「伝える方法」が、もっと沢山あったら。手話や聴覚障害のあるあるを伝える兄弟YouTuber・POCさんインタビュー
障害の有無と聞くと、個人が抱える課題と思う方もいるかもしれません。しかし「障害」とは本人にある要因と環境にある要因が相互に影響して生まれるものであるため、環境や製品が対応していれば、それは顕在化しないと言われています。どんな人も安心して心地よく暮らせる環境をつくるためには、テクノロジーの活用はもちろん、それぞれの違いに目を向け、発見し、新たなアイディアに変えていくための視点が必要です。
パナソニックでは、4組の方々のそれぞれに違う「ふつう」の日常から、私たちが考える「やさしさ」のかたちを改めて見つめ、動画を公開しています。そこで今回は、動画に出演してくださった耳が聞こえるサエキさん(長男 / 写真右)と、聴覚障害があり、耳が聞こえないナツさん(次男 / 写真左)とマコさん(三男 / 写真真ん中)の兄弟に、今、社会に必要だと感じる視点と、みなさんらしい暮らしのあり方についてお話を伺いました。
聞こえる人も聞こえない人も
「一緒に歩み寄る」
ーみなさんは普段、どんな1日を過ごしていますか。
サエキさん
仕事して、友達と遊んだり、飲みに行ったり。僕自身は、本当に他の人と変わらない生活を送っています。
マコさん
平日はろう学校に通っていて、休日は友達と遊んだりしています。サッカースクールに通っていて、ポジションはミッドフィルダーです。サッカーを初めて今年で7年目ですが、学校には卓球部しかないので卓球部にも入っています。日曜日に好きなサッカーをしています。
ナツさん
平日は会社へ、往復4時間かけて通っています。土日は買い物をしたり、友達と遊んでオールしています!
ー ナツさんとサエキさんは、今どんなお仕事をされていますか?
ナツさん
僕は自動車関係の会社で事務の仕事をしています。
サエキさん
僕は「POC HOUSE」という場所を運営しています。聞こえる子と聞こえない子が一緒に遊ぶことができる場所です。
ー聞こえる人と聞こえない人が交わる機会って、社会にはまだまだ少ないようにも感じます。
サエキさん
そうですね。何事も知らなかったら、やっぱり「わからない」で終わっちゃうんですよね。なので、知る機会をつくることが大事だと感じていて、僕たちはその入り口になりたいんです。入り口はなんでもいい。POC HOUSEの運営もそうですが、例えばモデルをしたり、広告に出演させてもらう活動も。まずは存在を知ってもらいたいんです。その上で、お互いが歩み寄るきっかけができたらなと。コミュニケーションする中でわからなかったら教え合うとか、筆談、スマホで話してみるとか。「どちらか一方が頑張る」よりも「お互いが一緒に歩み寄る」といいなと思ったりしています。
ナツさん
職場の部署の人たちは、僕のために色々と準備してくれているんです。例えば、災害用のバイブが鳴った時はお知らせしてくれますし、zoom会議のときは自動字幕表示もしてくれます。他にもありますが、色々サポートしてくれているので良い関係を築けていると思います。
― 上司や周囲といい関係性をつくることができたポイントはありますか?
ナツさん
仲間との信頼関係を深めるために時間をつくり、みんなに手話を教えたりしてました。朝の10分だけですが、そういった時間を作ってもらっています。
ーサエキさんが運営されている「POC HOUSE」とは、どんな場所なのでしょう?
サエキさん
2021年につくった場所で、聞こえる子と聞こえない子が一緒に遊ぶことができる場所です。耳が聞こえないって、コミュニケーションの問題でもあるんです。ここにくる子は手話を使う子たちが多いですが、聞こえる子たちは当然手話が使えないし、僕も最初は使えなかった。だから、聞こえる子たちには手話を教えたりしています。また、手話で話す時間というのも作っています。一緒に関わる中で、聞こえないとこんなことに困ってるんだって気づいてくれることもある。聞こえない子たちが手話を教えてあげる場面もあり、聞こえる子と聞こえない子たちが交流できる場所を作っているという感じです。僕にとっては仕事場でもありますが、ふたりにとってはどう?
