【舞台裏のレッツノート】ぼくたちは、「聴く文化」の可能性を信じている
モバイルワーカーのツールとして長年働く人々をサポートしてきたパナソニックのレッツノートは今年で25周年。レッツノートは、「いつでも」「どこでも」「誰とでも」働ける新しいワークスタイルである「ハイブリッドワーク」をサポートするものとして、これからも日々の仕事を支えます。
今回の「舞台裏のレッツノート」シリーズでは、レッツノート25周年を記念してレッツノートをご愛用いただいている、時代を切り拓くビジネスパーソンにインタビューしていきます。今回は「レッツノート以外は考えられない」と語る株式会社オトバンク代表取締役社長・久保田裕也さんに、仕事にかける思いや、現代の新たな働き方について聞きました。
久保田裕也(くぼた・ゆうや)
株式会社オトバンク代表取締役社長。オトバンクはその名の通り「音」にこだわり、『オーディオブック』などの音声コンテンツにフォーカスしたサービスを提供している企業である。趣味はラジオとランニング。毎日10kmほどランニングしており、「日本最速の社長」と呼ばれることも。
なんで「定時」があるのか疑問に思った
――オトバンクさんではコアタイムの廃止やリモートワークの推奨、満員電車禁止令など、さまざまな「働き方」への取り組みを進めていますが、どのように実現していったのか教えていただけますか?
久保田: これは、働いている仲間がモチベーションを高く保てて、リスクの低い状態で働けることを考えたとき、自然と出てきたものです。
実は、オトバンクが「リモートワーク」や「満員電車禁止令」を推奨したのは2015年で、コロナ禍になるずっと前なんです。「満員電車禁止令」に関しては、僕自身が、車両から降りられないほど混雑したラッシュ時の銀座線で、つり革に掴まって飛び蹴りをするおじさんの姿を目撃したのがきっかけでした(笑)。そもそも満員電車が好きな人はいないですし、こんな状態で毎日問題に巻き込まれる可能性があると考えると、これはリスクなんじゃないか、と。
そして、なぜこんな状況が生まれるかというと、「定時」があるからですよね。そこでフルフレックス制を導入し、リモートワークを推進しました。
オトバンクさんのオフィス。訪問時はほぼリモートワークでした。
久保田: また、これからの働き方を考えたとき、我々以降の世代では介護や育児とをしながら働く人もより増えていくはずです。ですが、全員がつねに同じ時間や場所を共にする働き方をしていては、優秀な人材が環境のせいで働けない、ということが起きてしまいます。
たとえば「多言語が喋れて、優秀で、本人も社会との接点がほしい。けれども働ける時間は1日4時間しかない」という方がいたとして、本当はその人に4時間稼働してもらうだけでも助かるはずですが、今の社会ではその機会がなかなか用意できません。そうした方にも活躍してもらえる環境を整えることは、会社の価値を上げることにもなると思いました。
――時間や場所の制約に左右されず、それぞれの都合に合わせた仕事環境を整える、という発想ですね。これは「ハイブリッドワーク」そのものです。そういった環境を整えたことで、よかったことはありますか?
久保田: まずは、単純に応募が増えました(笑)。また、そうしてさまざまな環境で、様々な方が働ける状況を整えていったことで、会社としてもいろんな人を受容しやすくなったと思います。
就活中に気づいた日本のコンテンツの可能性
――オトバンクは創業者の上田渉さんが東京大学在籍時に立ち上げた会社とのことですが、久保田さんと上田さんはもともとゼミの同期だったそうですね。まだ事業が軌道に乗っていないなかで、オトバンクへの入社を決めた理由はどんなものだったのでしょう?
