お客さまの近くで、 ものに、思いをのせたい。
高校時代に大学のパンフレットを見ていた時、「こころの喜ぶモノづくり・感性工学」の文字に目が止まった。「『感性工学』って何だろう?」。ふと湧いた興味が、彼女をモノづくりの道に導くことになる。「感性工学」とは、人の心が幸せを感じるモノづくりを追求する学問。たとえば、履いた瞬間、「あっ、心地いい」と感じる靴や、身に付けると身も心も引き締まる下着など、現代のさまざまな工業製品に活かされている。彼女は、大学と大学院を通して、この「感性工学」を学ぶ。
パナソニックとの出会いは、布のシワの共同研究だった。パナソニックから、大学に共同研究の依頼があり、先輩が行っていた研究を彼女が引き継いだことが縁に。他社への就職も視野に入れていた彼女だが、パナソニックを選んだ理由は、「パナソニックはスマートな会社ではない」という先輩社員の言葉だった。「『グローバルな大企業』というイメージが私のなかにはあって、スマートすぎて自分には敷居が高いかなと思っていたのですが、意外と身近な存在に思え親近感が湧きました」。
配属されたのは、ランドリー・クリーナー事業部。そこで、欧州向けのドラム式洗濯機の洗濯コース設計を担当した。欧州の水は硬水のため常温では汚れが落ちにくい。そのため通常はヒーターで温めて洗濯する。逆に省エネ意識の高い人はヒーターを使わない。ヒーターを使うコース、使わずに3〜4時間もかけて洗濯するコース他、欧州の洗濯機にはさまざまなコースが用意されている。彼女は通常の洗濯コースに加え、大学で研究していた「衣類のシワ」の知識を活かし、シワを伸ばすコースを設計した。これは、衣類が乾燥した後にできるシワをスチームで軽減するもの。「大変だったのは、シワの軽減をどのように数値化するか、ということでした」。前例がないために、評価基準となる規格づくりが求められた。布のさまざまなシワをつくっては、実験の毎日。膨大な時間と労力を要したこの仕事から、彼女は商品の「品質」の意味を学んだ。この洗濯機は、後に国際的な展示会、IFAでも展示された。「『こんなにシワが伸びますよ』と大きくアピールされているのを見た時は、誇らしく思いましたね」。
その後、ビューティ・リビング事業部に異動。イオンエフェクターや、コンパクトスチーマーなどエステ商品の機構設計に携わり、現在は、他社にOEM供給するエステ商品を担当している。「この仕事は部品の形状や厚さなどにミクロン単位の精度が求められます。試作品をつくっては調整、の繰り返し。地味な作業ですが、世の中の女性の美しさにつながっていると思うと手が抜けません。量産前のプロトタイプができたら、必ず持ち帰って自分で使ってみます。お客さまと同じ使い方で。そうすると、改善点が見つかるんです。商品が世に出た時は、喜びよりも不安が先に立ちますね。でも、口コミで『今度のパナソニックいいね』という評判が聞こえた時、ようやく嬉しさがこみ上げてきます」。
大学時代から、彼女がモノづくりの指針としてきたもの。それは、「使う人の心」だ。「欧州向けの洗濯機のコース設計では、お客さまが遠すぎて、心が掴めずに苦労しました。今、担当しているエステ商品は、自分が使う人になれる分、少しましかな。でも、本当はもっとお客さまの近くで、お客さまの声を聞きながら、モノづくりをすることが夢です」。「ものに、思いをのせること」。それが、今も、そしてこれからも、彼女の目標だ。
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*所属・内容等は取材当時のものです。