五感を使って感動を届けられる音響・映像システムをつくりたい。
平井亜季子の歩んできた道には、いつも音楽があった。幼稚園の頃にピアノをはじめ、中学校では合唱部に所属。高校では吹奏楽部に入りサックスを担当。さまざまな会場でコンサートを行った。自分達が奏でる音が、聴いている人々の心を震わせ、会場を興奮で満たす。その喜びを知った平井のなかで、いつしか、「人々に感動を届ける仕事がしたい」という想いが芽生えていった。
その想いは、大学、大学院でVR(バーチャルリアリティ)の研究に取り組むことで、さらに膨らんでいく。そしてVR研究の集大成として、月面環境を体験できる装置を開発した。先輩が、スクリーンに映す月面のイメージ映像を制作し、平井は体験者をワイヤーで吊るし、空中で浮遊させる仕掛けを制作。スクリーン上で月面の映像を見ながら、まるで本当に月にいるような浮遊感を体感した人たちは、みんな「ワー」「キャー」と声を出してたのしんでくれた。平井は、こうした経験から「VR技術がさらに進化すれば、感動を目の前の人だけでなく、遠く離れた世界中の人々に届けられるのでは」と思った。
就職活動は、人々に感動を届けられるエンターテインメントの分野に絞り込んだ。そして、当時オリンピックの公式サポーターとして選ばれ、映像や音響を含めさまざまなエンターテインメント事業に力を入れていたパナソニックグループに出会った。「特に、大きな舞台で映像や音響に関われることが魅力的で、この会社で働いてみたいなと思いました」。
入社後、最初の仕事は「非常用放送設備」の設計とシステムテストだった。これは、火災が起きた時、警報を発し避難誘導を行うための放送システム。「特殊な設備なので、法律で仕様が細かく決められており、やりたいことがどこまで実装可能かの見極めが難しかったです」。設備が完成すると、仕様通りに動くかを確かめるシステムテストを行った。平井は、先輩に教えてもらいながら手順を覚えていった。そして入社4年目に、1台で対面&オンライン会議ができる音響システム「ハイフレックスアンプ」のソフトリーダーに抜擢された。
「最初は、自分にできるのか不安だったのですが、自分の強みを活かせそうな仕事を任せてくれたのかなと思いチャレンジしました」。まず要件定義をして、どういう機能を搭載するか詳細を詰めた。次に大まかな設計書を書き、段階を踏んで詳細な設計書に落とし込んでいった。そしてプログラミング、システムテストへと進めた。「一担当者だった頃は、開発の一部の工程を受け持つだけだったのですが、リーダーになると全ての工程に責任を持たなければいけないのが大変で、これまで以上にプロジェクト全体を見通す力が求められました。特にプログラミングでは、製品に使われるようなソースコードを読んで書くというのははじめてだったので、勉強しながらの作業となりました」。幸い、大きなバグが出ることもなく開発は進み、完成を迎えた。「展示会に来られたお客さまから『こんなものを待ってたんだよ!』と言われた時は、本当に嬉しかったです。私も、人の役に立てる仕事ができたんだなと思って」。
現在は、BtoB向けのオーディオ機器のソフトウェア開発を行っている。特に力を入れているのは、オンライン会議用のオーディオ機器だ。コロナの流行によってオンライン会議が増え、オンライン接続を目的としたマイクやプロセッサーの需要が増加。その開発で、平井はソフトリーダーとして業務を推進している。「社内メンバーや外部委託先の仕事の進捗管理、他部署との折衝、日程管理などを行っています。特に進捗管理は、各メンバーの日々の仕事状況を把握し、それに応じて適切に指示を出すことの難しさを感じています」。平井に仕事の魅力を尋ねると、こう語った。「自分の手掛けた製品が、コンサートホールのステージの裏側や競馬場の放送室など、さまざまなエンタメ現場の欠かせないものになっているのを見ると、やはり嬉しいですね。また、仕事を通して知った音響の奥深さにも改めて気づかされます」。
パナソニックグループで働く魅力を尋ねると、「仕事で新しい技術を身に付けると、それをベースに、次に挑戦してみたいことを上司と話し合える風土があります。技術を身に付けるほど、新しい世界が広がっていくのが嬉しいですね」と言って微笑んだ。
入社6年目、オーディオ一筋で歩んできた平井は、将来の夢をこう語る。「私は趣味でコンサートを聴きに行ったりしますが、やはり会場で生音を聞いている人にしか得られない感動があります。パナソニックグループのホール音響機器の新製品開発は現在休止していますが、いつか復活させて、どこにいても、その場にいる人と同じ体験ができるような世界をつくりたい。そして、音声だけでなく五感すべてを使って感動を届けられる、そんな音響・映像システムをつくっていきたいです」。
<プロフィール>
*所属・内容等は取材当時(2024年9月)のものです。