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軽いけど強い素材が、地球と会社を救う?!〜「高濃度セルロースファイバー成形材料」開発にかけた若き技術者たちの思い〜

プラスチック使用量の削減が世界的に求められているなか、実用化が期待されている「高濃度セルロースファイバー成形材料」。天然資源の効率的な利用や海洋汚染の防止など、SDGs達成に貢献する素材として注目されています。夢の新素材誕生まで、どのようなあゆみがあったのでしょうか?あくなき理想に向かって挑戦を続ける若き技術者たちの物語をご紹介します。

About:「高濃度セルロースファイバー成形材料」って?

木材を原料とした天然の木質繊維「セルロースファイバー」。この「セルロースファイバー」を高濃度で樹脂に混ぜ込んだペレット状のものが「セルロースファイバー成形材料」です。樹脂に「セルロースファイバー」を均一に混ぜ込むことで、グラスファイバーのように「軽くて強い」素材に生まれ変わります。

今回、植物由来のセルロースファイバーを85%もの濃度で樹脂に混ぜ込むことに成功。石油由来である樹脂の使用量低減に役立つことから、SDGs(ゴール12「つくる責任 つかう責任」、ゴール14「海の豊かさを守ろう」)の達成に貢献する素材として、期待されています。

コードレススティック掃除機「POWER CORDLESS」

開発する上で難しかった点は「白色の成形材料を生み出すこと」。そこで、白色の成形材料を可能にする混練技術を新たに開発。着色自由度が高く、さまざまな色に仕上げることができるようになりました。そして、すでに実用化の動きがはじまっています。

第1弾商品は、コードレススティック掃除機。「セルロースファイバー樹脂」は、軽くてしなりに強いうえ、落としても割れにくい特性を持つ一方で、プラスチック使用量を低減できることから、掃除機の筐体に使われています。

2019年8月には、アサヒビールと共同で開発された環境配慮型のリユースカップ「森のタンブラー」が、パナソニックスタジアム吹田をはじめ、さまざまな屋外イベントで活用されました。

自然由来の木の風合いが特徴の「森のタンブラー」


ー高濃度セルロースファイバー樹脂製品ができるまで


Interview:夢の新素材開発に挑んだ技術者たち

<プロフィール>
浜辺 理史[パナソニック株式会社 素材開発]
2012年秋に中途入社し、電池向けの塗工プロセス開発を担当。2015年からは環境省からの委託事業の発足メンバーとして参画。セルロース材料開発のリーダー的存在。

今西 正義[パナソニック株式会社 素材開発]
2016年に入社。1年間の研修を経て、現在の部署に配属。材料の選定から開発まで、主に実務を担当している。

西野 彰馬[パナソニック株式会社 成形開発]
2014年に入社し、研修終了とともに2015年から現部署に配属。材料・デバイス技術部が開発した材料をもとに、各事業部や社外のお客様とやり取りし、実用化に向けた成形プロセスを開発している。

左から、浜辺 理史・今西 正義・西野 彰馬

ー森林大国にっぽんの次世代素材

Q)開発は、いつから始まったのでしょうか?

浜辺:
「高濃度セルロースファイバー成形材料」の開発がはじまったのは2015年。環境省からの委託事業として「セルロースナノファイバー(以下、CNF)」をテーマにしたプロジェクトが立ち上がったのがきっかけでした。

今西:
CNFやセルロースファイバーの原料となるパルプは間伐材などからつくられています。国土の7割近くを森林が占める日本では、現在、木材の有効活用が課題となっているんです。木は成長しきってしまうと二酸化炭素を吸わない。このため成長した木を切って有効活用する必要があります。従って、セルロースファイバーを使う「高濃度セルロースファイバー成形材料」は、森林資源の循環利用を後押しするとともに、樹脂の使用量も削減でき一石二鳥。森林大国にっぽんの次世代素材として、いま注目を集めているんです。

西野:
製造工程でも、エネルギーの削減で成果をあげることができました。通常、原材料であるパルプを水中でほぐして、より細かいセルロースファイバーにするのですが、樹脂に混ぜ込む際に乾燥させる必要があり、これまで多大なエネルギーが必要でした。こうした課題を解決するために編み出されたのが、一切水を使わずに、溶かした樹脂の中でパルプを解繊する「全乾式プロセス」。生産効率を高めると同時に、製造時のエネルギー削減が可能となりました。

*「平成27年度~平成29年度セルロースナノファイバー製品製造工程におけるCO2排出削減に関する技術開発」

ー高温だと焦げやすい。低温だと混ざりにくい。解決したのは...

