日本では非認知能力が高い人がビジネスでも活躍できるという漠然としたイメージがあって、具体的な答えを持たないまま、親が子どもに求めているように思いませんか?
山口:たしかに、日本の親が求めている非認知能力は、サバイバルスキルではない場合が多いと思いますね。「ビジネスで活躍できる創造力が豊かな人」というイメージが強いかもしれません。憧れに近いようなものも感じますし。最近では、学校教育でもコミュニケーション能力やプレゼン力、課題解決能力を強化しようとしていますが、日本に住んでいると、それらの能力が本当に求められる場面って、社会人になるまでそうそうないじゃないですか。だから海外のように、本当に生きていく上で必要なスキルとして、家庭のなかで教えていくのは、限界があるように思います。
那須:そうなんです。なぜ非認知能力が必要なのか、親自身もよくわからないまま、子どもに押し付けているようで、ちょっとモヤモヤしてしまって……。あと、もうひとつ気になっているのが、「自己主張すること」と「相手の意見を尊重すること」は、本来、両立するはずなのに、なぜか日本では自分を押し殺して相手に譲ることが美徳だと思われていますよね。
山口:日本人はプロセスを大事にしますからね。まず空気を読んで、相手が求めていることを察知して、自分がすべきことを理解してから、動いているなあと。逆に、インドでは、「何か問題が発生したときに、自分が責任を持って、自分なりに対処する」というアジャイルな考え方が定着しているように感じています。先日、インドの無人探査機が月の南極付近へ世界で初めて着陸を成功させました。宇宙のような未知の世界で、関係者の合意を得るようなプロセスを踏んでいては、対処が遅れると思うんですね。それはそれでもちろん大事なのですが、自分で判断してすぐに動ける強さというのは、これから求められると思います。
那須:なるほど。日本の教育でも昨今は子どもたちに選択させる機会は増えているように思うのですが、非認知能力を育成する上で、選択の自由を与えることはプラスに働きますか?
山口:バランスが大切だと思っています。自分で選択する機会が増えるのはすごく良いことだとは思いますが、半強制的にやらされる環境に身を置くことで、自然に学べることもあると思うんです。自分で選択していると、どうしても好きなほう、得意なほう、楽なほうばかり選んでしまって、偏りが出てきてしまいますから。だからこそ、AkeruE(アケルエ)のような偶発的にいろいろな機会を得られたり、自分と異なる価値観の人と出会ったりする場所に出て行って、さまざまな体験をした上で選べる子どもが増えたら良いなと思いますね。
那須:さまざまな体験をした上で選べる子はその通りですね。また子どもは親の言うことはあまり聞かないけれど、自分より少し歳上のお兄さんお姉さんの話は素直に聞くので、いろいろな世代の人たちが集まる場に身を置くことは、非認知能力を高める上で、とても大切なことなのかもしれません。最後に、山口さんから子どもたちへメッセージをお願いします。
山口:子どもは意外と周りの空気を読んで自分ができることの範囲を決めちゃうので、「本当はもっとなんでもできるんだよ」ということを知ってもらいたいですね。いろいろな場所に行って、いろいろな人と出会って、自分にはこんなにチャンスがあるんだということに気づいてもらえたらと思います。
那須:子どもだけでなく私たち大人にとっても大事なことですね。今日はありがとうございました。