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高騒音下でも円滑なコミュニケーション。〜業務用骨伝導ヘッドセット〜

社会課題を解決し、世の中に新しい価値を生み出していくために。パナソニックは技術革新だけでなく、これまでにないソリューションやサービスの開発に挑み続けています。今回は、作業現場の環境を変えた「業務用骨伝導ヘッドセット」の開発チームにインタビューしました。

・製品名:業務用骨伝導ヘッドセット
・担当:パナソニック コネクト株式会社
*記事の内容は取材当時のものです。

「話す」「聞く」の双方に骨伝導を利用した業務用ヘッドセット。多くの作業現場で使われているトランシーバーやスマートフォンに接続して利用できます。これまで、耳栓を着用しなければならない高騒音の職場では、近寄って耳元で叫んだり、ジェスチャーを使ったりのコミュニケーションが常でした。両耳をふさがずに使用でき、「周囲の音を聞きながらチームで通話をすることで、作業性が向上した」と、作業環境を大きく変えました。

クリアな音声、高まった装着性。

骨伝導と聞けば「音質が悪いのでは?」と疑うのは過去の話。これまでは、振動デバイスの周波数特性が良くないため、音質を確保する上で必要な高周波数帯域の音圧が低くなり、音が小さい、音質が悪いと思われていました。改善のカギは振動デバイスです。既存の板バネやスピーカー、ゴムの組み合わせで構成する柔軟な発想で、広帯域で安定的に高い音質を実現する振動デバイスの自社開発に成功。 耳をふさぐことがなく「ごう音が鳴り響く現場や工場で、コミュニケーションを円滑に」というクライアントの課題を解決する商品となりました。

本体重量は約53g。作業を妨げないようにと部品ひとつにも軽さを極めた仕様で、装着性を高める工夫が数多く施されています。クライアントの工場で度々ヒアリングを行い、メガネや防護マスクをしていても装着しやすい形状を追求。ヘルメット装着型やワイヤード型、イヤーフック装着型などを経て、最適な形にたどり着きました。軍手をしていても押しやすいボタン、顔のサイズや首の太さにアジャストする装着性など、ユーザビリティに最大限配慮してデザイン。現場のニーズに即した防水性も備えています。

選べるマイク、「骨伝導」と「指向性」。

使用環境に合わせて簡単に着脱・切り替えできる骨伝導マイクと指向性マイク。首に密着して使う骨伝導マイクは、騒々しい環境でも通信ができる高性能モデル(オプション)です。実際の話し声に比べて体内を伝達する振動の周波数成分が低いことから、これまでの骨伝導マイクは、低い周波数帯域の音を拾い過ぎてしまい、声がこもって聞こえていました。

そこで、今回は、声帯振動をセンシングして高域側の周波数成分だけを増幅し、自然な話し声を実現。納入先の大手自動車メーカーからは、「プレスや鍛造などの高騒音下でも通話ができる」とのレビューが届くほか、「骨伝導の音質が良く、耳をふさがず通話できるので、列車の通過を確認できて安心」といった鉄道事業者のフィードバックや、耳の悪い方から「よく聞こえる!」といった喜びの声も寄せられています。

また、指向性マイクはノイズキャンセラーによって騒音が除去され、話し声だけをクリアに相手へ届けます。「感度が良く、コミュニケーションが円滑になる」と、状況に応じた使い分けにも高い評価が寄せられています。

使い慣れた通信端末にケーブルで接続。

この商品はトランシーバーやスマートフォン、タブレットパソコン、PHSなどの通信端末にケーブルを接続して利用します。工場では複数人で通信できるトランシーバーが多く使われ、その種類は200以上にも及びますが、ヘッドセットの接続端子の仕様はさまざまです。今回、その半数以上に対応する接続ケーブルを用意したことで、使い慣れた機器でそのまま通信できる特長が好評です。接続先の機器から電力供給を受けて、バッテリーを省いたことで充電の手間がなくなり、軽量化を実現しました。

現在は、生産性向上や働き方改革を支援するソリューション化を進行中。その一例が、脈拍などのバイタルセンシングです。生体情報をチェックして、熱中症など労働災害の予防につなげます。さらに、チーム作業の効率アップを図るために、センサーとカメラを組み込んで個人の状況をリアルタイムに共有するシステム構想も。さらに、子育て中の在宅勤務者が赤ちゃんの声を聞きながら外部と通話できるなど、働き方改革推進の使い方にも可能性を見いだしています。現在は通信機器に接続する有線タイプのみですが、今後はBluetoothなどによる無線接続も視野に入れて、開発を進めています。

<中尾 克/プロジェクトリーダー>机上で考えた試作機は「役に立たない」。現場の愛あるダメ出しに鍛えられる。

出発点は民生品の技術をBtoBのクライアントのお役立ちにつなげること。自分たちが必死になって考えた試作機を持ち込んだ鉄道技術展やCESなど、出展での反応は良好でしたが、やはり現場は一筋縄ではいきません。「こんな声量じゃ役に立たない」。テストに協力していただいた大手自動車メーカーさまの最初の声です。2014年に現在所属しているイノベーションセンターに異動するまで、私はシミュレーションで設計完成度を高める、バーチャルな設計開発プロセスの構築を担っていました。そのため、一度はやってみたかったリアルなモノづくりに取り組むことになったものの、初めに大きなショックを受けました。