Q)最も苦労したのはどのようなことですか?

今西:
いかに白色を保ちながら混ぜていくかということです。一般的な樹脂は、透明や白色が多いんですね。私たちが開発する材料も、着色性やデザイン性を考慮して白色にこだわりました。ですが、セルロースファイバーは、焦げやすく熱が入るとどうしても褐色化してしまう。

浜辺:
樹脂は、低温だと混ざりにくいんです。僕はもともと、混ぜ物の多い電池系の仕事をやっていたこともあり、「どれくらいの粘り気のものを、どれくらいの力で混ぜたいか」の違いによってふさわしい方式があることを知っていました。「技術プラットフォーム」を参考にしながら、低温でもなんとか粘り気のある状態を保って混ぜる方法にたどりつくことができました。

西野:
白色が残せないという課題がずっとクリアできていなかったのですが、浜辺の選定した熱を加えない方式のおかげで突破できました。

ー石油資源の消費を約4分の1減らす

Q)実用化に向けた、今後の展望を教えてください。

浜辺:
家電の筐体や建材など、実用化に向けてさまざまなアプローチをしています。

今西:
軽くて強い特性が燃費向上や安全性に貢献できるので、車の内装に使ってもらいたいですね。

西野:
あと野外フェスやオリンピックなど公共の場で、どっと出る使い捨て容器などに使われるようになったら、もっと普及できるのではないかと思っています。

浜辺:
現在、世界中で使われている樹脂の量は年間3億トン※。仮に約半分が「高濃度セルロースファイバー成形材料」に置き換わったら、石油資源の消費を約4分の1減らすことができる――個人的にはそれくらい広がってもらえると嬉しいです。
* 経済協力開発機構(OECD)『OECD ENVIRONMENT POLICY PAPER NO. 12』より

今西:
ただ、事業部側からすると、エコだけでは採用には至らないのが実情です。たとえば、掃除機の場合、軽くて強いのはもちろんのこと、倒したときに衝撃で割れない耐衝撃性が必要です。通常、軽くしようとすると衝撃強度がどうしても落ちてしまうんですが、それを保ったまま軽くできたことで今回、採用にいたりました。何か特性がつけられるように事業部の方や社外の方々と連携していきたいと思っています。

西野:
コストも課題です。今後、生産量を増やしたり投資を検討するなど、コスト削減に向けて努力していきたいと思います。

ー自分も世界もハッピーにできる

Q)これからの意気込みを、お願いします。

浜辺:
プロジェクト発足当初、環境省と社内との思惑には乖離がありました。環境省は「セルロース材料を使ってほしい」というエコの観点。一方、社内は、実用性の観点。事業部側としては「エコだから」というより、材料で何ができるのか特質を持たせないと使ってはもらえません。混ぜ方はじめ製造プロセスが確立していないなかで、どう進めていくか模索しながら、なんとか掃除機につながっていきました。「脱プラ意識」や「SDGs」など時代の流れに後押ししてもらって、だいぶ波に乗っているように思います。今後はさらに広く展開していきたいです!

今西:
僕は理学部出身で基礎研究をやっていました。それはそれでおもしろいんですが、企業に入って実際に世の中の役に立ったり、世の中のたのしい生活につながるものをつくりたいと思っていました。このプロジェクトに途中から入らせてもらって、実際にものをつくることができ、嬉しく思っています。これをさらに世の中に広げていけたら、自分も世界もハッピーにできるんじゃないかなと思っています。

西野:
環境省とのプロジェクト期間は3年、2017年で一旦終了しました。当時を振り返ると、国費で開発させてもらっているので、世の中に貢献できる形でアウトプットしないといけないという思いが強くありました。その間に成果を得ることはできたけど、普及したかというと、そうではありませんでした。なので、掃除機やカップとして世に発表できてホッとしています。

一方で、脱プラやSDGsの観点からすると、日本は欧州や中国など切羽詰まっている他国と比べ遅れているように思います。今後、世界中でさらに意識が高まっていくことを見越して開発を進め、環境に対する取り組みが単なるブランドイメージのアップだけでなく、ビジネスとして成り立つようにしていけたらと思っています。

「成形したらこういうトラブルが出たんだけど、材料側で工夫できない?」(西野) 実用化に向けては、材料開発と成形部門が密に連携する必要がある。この日も早速打ち合わせが始まった。

*記事の内容は取材当時のものです。


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