ナツさん
自分が小さい頃は遊ぶ場所がなかったので、みんなが楽しく仲良くしているのをみるのが幸せです。
マコさん
みんなで一緒に遊べる場所があることは、すごくいいなと思っています!
ー小さい頃、遊ぶ場所がないと感じることが多かったですか?
ナツさん
聞こえる人たちがメインのサッカーチームに入っていたのですが、コミュニケーションが取れず難しいと思っていました。サッカーはやはり距離が遠いので、相手が何を言っているかわからない時もあるんです。それがストレスになって、チームを辞めてしまって。
サエキさん
弟たちはどうしても、学校と家の距離があったので時間的に、気軽に友達の家や公園で遊ぶことも出来ませんでした。なので、そのまま家に帰ってきて、家で遊ぶことが多かったですね。そんな弟達を小さいときから見てきて、何か放課後の居場所は無いかなと考えたときに、聞こえる子も聞こえない子たちも一緒に集まれる場所がないかな、って思っていたんですけど見つからず。ないならつくっちゃおう!と思って、POC HOUSEをつくることになりました。
― 映像撮影の際に皆さんが手話でお話しされていた時、言語がわからないので何の会話をしているんだろうって想像するしかなくて。話したい気持ちが沸々と湧いていました。
サエキさん
そうですよね。それが普段、聞こえない子たちが感じていることなのかなと思います。
ーただ、手話を独学で勉強するのはかなり難しいなと感じたのですが、みなさんはどうやって学んだのでしょう?
ナツさん
最初はお母さんからです。あとは、ろう学校の先生から教わりました。
マコさん
僕も、お母さんから教えてもらいました。
サエキさん
僕は自然と覚えていきましたが、ちゃんと学びたいなという気持ちもあります。お母さんと弟たちが会話しているのを見て、少しずつ身につけていった感じなので。僕は耳が聞こえるので、どうしてもまだ完全に全てがわかるというわけでもないんです。僕の場合は学校で手話を使わないし、ろうの子たちと違って、友達と遊ぶときにも使わない。手話を使うのは弟たちと話す時だけだからなのか、日常会話くらいしかできなかったんですね。なので、まだ今も勉強中ではあります。
自分たちの日常が
誰かの気づきになる
ー みなさんのYouTubeチャンネルに手話を学べる動画も沢山ありますよね。
サエキさん
そうですね!「やらない?」って声をかけたのは僕で、マコは「いいよ〜!」って感じでしたが、ナツは、実は最初「僕はやめとくよ」って言ったんです。
ナツさん
もともと目立つのが好きじゃないし、有名になったら大変だから!
マコさん
僕はYouTubeが好きだし、YouTuberになりたい人も多いから、嬉しかった。
―実際に初めてみてどうですか?
ナツさん
手話をみんなに教えてみたら、知ることができて嬉しいって言われるんですね。体験してみたいとか、勉強したいとか。今はそれが嬉しいです。あとは、たまに街の中で声をかけられたり。最初は恥ずかしかったけれど、段々と気持ちが高まっていきました。
ーYouTubeのコメントなどを見て、感じることや気づくことなどはありますか?
