会計データを役立てることで、パナソニックの組織力を強くしたい。
高校生の頃から数学が好きで、大学は会計学科へ。将来は、会計士の道を考えていた。しかし、女子ラクロス部でマネージャーをした経験が、その道を変えるきっかけになった。部活ではマネージャーとして、チームが試合に勝つためにできることに尽力。
「自分が主役になるのは得意じゃなくて、裏から支えるのが好きなんです」。そう話す上田が当時、特に力を入れたのは、選手たちのデータを集めて分析すること。それぞれがボールを保持している時間、シュートで狙う場所と入る確率など、あらゆるプレーを数値化することで戦略づくりに貢献した。「多くのプレイヤーが感覚で動いていたので、数字で証明することで得意や苦手な点が明確になるなど新しい発見があり、チームにとってプラスになりました」。
この経験を通じて、チームのためにデータを活用するおもしろさを実感。それは、進路にも影響を与えた。「会計士として、会計の制度や法律を専門に扱うよりも、数字を役立てることで、組織を強くするような仕事をしたいと思うようになりました」。
そこで、メーカーでの経理を志望し、幅広い会社を検討。そのなかでパナソニックは、経理としてのキャリアもあり、研修体制も充実。そして何より、会計データを経営に役立たせる「経営経理」を掲げていて、自分の想いと重なったことが入社の決め手となった。
パナソニックグループの経理には、フィロソフィーや仕事へ向かう姿勢など、基本的な考え方がある。「本にしたら分厚い1冊になるほどの内容で、その奥深さに驚きました」。入社後すぐに経理に配属され、最初の2年間は研修や実務を通じて、仕事の基礎をじっくり学んだ。
そして3年目、はじめて製品を担当。数字を組織に役立てるという、上田が志す経理の舞台に早くも立つことになる。担当した製品は新規事業として立ち上げたものの売上が低迷し、継続が危ぶまれていた、とある充電式電池だった。
当初は年間20億円の販売計画を見込んでいたが、現状は計画の1%にも満たない売上。この状況から、事業継続に向けた計画と実行を任された。今後どれくらい販売を見込めるか、原価をどこまで下げられるかなど、さまざまな数字を取りまとめ、3年先を見据えて事業が継続できる生産体制を検証。事業規模の縮小は避けられず、組織・人員体制の効率化を提案することになった。
しかし、従業員を預かる工場の管理職からは、当然ながら反発もある。上田は「このままだと数年後に事業がなくなります、できることを今やりましょう」と現状を真摯に説明。最終的には販売・生産・技術が一丸となり、事業継続へ向けて協力していくことができた。
この経験を通じて、事業の継続は当たり前ではなく、多くの従業員、さらにはその家族の生活までもが関わることを実感した。「経理の重要性や責任を再認識するとともに、やりがいの大きさも知り、私にとって経理として原点となる仕事でした」。
工場での経理を3年ほど経験した頃、マレーシア工場での勤務の声がかかる。「最初は自信がなかったのですが、経営経理として成長するために必ずプラスになると考え、チャレンジしました」。現地の工場における、決算や改善業務を担当。経理としてやるべきことは日本と大きく変わらないが、言語やインフラ環境、現地スタッフの考え方など、置かれた状況がまるで違う。また工場全体に携わるため、関わる人も多くなる。
「最初は思い通りに進まないことばかりでしたが、日本でのやり方にこだわり過ぎず、現地のプロセスや考え方を学びながら取り組んでいきました」。もがきながらもやり遂げた日々は、自分の殻を打ち破る経験となり、大きな自信につながった。
そして現在は帰国し、売上規模が数千億円にものぼる、デバイスソリューション事業部の国内決算を担当している。固定費や生産計画など、工場がとりまとめた数字に対する正確性や妥当性を検証。その数字をもとに、事業の現状や見通しについて、経理の視点から経営陣に説明している。
経理はどの職種よりも経営数値を俯瞰的に捉えているため、いかに正しい方向性を示し、組織全体に共有できるかどうかで、時には事業の行く末が大きく変わる。「同じ決算数字でも、見方によって浮かび上がる経営課題は違ってきます。世の中の動きと会社の現状を鑑みて、いかに的確な課題を抽出し、経営層に届け、かつそれを現場に返せるかが腕の見せ所であり、やりがいを感じる部分です」。
自ら志した経理の道を着実に歩み、仕事の規模を広げてきた。入社当初は、ここまで経営的視点を持ち、長期的に物事を捉えている自分を想像できていなかったという。
「パナソニックグループは『人を育てる』という考え方が浸透している会社だと思います。これまで私は、最適なタイミングで、成長につながるチャンスを与えてもらいました」。そのチャンスを一つひとつ自分の力に変えてきたからこそ、現在の姿がある。今後もさまざまな経験を積み、数字を使って組織を強くしながら、自分自身も強さを増していくのだろう。
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*所属・内容等は取材当時のものです。