久保田: 僕は大学卒業を前に就職活動をはじめました。それまでは試験の得点が高ければ褒められ、低ければ心配されるだけの環境で生きてきたのに対して、就職活動では「あなたの価値観を教えてください」と言われ、当時の僕は戸惑っていました。
そして、有名な会社や大手の会社を受けて良い結果ももらえていたのですが、一方で、なぜか憂鬱になっていく自分に気づいたんです。本当にやりたいことがないなかで、必死に取り組む人たちと競争することを、これから自分は続けていけるんだろうか、と。そのタイミングで、内定が出たゼミのメンバーを祝う場が設けられ、そこで自分の目の前に座ったのが、久しぶりに会った上田でした。そのときに「会社をつくったから手伝ってくれ」と言われたのが、僕とオトバンクとの最初の出会いでした。
――なるほど。「働く」ということに向き合っていくなかで、オトバンクに出会ったのですね。
久保田: 今思うと、当時の僕は就職活動のために武装し続けた結果、「本当の自分がそこにいない」「何をしたらいいのか分からない」という状態になっていて、将来のことや働く意味を、そのタイミングで初めて考えたんだと思います。
そんななかで、半年ほどバックパックで海外に向かい、さまざまな人に出会う経験をしました。ある日、出会った現地の人に「日本には産業があって良いよな」と言われました。この言葉には衝撃を受けました。たしかに、そもそも産業のないところから挑戦する人が海外にはいるのか、と。
そこから「組織が何もない状態からできあがって、それが一定の規模になり、大きくなっていく」ことをゼロからやれたら、「世界で通用する経験になる」と思うようになりました。やるならできるだけ厳しい環境がいいと考えたときに、オトバンクを思い出したんです。「上田が立ち上げたあの会社、誰からも応援されていないぞ」と(笑)。また、恩師であるエンジェル投資家の瀧本哲史さんがかかわっていたことも大きかったと思います。そこからはじまって、今は代表取締役を務めています。
――その後、オトバンクを順調に成長させた久保田さんですが、紙の本や電子書籍とは違う、オーディオブックや音声コンテンツならではの魅力とはどんなものなのでしょうか?
久保田: 僕は紙の本もよく買うんですが、本は電子書籍も含めて、自分でページをめくらなければいけない「能動的なメディア」だと感じています。もちろん、それが本のよさでもあると思うのですが、一方で音声コンテンツの場合は、一度タップすれば自然に流れてくるので、「受動的に楽しむ」ことが可能です。これは本との大きな違いですね。ですから、手に取りたいとは思っているものの、そこまで熱量は高くないものとの親和性が非常に高い、というのが特徴のひとつです。
また、音声コンテンツは「隙間時間に楽しみやすい」という面もあります。毎日生活する中で、「耳だけが空いている時間」ってけっこうあるんですよ。寝るときやお風呂の中、移動時間もそうですし、コロナ禍になって在宅時間が増えるなかで、家事をやりながら聴いている、という方も増えています。そんなふうに、耳さえあれば場所を選ばないのも特徴です。
オトバンクさんのオフィスには、オーディオブック化するための
さまざまな書籍が並んでいました。
――せわしない日々を送る現代人の生活スタイルに合ったサービスなのかもしれませんね。
久保田: そうですね。とはいえ、音声コンテンツって、実はつくるのに結構手間がかかるんですよ。特にオトバンクが「audiobook.jp」(当初の名称は「FeBe」)をはじめた2007年頃は、音声コンテンツに必要なクオリティや契約、著作権などについて、まだ何も基準がない状態でした。ですから、その基準をゼロからつくる必要がありました。まだ答えはないですから、これは本当に禅問答のような作業でしたが……。
まずは問題点をひとつずつ潰していくことからはじめました。出版社などさまざまな方々に「音声コンテンツができない理由を、権利関係のことでも何でもすべて教えてください」と伝え、特に深刻で越えなければいけないものから地道にクリアしていった結果、徐々にお客さんが増えていったという感覚です。
オトバンクのスタジオでの編集風景
これまでも、これからもオトバンクを支えるもの
――久保田さんが仕事をするうえで大切にしている考え方はありますか?
