スイッチにAIを融合し、生活環境をまるごとつなぐインフラにしたい。
「『人生の主人公は自分なんだ』。中学校の担任の先生が言っていた、今でも大切にしている言葉です」。そう切り出したのは、配線器具の開発を担当する四元志実だ。「確か『将来の夢』を考える授業の時だったと思います。『自分の人生の物語なんだから、自分で進みたい道を考えて挑戦し、自分の責任で切り拓いていきなさい』。といった、先生独特のエールだったと思います」。入社7年目の四元。物語はまだまだ序章だという。
配線器具のなかでも、四元が担当するのは人を検知して自動で照明を点灯する「かってにスイッチ」や、壁からスイッチの操作部分をはずしてリモコンにもなる「とったらリモコン」など、電子回路を搭載して多様な付加価値を持つ高機能照明制御スイッチだ。そんな四元の仕事の原点をたどると、電子工作が好きだった小学生の頃にさかのぼる。たとえば、白い紙に描いた黒線を検知して自在に走るライントレースロボットなど。それぞれの部品がどう作用して動くのか、どう反応して止まるのか...。しくみを探り、知識がたまっていくのがおもしろくて、お小遣いを工作キットに注ぎ込んだ。
とはいえ好奇心旺盛な年頃。中学校では吹奏楽部に入り、トランペットに夢中になった。高校では医療関係へ進む想いも芽生えた。だが、いざ大学受験が視野に入ると、電気電子への道しか考えられなかった。「モノづくりに関わって、自分がつくった機器がくらしや社会で使われていく。自分の人生に、好きな物語を描けると思ったんです」。そして自分の人生の「主人公」になるため、大学は電気電子情報工学を専攻。基本的な電気回路からソフト処理、可視光通信の理論の検証まで幅広く学んだ。
就職活動は、もはや迷うことなくメーカーに絞った。特にパナソニックは事業領域の広さが魅力だった。家電から電気設備、住宅まで住環境をトータルに手掛けることができるパナソニックなら大学で学んだ研究も活かせるし、技術者として携われる範囲が広い。当時「IoT」がトレンドになり、家電がインターネットにつながりだした頃。ネットワーク化の流れを加速させ、新たな生活スタイルを提案できると想いが膨らんだ。
舞台は整った。入社後、四元が配属されたのは通信制御技術部。まず、マンション用インターホンの高速通信化では、クラウドで各種情報サービスを入居者へ配信する研究を推進。その後、4K8K衛星放送スタートにともなって、現在所属する商品技術部に異動した。4K8K放送対応のテレビコンセントの開発に取り組み、手間だったネジ式固定をなくす革新的な簡易結線タイプを開発。同時に、さまざまな開発のサポートに関わりながら、電子制御スイッチの担当になった。「商品について内部まで理解しているのは設計者であるため、全体の推進リーダー役になります。責任は大きいけれど、やり遂げた後の達成感が次の仕事への原動力になるんです」。
もちろん一筋縄ではいかない場面もあった。スマホのスイッチ操作で家中の照明を制御できる「リンクプラス」の開発の時だ。部署をまたぐ2年半に及ぶ大規模なプロジェクトで、四元はスイッチとスマホをつなぐ部分とシステム設計の一部を担当した。通常、スイッチは接続する照明に影響を与えないため極省電力で動くように設計されるが、スマホでスイッチを操作するにはBluetoothが必要となる。
問題はBluetoothが通信距離をカバーするためパワーを使うこと。スイッチがBluetoothを使用するための電力を電源から送ると、電力が強いため照明をオフにしておきたい時にもオンされてしまうのだ。そんな相性の悪さを補い、少ない電力で家中の無線をカバーできるように変更と調整を、何度も何度も繰り返して最終仕様にまとめていった。商品出荷にたどり着けたのは、部署を越えたアドバイスやサポートがあったからこそという。「まさにオールキャスト。周りの仲間たちとの連携の大切さを痛感しました」。
今、四元は新たな挑戦に取り組んでいる。ウイズコロナ時代を見据えた「非接触操作型スイッチ」の開発だ。広い範囲を検知するタイプと違い、壁のスイッチに触れず手をかざしてオン/オフできるもので、ニューノーマルの提案だ。さらにスイッチとAIとの融合。あらゆる家電とつながっているスイッチを起点と位置づけ、生活環境をまるごとつないでシームレスに自動制御しようとするものだ。照明も、エアコンも、テレビも、換気扇も、意識して操作することなくくらせるようになるかもしれない。
「配線器具は決して目立つ存在ではないと思われているかもしれません。でも、居住空間において欠かせないインフラ機器なんです」。くらしをもっと便利に、もっと快適に...四元は、新たな筋書きを描き続ける。人生という物語の主人公であるために。
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*所属・内容等は取材当時のものです。