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後方の視界をクリアにし、車の安全性にさらなる貢献を!〜電子ミラー第3世代IRMS 開発者インタビュー〜

日産自動車株式会社と開発した第3世代IRMS(インテリジェントルームミラーシステム)が、車の安全性にさらなる革新をもたらす。

気候変動の影響による突発的な天候の悪化、近年いっそう注目を集めるあおり運転など、車を取り巻く安全性能にはさらなる進化が求められています。

2014年に日産自動車株式会社(以降 日産自動車)から世界初となる電子ミラーが発売されてから7年。電子ミラーの第3世代となる製品がパナソニックと日産自動車によって誕生しました。時間帯や天候、車種に左右されることなく、いつでも後方をクリアに確認できる電子ミラー開発の前進は、ドライバーに安心をお届けします。車社会の未来を見つめる開発者4名に話を聞きました。

プロフィール

幸田 新平 パナソニック オートモーティブシステムズ(株)

村山 幹夫 パナソニック オートモーティブシステムズ(株)

吉村 俊彦 パナソニック オートモーティブシステムズ(株)

大村 洋平 パナソニック オートモーティブシステムズ(株)

第3世代IRMSの特長

1. 映像の鮮鋭感を向上、ドライバーの視認性を改善する高精細な映像を実現
2. 夜間の視認性向上と後続車の車両ヘッドライトによるハレーションや信号機等のLEDちらつきを抑制
3.フレームレスミラーとディスプレイの狭額縁化により、高いデザイン性を確保

第1世代(世界初の電子ミラー)、第2世代IRMSの共同開発を通して、パナソニックは日産自動車との強い信頼関係を構築。第3世代IRMS では、同社IRMS事業初のTier1(一次サプライヤー)として開発を推進しました。

従来品の課題解決のため、デバイスレベルの仕様決め段階から日産自動車と密接に連携し、事業部の枠を越えたパナソニックグループ内の各署が力を合わせ、画質や夜間視認性などの映像品質(画質、夜間視認性等)で業界最高レベルを達成。高画質化を図りつつ、すっきりとしたデザインが特徴の狭額縁電子ミラーを実現させ、他社に先駆け、高性能のIRMSの市場投入に成功しました。

電子ミラーには、いま何が求められているのでしょう。

幸田:日本国内では、ミニバンや三列シートの車の人気が高く、バックミラーでの後方の確認が容易にできないケースが増えています。トラックなどの荷台がある車種では、全く後ろが見えないという場合も少なくありません。そのような背景もあり、後方の映像をカメラで撮影してディスプレイに映す電子ミラーは、いっそう広がりをみせています。

幸田:この電子ミラーを2014年に初めて市場導入したのが日産自動車さまでした。日産さまは、積極的に新しい技術を採用される傾向にあり、常に電子ミラー業界を引っ張ってこられました。こうした背景のもと、2016年より、さらなる高性能電子ミラーをめざして、日産自動車向け第3世代の開発が始まりました。

開発は、既存の第1世代、第2世代の製品にどのような課題があったのかをしっかりと整理するところから始まりました。正直なところ、電子ミラーは、広範囲で後方が見えるというメリットはあるものの、鏡に比べると視認性の面で劣ってしまうところがあります。特にシニアの方は目の焦点が合いにくく、デジタル映像が見にくいという方もいらっしゃるのが実情です。そのような課題を洗い出しながら一つひとつ改善を図り、機能面、デザイン面で総合的な進化をめざしました。

村山:カメラの開発リーダーを担当しました。第1世代が登場した時には、カメラを使ったミラーシステムとして非常に良くできているという気持ちでいましたけれども、もっと詳細な映像が見たいとか、夜間でもはっきり見える方がいいなど、時間が経つにつれ、やはりエンドユーザーやカーメーカーの要望はどんどん上がっていくものだという風に感じています。既存のデバイスを改良するという視点ではなく、根本的に新しいものを生み出すという気持ちで開発を進めました。

吉村:電子ミラーシステムの重要な構成品であるカメラのPMを担当しました。私自身は、このプロジェクトの立ち上げ後からの参画でしたが、他社にないものをつくるんだという非常に強い想いが現場にはありましたし、また、日産自動車ご担当者さまとの信頼関係の深さも感じました。

圧倒的な高画質を実現させた技術革新とは?