久保田: 会社の人たちにもよく言っているんですが、僕は社長として「単年度契約マインド」でいるようにしているんです。自分の仕事ぶりを見てもらって、ダメだったらやめろと言ってください、と。とにかく精神的に全裸になっている状態なので、それを認識してもらうことで、相手も本音で話してくれるんじゃないかな、と思っています。会社としても1on1ミーティングの機会を増やしていますし、各部署の上長も、横のつながりも含めて、かなり頻繁にコミュニケーションをとるようにしています。
――時間や場所の制約を持たない、それぞれのスタイルに合った働き方を実現するためにも、コミュニケーションをかなり密に取っているんですね。
久保田: それでもまだまだ課題はあるな、と思っています。やはり事業ってナマモノなので、組織としてまわっていても、無機質な状態ではいけないと思っていて。その熱量や雰囲気をどうつくっていくかについて、いろいろと試行錯誤しています。
また、会社は社会の縮図でもあるので、オトバンクという会社が、今の社会の縮図になっているかも意識しています。昨今のジェンダーギャップの観点なども含め、さまざまなことを今の社会が目指すものに近づけることで、多様性の概念が広がり、優秀な人が集まってきてくれるのかな、と思います。場所と時間の制約を解決することに関しては、深夜と早朝を除けば、労働基準法の範囲内で実現できている状況なので、これから新たに出てくる概念についても対応していきたいと思っています。
――そういった働き方をしていくうえで、久保田さんやオトバンクを支えている人はどんな人でしょうか?
久保田: それはやはり、家族と仲間ですね。あとは、法人も個人もそうですが、お客さんから「これが分からないから教えてほしい」と言われたり、昨今のような状況で、「オーディオブックのようなサービスは本当にありがたい」という声をいただいたりすると、「がんばろう」という気持ちになります。
久保田: うちの会社は、『キングダム』の“飛信隊”じゃないですが、オリジナルメンバーたちが、辞めずに今も在籍してくれているんです。もちろん会社の規模が大きくなるにつれて、優秀な人もたくさん入ってきてくれていますが、これまでいろんなことがあったなかでも、最初からそれを一緒に経験してきた人たちが今も会社にいて、ここでまだがんばってくれていることが、会社の屋台骨を支えてくれているのかな、と思います。
――ほかにも、久保田さんのお仕事に欠かせないものはありますか?
久保田: 仕事道具では、レッツノートは四六時中持っています。一般的なノートPCに比べると少し高いですが、20~25万円程のレッツノートと15万円程のノートPCだったら、圧倒的に価格の差を埋めてくれる魅力があると僕は思っています。
僕はもともと別のノートPCを使っていましたが、上田と瀧本さんはずっとレッツノートを使っていて。瀧本さんがよく「僕はレッツノートのロイヤルカスタマーです」と言っていたんです。
うちの会社では、持ち出しができない会社のノートPCとして、瀧本さんのお下がりのレッツノートがありました。ある日、当時使っていたPCの電池の持ちが悪くなったときにレッツノートを使ってみると、めちゃくちゃ軽いし、使い勝手がよくて、立ち上がりも早く、電池の持ちもよくて驚きました。ずっと開いてないかぎり日中も充電なしで持ってしまったりして。それで、僕もレッツノートに買い換えました。
――さいごに、オトバンクとして、これから提供していくコンテンツやサービスについて、どんな思いで向き合っていきたいですか?
久保田: 個人的に、コンテンツというものは、人類の生存という観点では必要なものではないと考えています。ただ一方で、人間らしく生きていくためには、コンテンツは必要不可欠なものだと思っているんです。
そういったコンテンツを、いかに多く世に出していけるのかについては、常々考えていきたいと思っています。そして、それは結果的に、この会社の優位性や音声コンテンツを聴く人の人口、聴取者層の拡大にも繋がっていくはずです。
これからも、あらゆる場所で、あらゆる人が音声コンテンツを楽しむための環境づくりを促進し、「聴く文化」の可能性を広げ続けたいと思っています。
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ライター/杉山 仁
撮影/佐坂 和也
監修/オトバンク広報 佐伯 帆乃香さん