しかし、その声は激励の裏返しでもありました。お客さまの課題は現場における円滑なコミュニケーション。生産の効率化や安全性向上と、目的が明確なだけに求める本気度も高かったのです。試作機を持ち込む度に、「プラグを差して充電なんて手間。現場では絶対しない」「メガネの上に保護メガネをする人には大きくてじゃま」「ボタンが小さくて軍手では押せない」と声が続々と上がりました。その熱く、切実な言葉が商品を育ててくれました。

あなたの信条は?
期待に応えることです。私に商品開発を託した上層部やクライアントに、商品を何としても届けたい。その思いがあったからこそ、度重なる困難に立ち向かえました。

<国本 浩/電気設計・開発>ラピッドプロトタイピングを続け、お客さまの課題一つひとつに対応。

アナログ回路設計の担当者としてD-snap開発に携わるなどオーディオ一筋でしたが、事業部再編に伴ってイノベーションセンターへ。実験の日々は充実していたものの、やはり「この商品をつくったんだ」という手応えが忘れがたく、志願して商品開発の現場に戻りました。中尾さんがクライアントから引き出した要望を元に、少しでも早くに再提案できるように3Dプリンターで試作サンプルを作成。今で言うラピッドプロトタイピングのはしりで、試作したのは10以上。クライアントの声を元に、何度でもつくり直しました。

商品開発以外でもトラブルは多発。部署の方針転換による商品化中止のほか、部品調達にも悩まされました。カギとなる振動デバイスは専門性が高く、代用は不可能。ところが、採用予定のデバイスが2度も生産中止に。出荷数が多くないBtoBでも採算が取れて、かつ安定的に供給するには......。決断したのが、汎用部品を用いた振動デバイスの自社開発です。課題が目の前にあったからこそ、より良い商品になったのかもしれません。

あなたの信条は?
諦めないことです。イノベーションセンターでの実験の合間に、音と映像、振動について追求しました。先の見えない試行錯誤でしたから、商品化できて本当に嬉しいです。

<小林 一大/マーケティング・企画・販促>"ひとり事業部"とうわさされるなかで、企業家精神を全力で学ぶ。

この商品は5名程度の少人数で開発を進めることになり、現場はベンチャー企業のようでした。設計やモノづくり、顧客対応や販売に至るまで、あらゆることを担当しました。その様子は、時に他部署から「ひとり事業部」と呼ばれるほど。しかし、自分で新しい道を切り開こうという企業家精神を学ぶことができました。製造現場や技術開発、SEなど、多様な経験をしてきたことも大きなアドバンテージになりました。特に、私は製造部門での経験もあって現場のお客さまの声には共感しやすいものが多く、マイクの着脱やボタンの大きさといった意見を商品に反映できました。

新商品をつくる上で大切なのは「見極める力」です。チームとして「お客さまの課題を解決できる商品づくり」を軸に開発を進めましたが、実際の現場ではさまざまな方からご意見をいただきます。どれもありがたいご意見ですが、全てを反映させることはできませんし、時には相反することもあります。ただ、ニーズの高いお客さまほど商品へ思いは強く、だからこそ厳しいご意見をいただきます。何とかそれに応えたいと力を尽くしました。

あなたの信条は?
諦めない。これに尽きます。部品の生産中止があったり、「開発をやめろ」と言われたり......。しかし、お客さまの明確なニーズと売れると確信できたことで、諦めずに続けられました。

<田坂 啓/システム検証・開発・市場開拓>若くソリッドな組織のなかで、自分ができることを問い続ける。

私は2017年に評価やシステム検証の担当としてプロジェクトに参加。事業部では当たり前の評価基準がイノベーションセンターにはなく、全て手探りでのスタートでした。開発プロジェクトを通して感じたのは、新商品は「思い」を持つ人がいないと完結しないということ。中尾さんの情熱、国本さんや小林さんの真摯さがなければ、次から次へと起こるトラブルを乗り越えられなかったでしょう。しかし、情熱は時にスケジュールや予算を見えなくします(笑)。若いベンチャー組織ではひとり何役もこなすのが当たり前。プロジェクトのサブマネージャーのつもりで、メンバーの目が届いていない隙間を埋めようと心がけました。取説の制作やWEBサイトの企画、販売ルートの構築、時には3D-CADの設計も行いました。

今は働き方改革に役立つソリューション化をターゲットに社内販売を始めています。オンライン会議ツールのSKYPEの全社導入が進み、骨伝導ヘッドセットが活躍できる場は増えました。産後の社員が赤ちゃんの声を聞きながら仕事をしたり、遠隔地と通信しながら同じ事業所内でのやりとりに耳を傾けたり......。社員のためになる使い方をさらに模索していきます。

あなたの信条は?
モットーはかつての上司の言葉「指示を待つな」です。パナソニックにとって有益か、そうでないか。もし自分の取るべき行動について迷った時は、そこに立ち戻って考えます。


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