幸田:電子ミラーのディスプレイ開発では「人間の目と同等に見える」ということをポリシーとして進めました。ここは、日産自動車さまも特に強いこだわりを持たれていた点です。デジタル映像は、沿道の草の色ひとつとっても、再現性の部分で多くの課題を抱えていました。

肉眼で見た自然な色彩に近づけるように調整をしていくのですが、日中の見やすさを重視すると、今度は夜間の映像に影響が出たりします。日産自動車の担当者さまと、何回も何回も車に乗って試験を行い、その場でチューニングをかけながらひたすら改良を繰り返しました。検証は、国内だけでなく海外でも。日本でチューニングした映像を海外拠点に送って、海外の街並みでも違和感がない性能をめざしました。

搭載された新型の高精度カメラ

村山:LEDのフリッカー(ディスプレイに生じる細かいちらつき現象)は、第3世代IRMSでなんとしても解決したい課題でした。夜間に後続車の強烈なヘッドライトなどを捉えると、カメラ内で意図しない光の反射が発生し、本当は光が入っていない部分にうっすら赤い偽信号が映り込んだ場合がありました。

画質向上のため、前モデルのカメラよりワイドダイナミックレンジのカメラセンサーとLEDフリッカー補正に特化した世界初のデバイスをPSCS(パナソニック セミコンダクター ソリューションズ株式会社)に開発してもらいました。ただ、このカメラセンサーがなかなか思いどおりに動いてくれませんでした。何度も調整を重ね、延べ1年半をかけて、満足いただける画質にたどり着きました。

吉村:村山さんが言った通り、ここまではできるだろうと描いていた到達イメージが、実際にやってみると簡単にはうまくいかないということが多々ありました。それだけでなく、品質を上げるための課題以外にも、現場には「人・物・予算」が関わってきます。妥協のない開発にこだわりたい。けれどもスケジュールも含めどこかで限界はきてしまいます。

制限があるなかで、みんなが納得のいく製品を完成させるためにはどうしたらいいか。PMの立場としては、焦りもかなりありました。その状況を乗り越える大きな後押しとなったのは、我々パナソニックと日産自動車さまがお互いの本音を言い合える関係を築けたこと。どこまで挑戦できるのかを共有し、その上で納得できる落とし所を見つける。その信頼関係があったからこそ、「できることは全てやった」とみんなが自信を持って言える製品になったと思います。

幸田:自動車部品である電子ミラーには、運転時の安全を守るために、細かい法規がいくつもあります。例えばインパクト試験といって、乗っている人がミラーに頭をぶつけた際に、電子ミラーが脱落するようにしなければいけない規則があります。

ミラーの脱落を優先すると、取り付け部を弱く設定しなくてはいけないのですが、そうすると今度はミラーが揺れるといった別の問題が発生します。第3世代IRMSでは、しっかり固定するけれどもぶつかった時には脱落する構造を開発し、特許を取得。一見、見た目ではわからない部分にもさまざまな進化が詰まっているのです。

大村:今回の開発のもうひとつの成果として、パナソニックグループの事業部の枠を超えた関連部門が、協力してつくり上げたことが挙げられます。オールパナソニックで手がけたことで、開発期間を6カ月も短縮すると共に、IRMSの商品力を徹底的に磨き上げることができました。

幸田:液晶パネル、LSI、カメラセンサーという違う製品を担当している事業部がひとつのものをつくりあげることは難易度が高く、文化や事業に対する優先度が事業部ごとに違ったりするので、各部署のつなぎ合わせには苦労しました。その反面、一体になって取り組むことで強みが生まれたのも事実です。

大村:日産自動車さまでは、2014年に初の電子ミラーを開発された方が引き続き担当されるという形でしたので、エンドユーザーのニーズに基づく長期的なロードマップが非常に明確でした。めざすべき確固としたビジョンがあったので、その熱意に引っ張っていっていただくような形で、パナソニック内部もまとまることができたのだと思います。