サエキさん
最初は批判、誹謗中傷も覚悟していたのですが、実際にはそんなのはなくて。みんながくれるコメントも温かくて、世の中には自分達が思っていたよりずっと、いい人がたくさんいるんだなって気づくことができました。「こんな暮らしをしていたんだね」と言われることもあります。僕たちにとっては当たり前のことを、知らない人って多いから。あとは、コメント欄の半分は「イケメン」で埋まっているので、僕たちってやっぱりイケメンなんだなって!そのことにも気づくことができました(笑)
マコさん・ナツさん
ふ〜ん(笑)。
ナツさん
保育園のスタッフをされているファンの方から「手話をもっと覚えます」というコメントをもらった時は、とても嬉しかったです。
ーYouTubeの企画はどんなふうに生まれているのでしょうか。
サエキさん
大体僕が「こんなのやらない?」って考えて、二人に実際どうかなって確認してもらい、そのままもう始まるっていう感じです。当事者の視点から「これってどうなの?」っていうところはふたりに確認してもらいます。
ナツさん
本当に、なんとなくすぐ始まる感じなんです。
サエキさん
YouTubeやってる!って感じしなくない?面白いことあったら撮る、みたいな。本当に日常の延長線上なんですよ。みんな日常で面白いことがあったらスマホで動画を撮るじゃないですか。僕たちも同じで、それをそのまま出している感覚なんです。
ーパナソニックの映像内ではインターホンが鳴るシーンでフラッシュランプが出てきますが、音で確認する人、光で確認する人、それぞれですもんね。
ナツさん
うんうん。
サエキさん
そうですね。僕たちのYouTubeでも、携帯の通知も光で認識しているっていうあるあるを動画にしていたりします。
手話はコミュニケーションの
1歩目
ーだからこそ、知らないことだけではなく共感する部分も多いのかなと感じます。みなさん共通して「手話を覚えたいっていうコメントが多くて嬉しい」と言われていますよね。
ナツさん
やっぱり聞こえる人たちとコミュニケーションするときは、まだ壁を感じるので。最近は身振り手振りとかも使いつつ、スマホやUDトークを使うことが多いですが、小学生の時は主に筆談で会話していました。
サエキさん
ろうって、聞こえないだけじゃなくてコミュニケーションの障害でもあるし、特に見た目で分かりづらい障害なんですよね。手話だったり、まずはコミュニケーションの方法をみんなに知ってもらえたら、もっと弟たち二人が過ごしやすくなるのかなって思います。
ー日常生活の中で、こういったモノやサービスがあったら嬉しいなと感じるものはありますか?
ナツさん
スマホのUDトーク、通訳アプリが色々なお店にあったらいいなと思います。本当は、当たり前にあるといい。あとは、インターホン。家の内側から文字が打てるようになったらいいな。例えば、宅急便の人が来た時相手が喋ったことがスマホに表示されて、僕が文字で打ったことが玄関の入り口では画面に出るとか。
全員
それはいいね!
サエキさん
色々なやり方で、コミュニケーションができる方法が増えたらいいですよね。
― 確かにそのアイディアは聞こえる人にとっても、例えばリモート会議中で話せない時なども便利かもしれないですよね。マコさんはどうでしょう?
マコさん
ない!(笑)
サエキさん
え〜ほんとに?すぐに思いつかないだけじゃなくって?
マコさん
あ、でもやっぱりみんなが手話を当たり前に話してくれたらそれが一番助かるかも。
サエキさん
確かに、そうだよね。学校では英語は教えてくれると思うんですけど、手話も教えてくれるようになるといいなとは思います。やっぱり違う言葉だから、教わったり使わないと、わからないなと思っていて。日常会話レベルでいいんです。全くわからない、ではなく、少しでも知ってくれている、っていう状態がすごく大切なのかなと思います。
ー聞こえる方と聞こえない方がいるご家族だと思うのですが、普段のコミュニケーションで意識していることはありますか?
サエキさん
家族であっても僕は最初手話が全然できなくて、いつもお母さんに「何を話してるの?」と聞いていました。今は手話で話せるようになったので、コミュニケーションも増えましたね。わからないことは教えてもらおうって意識しています。
ナツさん
僕は手話がどうしても早いから、家族に何かを伝えるときはゆっくり、はっきりやるように気を付けています。
マコさん
僕は、口話と手話を区別して使っています。3人で話すときは混ざっている時もあるけど。
ー 外に出た時、周囲とのコミュニケーションはスムーズだと感じますか?