電子ミラーには、まだどのような可能性が秘められていますか

村山:第4世代の開発も既に始まっています。電子ミラーは、ますます鏡を見ているような鮮明な画像を映し出せるミラーシステム化が進んでいくはずです。大切にしたいのはやはり、エンドユーザー目線で機能やサービスを提案するということ。ここで満足せずに、もっと便利なものになっていくように力を尽くしていきたいです。

大村:今後はこれまでよりもシステムの接続先が多くなっていくでしょうし、その度に難題が増えると思います。ただ今回のように、熱意を持ってお客さまと接していけば、必ずうまくいくというのは分かりました。信頼し合える関係性を作り上げていきたいという想いでいます。

幸田:電子ミラーは、今は単品の商材ですが、今後はドライブレコーダーと連携したり、あおり運転の車を検知できるようになるかもしれません。その他にも、広角で撮れる特性を活かし、バックミラーでは死角に入るバイクや自転車も、さらに検知しやすくなるでしょう。事故防止につなげるなど、まだまだ可能性を秘めている商品だと思います。さらなる安全を実現する視点で商品力を向上させ、車、ドライバーにとって必要不可欠な製品にしていきたいです。

MESSAGE

幸田:私は自動車関連の部門に来る前は、OEMのビジネスに携わっていました。直接エンドユーザーに製品を届けるBtoCとは違い、BtoBビジネスのOEM事業はメーカーである企業に納品するのがメインです。例えば、バッテリーであればノートパソコンのメーカーに向けて開発します。

現在の部門で働くようになってより強く感じたのは、常にお客さまのことを考えながら開発をすること。第3世代IRMSも日産自動車さまへ納品する製品ではありますが、同時に生活者目線でモノづくりを進めました。結局のところ、商品はエンドユーザーのお困りごとを解決したものでなければ売れません。今回の製品では、自分が使いたいと思えたり、家族や近しい人に喜ばれる品質まで仕上げることができたことに、これまでとは違った手応えと達成感がありました。

この電子ミラーは、比較的若いメンバーで開発を進めました。同世代の30代が多く、遠慮なく意見を交わせる環境です。年上の先輩も、目標に到達しなかった場合に責めるのではなく、どうリカバリーするかという視点で向き合ってくれるので、チャレンジしやすい風土があります。

当社のお客さまは、日産自動車さまを含めて世界トップクラスの企業の方が多くいらっしゃいます。世界の一流の企業人たちと仕事ができるのは、純粋に面白いし、刺激的。また、車産業は、いろんな業界に紐づいているので、車が売れないと社会的なダメージも大きい。ものすごくやりがいのある仕事だと思います。

村山:いろんなことにチャレンジしたいという想いは、技術に携わる人ならなおさら強いと思います。ただそういう時こそ、自分の専門分野はこれだと決めつけないで、もっともっと周りを見渡してほしいです。さまざまな仕事に携わると、思い描いた職種とは違う自分の可能性に気付いたりする時があります。社内は広いので、専門性の高い知識を持ったたくさんの人から経験を得て、自分から何かを学んでいってほしいと思います。

大村:技術リーダーという立場で一番大切にしているのは、狭い領域だけでなく全体を見て判断するということ。電気回路ひとつ変えるにも、実際にはソフトや機構の開発設計製造部門への影響が出るので、広い視野を持たないといけません。このように全体を見渡しながら開発できるのも、パナソニックならでは。設計して、ものづくりをして、お客さまに届ける。商品を世に出す最初から最後までができる会社なので、統括する仕事も、専門性の高い仕事も、いずれもできるところが魅力。やりたいことを見つけやすい会社だと思います。

吉村:私たちは車載関連の部門で働いていますが、お客さまはパナソニックを一つの会社として見ます。今回の日産自動車さまもそうですが、各カーメーカーの方々は、それぞれに具体的なロードマップを描いています。

「実はこういうことをやっていきたいんだけれど、パナソニックならできますか?」と聞いていただけるのは、パナソニックというブランドの強さです。当然、車はこれからも進化します。車が社会を変革する時、当社は間違いなく新たな車の文化を考える一役を担えるメーカーであると思います。パナソニックにこれから入社する人が、こんなことをやってみたいと思ったら、それを実現できる可能性は十分あると思います。

*記事の内容は取材当時(2021年10月)のものです。


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