マコさん
今、通っているサッカーチームは、聞こえる人も聞こえない人も混ざってやっています。デフのチームだけど誰でも来ていいよ、ってなっているんです。コミュニケーションは身振りでやっていて、それでも伝えられているなっていう感覚はあります。
ナツさん
僕もサッカーは好きで、やれたらやりたかったけど....小学校の時にサッカーチームに所属していたのですが、聞こえる人たちとのコミュニケーション問題を理由にやめたんです。 相手に伝えたいことがあっても全然伝わらなくて、イライラしたり。コミュニケーションをとるのにフラストレーションがたくさん溜まって、嫌になっちゃったんです。
― 一度コミュニケーションが嫌になると人と話すことが怖くなってしまうこともあると思いますが、どうやって乗り越えられたのでしょうか。
ナツさん
中学の時野球部に入ったのですがたまたま部員が少なく、聞こえる人たちとの合同チームでやることになったんです。その時に、まず、とにかく最初にコミュニケーションをとる練習をしたんです。伝えたいことが、ちゃんと伝わるように。そうしたら試合の時でもコミュニケーションができるようになって、段々と気持ち的に乗り越えることができました。
ー 今後、こんな社会になっていくといいなという思いや希望って何かありますか?
サエキさん
みんなにとっての「ふつう」の社会って何なんだろうって考えていくうちに思ったこととして、僕の答えでいいんだ、あまり考えすぎずに色んな「ふつう」があっていいということを、まず自分達の中で理解することが一番大事なのかなって。色んな「ふつう」があるのは当たり前だから、それぞれが自分なりに理解して、相手の「ふつう」を受け止めることができるといいなと思っています。
マコさん
みんなにも手話を覚えてもらうのがいいかも!教えてくれたらいいし、手話を学んでくれたら嬉しい。
サエキさん
ドラマなどできっかけが生まれることもあると思うのですが、一時的だけじゃなく、学校で全員に基本的な会話だけでも教えたりして、簡単な手話を使って話せるようになるときっと全然違うのかなと。
ナツさん
僕は全く人見知りすることはないんですけど、やっぱり買い物に行ったり外に出る時に、手話は難しくてもUDトークが広まるとか、そうなってくれたら嬉しいなと思います。
ー
Profile
耳が聞こえる長男・サエキと耳が聞こえない次男・ナツ、三男・マコの三兄弟からなるYouTuber。SNS活動を通して、手話の普及や耳が聞こえない弟たちの日常などありのまま発信している。「POCチャンネル」という名前で発信するYouTube・TikTok・InstagramなどのSNS総フォロワー数は12万人を超える(2023年3月現在)。
また、活動名の”POC”は英語の慣用句で「たやすい」「簡単」などの意味を持つ”Piece Of Cake(ひと切れのケーキ)”の頭文字から取っている。ケーキ一切れ分は簡単に食べられることから、「楽勝だぜ」「大したことないよ」という意味がある。どんな困難にも立ち向かう勇気や希望を持って欲しいという想いを”POC”に込め、活動の幅を広げている。
兄弟YouTuber POCさんの「ありふれた毎日。」光るチャイム編 / パナソニックインクルーシブデザインコンセプトムービー
兄弟YouTuber POCさんの「ありふれた毎日。」字幕付きテレビ編 / パナソニックインクルーシブデザインコンセプトムービー
“何気ないふつうの、ありふれた毎日。当たり前でもあり、特別でもあるその時間が今日、明日とあることが“幸せ”のひとつであるならば。パナソニックは、それぞれのふつうに向き合いながらそれぞれにちがう人の、ちがう暮らしのあり方に寄り添っていきます。”
※障害の漢字表記に関して:スムーズな読み上げを実現するために、障害という単語を漢字で表記しています。